百一話 厄災
フィオラの誕生日パーティー当日。
突如、謎の飛来物が高速で村の中央に激突し、村の中央を盛大に破壊した。
"それだけならまだ良かった"
その落下地点から広がる様に膨大な量の風が襲ってきた。
この表現をしたのは俺があれを、どの単語で表現すれば良いか分からなかったからだ。
台風、暴風、竜巻、トルネード、サイクロン。
あの、ニュースでもテレビでも見た事の無い恐ろしい程、次第に広がるサイズの風害を何と表現すれば良いか分からない。
「おい、何だよあれ……」
「お、俺達の村が……」
皆んなが唖然とその災害を見て立ちすくんでいた。
「みんなしっかりしろ! 男達は女性と子供を守れ! ライラスとフィオラちゃんは魔術で壁を作れ! 急げ!」
最初に声を大にして叫んだのはラウドだった。
その声を聞いて全員が現実を見始めた、あれがこっちに向かってきている。
みんなが足を動かした。
俺はテレビなどで台風や竜巻の災害がもたらす膨大な被害をここの誰よりも知っている。
あれはそれよりも数倍脅威だ。
足が動いてくれない、あれを防ぐのなんて不可能だ……
きっとまたここでーー
「ライラス……大丈夫だよ、僕が絶対守るよ」
フィオラが俺の手をギュッと握る。
握られて初めて自分が震えていた事に気づく。
フィオラだってあれが怖く無い訳が無い、こう言う時に可愛い友達を守らないでいったい何を守るんだよ俺は……
「……ありがとう、フィオラ。みんなで協力してあれを乗り切ろう!」
「うん!」
俺はフィオラと一緒に父さんの元へ向かった。
あの、今にも盛大に広がる風害がこっちに届くまでに少し時間がある。
この作戦が失敗したらまた死んじゃうかもしれないな。
「父さん、壁を建てるだけじゃ直ぐに壊れてしまいます!」
「しかし壁を作らないとどの道全滅だ!」
「俺に考えがあります! 俺とフィオラは魔術を自由に操れます、それで特殊な形の壁を作って魔力を込め続ければあれを防げる筈です!」
今まで沢山フィオラと研究してきて分かったのは詠唱をしない魔術には使う魔力が多くなる代わりに自由度がある事だ。俺の浅い知識が正しければ全員助かる筈だ。
「ライラス、お前は……いや今は良い。 分かった! 信じて良いんだな!」
「任せてください!」
「エレカ、子供達に作戦が有るみたいだ、サポートしてやってくれ」
「分かったわ! ルシェネをお願い。全員こちらへ! 一箇所に集まって下さい!」
母さんが抱っこしていたルシェネを父さんに預けた。
ルシェネはまだ二歳だけどここの誰よりも落ち着いている。
最近少し話せる様になってきた可愛い可愛い妹だ、お兄ちゃんとして必ず守ってあげないとな。
母さんの号令で全員が集まる。
どの人からも不安の声が聞こえる。
「フィオラ、生きてもっともっと楽しい事をしような……」
「うん……絶対だよ!」
既に使う魔術と作る形は説明している。
全員でその中に入って俺とフィオラは魔術を使う準備に入る。
フィオラが自分の両親と他のみんなに手を振った。
みんなを安心させて元気付ける為だろう。
「ライラスもフィオラちゃんも一番若いのに頼りになるわね、2人が魔術を使ったら私が強化すればいいのよね」
「はい、お願いします。母さん」
俺達の直前まで風が迫ってくる。
2人で手を握って魔術を使うために膨大な量の魔力を込める。
使う魔術は土属性 中級魔術
「「土壁」」
この場にいる全員を囲む様に土の壁が形成されていく。
そしてその後に俺とフィオラに触れ、母さんが詠唱を唱える。
「主よ、友を救う為その右手の加護を魔術強化」
右手が温かくなる、魔力の効率が格段に良くなったのが実感できる。
これが母さんの魔術か。
俺とフィオラが作った土の壁は板じゃなくて平たいドーム状。
俺の知ってる知識では四角の壁で囲うよりも半球に近い形の方が風の衝撃を和らげてくれるはずだ。
そして人が入れて天井のスレスレな高さにしてある為、より風に対して耐性があるはずだ。
母さんの魔術は術そのものを強化するもので強度がかなり上がるらしい。
音と共に風害が俺たちの居た場所を飲み込む。
聞いた事の無い轟音と共に周りにいる一般人から悲鳴が聞こえる。
土壁が衝撃に耐えてはいるが母さんの補助が無かったら今直ぐにでも壊れていそうな程だ。
俺達も土壁を補強するために常に魔力を込め続ける。
「フィオラ……耐えれそうか?」
「僕は……大丈夫だよ……」
こう言ってはいるが俺も結構キツイ、フィオラも相当我慢しているはずだ。
魔力が常に流れ出る疲労感は計り知れない、底を尽きるまでにこの風害が無くなってくれる事を願うばかりだ。
少しの間耐えて居ると土壁から嫌な音がし始めた。
まずい、このままじゃ風害よりも先に土壁が壊れる。
壁が壊れる寸前に2人の人物が動いた。
「即席魔力付与【強化】」
「うふふ、私は可愛い愛娘におまじない」
動いたのは俺の父のラウドとフィオラの母のマリーネさんだ。
父さんが左手でルシェネを抱っこしたまま右手で俺を触れ、俺を更に強化してくれた。
母さんの魔術と父さんのスキルで二重に強化されて人生で初めてフィオラやシャルの様に体の周りに魔力の渦が現れた。嬉しいし頼もしい反面、ここまで支援されて初めてフィオラとシャルに並べると思うと気が遠くなる。
更にフィオラの肩にマリーネさんが触れた。
すると直後にフィオラの体からどこか神聖なオーラを纏って雰囲気が変わったのを実感した。
この感覚は体感した事があって、今の状態のフィオラを見た事がある……でも鮮明に思い出せない。
でもラウドとマリーネさんのお陰で土壁が壊れる心配が無くなった。
それから数分の後、先程まで鳴り響いていた轟音が消えた。
「ねぇ、ライラス……」
「通り過ぎたのか?」
俺はラウドに目線を合わせるとコクッと頷いたのでフィオラに声をかける。
「フィオラ、解除しよう」
「そうだね……」
2人で恐る恐る土壁に送る魔術を解除する。
魔力で形成された土の壁は魔力のパスが切れると次第にポロポロと崩れて空気中に消えていった。
みんなが外の景色を眺めた。
驚愕する者、膝から崩れ落ちる者、泣きじゃくる者。
そう、この災害はそれほどまでの悲惨だった。
一つの村が……田舎故に土地は広大にあったあのクロット村が消し飛んでいた。
あの風害は家屋の痕跡すらも吹き飛ばしていた。
「何じゃったんだだあれは……」
ガジェットさんがラウドの隣に歩いてきてポツリと零した。
長寿とされるドワーフのガジェットさんでさえ見た事がないレベルの災害。
いったい何があったんだ。
「分からない、分からないけど今は村に急ごう。まだ生てる人がいるかもしれないライゼン付いてきてくれ!」
「あぁ、任せてくれ」
「助かる。フツーウ達は村人の生存確認と俺達が帰って来るまでみんなを守って欲しい。もう立派な俺達の村の仲間だ、任せても良いか」
「お、おう! 任せてくれ! 今まで受けてきた恩を返すぜ」
「他のみんなは付いて来ないでくれ、何か危険があるかも知れない」
みんなに指示を出すとラウドとライゼンの2人が持参していた武器を持って村の方に走っていった。
上空から謎の飛来物、その直後に広がる風害。
俺は不思議に思い、風の来た向きと逆方向、つまり風の向かったであろう方向を見た。
風が……無い!?
竜巻も台風も基本的に決まった方向に進んでいく、それに急に現れる事も急に消える事も無い。
なのに急に現れて急に消えた、風は広がる一方で進んですら無い。
原因は十中八九あの飛来物だろう、アレが無関係な訳がない。これは人為的な災害とでもいうのか……
例えば風の魔術ならあり得る、フィオラの中級魔術で畑や田んぼが吹き飛ばせるならもっと強い奴が上級以上の魔術を使ったなら可能性はあり得る。
だから父さんとライゼンさんは武器を持って行ったんだ、生存者を探すなら武器は邪魔な荷物でしかない。
つまり、あの中央には何かがいる……
「あ、ペコダメだよそっちに行っちゃ!」
フィオラの声を聞いて振り返るとペコが村の方に走って行った。
それを追いかけようとしたフィオラの手を掴む。
「フィオラ危険だ!」
「でも! ペコが……」
今村に行くのはかなり危険だ。
確証は無いけど最悪の状況を想定すると、きっと父さん達でしか太刀打ち出来ないような化け物が居るはずだ。
「分かった、でも行くのは俺だけーー」
「ダメ! 僕もライラスと行くの!」
「…分かったよ。俺から絶対離れるなよ」
「うん! でもそれはライラスもだよ」
確かに村は今危ないかも知れない。
でもこの村で一番頼りになるラウドとライゼンがいるんだ、きっと大丈夫だ。
今はフツーウが村人に付きっきりだから今ならバレずに行けるはずだ。
俺とフィオラはペコを追いかけて村に走っていった。
ーーーー
村の中はまさに惨劇だった。
家屋は殆ど見るも無惨な姿で残骸だけが残っていた。
入口からペコを探しながら辺りを見回しながら村の中央に辿り着いた。
道中、ヤバそうなモンスターとか獣の類の足跡とか爪痕的な物は何も無かったから俺の杞憂で終わるといいんだけど。
ちょうど中央に来ると父さんとライゼンさんを見つけた。
どうして立ち止まっているか分からないけど事情を説明して一緒に探してもらおう。
「父さーー」
「ライラス!? どうして来たんだ!!! 早く戻れ!!!」
「す、すみません。 ペコが急に走って行ったので追いかけようと……」
あのラウドが血相変えて怒っている、そんな事今まで七年間生きてきて初めて見る光景に少し怖かった。
「フィオラ、今は父さんの言う通り帰ろう。ペコは賢いから必ず帰ってくる筈だ」
フィオラの手を取って帰ろうとするとフィオラの顔が驚愕していた。
見ているのは俺でも父さん達でも無いそのもっと後ろの方だ。
「おやおや、帰ってしまわれるのですか?」
突如効き慣れない声と共に全身から湧き立つ恐怖心で背筋が凍った。
紳士的なセリフからは想像できない殺気と嫌悪感、恐怖で吐きそうになる。
後ろを振り返るとそこには緑のマントの付いた鎧に身を包む謎の騎士が突如現れた。
いや、既に俺以外はこの存在を察知していたのだ。
今頃気付いたのは俺だけだった。
「折角、客人が来たのですからもう少しのんびりしたらどうですか?」
「お、お前は誰だ……」
コイツは確実に危険な奴だ、あの最強の父さんが警戒心を出す所を見た事がない。
つまり相当強い、いったい何者なんだ。
「おや、私とした事が自己紹介が遅れましたね。私は崇高なる魔王ヴェルグレイア様に使える信徒! 【六魔帝】一席。風魔帝 疾風と厄災のヒュブイ、どうぞよろしくお願いします」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!