九十九話 お別れの宿屋
クロット村隣町
《エルトリス目線》
「お嬢ちゃん……娘がいたのか……!?」
「いやいや、合ってるけど違うよ」
「いやいや、訳わかんねぇーよ」
「師匠の弟子のシャルリアです」
「おっけい、何となく分かったわ」
隣町に来てから一度、宿屋に顔を出して泊まってから出発する事にした。
エーデンス王国からは水路で移動してきたけどサンセリティア神聖教国までは陸路での移動になる、つまりは馬車の手配をしないといけないからだ。
既に馬車の手配は済ませてあるから今日一日休んでから明日の朝頃にまた出発だ。
宿屋で一通り準備うを済ませてからお昼を食べる為に二階の部屋から降りてテーブルに座った。
前は人が殆ど居なかったけど今日は他の客もチラホラ見える。
人と少し距離を空けて端のテーブル席に座った。
シャルと世間話をして少しすると店主のおじさんがご飯を持って来てくれた。
「シャル、驚いちゃダメだよ。こんなにボロい店なのにここの飯は結構美味しいんだよ」
「ほんとどこまで行っても失礼なお嬢ちゃんだな。それに比べてシャルリアちゃんは凄く礼儀が正しい。シャルリアちゃんに礼儀作法を教えた人はついでにお嬢ちゃんにも教えてあげてほしいね」
「シャルに礼儀作法を教えたの私なんだけど」
「冗談はその図太い性格だけにしときな」
店主のおじさんはそう言いながら私の方のテーブルに皿を置いた。
もう、嘘じゃ無いのに。
今日のご飯はお肉にチーズを絡めたソテーと野菜スープだ。
この宿屋の料理は店主が直々に作っているので品質はしっかり管理されている。
高級とまではいかないけど貧相では無くてしっかりと美味しいので安心して食べれる。
次にシャルのテーブルにも私と同じ物が置かれたんだけど最終的に見るとどうにもお皿の数が合わない。
シャルの机には他にもコッペパンと簡易的なスポンジケーキ、カットされたフルーツの盛り合わせの計三皿が追加で並んでいた。
「すみません、頼んでいない物まで来てるんですけど」
「それはシャルリアちゃんへのプレゼントだ、いっぱい食べて大きくなりな」
「本当に良いんですか?」
「シャル、こう言う時は優しさに甘えても良いんだよ。ありがとうって言われた方が相手も嬉しいからね」
「分かりました。店主さん、ありがとうございます!」
それを聞くと宿屋の店主は嬉しそうに手をひらひらと振りながら厨房の方に戻って行った。
師匠って立場だから言えないけど私も少し欲しかったとかは言えないのが少し辛い。
「師匠、このフルーツ美味しいですよ! 早く食べてみて下さい!」
「……ありがとうシャル、ほんとだ凄く甘い!」
この子には自分の分って考えが無いんだろう。
自分のを上げるってよりは常に2人の物って考え方みたいだ。
無意識にこう考えれるシャルは私よりも立派だなと思う。
食事をしながら可愛い弟子の友達の話を聞いていた。
「それからライラスがですね! 色々な魔術を見してくれたんですよ! 色々な魔術を組み合わせて違う魔術みたいになるんですよ! それにフィオラが風の魔術を使ってくれたんですけど今まで見て来たどの魔術よりも凄かったんですよ! 木が根っこから飛んでいったんですよ! それからそれから!」
「あはは、シャルったらライラス君とフィオラちゃんの話ばっかりだね。 よっぽど2人の事気に入ったんだね、それも泣いちゃうぐらいに」
「もう! 泣いた事は2人には絶対に言わないでくださいね! 2人には泣いている所を一度見られているのでこれ以上知られると私が泣き虫だって勘違いされてしまいます!」
十分泣き虫さんだと思いつつも口には出さない。
この年頃の女の子は背伸びしたがるからね、きっとシャルの中ではあの2人の前ではお姉ちゃん気分なんだろう。
2人で楽しく会話に花を咲かせていると2人の男性がテーブルに近づいて来た。
その風貌から見るにこの街の表側じゃ無くて裏側の人間だ。
「ようよう、そこの可愛いお嬢さん」
「私達に何かようかな?」
ニタニタと不気味な笑いを向けてくる、こういった目を向けてくる奴は大体ろくでもない人間だ。
「俺達と一緒に楽しいことしようぜ、そっちの娘ちゃんも一緒でいいからよぉ!」
「俺はガキには興味ねぇからお前に譲ってやるよ、そのかわりこっちの上物は俺が最初に貰うぜ」
やっぱり、低俗な会話で相手の事を何も考えていない典型的なクズだ。
隣を見るとシャルはとても怯えた表情でガタガタと震える手で剣を抜く準備をしている。
カルガーと初めて会った日に私が睡眠薬で眠らされた時、シャルが本気で殺しにかかったって聞いてもしかしてとは思っていたけどやっぱりまだこういった賊にまだトラウマが残っているみたいだ。
コイツらはシャルにとって良くない影響を与えかねない。
斬るか? いや駄目だ、どうでもいい店なら迷わず斬るがここの店主には凄く親切にしてもらっているし店を荒らしたら申し訳ない。
シャルの震える手を握って笑いかけて静止させる。
次第にシャルの震えが収まり、ゆっくりと剣から手を離した。
店主の事もある、今回はムカつくけど穏便にいこう。
「ごめんね、私達は2人で十分楽しいから遠慮しておくよ」
「おいおい、そんな連れねーこと言うなよ」
「ほら、ここの部屋借りてるから上に行くだけだぜ、つべこべ言わずに早く来いよ」
男の1人が私の腕を乱暴に掴んでくる。
「お互いの為に今止めてくれると嬉しいかな」
私だけなら我慢出来るけどシャルにも同じことしたら店主に悪いけどここで斬ろう。
それと自分だけなら我慢出来るならシャルも同じだ、隣で殺気を抑えているのがヒシヒシと伝わってくる。
このままだと2人を斬ってお店にも迷惑かけてしまう。
悩んでいると厨房の方からドタドタと走ってくる音が聞こえた。
音の方を見ると見知った顔の店主が走って向かって来ていた。
良かった、店主なら話し合いで解決しれくれ流だろうしこれで穏便に済ませーー
「俺の大事な客に何やっとんじゃー!」
走って来た店主が勢いそのまま1人の男の頭を鷲掴みして私達が座っていた席とは違うテーブルに叩きつけた。
爆発したかと思う勢いでテーブルは真っ二つに割れて男性の顔が床板を突き抜けて地面に刺さった。
1人を仕留めるとすぐに振り返ってから、もう1人の男性の首目掛けて腕をフルスイングして吹き飛ばした。
豪快な音と共に壁に当たった男性は勢い殺さずに壁をぶち抜いて道の向こう側の家に激突した。
そんな最中、私とシャルは2人して目をパチパチとさせて固まっていた。
状況が飲み込めていなかったからだ。
「よし。すまんな2人とも、俺の不手際であんなカス共を店に入れちまった。あれ? どうしちまったんだ2人揃って固まって? そ、そんなに怖かったか? すまねぇ、新しいデザート作ってたら気がつくのに遅れちまってよぉ」
「あははは、ありがとうございます店主さん」
最初にこの無言の空間を崩したのはシャルだった。
「あぁ、良いってことよ」
「ふふ、凄い破壊っぷりだったね。お店の事を気にしていた私が馬鹿みたいにじゃんか」
「良いんだよそんな細けぇ事は、店は直せば済むけど人の心は傷ついちまったら治らねからな。生憎、修理代はお嬢ちゃんが前カモられてくれたからたんまりあるしな」
「もう、そう聞くと素直に感謝出来ないなー、まぁいっか。ほんとにありがとう、私とシャルを助けてくれて」
「気にすんな気にすんな、それよりもちょうどクッキー焼けた頃合いだから食ってみてくれよ。2人は美味そうに食ってくれるからそれを見れるのが何より嬉しいんだ」
「シャル、お言葉に甘えようか」
「はい! 師匠!」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!