百四話 冒険者の街 ナウマロア
2年前
エルトリスとシャルがクロット村を離れて数ヶ月経った頃
《エルトリス目線》
世界中の冒険者が利用している冒険者ギルド。
その中には腹を満たす酒場、武器を治す鍛冶屋、依頼を受ける受付など冒険者をサポートしてくれる場所だ。
おおよそ街に一つ、冒険者ギルドが設置されていて中にある機能はその街がどれだけ冒険者を大切にしているかがわかる指標にもなっている。
今いる街は『冒険者の街 ナウマロア』
ここのギルドは冒険者を優遇している部類でギルド内は他の街と比べるとかなり綺麗に整っている。
ギルドの職員は男性も女性も綺麗な人が多くて礼儀作法もかなり高い。
「依頼の確認を行います。依頼の内容は街から少し離れた森に大量発生したスライムの討伐と原因の調査です。数は未知数なのでスライム討伐の本来のランクはFランクですが今回は大量発生に伴って推定でDランク以上。基本報酬はセシリア銀貨七枚、依頼難度に応じて上昇します。ギルドのルールによって道中で手に入れた素材は全て自由にしていただいて構いません、以上で依頼内容の確認を終わります。何か分からないところがありましたら気軽にお聞きください」
「お姉さんありがとうね、いつも感謝してるよ」
「こちらこそいつも大変な依頼ばかり受けていただいてありがとうございます」
この街に来てから何度も依頼を受ける時に丁寧に接客をして貰っている。
受付嬢から依頼書を貰ってさっきまで一緒に座っていた弟子の待つテーブルに戻る。
「師匠師匠! 今日の依頼は何ですか?」
可愛い愛弟子が目をキラキラさせながらテーブルに前のめりになって聞いてきた。
どれだけ普段から大人の様に振る舞って居てもこういう所はしっかりと年相応で可愛らしい。
シャルも私と一緒で結局の所、冒険が好きだからだ。
「大量発生したスライム狩りだね、今日はいつもよりもシャルに頑張って貰うよー」
「はい! 任せてください師匠!」
街から少し離れた所にある少し広めの森
ここでは基本モンスターは湧かないのだけれど今回の依頼はその森でスライムが大量に現れた。
要はスライムの数を減らしつつ理由を調べて来いと言うことだ。
「スライムと戦うの初めてなので楽しみです!」
「シャルはスライムがどんなのか知ってるの?」
「はい! 小さくてひんやりしててプルプルで触ると気持ちいいんですよね! 昔絵本で見ました! 危険じゃないなら一匹ぐらい持ち帰りたいです!」
シャルが色々と夢を見て居たので私の口から否定するのは良くないと思い私は一度口を閉じた。
「あ、あはは……見てからのお楽しみという事で」
「はい!」
ーーーー
「え? し、師匠……あれってスライムじゃ無いですよね? 何か別のモンスターですよね!?」
「ごめん……それじゃあ調査の前にやっつけちゃおうか」
スライムを見てワクワクして居た表情が青ざめているのが分かった。
シャルの言って居たスライムの特徴は小さい、冷たい、プルプルしている事。
二つは正解で確かに冷たいしプルプルしてるんだけどサイズは……。
「どうして私の倍近く大きいんですかー!」
シャルが大声で叫びながら魔力で身体強化しながら一匹のスライムに突進した。
スライムは液体のモンスターだけど魔力で不定形な体を保っていて常にプルプル動いている。
食べ物は基本的に魔力で普段は空気中に漂っている魔力や魔力をよく吸った物を糧にしている。
普段のスライムは小さくて脅威にすらならないけど今日の依頼はスライムの大量発生、即ち魔力を大量に得る方法があってその関係でスライムの体も大きくなっている。
それが今シャルが泣きそうになりながら次々に斬り倒している巨大スライムの正体だ。
「可愛いの期待していたのに……」
「シャル頑張ってー」
スライムを倒すには私が知ってる方法は二つ合って魔力で焼き斬るか体の中央にあるコアを砕くのどっちか。
魔力で斬る方は魔力の無い私は基本的には無理でコアを砕く方は小さいやつなら倒せるけどこのサイズだと刃がコアまで届かない。
私はシャルがスライムと戯れている間に周囲の土や草木を調査した。
土もサラサラで草木も良く育っているけど異常って程でも無い。
魔力の濃い土地では草木が異常なほど発達していたり土が硬くなっていたりと特徴的で分かりやすい。
事前に街の人に聞いた限りだと特に魔力が濃いって話も聞いていないしスライムの原因はこの土地とは関係無いのかも知れない。
他にも動物の足跡やフンを調べてもあまり情報を得られなかった。
一通りの調査を終えると巨大スライムを討伐したシャルが戻って来た。
「はぁ……はぁ……何か分かりましたか師匠」
「うーん、今の所は特に何も。森の奥に行けば何かあるかも」
「分かりました! 道中のスライムは全部任せてください!」
シャルが倒して私が調べて、それを繰り返しながら進んでいた時。
「師匠! 奥から声が聞こえます!」
「あぁ、直ぐに行こう」
ある程度進むと少し開いた場所に出た。
そこには数えるのも億劫になる程の巨大スライムが一人の少年をジリジリと詰め寄りながら囲んでいた。
質量は力だ、それに巨大スライム相手は魔力の無い人や子供ならとても危険だ。
「くっそ何でこんなにポンポン湧いて出てくるんだよ……僕が何したってんだよ」
少年はナイフを2本手に持っていて構とモンスターとの距離管理からしてただの子供じゃ無いのは一目瞭然だ。
でもこの子どっかで見た気がする……でも今はそんな事気にしている場合じゃ無いか。
流石に他人のピンチに手を抜く真似はしない。
普段使っている安物の剣をしまってもう一つの武器に手を掛ける。
「軍霊刀【魔力断絶】」
スライムの群れに飛び込んで瞬時に抜刀と納刀を繰り出した。
魔力での身体強化は出来ない為、無駄の無い洗礼された動きで数秒の間に七体のスライムを両断してその後、少年の元に駆けつけた。
「力神流 鬼人の型 【鬼々廻々】!」
鬼々廻々は鬼人の型の上級技、攻撃の直前に回転して斬り付ける事で攻撃を高速で繰り出す。
シャルが一体のスライムをズタズタに切り裂いた後、続けて三体のスライムをも薙ぎ倒した。
依然スライムの数は多く残っているが少年の付近には殆ど残っていない。
「君、大丈夫? 怪我してない?」
周囲のスライムに詰め寄られない様に少年と背中合わせになりながらスライムを牽制する。
「あぁ、親切な人達ありがとう。ほんとに助かっーーえぇ!?」
「あー!師匠! この子エーデンス王国でハンソンさんに肘入れられてた子ですよ!」
「えぇ!? ほんとだ、あの時変な技名叫んだ直後に肘入れられて気絶してた暗殺者の子だ!」
少しの気まずい空気でお互いが目をパチパチして無言のまま数秒が経過した後、スライムにまた囲まれてから全員の意識が周りのスライムに戻った。
「お互い言いたい事あると思うけど今は協力しよう!」
「あ、あぁ。 僕もスライムに殺されるとかゴメンだからね」
「不本意ですけど師匠が言うなら協力します」
私は軍霊刀を下段で構えて腕に力を込める。
シャルは全身から金色の魔力が渦巻いている。
謎の少年は二本の短剣を両方逆手で構えて腰を落としている。
「行くよ二人とも!」
「はい!」「了解!」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!