九十八話 お別れ涙
《ライラス視点》
「今まで本当にありがとうね、シャルもここに来てからかなり成長したよ」
そう言いながらエルトリスさんはシャルの頭をポンポンと優しく叩いた。
その後にシャルがぺこりと深くお辞儀をした。
今日はエルトリスさんとシャルリアシャルの2人が旅立つ日だ。
俺と父さんとルシェネを抱えている母さん、そしてフィオラの五人で見送っている。
エルトリスさんが隣町から帰って来てからすぐに翌日、つまり今日に旅立つ事になった。
聞いた話、この世界で一番力を持っている宗教を崇拝している国から仕事の依頼が来たらしい。
エルトリスさんって近所の大学生のお姉さんみたいなイメージがあるからフランクに話しているけど実際はたぶん凄い人なんだと思う。
滅茶苦茶強い父さんの師匠で、父さん曰く本気出しても勝てないらしい。
さらに俺より数倍強いシャルがベタ褒めしている師匠でもある。
「本当にお世話になりました、フィオラもライラスも本当にありがとう! この村に来てから何もかもほんとに楽しかったよ!」
「俺からもありがとう。俺も凄く楽しかったよ。行き詰まっていた剣術もシャルっていう目標が出来たしこれからもっと強くなれるから感謝もしてる」
「ライラス君は頑張ってシャルに追いついてよね! この子は君に出会っって今までよりもっと早く強くなるよ」
「はい! 必ず追いつきます! 一応、僕もエルトリスさんに教えてもらいましたから!」
初日にシャルとやった模擬戦以降、何度か試合をしたけど結果は全敗。
俺が勝ったのは魔術ありでやった時のたったの一度だけ。
この差を埋めるのはかなり厳しいけど、きっと強くなろう。
シャルと肩を並べれるようにってのもあるけど一番はやっぱり負け続けってのは悔しいからな。
一通り挨拶を済ませて後ろを見るとフィオラが下を向いて握り拳を作っていた。
「フィオラは挨拶しなくて良いのか?」
「うん。さよならを言っちゃうと悲しくなるから……」
フィオラは先ほどからずっと下を向いて落ち込んでいる。
それを見たシャルがフィオラの元に歩み寄って手を握った。
「フィオラ、私たちはずっと友達だよ。どんなに離れていてもずっと」
「……ずっと?」
「うん、ずっと。私もさよなら寂しいから……またね、フィオラ!」
「……うん! またね、シャル! 絶対、絶ッ対にまた会おうね!」
「絶対!」
フィオラとシャルもお別れを済ませたみたいだ。
この世界はどれだけ広いか分から無いけどまたいつかは会えるはずだ。
「ラウドは家族を悲しませちゃダメだよ、エレカさんみたいな良い人はそうそういないからね」
「分かってますよ、エレカもライラスもルシェネも大切にします」
そう言いながら父さんはルシェネの頬を指で優しくプニプニと突いていた。
「それなら私も安心だね。エレカさんも泊まっていた間ありがとうね、ご飯もとても美味しかったよ」
「ありがとうございます。エルトリスさんもシャルリアちゃんもいつでも遊びに来てくださいね、2人ならいつでも歓迎しますよ」
一通りの挨拶を済ませると『じゃあ』と話を終わらせてから。
「そろそろ行くね、またいつか」
そう告げると早急に足を運んだ。
2人が見えなくなるまでみんなで手を振った。
途中、振り返ったりしてくれないかなとか考えたけど振り返ったら悲しくなるからだろうか、2人が振り返る事は無かった。
「それじゃあ俺は村の巡回に行ってくるよ」
「私は洗濯物を干してくるわ」
2人を見送ると父さんも母さんも普段の日常に戻っていった。
冒険者は出会いと別れには慣れているのかこういう時のメリハリがしっかりしている。
かく言う俺とフィオラは普段の日常に戻るには少しばかり時間がかかりそうだ。
「行っちゃったね……」
「行っちゃったな……」
友達との別れは俺も経験があまり無くて心に小さな穴が空いたみたいだ。
数回は経験があるがそれでも少し悲しいのに初めてのフィオラが悲しく無いはずが無い。
俺はポツポツと涙を零すフィオラの手をギュッと握った。
「よく我慢出来たな……」
「うぅ……うっ……」
シャルが居なくなるまではずっと我慢していたんだろう。
もしシャルのいる前で泣いてしまうと旅立ち辛くなってしまうからだ。
最初はポツポツと泣いていたが次第に涙の量が増えていった。
次第に別れてしまった実感が湧いて来たのかも知れない。
フィオラが泣き止むまでかなりの時間がかかった。
その間、泣き崩れたフィオラを支える為にしゃがみ込んで胸を貸した。
自分の胸元で女性が泣くのは見ていて少し辛かった。
泣き止んだフィオラの目は真っ赤に腫れていた。
「ありがと……ライラス……」
「もう大丈夫なのか?」
「うん、もう大丈夫」
人は大きくなると世界はとても広いけど狭い事が分かってくる。
学生の時、小学校から中学高校と進む時に友人や先生と離れて悲しかったけど案外街中ですれ違ったりする。
地球はとても広大だけど日本の反対側に会いたい人がいても一日もあれば会いに行ける。
でも幼稚園や保育所、小学校の時には自分の知っている世界が全てだ、離れ離れになれば悲しいしもう会えないとも思ってしまう。
それでもシャルが居なくなるまで泣かなかったし、沢山泣いても最後に前を向けるのはフィオラの強さだ。
この心の強さは俺が前世では持っていなかった物だ。
自分の強さに慢心して天狗になって最後は死んでしまった。
俺を殺した先輩も俺をボコボコにしようとは考えてただろうけど殺そうとまでは考えてなかった筈だ。
俺は確かに殺された被害者だけど、他人を恨むほど信念は強く無かったし転生しても楽しくやれているから少し感謝もしているぐらいだ。
先輩は元気にやっているだろうか。
シャルとのお別れでそんな事を思い出していた。
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クロット村郊外
「もぉー泣き止んでよシャルー」
「でも……うぅ……でも……」
カッコよく別れた後、村を出てからみんなから見えなくなってからずっと、シャルリアもちゃっかり泣いていたのでした。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていて下さい!!!