百三話 絶望
《三人称視点》
ライラスが倒れた直後
ラウドは長剣を、ライゼンは短剣を握りしめて更に猛攻を仕掛けた。
「よくも俺の子供を!」
足に大量の魔力を込める、最初に見せた加速とは非にならない程早く動いた。
地面は踏み込んだ衝撃で抉れるどころか小さなクレーターが出来る程だった。
「フィオラちゃんッ! ライラスを連れてみんなの所へ行ってくれ! 頼む!」
「フィオラ、父さんはずっと母さんとフィオラを愛しているからな……」
フィオラに対して語りかけながらも二人は攻撃の手を止めなかった。
ヒュブイはまだ余力を残っていたらしく二人の攻撃を綺麗に往なしていた。
二人がひたすら隙を作らない様に永遠と攻撃を繰り返す、しかしそんな中でもヒュブイは攻撃を繰り出している。
致命傷以外は全て無視しているせいで二人とも全身から血を流していた。
二人がここまで無理をしてでも攻撃の手を止めない理由は二人の子供の為だ。
攻撃を止めるか自分たちが死ぬと次の標的は子供達に移る、それだけは何とか回避しようと必死だったのだ。
「これが親心というものか……分かりませんね。自分の命より子孫の命が何故惜しい、子孫などは自分が生きていれば幾らでも作れる量産品に過ぎないでは無いか」
その言葉は挑発か本心か……ヒュブイはポツリと呟いた。
「子供を持つと分かるさッ!」
「自分の最も大切な存在が妻と子供だッ!」
「そうですか」
近接戦闘での少しの会話を不快に思ったのかもしくわ純粋に攻撃の手を緩める為なのか後ろに大きく飛んで離れた。
「やはり私にはその感情が分からないですね……全て偽善に聞こえてしまいます」
「お前がどう思おうと俺達には興味は無い、偽善だろうと構わない」
少しの沈黙の後、さらに勢いをつけてぶつかり合う。
二人は体力をかなり消耗しているのに対してヒュブイの動きは衰えない。
「くそ、こんな大事な局面で……!」
ライゼンが撃ち合いの最中、足に力が入らなくなり膝から崩れ落ちた。
体力の限界が来たのだ。
「胴ががら空きですよ」
ヒュブイが長剣で斬りつけようとした手を止めて直ぐに蹴りに切り替えた。
蹴り上げられたライゼンは遠くの床に受身を取る事なく打ち付けられて転がった。
勢いが止まってからもライゼンは声を発しない、完全に意識を失っていた。
「くそッ! 子供だけじゃなく友まで傷つけるか!」
「四人いたのにもう後一人ですか、容易いですね」
最初は四人で連携を取っていた為、少しばかり優勢だったラウドだが今では純粋な一対一、ラウドの顔が曇る。
ラウドが垂れる汗を拭い踏み込む足に、全身に張り巡らせている魔力に、剣を握る手に力を込める。
ヒュブイはフィオラの氷塊を斬った時と同じように剣に魔力を込める。
出し惜しみはしない、何故ならお互いに次が決着だと理解していたからだ。
「そろそろ決着と行きましょう……魔帝流剣術【鏖殺一刀】」
「あぁ、終わらせよう。即席魔力付与【疾風】&力神流 武人の型【紫電一閃】!」
ーーーー
《ライラス視点》
「うっ……」
朦朧とした意識の中で暖かい光が全身を包み込む。
体中に走っていた激痛が次第に消えていき目が覚める。
「あ、まだ動いちゃダメだよ」
聞き馴染んだ友人の声、それを聞いて無事なんだと安心する。
状況は未だに掴めていないけどきっと俺が飛ばされた後に父さん達が倒してくれたに違いない。
ゆっくり目を開けるとフィオラの顔が写り込んで来た、状況から察するに膝枕をして貰っている。
フィオラが俺が起きるのを見ると嬉しそうでどこか寂しそうにしていた。
周囲を見ると俺のいる所以外が滅茶苦茶に破壊され尽くしていた、フィオラが守ってくれたのだろうか。
「時間です……もう時期出発します」
「ごめんねライラス。そろそろ行かないと」
フィオラが立ち上がって遠くの方に歩いていく。
「行くってどこに……ッ!? 逃げろフィオラ!」
フィオラが進む方に目線を運ぶと緑の鎧を全身に纏う長剣使いがそこには立っていた。
どうしてまだヒュブイが立っているんだ、父さん達はどうなったんだ。
遠くの方ではライゼンさんが倒れていてヒュブイの近くにはラウドの右腕が切断され、腕から大量の血を流して倒れていた。
嘘だろ……あの二人が……父さんとライゼンさんが負けたのか。
「何してるんだフィオラ……危ないから早く戻ってくるんだ!」
俺の声に聞く耳を持たずにフィオラはヒュブイの隣まで進みラウドの腕に触れると大量の血が止まった。
走って連れ戻そうとすると足に力が入らずに全く動いてくれない。
フィオラが回復してくれたからか傷は癒えているけど体に溜まっているダメージや疲労は取れていないからか。
そしてフィオラは振り返って少し言いにくそうに話し始める。
「僕がみんなを守るにはこうするしか方法が分からなかったんだ」
「そいつに脅されてるんだろ、俺がそいつ今すぐ倒してやるから早くこっちに来るんだ。フィオラが犠牲になることなんて無い、俺が死んでも守ってやるから!」
「僕はもうライラスが傷つく姿はもう見たく無いんだ……今度は僕がライラスを守るんだ」
「俺はまだ君を助けれたことなんて無い! 守って貰っているのはいつも俺の方でーー」
「ううん、いつも感謝してるよ。僕ね、ライラスと会ってから世界が凄く綺麗に見えたの。自分の長い耳と緑の髪が好きになれた。助けて欲しい時はいつも駆けつけてくれて優しくしてくれて凄く勇気が貰えたんだ」
「僕……ライラスと会えて凄く嬉しかった。今度は僕が守る番! ライラスだーいすき!」
フィオラは満面の笑みを浮かべ、はにかんで笑いそう告げた。
「ダメだフィオラーー」
俺の返事を聞く前にヒュブイが謎の魔術を使うとヒュブイとフィオラ、そしてラウドの周囲に全員を包み込む様に勢い良く突風が巻き起こった。
俺は風圧に耐える為に両腕で顔を守る。
その風圧はその場に止まっているのもやっとな程で飛ばされない様に今入れれる力を全て込める。
少しの間経過すると風圧が消えた。
腕を退けてー周囲を見回してみるがフィオラもヒュブイもそしてラウドも何処にも居なかった。
「フィオラ……俺が……俺がもっと強かったら……」
自分のあまりの無力さに悔しさと苛立ちが抑えられない。
「くそッ! くそッ! 俺が……俺が……」
溢れ出る涙を無視しながら自分の足を何度も何度も殴った。
俺はいったい何の為に生まれ変わって強くなったんだ。
友人も家族も守れなくて何の為の力なんだよ……もしかして俺はまた天狗になってたのか。
泣きじゃくっていると一匹の黒いモフモフしている猫か犬か分からない生き物が近づいて来た。
普段は良く俺を毛嫌いする奴だけど今日ばっかりは慰めてくれるみたいだ、足元に近付くと顔を擦り寄せた。
「ごめんなペコ……フィオラ、連れ去られちゃった……俺、またフィオラを守れなかった……」
言葉にすればする程、思い返せば思い返す程、鬱陶しいくらいに視界が滲む。
俺はそれから涙が枯れるまで泣きじゃくった。
魔力の使い過ぎと体の疲労、泣き過ぎた事もあり疲れ果てて俺はその場で泥の様に眠った。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!