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新たな世界で最高の人生記録!  作者: 勇敢なるスライム
第2章 少年期
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百八話 ミナの過去

 この街で過ごしてからだいたい二週間が経過した。

 その間、ミナと行動を共にして三人でギルドの依頼をこなしていった。

 ミナは次第に心を開いてくれる様になってミナとシャルも一層仲良くなっていった。


 そうして毎日を過ごしている内に次の街に行く準備が終わった。

 つまり……ミナとの別れを告げる事になる。


 シャルとは昨日一つの約束事をした。

 それは『ミナを旅に誘わない事』

 私達は唯の旅行をしている訳じゃない無い、この旅では私もシャルもいつ死ぬかわからない。

 誘って連れて行くと言うことはその人の人生を預かることにもなる。

 もし失敗すればその人の人生を、その人が本来歩む未来を遮ることになる。

 その旅に気安く人を……それも仲の良い子供を誘うのはダメだ。


 今日は依頼では無くて晩御飯を食べる約束をしていた。いつもミナと合流しているギルドの酒場集合だ。



「あぁ! やっと来たか二人とも! 遅いぞ!」

「ごめんちょっと支度に時間かかっちゃって」

「そうだ見てくれよ! この前教えてもらったやり方で武器を研いだらこんなに綺麗になったんだ!」

 ミナが嬉しそうに二本のダガーを抜いて見せびらかしてきた。

 その姿は無邪気な子供そのもので元暗殺者の素振りは全く無かった。


「早く明日にならないかな! はやく2本のダガー(こいつら)使ってやりたいんだ」

 そう言ったミナは子供らしい無邪気な笑顔で二本のダガーを見せびらかす様に取り出した。

 そんな笑顔を崩してしまうのを少し躊躇いつつも注文をしてから話し始める。


「ミナ、少し話があるんだ」

「ん? どうしたんだ改まって?」


 旅は出会いと別れの繰り返しだから慣れっこのつもりだったんだけど今回は少し特別みたいだ。

 言いづらいのをグッと堪えて話し始める。


「明日の朝、この街を出ようと思ってる。サンセリティアに向かわないと行けないから」

「え? あぁ……そ、そうだよな。二人は旅してるんだもんな……ずっとは居られないよな……」

 ミナの笑顔が消えて表情が曇る。

 こういう役目はやっぱり言う側も辛いな。


「師匠約束したのにごめんなさい! でもやっぱりミナ君も一緒に行きましょう! きっと楽しいですよ!」

「シャル!」

「でも師匠ーー」

「ありがとう、その誘いは凄く嬉しい……僕も本当ならそうしたいけど……」

「なら!」


 ミナは神妙な面持ちで答えた。

 何か含みのある言い方だ。


「僕はその旅には着いて行けないや、二人に凄く迷惑掛けちゃうから」

「何か理由があるんですか?」

「僕には、生き別れた妹が居るんだ。僕より5つも下で髪も私と同じ銀色の髪をした小さな妹がね」



 ミナよりも年下という事はシャルと同じかそれ以下ぐらいか。

 そしてミナはこの年で暗殺者、やっぱり結構訳ありみたいだね。

「ミナって年齢はいくつ? 初めて会った時は15歳って言ってたけど?」

「……二人には嘘つけないよね。僕、実は12歳なんだ、女で子供だったら舐められるからね」


 正体不明の暗殺者に仕事を頼む人は多いだろうけど女の子供に要人の暗殺依頼をしてくる人はなかなか居ない。

 魔力があれば男女に力の差は殆どなくて冒険者や魔術師は性別は関係は無い。

 問題は私みたいな魔力の無い人間や殆ど無い人間では明確に差が生まれてしまう、それも向こうが魔力を持っているなら尚更だ。


「ミナが12歳なら妹さんは7歳……シャルと同い年か」

「って事は妹が順調に育ってくれてるとシャルリアぐらいに大きくなってくれてるのか」

「そうなりますねーーってい、いきなりなんですか」

「えっと、なんだか急に撫でたくなってつい」

 ミナが急にシャルの頭を撫で始めた、多分妹と重ね合わせたんだと思う。

 妹……妹か……私の妹も元気にしてるかな。

 きっと元気だろうね……


「ミナ君、どうして妹さんと別れてしまったのか聞かせてくれますか?」

 シャルがミナの手を優しく握って問いかける。

 他人の痛みを分かち合えるのがシャルの良いところだ。


「二人なら……うん、いいよ。今日はもう宿に戻りたいから歩きながら話すよ」

 ギルドの酒場を出てゆっくり歩きながら続きを話し始めた。


「僕が10歳で妹が5歳の時、 僕達は両親に売られたの。売られた先は盗賊、強盗、暗殺者が集まる犯罪集団で僕は子供の頃から暗殺者として育てられた」

「ひどい……」


 これがミナがこの年で暗殺者になった理由……どの時代も汚い大人のせいで子供が犠牲になる、腐った世の中だ。

 シャルの顔が強張る、目には明確な怒りが篭っている。


「でも僕は才能が無くてね、僕がダメとなると次の標的が妹に変わったの。妹は才能が凄かったんだけどとても臆病でね、いつも僕の後ろにくっついてきてお姉ちゃんお姉ちゃんって言ってきて凄く可愛かったんだ」


 不出来な姉に優秀な妹。

 私が無意識にミナと自分を重ねてた理由がわかった気がした。


「妹は直ぐにボスのお気に入りになった。その後にボスが妹に命じて僕を殺そうとした、その時に妹がこう言ったの『無能な姉は嫌い、殺す価値もない早く私の前から消えて』って、私はそこから逃げ出したんだけど妹の影響で追手が来なかった。凄く辛くて当時はいっぱい泣いちゃった」


「ミナ、それはきっとーー」

「うん、僕も馬鹿じゃないから妹が助けてくれた事は分かってる……辛かったのは妹にそれを言わせた事と一人で背負わせてしまった事、僕が無能で非力だったから、凄く悔しかった」


 ミナもシャルも本当に強いな……私が二人と同じ年齢の時には到底出来なかった考え方だ。

 自分が嫌いで、周囲の人間全てが嫌いで、羨ましくて疎ましくて妬ましくて鬱陶しかった。

 この根幹は今も変わっていなくて沸々と嫉妬心が増していく。


「今も妹は僕の代わりに何処かで殺しの道具として利用されてる筈だ、僕が見つけて今度こそ助けてあげないと」

「助けた結果自分が死ぬことになっても?」

「当たり前だろ? だって僕はお姉ちゃんなんだから」


 ミナはなんの躊躇いも無しに笑ってそう告げた。

 その笑顔はとても真っ直ぐで私の心の汚い部分が少し綺麗になった気がした。

 そうだった……誰かを助けたい気持ちは単純でも良いんだ。


「二人とも今日はありがと、話したらちょっと楽になったよ」

 話を聞いている内にミナが泊まっている宿屋の前に着いた。

 集合したのが遅かったのもあって辺りはすっかりと日が落ちてかなり暗くなっていた。

 夕日も落ちてミナの背中がより悲壮感漂っていた。


「うん……おやすみミナ君」

「おやすみシャルリア」


 私はミナにかける言葉が見つからなかった。

 ここで軽率な発言をするとミナを傷つけてしまうからだ。


 私は善人でも正義の味方でも無い……シャルを助けたのも私のエゴによるものだ。

 シャルの時も今回のミナも何処かで過去の自分と比べて助けた気になっているだけのかも知れない。


 冷たいかも知れないけど私はミナの件から手を引こう。

 シャルとミナ、二人を中途半端に助けようとするとどちらも失ってしまうかも知れないからだ。


 ーーーー


 ミナがシャルとエルトリスと別れてすぐの事。

「はぁ……行きたかったな……」

 軽くため息を零しポケットから宿屋の鍵を取り出す。

 季節は冬真っ盛りで冷えた手に息を吹きかけて温める。

 ミナは鍵穴に鍵を差し込んだ、その時少しだけ寒気がした。

 それは季節によるものなのか他の要因からなのか……


 ミナは少し不思議に思いゆっくりとドアノブを動かした。

 少し開いたドアからは冷気が漂っている。

「確か窓は閉めた筈……」


 ミナは腰に帯刀している、今朝手入れした片方のダガーに手を伸ばしてから扉をゆっくりと開けた。

 泊まっている所は少し安い宿で扉が軋む音が静寂なこの場所ではよく響く。

 扉を開けた先にはミナの部屋にいるはずの無い身長の高い赤髪の男性がそこに居た。


「よぉ、久しぶりだなミナ。ボスからの指令だ」

 「クソッ、一番会いたく無いやつとの再会だ」

 ミナとその妹を暗殺者に育てた暗殺ギルド『ジャックケイル』元次席のレオだ。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!

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