百九話 年下の友達と年上の友達
《ミナ視点》
「色々聞きたい事があるけど……今更僕に何の用かなレオ? 僕の妹に次席の座を奪われたくせに」
「へっ、つれない事言うなよミナ。ボスに邪魔者として消されそうになって逃げ出した恩知らずが。嫌われ者同士仲良くしようぜ」
僕は落ちこぼれだったから元とはいえ2番目に強かったレオと自分の実力差は明白だ。
戦ったらまず間違いなく負ける。
私は懐から小さなナイフを取り出し、瞬きする間も無くレオに目掛けて投げつける。
不意打ちとも呼べる急な攻撃、空を切る様に素早く飛んだナイフをレオは軽々首を傾げて避けた。
レオが避けた影響でナイフは止まる事を知らずに後ろの窓ガラスを盛大に叩き割った。
「あぁ? 何のつもりだミナ? 俺に勝てると思ってんのか?」
「そんな訳無いだろ、どう頑張っても僕がレオに勝てる訳無い。実力を測ってもらおうと思ったんだよ、落ちこぼれな僕の割にはだいぶ早くなってるだろ?」
「生意気だが立場も分かってるならまぁちぃせ事は良いか……それにお前程度には小細工されても俺が負けることは無いからな」
今のナイフで殺せたらラッキーだったんだけどやっぱりそうはいかないか。
僕1人じゃ絶対勝てない、作戦が上手く行く事を願うしか無いか。
「それで依頼って何なの?」
「ん? やけに素直じゃあねぇーか、てっきり文句の一つでも言うと思ったぜ」
文句なんて死ぬ程言いたいのに言ったら直ぐにでも殺すくせに良く言うよ。
「僕もこの数年で色々学んだんだよ」
「それよりも、依頼より先のお前は俺に聞きたい事があるんじゃ無いか? 例えば妹の事とか……」
ムカつく笑みをあからさまに向けてくる所が気持ち悪い。
窓が割れて夜風が入って来ている事も相まって絶対いつか殺してやる。
「妹の事はもうどうでも良いよ、あの子は優秀だから僕が居なくても大丈夫だし、それに僕あの子嫌いだからね才能だけで努力もしないのにチヤホヤされてさ、僕の事を馬鹿にしやがって」
嘘は付ける……表情を殺してるからバレる事も無い……でも、心の中では沸々と怒りが込み上げてくる。
嘘をついている自分に、あれから数年も経っているのに状況が変わらない無力な自分に。
「最高だよお前、心底最低だなクズすぎて俺でもビビったぜ。 妹にみっともなく命を助けて貰って置いてそれかよ、同じ嫌われ者でクズ同士、今なら仲良くなれそうだな俺ら」
「褒め言葉として受け取っとくよ、で僕は誰を殺せば良いの? ソイツ殺したら今回も見逃してくれるの?」
「あぁ、今回のターゲットは剣豪エルトリスの暗殺だ。最近よく一緒に居るんだろ? 不意打ちなり寝床を襲うなり方法は問わねぇ、正面切ったり俺らが行けばあの剣豪に殺されるからな、見知った顔のお前なら行けるかもしれないだろ?」
くそっ……僕はいつもこうだ。
大切な家族、拾って面倒を見てくれてたカンナさん、命を助けてくれたあの2人。
いつもいつも自分の無力さで大切なものを危険に晒してしまう……
「それ失敗したら僕殺されるじゃ無いか」
「へへっ、細けぇ事は気にすんな。 この依頼を断ったら俺が殺すし、逃げてもボスは殺すまで手下を送りつけてくる、失敗すれば剣豪に殺される。 お前が生き残るにはターゲットを殺すしか方法は無いんだよ」
どの道死ぬんじゃ無いか……
こんな性格の悪い奴に仲間意識持たれた事が一番腹立たしい。
「それにもし剣豪エルトリスの暗殺に成功したら次は一緒に共通の敵を殺しに行こうぜ。ムカつくボスとお前の妹だ、アイツら俺の事を下に見やがって……お前も妹が嫌いなんだろ? 一緒に殺しに行こうぜ、俺らクズ同士でな」
「ぷっあはは。昔からレオ、君は馬鹿だなとは思ってたけどここまで馬鹿なら逆に才能だよ、だからボスに見放されて次席の座も奪われるんだよ」
「あ? ミナてめぇ誰に口聞いてんだ? 今すぐ殺されたいのか?」
「いやいや僕は死なないよ。一つ話してて分かったけど僕にボスからの依頼なんて本当は無いんでしょ? ボスは僕に興味が無い、だから最後は妹に殺させようとした……そのボスが今更どこに逃げたかも分からない僕に依頼を頼む訳がない。依頼されたのは君でしょ? 君は僕と一緒でボスに捨てられたか最後に無謀な依頼でも受けさせられたんだろ? それこそさっき僕に言った剣豪エルトリスの暗殺だ、どうやって殺すか悩んで居る時にたまたま僕を見つけて利用しようって魂胆じゃないかな?」
「さっきから生意気な減らず口が治らねぇなぁ? やっぱここで殺すわ」
レオから今まで感じていなかった殺気が直に感じる。
僕とレオの実力の差はまさに大人と子供……遊ぶ様に殺される。
寒気と恐怖で額か流れた冷や汗が頬を伝う。
「だ、だから僕は死なないって、この戦いで負けるのは君の方だよ」
「あはははは、お前足がブルブル震えてるぞ。その状態で俺に勝てると思ってるのか? あぁ?」
レオは自分の足をバシバシと叩きながら笑った。
そりゃあ今の僕は滑稽そのものだ、大口を叩いたのに体は恐怖で震えて汗も止まらない。
自他共に認める愚者だ。
「最後に僕が何でこんなに長話をしたか分かるかな?」
「延命が目的って所だろ? お前1人じゃ何も出来ないもんなぁ! 今はお前を守ってくれる才能に溢れた優しい妹も居ないからな!」
「本当にその通りだよ、僕は1人じゃ何も出来ないし唯一助けてくれていた可愛い妹もここには居ない……でも今の僕には友人が2人も居るんだ、命を助けてくれたのに見返りを求めるどころか優しくしてくれて温かい温泉に連れてってくれる様な優しい友達がね!」
僕はそう大声で叫んで部屋の隅に飛び込んだ。
武器も出さずに逃げる様にだ。
その瞬間窓から金髪の女の子が剣を振りかざしてレオに飛び掛かってきた。
良かった……ナイフで窓ガラスを割ったのは2人にピンチを気付いて貰う為だった、ほぼ賭けだったけど解散してすぐだったから来てくれると信じて正解だった。
「何だこのガキは!」
「ミナ君、頼ってくれて凄く嬉しかったです! 任せてください、直ぐにコイツを片付けます」
僕に向けた表情はとても笑顔だったのに対して、レオに向けた表情はこの数週間の間で見た事ない……冷酷で残忍さすら思える程で少し怖かった。
シャルリアはは凄まじい剣筋でレオを攻撃し続けた。
あの滅茶苦茶強いはずのレオが僕よりも年下の女の子に圧倒されている。
強いとは思っていたけどここまで強いなんて……この子1人で勝てるんじゃ無いかとさえ思ってしまう。
「不意打ちでちょっとビビったが少し強い程度ならミナの妹ほどじゃねぇな、もう見切ったぜ」
「この人、強い……」
さっきまでは勝てそうだったのに次第にレオの方が優勢に見える。
僕も加勢するか……でも僕が行っても足手まといになるだけだ。どうしたらいいんだ、このままだとシャルリアが……
「やっぱりシャルにはまだ少し早かったか……」
「すみません師匠」
「あぁ、次は何だ……お前は剣豪エルトーー」
レオが話し終える前に言葉が止まった。
2人が武装を解除するのを理解できずに数回瞬きをする。
敵の前で急に武装を解除して武器に付いた血を拭き終わった瞬間、レオの首がズルリと胴体と分離した。
今の一瞬であのレオが死んだ……?
強いのはここ数週間の間に僕が自分の目でしっかり見てきたつもりだった。
いったいこの2人は何者何だ……
「ミナが頼ってくれたのは私も嬉しかったけど……私も友達判定なの? お姉ちゃんとか先生ぐらいの立ち位置だと思ってたんだけど……」
「良いじゃないですか師匠、友達ですよ友達! 嬉しいじゃ無いですか」
「嬉しいのはそうだけど……ちょっと恥ずかしい……」
2人のやり取りを聞いて緊張が解けて足に力が入らなくなる。
「ミナ君、大丈夫ですか?」
「ありがと……2人とも本当にありがとう。1度だけじゃ無くて2度も命を助けて貰っちゃった。何かお礼をさせて欲しいんだけど何か無いかな」
2人に何かお礼をと考えるけど何を上げれば2人が喜ぶか分からない。
何を上げれば嬉しいだろうか。
「それじゃあ一つ……師匠から!」
「えぇ、私からなの!?」
「はい! 師匠から言うから良いんですよ! 正直に行きましょう!師匠!」
「うっ、うぅー私も決心が弱いな……分かったよ。じゃあ、私とシャルからお願いが一つだけ……」
「僕に出来る事なら喜んで」
「ミナの妹を助ける手伝いをさせて欲しいんだ、勿論ミナが良ければだけど」
「……もう……2人はどうしてそんなに馬鹿なんだよ……僕にも馬鹿が……移るじゃ無いか……」
「その馬鹿2人の前で嬉しそうに泣いている馬鹿な子供はどの子かな?」
「う、うるさい!」
涙が溢れて視界が滲む中、2人の手が頭を撫でてくれる。
「ミナ君の返事が聞きたいです! 私達が手伝うのはダメですか?」
「き、聞かなくても分かるだろ……僕の方からもお願いしたいぐらいだよ。シャルリア、エルトリスさん……これからもよろしく」
「「よろしく!」」
僕は本当に2人には返しきれないほどの恩……いや、優しさを貰ってるな。
僕達は死体のある部屋で笑い合った、普通とは違う狂気的な関係性だけど暗殺者として手が汚れている僕からしたらこれがこのぐらいおかしい方が楽なのかもしれない。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!