百五話 暗殺者の子
《三人称視点》
「行くよ二人とも!」
「はい!」「了解!」
三人それぞれが違う方向に進んで巨大スライムを討伐しに行く。
エルトリスは洗礼された技術と愛刀の軍霊刀の【魔力断絶】で次々と湧いて出てくるスライムを切り伏せていく。
エルトリスに一度でも斬られたスライムは魔力が使えなくなり不定形となって死亡する。
シャルリアは繊細な魔力操作で身体能力を大幅に高めて師匠直伝の剣術で叩き切っていた。
力に頼った攻撃の仕方でスライムは弾け飛んでいる。
暗殺者の少年は前傾姿勢で素早く走り出してから二本のダガーを逆手に構えてスライムに連続で攻撃した。
スライムにはただの刃物は通らないのだが少年に斬られたスライムは体の形を保てなくなり崩れ去っていく。
ダガーを見ると刃の所が輝いていた。
「へぇ、いい武器持ってるね」
エルトリスは感心した様にポツリと呟いた。
スライムは魔力が無いとダメージを与えられない。
シャルリアなら全身に魔力を通して、エルトリスなら魔力を直接斬っている。
つまり暗殺者の子のダガーには何かしらの方法で魔力が通っていることを意味している。
少しの間休まず戦闘して巨大スライムの群れを掃討、全員が再集合した。
二人とも多くのスライムを倒したが二人の討伐数を足すとエルトリスとちょうど同じぐらいだ。
「いやぁー久しぶりにスライムこんなに倒したよ、爽快爽快」
「うぅ……服にも入ってきてベトベトで気持ち悪いです……」
「お前が強引に叩き斬るからスライム飛び散らせてるんだ!」
「違います! 私はそんな雑に斬ったりしてません! 飛び散らせているのはあなたの方です!」
子供二人がスライムで全身ベトベトになっていてその原因がどっちにあるかを言い合いしている。
実際、暗殺者の子はスライムをダガーでズタズタに切り裂いているので周囲にスライムを飛び散らせていて、シャルリアは身体強化で上がった火力で叩き斬っていたので斬られたスライムは爆散していた。
二人ともスライムを飛び散らせて居るのだがどちらもお互いのせいだと思っている。
「はいはい、二人とも喧嘩しないの」
「喧嘩じゃありません」「僕は悪くない!」
エルトリスは『あはは』と軽く笑いながら話始めた。
「それで、君はどうしてここにいるんだい? エーデンス王国から逃げてきたの?」
「それは……」
暗殺者の子は少し気まずそうにして少し後退りした、エルトリスからはフードの下の表情は見えず、そしてその時にダガーを持つ手に力が入っているのにエルトリスはすぐに気づいた。
「あぁーごめん。勘違いさせたら謝るよ、私達は君に敵意は無いからさ」
「いや、僕が悪いんだ、それに……」
「それに?」
少し言いづらそうにしながらもダガーを仕舞ってからゆっくりと話し始めた。
「僕、実は前の仕事をやめたんだ。あの一件で失敗してから同業者に追われてね、逃げて逃げて疲れ果てていよいよ道端で倒れてね。その時二人も知っている人に助けてもらったんだ」
「私達が知っている人ですか? 師匠、もう誰か分かったんですか?」
「こういう面倒事に首を突っ込むのはカンナぐらいだろうねぇ」
「うん。カンナさんが少しの間、世話をしてくれねその時に二人の話を聞いたよ」
エリトリスはやっぱりかと頭を抱えてため息を溢した。
久しぶりに友人の名前を聞いたのと相変わらず人助けをしているのを聞いて嬉しかった反面、また自分達の様な人を助けて面倒事に首を突っ込んでいるのを知って身を案じているからだ。
「やっぱりカンナは変わらないね。君、国家転覆罪に暗殺者からも追われていたのによく生きていたね」
「僕は何度も遠慮したんだけど……まぁ色々あってカンナさんが王様に直談判しに行って何とか無事だったんだ」
「カンナさん凄いです! 王様に直接話に行くなんて」
喜ぶシャルリアとは裏腹にエルトリスはいつか友人のカンナが死なないか本気で心配して顔が青ざめている。
「でも流石に国には置いておけないからカンナさんの友人が働いているナウマロアで今は冒険者として働いているんだ。今はその依頼中でスライムに襲われてたところってわけ」
それを聞いて色々と納得したエルトリスは嬉しそうに笑った。
「そっかそっか! 暗殺者から冒険者にね……良かった良かった! ちょっと心配してたんだよね。ほんとにカンナは凄いな……困った人みんな助けちゃうんだから」
エルトリスは初めてカンナと出会った時の事を思い出して少し懐かしんでいた。
「そうだ、君の名前を教えてよ。これから名前が分からないとお互い不便でしょ? カンナから聞いてるかもだけど私はエルトリス、こっちの可愛い子が弟子のシャルリア」
「僕は……ミナ」
「ミナか、綺麗な名前だね」
「よろしくミナ君!」
「?」
「ミナ君呼びは嫌でしたか?」
「いや、呼び方は何でもいいよ」
「シャルもミナも早く身体を洗いたいだろうけどもう少しだけ辛抱してね」
「わかりました」「はーい……」
三人はスライムを倒してから森の奥に進んだ。
道中では囲まれていた時程じゃないにしろ、かなりの数のスライムが現れては倒してを繰り返している。
進めば進む程スライムの数は増えているが次第に原因も分かって来たらしくエルトリスの表情が良い方向に変わっていった。
「広場でスライムと戦った時に薄々分かってたけどこれは凄いね」
「はい……凄いです」「僕、こんな綺麗なの初めて見た……」
森の最奥に到着した三人は圧巻の景色に驚きと感動していた。
そこにあったのは一面の花畑、綺麗な薄紫色の花が広がっていた。
「これは多分リカルロ花だね、魔力濃度の高い所に咲く花だけどこの辺は魔力濃度が高くないはず……」
「師匠、スライムが可愛く無くなったのってこのお花が原因ですか?」
「うーん、どうだろう。この花もスライムの巨大化も発生原因は魔力濃度が高い地域、だからこの周辺の魔力濃度を高くしている何かが原因なんだけど……」
「つまりはあの真ん中にいるいかにもヤバそうな何かが原因って事だよね? 僕、流石にあれは綺麗に見えないな」
「やっぱりそうなるよねー、今回の依頼は原因の調査だけだから本当ならもう帰ってもいいんだけど流石にアレを調べないで帰るのはちょっとね」
二人が話しているのは花畑の中央に咲いている見るからに危険で今回の原因であろう巨大な花についてだ。
高さはエルトリスの半分ぐらいだが直径は倍近くもある。
「あれってたぶん別の花だよね……それかモンスターかな」
「試しに僕が石を投げてみるよ」
ミナは足元からちょうどいいサイズの石を拾って器用に中央の花に投げて見せた。
石は弧を描くように飛んでいき見事花に命中したが動く気配が無い。
「特に動いたりしないですね、普通の花なんでしょうか」
「まだ分から無いけど魔術も使える人がいないから調べるにはどうせ近ずかないとだね」
3人は花畑に足を踏み入れて中央の花に近付き始めた。
警戒心を持ったまま慎重にゆっくりと歩いていく。
「2人はここに居て、私が見てくるよ」
花に近すぎず遠すぎす、ちょうどいい距離で2人を待機させて1人で前に出る。
エルトリスが花に近付いても特に変化は無く、動いたり襲ったりする素振りも無い。
ホッと胸を撫で下ろしてから花の周辺の調査をし始める。
「やっぱり、原因はこの花だね」
中央の花に近いリカルロ花ほど大きく成長している事に気付き、サンプルとして一番成長しているリカルロ花を一輪摘んだ。
このまま問題無く終わると思い、中央の花もサンプルとして取ろうとした時。
「きゃあ!」「クソッ!」
シャルリアの悲鳴を聞いて後ろを振り返ると地面から生えた無数の大きな根っこが突如現れて、シャルリアとミナの足に巻きついて二人が宙に打ち上げられていた。
「シャルっ! ミナっ!」
エルトリスが二人を心配している間に中央の花が正体を表した。
地面から本体が現れ全体像が明らかになった。
花の部分は人でいう頭であり、本体のサイズは数倍程度の大きさ。
本体の周りにも大量の根っこが現れ、花の中心部に歯が露出して花全体が口のようになっていた。
中央の花は当初の予想どおりモンスターであり、獲物を狩れる絶好の機会まで擬態していたのだ。
エルトリスは二人を助けるのが先か本体を倒すのが先か、神経を研ぎ澄ませて考える。
「待っててね二人とも、私がすぐに助けるから」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!