百十話 伝説のスイーツ
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フィオラ誕生日当日 風魔帝ヒュブイ襲撃 同時刻 サンセリティア神聖教国
《エルトリス目線》
綺麗に舗装された白基調の三叉路の中央に向けて1人で歩いているとちょうど他の二つの通路から可愛い女の子2人が向かってきた。
左側は女性なら誰もが羨むツヤツヤで綺麗な金髪の子、年齢は9歳で剣術の天才。
右側は金色とは対照的であり、サラサラで透き通る程綺麗な銀髪の子、年齢は14歳で元暗殺者、今は情報戦のスペシャリストってところかな。
2人とも私の大切な仲間だ。
ミナと旅をしてからもう2年、明白になったのは……身長差だなぁ。
9歳のシャルと14歳のミナ、身長があんまり変わらないって事はミナが小ちゃいのかも知れない。
「ミナそっちはどうだった?」
「全然ダメだった、聞き込みもしたけどこれと言った情報は無し。シャルリアの方はどうだった?」
「こっちも全然ダメでした……簡単には手に入りませんね」
三人で頭を悩ませる。三人がかりでも少しの情報すら手に入らない。
もしかしたらこの国には無いのかも知れない。
「食べたかったな……伝説のスイーツ……」
そう、私達は今伝説のスイーツなる物を探している。
「師匠、食べるのは私達じゃ無いですよ」
「そうだぞエルトリスさん、僕達はギルドで受けた依頼で探してるだけなんだからな」
うぅ、仲間2人が厳しい……
「でもでも、伝説のスイーツを作る人を見つければ私達も食べれるかも知れないよ?」
「それはそうですけど、あくまで依頼用を確保した後でですよ」
「やった!」
「ちょっと2人とも、その話をするのは伝説のスイーツの情報が手に入ってからにしてよ。ただでさえ曖昧な依頼なのに情報がこれっぽっちも無いんだからさ」
ミナは右手を腰に当てて呆れ半分、笑い半分と言った表情だ。
出会った時は性別・年齢・素顔を隠していたのに対して今はずっと性別も年齢も隠して居なくて動きやすい服装ではあるがそれでも分かるぐらい女の子らしい服装を着ている、その上からは着ていたフード付きのマントも一緒に旅をしてからはフードを外す様になって居た。
私達は当初の予定であったサンセリティア神聖教国に直ぐに向かうのを諦めて、道中の街でミナの妹を探しながら街を転々としてようやく昨日の夜にたどり着いた。
生憎、ミナの妹さんとその組織についての情報は余り良いものが得られなかった。
私もその組織の下っ端には何度か襲われた事はあったし、カルガーからも何度か注意された事はあった。
何でもありのならず者集団で暗殺から強盗まで結構何でもやる裏の世界で生きる犯罪組織。
そんな奴らなら必ず無法都市ミルウェーに何人かは居たはずだ。
後から手に入れた情報だけど私達がシャミルから逃げた日にミルウェーでは街中に争った形跡があって住民は一夜にして全滅、ジャックケイルも少なからず影響は受けてるだろうから組織としてはかなり小さくなっている筈だ。
そんなこんなで元々の旅の目的地に着いたので今日、聖女様に面会しに行く筈だったんだけどまさかの今日から一週間は聖女様がお休みしているらしくて時間が出来たのでいつも通りお金稼ぎ中だ。
依頼はお金持ちのお嬢様からで子供の頃に食べたお菓子が忘れられなくて今でもその美味しさを超えたお菓子を食べた事が無いらしい。
そこで依頼の内容がその当時食べたお菓子、通称【伝説のスイーツ】を探すのが目的だ。
依頼対象が女性限定でライバルが少なくて、しかもお金持ちのお嬢様が依頼を出しているので報酬が滅茶苦茶多かったので依頼を受けたんだけど……
「この街は広すぎるからこれ以上聞き込みしても厳しいんじゃないか?」
「うーん、取り敢えず疲れたしそこのお店で少し休もうか!」
「今は手詰まりですし師匠の案に賛成です」
「僕も甘い物食べたいからさんせーい」
3人とも情報集めに少し疲れたので近くのカフェでブレイクタイムする事になった。
ちょうど近くの細道に隠れ家的なカフェがあったのでそのお店に入る事になった。
無駄に金ピカな装飾品が付いて居ない事もあってお洒落で綺麗な木造のお店に熊の可愛いシルエットの看板が吊るされている。
扉を開けると綺麗な音色を奏でている鈴の音がおもてなしをしてくれた。
店内は清掃が行き届いており、椅子や机も丁寧に並べられている。
「いらっしゃい、こちらのお席へどうぞ」
3人で店内を見回しているとお店の奥から優しそうな男性定員がお出迎えしてくれた。
机に近付くと3人分の椅子を引いてくれてとても紳士的な店員さんだ。
「ありがとお兄さん。お兄さんのオススメを3人分頼めるかな?」
「分かりました、少しの間お待ちください」
商品が届く少しの間、2人の様子を見てみるととても可愛らしく周囲を見渡している。
あまりこのお店みたいなお洒落なカフェには連れてきたことが無いから2人は目をキラキラさせて興味津々だ。
今度時間があったらまた連れて行ってあげよう。
他に来ているお客さんは1人だけで白基調の足元まであるワンピースを着ている茶髪ロングのお嬢さんだ。
とても美形的な容姿をしていて美味しそうに口一杯にケーキを頬張っている姿にギャップがあって可愛らしい。
机には沢山のケーキが置かれている、あれを1人で食べ切るのは流石に真似できないな。
「お待たせしました! 当店オススメのアフタヌーンティーセットです。紅茶はシンプルなミルクティーで、こっちは三段構成で下からサンドイッチ、スコーン、ケーキとなっています。最後にこっちはクッキーのサービスです」
「親切にありがとう、どれもとても美味しそうだよ」
「ありがとうございます! そう言って頂けると幸いです。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」
店員さんは元気にそして礼儀正しくお辞儀をしてお店の奥に戻って行った。
お客さんも少ないしお店はそこまで広く無い、高級店というより庶民向け、なのにお店はとても綺麗で雰囲気も良い。
良いお店を見つけれたな。
「ミナ君! ミナ君! 凄いですよ、お皿もコップも綺麗でどれも可愛くて美味しそうです!」
「本当にどれも美味しそうだね、何だか食べるのが勿体無く感じちゃうや」
「シャル、こういうのはお皿とコップじゃ無くてカップとソーサーって言うんだよ」
「カップとソーサー!? ミナ君聞きましたか! 名前も凄いです!」
「落ち着いてシャルリア、僕も隣にいるんだから聞いてるよ」
カップを持ち上げたり、ケーキを眺めたりと目でも楽しんでいるみたいでウキウキしているのを見るとこっちまで楽しくなってくる。
香りを楽しんでから紅茶を一口飲む。
すっきりとした甘さが口いっぱいに広がった。
「美味しい……」
口から溢れる様にでた感想はとても純粋な物で、紅茶を美味しいと思えたのは人生でこれが初めてだ。
昔、王宮に居た頃は高級な紅茶はよく飲まされていたけど家を飛び出してから自分から紅茶なんて飲んだこと無かったな。嫌いな人と嫌いな場所で飲んだ高級な紅茶よりも好きな人達と飲んでいるこの紅茶が人生で一番美味しい紅茶だ。
「ミナ君ミナ君」
「ん?どうしたんだ?」
シャルがミナの肩をちょんちょんと叩いて耳元に顔を近付けた、それに合わせてミナもシャルの方に耳を近付ける。
「見てください、師匠が凄い上品です! いつもより3倍増しで上品でお姫様みたいです!」
「ほんとだ、……いつものエルトリスじゃないぞ、何でだ?」
子供達が小声でコソコソと話している。
褒めてるのか貶してるのか分からないラインの言葉が聞こえてきた。
「2人とも聞こえてるよー」
「聞かれてたみたいです」
「聞かれてたな」
この2年の間、同性の友達だからか2人の仲はどんどん良くなっていった。
ラウド達がいるクロット村を出て数日の間は寂しがって居たからミナのお陰でまた元気になって良かったなと一緒に旅をして思った。
「上品に飲みたかったらマナーを覚える事が大事だね、例えば紅茶を飲む時にこのカップを持つでしょ?」
そう言いながら右手でカップを持ち上げる、2人が聞いた後に真似をして同じ行動を取った。
「持ち方が大事だね、カップは取っ手を摘んで持つんだよ」
「こ、こうですか?」
「これだと零したりしないか?」
「あはは、マナーは難しいし面倒くさいからね、覚えさせられたけど私は凄く嫌いだったな。まぁ、いつかきっと2人の役に立つよ」
それから3人で女子会兼お茶会を楽しんだ。
この街にも長い事いる予定だからまたこのお店にこよう。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!