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8/12

 その晩ディーノはなかなか寝つけなかった。ベッドに潜ってぎゅっと目をつむると、スケッチの女性の顔が瞼裏に浮かんでくるからだ。

 彼女の残像を消したくて、目を開けては閉じを繰り返す。記憶の中から追い出そうと頭を叩きもしたが、そう簡単に出て行ってはくれなかった。

 数えきれないほど何度も寝返りを打っても、今夜に限って眠りの妖精は来ない。

 クローゼットからブギーマンが這い出て来れば、恐怖でスケッチの残像は去ってくれるだろうか。

 余計なものを見てしまった自分が恨めしい。スケッチの女性、アベラルド、マックス、そしてマックスの母親の顔が、頭の中でぐるぐる渦を巻いていた。

 見上げた窓から、天頂の月光が降りそそぎ、部屋を青白く染めている。残暑厳しくとも穏やかな夜だ。夏の虫の声に加えて、秋虫の歌声が混じっていた。

 季節の移り変わりが始まっている。

 

 

 ようやく睡魔が訪れたのは、深夜零時になる頃だった。だが眠りは浅く、何度も目が覚めてしまった。満足に寝られず迎えた朝は、寝汗の気持ち悪さと相俟って、不快指数倍増だ。

 シャワーを浴び、朝食を摂って、ぼんやりする頭をなんとか叩き起こす。あくびを連発させながら自転車を漕ぎ、丘の林の小屋へ向かった。

 

 小屋の扉と跳ね上げ窓は閉じられたままだった。マックスが中にいるなら、換気のために開け放っているはずである。友人はまだ来ていないようだ。

 扉を開けた途端、こもった熱気が外に流れ出ようと押し寄せてきた。ディーノはTシャツの裾をバタバタあおぎながら小屋に入り、今度は跳ね上げ窓を開ける。

 扉と窓から、森の風が吹き込んでくる。たいして涼しくはないが、空気が流れるだけでも、幾分かは快適になるだろう。

 一息ついたディーノは、窓枠にもたれかかったまま、室内を振り返った。そして、向かいの壁際であぐらをかくマックスに気づき、思わず「わあっ!」と声を上げた。

「マーくん!? おるならおるて言うてよ、びっくりしたわ」

 ディーノは胸に手を当て、鼓動激しい心臓を落ち着かせようと深呼吸した。

 一方マックスは、座り込んで俯いたまま、目だけを動かしてディーノを見る。

 彼が一言も発しないので、ディーノは怪訝に思った。いつものマックスらしくない。驚かすつもりで息を潜めていたのなら、いたずらが成功したのだからはしゃぐはずだ。

 ところがマックスは、感情の読み取れない胡乱な目つきで、ディーノを見据えるだけである。

「マーくん、どないかしたんか?」

 ディーノはおそるおそる近づいていった。これまで感じたことがないほど張りつめた空気が、マックスの身体にまとわりついている。ディーノといえども下手に触れれば、ナイフさながらに切り裂かんばかりの緊張感だ。

「なあ、マーくん……」

 彼との距離が、あと二、三歩というところまで近づいたとき、マックスが顔を上げた。ディーノは息を呑んで足を止めた。

 

 マックスの顔中に、白いメディカルシートが何枚も貼られていた。

 額と頬には大きめのシート。こめかみと顎にも貼っていて、青紫色の痣が覗いていた。口の端のシートは血が滲んでいる

 また同居人の男に殴られたのだろうが、いつもよりひどい有り様だった。腕や足も、同じように手当てされている。

 あまりに惨い状態に、ディーノは一瞬言葉を失い、その場にへたり込んだ。


「ひどい……またやられたんか? なんでこんな……」

 大人はずるい。身体が大きくて力があると分かっていながら、平気で子どもを傷つける。もちろん、そんな大人ばかりではない。けれど、子どもに暴力を振るう大人は、確実にいるのだ。

 どうしてこんなひどいことができるのだろう。たとえ本当の父親でなくても、同じ屋根の下で暮らしている子に対して、毎日のように手を上げられるなんて信じられない。

 この手当ては母親が施したのだろうか。息子が同居人に虐待されているのに、なぜ止められないのだろう。ディーノには理解できなかった。


「なあ、こんなんひどすぎるわ。お母はん、何もしてくれへんの? それやったら警察行こ? おまわりさんなら守ってくれるて」

 ディーノが訴えると、マックスは大きく深呼吸し、言葉を吐き出した。

「無駄や。ノンちゃんは知らんかもわからんけど、この街の警察はあかん。悪い連中とつるんでんねん」

「で、でも、いい人もおると思うし」

「おっても無駄や。なんもかんも、最後には悪い奴らが、自分らの都合いいようにする」

「せやけど……」

 警察が悪い奴らとつるんでいる、というのは衝撃的な事実だ。けれどそれ以上にディーノは、マックスの身の方が心配だった。

 どうすればいいか逡巡していると、マックスが顔を近づけてきた。ぎらついた眼差しは、まるで野生の獣だ。その気迫は、噛みつかれるのではないかと錯覚してしまうほどで、ディーノは知らず身を引いていた。


「あいつや」

「え?」

「昨日、オレら以外の誰かがこの小屋におったんやって言うたやろ。あのカス男が仲間連れ込んでたんや」

「そ、そのこと、どうやって知ったん?」

「誰かと電話してんの聞こえた。丘の林ん中に、ちょうどええ小屋見つけたって。あいつら、オレらの小屋で悪さする気やねん」

「悪さって、何?」

「知らん。朝、それ聞き出そう思て……コレや」

 マックスは悔しそうに眉根を寄せ、顔をなぞるようにして人差し指で円を描く。

「あんなカスに、オレらの小屋利用されてたまるか」

「わ、悪さする計画があるんなら、やっぱり警察に相談した方がええんとちゃうかな」

「警察はあかんて。頼りにならんわ。オレらでなんとかせな」

「なんとかって」

 マックスは立ち上がり、声を張り上げて床を指差す。 


「ここはオレらだけの場所や! 勝手に入り込んで、変なことしようやなんて許さん! あんな奴らに好きにされたない! 絶対止める!」


「ちょ、ちょっと待って!」

 ディーノも立ち上がる。

「止めるて、どないすんの? いつ何をするかわかってへんのやろ? なんもわからんままやったら、なんもしようがあらへんよ」

「そやけど、あいつ絶対なんかするわ! このままオレらの小屋で悪さされてもええ言うんか!?」

「そんなん言うてない、僕かて嫌や! けど、具体的な情報なんもないのに、どないしたらええの?」

 鼻息荒いマックスをどうにかなだめようと、ディーノは努めて冷静にふるまった。マックスの勢いに引きずられそうだが、ここで自分が冷静さを手離してしまったら、彼の思いつきの暴走を止められない。    

 勝手に小屋に入ったかどうかを訊いただけで、こんな大怪我を負わされたのだ。悪巧みを阻止するために喧嘩を吹っかけでもしたら、今度は殺されてしまうかもしれない。それが何より気がかりだった。

「マーくん、こんなん言うたら怒ると思うけど、僕らまだ子どもや。やれることはそんなにない。下手したらこっちが危ななるよ。ちょっと落ち着こ」

「ほな、どないせえ言うんや。オレらは子どもやさかい、大人のやること黙って見とけ言うんか」

「そやない、ただ……」

 ディーノはため息をついた。


 マックスの怒りは理解しているつもりだ。家にも学校にもなじめない自分たちにとって、この猟師小屋はかけがえのない居場所だ。他の誰にも荒らされない、自分たちだけの秘密の場所なのである。

 それを、悪い大人に奪われようとしている。阻止したい気持ちは、ディーノだって同じだ。

けれど、子どもの身でできることなど、たかが知れている。


「おっちゃんに相談しよう。僕らだけやったら、どうしようもないて」

 警察があてにできないなら、頼れるのはアベラルドだけだ。

 しばしの間マックスは、黙ってディーノを睨んでいた。そのうち目つきを少し和らげ、

「わかった」

 と、不服そうではあるが頷いてくれた。




 ディーノは自転車の後ろにマックスを乗せ、黙ってペダルを漕いだ。マックスも終始無言だった。

 アベラルドに相談しよう、と提案したものの、そうしたところで解決に繋がるとは、正直思っていなかった。アベラルドは優しいけれど気が小さく、逆立ちしたって喧嘩に自信があるようには見えない。もしマックスの同居人の男と対決したら、きっと負けてしまうだろう。

 かといって、自分の両親に相談できるのかと自問しても、ディーノの答えは「無理ノー」だ。近所の目を気にして面倒事を避ける両親は、聞く耳さえ持たないに決まっている。

 アベラルドしかいない。他に誰もいないから、というより、アベラルドにこそ助けてほしかった。

 味方してくれる唯一の大人だからこそ、頼りにしたいのだ。


(なんで子どもって、できることよりできんことの方が多いんやろな)


 そうしたいと心の底から願っても、子どもであるがゆえに行動が制限されてしまう。そのためにこれまで、どれほど様々なことを諦めてきただろう。

 子どもだからというだけで、大切なものを守れない。大人の抑圧に抗えない。声を上げても聞いてもらえない。

 ペダルを漕いでいるうちに、ディーノの腹の底で憤りが湧き上がった。

 子どもだから。

 子どものくせに。

 そんな言い訳を繰り返し、言うことを聞かせるために抑えつけるなら、どうしてちゃんと保護してくれないのか。

 子どもは大人の都合で生きているわけではないのに。




 河沿いに到着した。

 生命力たくましい雑草たちは、秋の接近もなんのその、まだまだ青々しく茂り、道と河とを隔てている。

 毎日のように通ったおかげで、すっかり通路と化した箇所を抜け、小石が敷き詰められた河川敷に出た。

 プレハブ小屋に向かって歩いていくと、扉が開いて、誰かが出てくるのが見えた。だがそれはアベラルドではなかった。

 ディーノとマックスは同時に足を止めた。小屋から出てきた人物も、こちらを見てその場で固まる。

 

「マーくんの、お母はん……。なんで、ここに」

 

 マックスの母親――ケイトは、ぎこちない手つきでよれた服をなでつけ、乱れた髪を整えた。息子とは目を合わせようともしない。

 ディーノは横目でマックスの様子を窺う。マックスは無表情で母親を見ていた。

 ケイトはわざとらしい手振りで小屋を示す。

「な、なんやあんたらも、ここの人と知り合いやったんか」

 ディーノは返事ができずにいた。マックスの沈黙が怖い。

「どうかしたんか?」

 開いたままの扉から、別の人物が顔を出す。

 アベラルドはケイトを見、視線を動かしてディーノとマックスに気づくと、はっと表情を強張らせた。何か言おうとして口を動かすが、声は出ない。

 代わりにケイトが喋り始める。

「ま、まさか、あんたらも知り合いやったとは思わへんかったわ。絵ぇ見に来たんやろ? この人絵描きさんやからなあ。あんた、なんか見せてやり」

 ケイトの口調は早口で、なにかを取り繕っているようだった。子どもに隠し事をするときの、大人の態度そのものだ。

 アベラルドは、ケイトに話を合わせようと頷いている。が、やはり言葉が出てこない。

 しばし、重苦しい沈黙が流れる。

「なんでや」

 口火を切ったのはマックスだ。非難の色がはっきり伝わる抑えた声で、ディーノの背筋に冷たいものがはしった。

「なんでここにおんねん、何しに来たんや」

 息子の口調に怯んだのか、ケイトが視線を宙にさまよわせる。

「な、何しにって、別にええやないの」


「なんでここにおかんがおんねや! なんでや!」


 マックスが叫んだ。これまで必死に抑えていた感情が、こらえきれずに爆発した、怒号だった。

「マーくん、あの」

 ディーノは、小刻みに震えているマックスの肩に、手を置こうとした。しかし、その手が触れるより早く、マックスがしゃがみ込む。そして砂利をひと掴みすると、母親とアベラルドに投げつけ始めた。

「ちょ、ちょっと何すんのあんた!」

 ケイトは、息子が投げる小石から顔を守ろうと、両腕を上げた。彼女を庇うように、アベラルドが前に出る。

「マックス、やめえ! やめるんや!」

 大人二人が必死に呼びかけるも、マックスの手は止まらない。握った小石がなくなると、また足元から掴み上げて再び投げる。


「アホ! ボケ! オレの場所に来んな! 来んなや!」


 自分の母親に石を投げながら、マックスは叫ぶ。それは次第に絶叫へと変わっていき、それにつれて投石も激しくなっていった。

「マーくん、マーくん、もうやめえ」

 ディーノはなんとか止めようとしたが、荒ぶるマックスが怖くて近づけずにいた。

「マックス! あんた、いいかげんにしや!」

 顔をかばう姿勢のまま、ケイトが声を張り上げた。

「あんなあ、この人はあんたの……」

「ケイト!」

 アベラルドが慌てた様子で、ケイトの言葉を遮った。そのとき、マックスも石を投げる手を止めた。

 叫び続けたマックスの息は荒く、肩を大きく上下させている。ディーノは彼の手を開かせ、掴んでいた砂利を落とした。

 アベラルドはケイトを背に隠すように立ち、ディーノを、そしてマックスを見つめた。

「マックス、ちょっと話そうか」

 笑おうとしているのか、頬がひくひく痙攣している。ゆっくりこちらに近づいてくるも、彼が一歩踏み出すたびに、マックスは一歩後退していた。

「なあマックス、大事な話があるんや。ノンちゃんにもおってもらおう。そんなら安心やろ、な?」

 アベラルドが優しく語りかけても、マックスは距離を縮めようとしない。食いしばった歯の間から唸り声を漏らすと、きびすを返して走り出し、雑草の中に飛び込んでいった。

「マーくん!」

「マックス!」

 ディーノとアベラルドが同時に名を呼んだ。マックスは戻ってこなかった。

 ディーノはアベラルドを一瞥すると、迷わずマックスに続いた。

 アベラルドやケイトが追ってくる気配はなかった。




 その日――ディーノが知る限りでは初めて――マックスは自宅アパートに帰ろうとしなかった。

林の猟師小屋は、いつ悪い連中がやってくるか分からないので近づけない。かといって、アベラルドのところには当然戻れない。

 

 マックスの行き場所が、なくなっていく。

 

 ディーノはマックスを自分の家に連れて行った。

 懸念していたとおり、両親と兄シルヴァノは、マックスを泊めることを渋った。母親はマックスの汚れた身なりに顔をしかめ、シルヴァノはあからさまな嫌悪感を見せ、「野良犬が」と吐き捨てた。

 こんな反応をされるくらいなら、連れてこなければよかった。ディーノは後悔した。

 同時に、我が子の友達を外見だけで評価する家族に、失望と諦めの気持ちを抱いた。

だが、他にあてはないし、マックスを一人で外に放り出したくない。

 ディーノは必死に頼み込み、どうにか一晩だけ泊めていい許可を得られた。たった一晩だが、これは快挙だ。


 夜、ディーノはベッドをマックスに貸し、自分用に予備のマットレスとブランケットを床に敷いた。マックスは部屋の主を差し置いてベッドを使うことに抵抗を示したが、ディーノは譲らなかった。全身怪我しているマックスを、床で眠らせることなどできない。

 今のマックスは、誰よりも休息が必要なのだ。

 マックスを家に泊めることをずっと望んでいたのに、こんな形で叶ったのが残念でならない。

 本当なら、眠るまでカードゲームをしたり、おしゃべりに花を咲かせられたのに、二人ともそんな気分ではなかった。

 マックスはいままでにないほど無口で、ディーノともあまり言葉を交わさなかった。

 暗く沈んだ気持ちのまま、少年たちは布団に潜り込む。

 薄暗い天井を見上げながら、ディーノは考えた。

 マックスの母親はなぜアベラルドの小屋にいたのか、彼女が何を言おうとしていたのか。

そして、アベラルドは何を話したかったのか。

 マックスは明日自宅に帰れるだろうか。

 林の猟師小屋は、本当に犯罪に使われてしまうのだろうか。

 一度にいろんなことが起き、疑問ばかりが残っている。頭も気持ちも整理がつかない。今夜も眠れそうになかった。

 ディーノの脳裏に、例のスケッチの女性が再浮上する。

 ケイトがアベラルドのもとにいたことと、アベラルドがケイトをスケッチしていたことは無関係ではないはずだ。 

 それが何を意味するのか、分かってしまいそうなのが怖かった。


「ノンちゃん、起きてるか?」

 ベッドの中からマックスがかすれた声で呼ぶので、ディーノはそちらに顔を向けた。床からでは、ベッドの上の彼の様子は分からない。薄闇の中、黒い頭だけが確認できた。

「マーくんも寝られへんの?」

 そっと問いかけてみる。少し間が空き、マックスは別のことを言った。

「ノンちゃんのおかんの飯、うまいな」

「あ、うん、料理は得意みたいやから」

 やや沈黙が流れ、再びマックスがぽつり。

「何が一番うまい?」

「そやなあ。キャセロールならなんでも美味しいなあ」

「今日の晩飯のあれ、なんていうんや? 挽き肉と、豆と、トマトとか煮込んだ、ちょっと辛いやつ」

「ああ、チリコンカン」

「チリコンカンか。よう食べるんか?」

「月に何回かは作っとると思う。家庭料理の代表、みたいな感じ」

「ふーん」

 マックスの小さな吐息が聞こえた。

「そんなん、うちで食ったことないわ。おかんは何も作れんからな。いっつもレンジでぬくめるピザとかポテトとか、シリアルだけや」

「そうなん? せやけど、なんかひとつはあるんちゃう?」

 二歳の弟もいるのだから、料理が苦手でも、簡単なものなら作れるのではないか。そうであってほしいという願いも込めて、ディーノは尋ねる。  

 また少し間が空いた。

「パンケーキ」

「え?」

「いつやったか忘れたけど、何回か、パンケーキ焼いてくれたことあったわ」

「美味しかった?」

 ベッドが軋み、衣擦れの音がした。マックスが寝返りを打ったようだ。

「覚えてない」

 ぶっきらぼうに答えて、マックスは黙りこんだ。そのうち眠りにつくだろう。

 ディーノは顔を天井に向けた。


(朝になったら、おっちゃんのところへ行こうかて、言うてみよう)


 マックスが、母親やアベラルドと仲違いしたままでいいはずがない。ちゃんと話し合う必要がある。 

 マックスが真実を望むのなら、自分も一緒に受け止めよう。なにをどうしても傷つくなら、半分こすればいい。いつだって、なんでも分かち合ってきたのだから。

 今夜も月は明るかった。明日はいい天気になるだろう。

 少し勇気が湧いた気がした。




 大人が子どもに隠し事をするのは、その方が大人にとって都合がいいからだと思っていた。

 真実を隠し、嘘をつくことが子どものためになる。それは大人特有の、身勝手な考え方だと思っていた。

 でももしかしたら、本当に、心の底から、子どもを守りたくて嘘をつくことがあるかもしれない。

 アベラルドは何を隠していたのだろう。

 彼の口から、真実を聞くことはできなかった。

 

 

 翌日、丘の林の猟師小屋で、彼は遺体となって発見されたのだ。


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