百二話 四対一
「六魔帝が一席。風魔帝 疾風と厄災ののヒュブイ、どうそよろしくお願いします」
そう言いながら胸に右手を当てて少しだけ上半身を傾けた。
そのお辞儀はとても上品であり作法の面としてはとても綺麗だが紳士的なのに本能が危険だと告げている。
未知の恐怖で体が震える。
決まりだ、あの風害は……俺の村を消し飛ばした風害を引き起こしたのは多分コイツだろう。
「魔王の使者が何の用だ!」
「ふむ、私が伝える義務はありますか?」
「っ! あの風の正体は貴方で間違い無いのか!」
「……」
必死に感情を抑えているラウドに対して顎に手を手を当てて何かを考えている。
全身を鎧に身を包み、顔も隠れているので表情が見えない分余計に不気味だ。
「こちらも大切な人達が危険に曝された、無言は肯定と捉えるぞ!」
父さんが腰に刺している剣に手を掛けて糾弾する。
ライゼンさんも背負っていた弓を構える。
「ふむ……まぁ、良いでしょう。かかって来なさい」
「ライゼンッ!」
「了解した、後ろは任せろ」
ライゼンが返事と同時に先制で三本の矢を同時に放つ。
空を切るように発射されたその矢は全てが違う方向に飛んで行く。
そして同時に撃った矢が違う速度で飛んで行き悠々自適に立っているヒュブイを襲う。
一つ目をステップで気軽に避ける、直線上に飛んで行った矢が地面を盛大に破壊した。
速さも威力も俺が知っている弓とは違う、言うなればほぼ弾丸レベルだ。
そして休む間も無く二本目と三本目がヒュブイが避けた位置に飛んで来た。
「この技術はエルフ特有の……」
ヒュブイは避けれないと察すると腰に帯刀していた長剣を抜いて二本目の矢を切り落とした。
三本目を続けて切り付けようとすると矢と剣が当たっても矢の威力が落ちる気配が無い。
予想していなかったのもあってかそのまま矢が剣を弾いた。
「ッ何!?」
ラウドがそのチャンスを待っていたかの如く、剣を抜かずに柄に手を置いたまま地面を蹴って加速した。
魔力による身体強化、強化された足で蹴った地面は衝撃で少し抉れている。
剣を抜かないのは抜刀状態から攻撃するためだろう。
矢に剣を弾かれた一瞬の隙を付いてヒュブイの正面に立つと次の瞬間、ラウドの剣は既に振り切られていた。
しかし、さっきまで居た所にヒュブイの姿は無かった。
先程までラウドの正面に立っていたヒュブイがいつのまにかラウドの後ろに回っていた。
俺は戦闘が始まる前からラウドの後ろ側から見ていたがいつヒュブイが後ろに回ったか分からなかった。
動きが早すぎて止まっている時以外、目で捉える事が出来ない。
「後ろですよ……」
「あぁ、知っているよ」
ラウドの背後でヒュブイが長剣を振りかざそうとした直後に一つの矢がまた強襲した。
音を置き去りにする程早い矢が死角から飛んでくる完全な奇襲、にも関わらずヒュブイは正面のラウドを無視して振り返り様に矢を迎撃した。
しかし、一見すると一つしか撃たれていない様に見えた矢は実は二重に撃たれていた。
二本の矢は全く同じ軌道で撃たれていた為、撃たれた側が二本目の存在を認知する事は不可能だ。
「ここで私が避けるとは思わなかったのですか?」
ヒュブイが二本目の矢を捌かずに上に飛び上がった。
すると、二本目の矢は後ろにいるラウドに目掛けて……では無く何故か上に飛んだヒュブイ目掛けて飛んで行った。
矢が軌道を変えたのだ、物理法則を無視している矢の動きを見るにこれはただの経験や技術がなせる技じゃ無い、きっと魔力による物だ。
しかし、本当なら予想外の矢の追撃なのにそれを剣で防ぎ切った。
「今のを防ぐのか……!?」
ライゼンさんが驚いているのを見るにやっぱり今の矢の軌道を予測して防ぐのは不可能だろう。
もしかして未来が見えるタイプか?
俺はそれを確認するためにフィオラに合図を出してから即座に床に手を当てて、魔力を込める。
使う魔術は火属性 上級魔術
「【火柱】」
ヒュブイの足元が赤く燃え、そこから焼き尽くすほど高熱の火の柱が現れヒュブイを襲った。
俺が攻撃するとは思っていなかったらしく避けるのではなく防ぐことを選んだ。
火柱が消えた後にヒュブイが着地後に後ろに跳び上がって距離を取った。
「これはこれは一枚取られましたね……」
鎧が少し傷ついた程度でほとんどダメージが入っていなさそうだ、でもこれで分かったのは一番厄介な能力の未来予知だとか心を読むだとかの能力が無いと確信できた。
「まさか一対二だと思っていたら一対三だったとは……」
「ほんとにそう思ってるならもう一枚取れそうだ」
フィオラの方を見るとフィオラの周りを水色と緑色のオーラが渦巻いている。
フィオラの魔術が発射されるまでの少しの間、父さんとライゼンさんが猛攻を仕掛ける。
父さんはフィオラの魔術に当たらない様に魔力で加速した突進攻撃のみで打ち合いはせず、父さんの隙を埋めるようにライゼンさんは的確な射撃能力と矢を操る能力でカバーしていた。
流石はベテラン冒険者の二人だ、俺達だけなら攻撃を当てる暇もなく瞬殺されているはずだ。
「僕もちょっと怒ってるよ【氷塊】」
剛速球で発射された2m近くある巨大な氷の塊がヒュブイに飛来する。
質量と速さは力だ、余程の実力者でも直撃すれば軽いダメージでは済まない。
「本命はその子ですかッ! 【魔帝流剣術 風嵐災刃】」
ヒュブイの長剣が緑色に光り、縦に魔力を籠って振った斬撃は一度だけ。
にも拘らずフィオラの放った氷塊は切れ目が三つ入り、四つに分裂した。
四つに切断された氷塊は速度を落とすことなくヒュブイの両脇を通り過ぎていき、家の残骸に激突し盛大に破壊した。
「複合魔術【氷粒乱撃】」
フィオラが使った魔術はフィオラの得意な水属性中級魔術の【氷塊】と同じく得意な風属性中級魔術の【旋風】を合わせた複合魔術。
氷塊を速度を殺さずに旋風でバラバラにして発射する、俺が使うとちょっと鬱陶しい攻撃程度で戦闘では使えなかったがフィオラなら二つの属性を使う場合、威力は桁違いになる。
シャルが村を出てからの二年間、俺とフィオラの二人で魔術の研究をしていて編み出した技だ。
普通の人に使えばたぶん殺してしまう為、フィオラには厳しく普段は使わない様に教えている。
使って良い時はフィオラの命が危なくなった時、その時は迷わず使うように約束している。
ヒュブイは先程同様に剣に魔力を込めて、無数に飛んでくる剛速球の氷の粒を高速で切りつけて防いでいた、一度の斬撃で大量の粒を砕いている所を見ると最初の氷塊を切断した時に使っていた技と同じ攻撃で防いでいるみたいだ。
しかし、フィオラも魔術の手を止める事無く撃ち続ける。
次第にフィオラが風害を抑えていた時と同様に明るく神々しいオーラを放っていた。
フィオラはあの時、かなりの魔力を消費したはずなのに未だに魔力が枯渇する気配が無い。
マリーネさんがした『おまじない』とやらが関係しているのだろうか。
「これがずっと続くと流石に堪えますね……『我が身は貴方様を守る盾であり剣、風魔帝の名において貴方様の加護を我らに』【風帝武装】」
空気が変わり、詠唱を終えると同時に持っていた長剣を地面に突き刺した。
氷の粒が被弾する一歩手前で謎の力で全てが粉々に砕かれた。
フィオラも撃つのが無駄と察知したみたいで魔術を撃つ手を止めた。
「賢い判断です」
全員がその場に止まり、流れが俺達からヒュブイの方に変わった。
「何をした」
「人族は何故敵である私に答えを聞こうとするのですか? 答える義理は無いでしょうに」
見た所、自動反撃とか遠距離攻撃無効化とかそう言った部類だろう、一番の問題は俺の知っているそう言った能力を持っているキャラはみんなくそ強い事だ。
こっから先を一方通行にしてしまう白髪キャラとか魔人王の子供達とかそういったレベルの敵だ。
「いやはや、私もまだまだ詰めが甘いですね……一番厄介なのを先に潰すとしましょう」
「まずいっ! 逃げろフィオラ!」
ヒュブイの体が突如消えた。
アイツにとって今の脅威はこの中でも安全地帯から高火力の出せるフィオラだ。
火力だけならラウド達だろうがフィオラと俺は耐久力で言えば所詮子供、近づかれれば直ぐに死ぬ。
今から走って行っても間に合わない。
フィオラは逃げずに魔術を使おうとしている。
それを見て直ぐに俺も冷静になる、魔術で防ぐしかない。
使う魔術は中級 土魔術
「「【土壁】」」
二人でフィオラを囲めば間に合うはずだ。
何故だ!? 俺の土壁はフィオラの周囲を囲んだがフィオラの魔術は発動していない。
いや違う、フィオラは自分を守らずに俺を――
「貴方ですよ!」
「なッ――がはッ!」
俺の前に突如現れて俺を蹴り飛ばした。
咄嗟に手で防いだが体格差と魔力による身体能力強化の差の両方で劣っている為、ほぼ無意味に近かった、しかし蹴られる寸前にフィオラが発動した土壁が間に現れたお陰で勢いがかなり弱まった。
しかし、弱まった勢いでも俺の体を吹き飛ばすには容易く、そのまま近くの家屋の残骸に激突した。
壁に体がめり込みその後にスルリと地面に倒れこんだ。
全身に激痛が走った、動こうにも腕に力が入らずに次第に意識が朦朧とし始める。
どこか既視感が合った、フィオラと初めて会った時も俺が先に倒れたんだ。
俺はいつもこうだ……最後まで君を守って上げられない。
「ごめんな……フィオラ……」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!