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04 ドワーフの襲撃

 束縛呪文バインドで縛り上げたエルフの「エルフィ」を連れて、俺たちはエルフの村へ向かうことにした。このエルフが言うには、エルフのドロップアイテム『エルフの角笛』はエルフの村に大事に保管されているらしい。銀髪の少女を先頭に、俺たちは森の奥へと歩を進める。


 「本当にこっちにエルフの村があるんでしょうねぇ」

 「はい、もちろんであります。角笛もエルフの村の宝物庫に大事に納められています」


 すっかり従順になったエルフィは後ろを歩く東雲さんの事をビクビクした目で見つめながら答えた。エルフを倒して拘束した俺たちの事を警戒しているのか、森のなかを大分歩いたが未だに俺たちの前に誰も姿を見せない。俺は一応剣を抜いて周囲を警戒しながら、エルフィと東雲さんの後をついていった。歩くこと15分、道中エルフィに「怪力呪文マッスル」をかけてもらった俺はなんとかへばらずにいた。


 「見えてきました。あれが私たちの村です」


 エルフィが指をさした先には木製の小さな住戸が立ち並ぶ。村の入り口には物見櫓ものみやぐらが2つ建っており、それぞれ2体のエルフが弓を構えてこちらを見下ろしている。


 「そこの貴様ら! この村に何の用だ!」

 「私たちは『エルフの角笛』がこの村にあると聞いてやってきました」

 「角笛だと!? 貴様らなぜそれを知っている! 答え次第ではそこのエルフごと撃ち抜くぞ!」


 見張りのエルフ達は弓を大きく引き絞り、こちらに向けて構える。俺と東雲さんは戦闘態勢に移った。やっぱり欲しいと言ったらすぐにくれるほど簡単じゃないらしい。俺たちがにらみ合っていると、突如村から爆発音がした。


 「敵襲だ! 総員配置に着け!」


 見張りのエルフ達はこっちをにらむが、俺たちはまだ何もしていない。続いて2度目の爆発音。エルフ以上に予想外の事態にビビっている俺たちの様子を見たエルフは、俺たちがこの件と無関係だと判断したらしい。見張りのエルフは代表の1人を残して村の方へ駆けていった。


 「一体何が起こったんだ?」

 「おそらくドワーフ達が攻めてきたんだと思います」


 縛られたエルフィは震えながら答える。話を聞くと、この村から少し離れた所にある洞窟に住んでいるドワーフの集団とエルフの村は過去に何度も戦争をしているらしい。切っ掛けは好戦的なエルフ側の挑発らしいが、10年以上にわたってこの地域ではドワーフとエルフが敵対しているそうだ。


 話を聞いているうちに争いは激化していき、村の頭上では大量の弓矢が飛び交っているのが見える。残った見張りのエルフも俺たちよりも戦いの様子が気になるらしく、ちらちらと村の方を振り返る。


 「おーい、そこの君! 戦いに向かわなくていいのか?」

 「貴様らがいなければとっくに向かっている!」

 

 そうだよね、ごめんなさい。イライラした様子のエルフは櫓の中をうろうろ歩きまわっている。


 「ねぇ御手洗さん、これ私たちが戦いに加勢してエルフの味方をすれば恩を売れるんじゃないかな?」

 「さっき来た知らないやつを村を守る防衛戦に混ぜてくれるんだろうか」

 「それは交渉次第かな……」


 だがエルフに恩を売っておきたいのは俺も同じだ。俺たちは見張りのエルフに一か八か交渉を持ちかけた。


 「ねえねえ、そこのあなた! 私たちも戦いに加わろうか?」

 「何を言っている、貴様らがドワーフのスパイでないという証拠がどこにある。第一、エルフを縛り上げてる奴のどこを信用しろというのだ」

 「それを言われると困っちゃうなー。束縛呪文バインド解除!」


 拘束を解かれたエルフィは自分の体を触って体に異常がないか確かめる。


 「それに、このエルフの子は自分から縛ってくださいって頼んできたんだよ」

 「……そ、そうなのか?」


 なにを言ってるんだこの女は。俺とエルフィはぽかんと口を開けながら東雲さんを見る。東雲さんは見張りから見えないように手を後ろに組んで、俺の横のエルフィに見えるように小さく初級火炎呪文ファイアの火の玉を作り出す。「話を合わせなきゃ殺す」東雲さんは俺たちに言外の脅しをしていた。エルフィは膝を震わせながら見張りに向けてやけくそ気味に叫んだ。


 「はい! わ、私は縛られて喜ぶ変態エルフのエルフィです!」

 「そ、そうか」

 「そうよ、私たちはエルフィちゃんが村に案内してくれるっていうからプレイがてら着いてきたの」

 「プ、プレイだと……ハレンチな!」


 見張りのエルフは何を考えたのか顔を赤くする。しばらく悩んだ後、見張りのエルフは櫓の下に降りてきた。


 「今は一人でも人手が欲しいしな、いいだろう。私の目が届く範囲内でのみ加勢する事を許可する。ただし、変なそぶりを見せたら容赦なく始末するからそのつもりでいろ」


 意外とちょろいな、そんなことを考えながら俺たちはエルフの後をついていった。自分が想定外の出来事が起きた時、多くの人は思考力が大幅に下がる。ましてや村の危機のような緊急事態なら尚更だ。東雲さんがそこまで計算して言ったのかは分からないが、交渉は無事に成功したようだ。


 村では多くのエルフとドワーフが交戦していた。先ほど俺たちを襲ってきたエルフ達のように、エルフの装備は葉っぱ製の服と弓のみなのに対し、ドワーフ側はガッチリとした鋼鉄の鎧を着ており手には火縄銃のようなものが握られている。誰が見てもエルフの敗色は濃厚だった。


 身体強化魔法で自身の身体能力を大幅に強化していたエルフ達だがメインウエポンの弓矢が相手の鎧にはじかれてしまう。こんな状態で10年以上耐えたエルフの底力はある意味賞賛すべきなのかもしれない。戦場に着いた東雲さんはなるべくエルフ側に恩を売れるようにドワーフめがけて駆けだした。


 「中級火炎呪文フレイム! 中級落雷呪文サンダー! 中級氷結呪文フリーズ! 中級疾風呪文トルネード!」 


 東雲さんが迫りくる敵を魔法で次々薙ぎ払う。彼女のあらゆる職業のスキルを中級まで使えるスキル「万能オールマイティ」は、対峙する相手にとってはどんな攻撃されるか分からないので対策を取りづらい。俺ははなから戦闘で活躍できるとは思ってなかったので、傷ついたエルフ達を安全なエリアまで誘導する。


 ドワーフ達は突然の魔法の連打に混乱していた。エルフは基本的に身体強化魔法しか使えず、武器は己の拳と弓矢だけという敵からしたら対策がめちゃくちゃし易い種族である。固い鎧さえ着ていれば相手の攻撃でダメージを受けなくなり、一方的に攻撃できるからだ。その為、彼らの鎧には物理攻撃の対策のみを施してあり魔法対策はさっぱりであった。


 戦いは東雲さんの一方的な殺戮さつりくと化した。数分後、大打撃を受けたドワーフ達は巣へと逃げ帰っていった。


 「中級回復呪文リカバリー!」


 戦いを終えた東雲さんは俺が集めた怪我人に回復魔法をかける。怪我が治ったエルフ達は次々と俺たちに感謝の言葉を述べた。


 「お二人ともありがとうございました! 最近、奴らが攻めてこなかったので安心していたのですが、こんな装備を開発していたなんて……」

 「なんとお礼を言っていいものか……」

 「いえいえ、お役に立てたならなによりです。助け合いの精神ですよ。お礼なんて結構ですから、ええ、本当にお・れ・いなんて結構ですので」


 東雲さんはわざとらしく芝居がかった言い方をする。見返りを要求しているのは誰が見ても明らかだった。


 「ねえ、『エルフの角笛』をこの人に差し上げたらどう?」

 「あれは村の秘宝なんだぞ」

 「でも、彼らがいないと村が滅んでいたかもしれないんだよ」


 ナイスエルフィ! 俺は心の中でグッドポーズを彼女に送った。エルフ達はしばらく小声で話し合った後に、俺たちを宝物庫に案内した。

 

 「こちらが私たちの村に伝わる伝説の角笛です。どうぞお納めください」

 「「ありがとうございます」」


 俺たちは頭を下げて、角笛を受け取った。


 『御手洗様! 東雲様! レアドロップアイテム【エルフの角笛】初獲得です! おめでとうございます!』


 アナウンスの声が鳴り響く。レアドロップアイテム? 普通のドロップアイテムと何が違うんだ? 疑問に思っていると、東雲さんのモンスター図鑑が音楽を奏でる。


 『モンスター図鑑を更新しました!』


______________________________

【モンスター名】エルフ

【特徴】可愛い少女のような姿。好戦的だが非常に臆病。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = C/C/D/B/B

【ドロップ】『葉っぱの服』…装備すると【ぼうぎょ】がアップ(未獲得)

【レアドロップ】『エルフの角笛』…一部の獣型のモンスターと仲良くなれる


【モンスター名】ドワーフ

【特徴】武器や防具の加工が得意。群れで行動する。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = B/C/B/D/A

【ドロップ】未獲得の為、不明

______________________________



 「これって本来のドロップアイテムは『葉っぱの服』で、裏アイテムとして『エルフの角笛』があったって事か?」


 試しに俺はエルフィの服に触る。ぼわんと白い煙を立ててエルフィの身にまとっていた服が消える。ひきしまった絹のような肌とほのかに膨らんだ胸が露わになる。


 「きゃあ!」

 「うわ、悪い! 『葉っぱの服』召喚!」


 しゃがみこんだエルフィの服が瞬時に元に戻る。


 『御手洗様! ドロップアイテム【葉っぱの服】初獲得です! おめでとうございます!』


 そういえば葉っぱ製のこの服は触ると葉っぱがとれちゃいそうで、まだ触っていなかった。東雲さんも基本的に束縛魔法ごしにしかエルフに触れていない。上位存在の『エルフの角笛』を獲得したので図鑑に表示されたみたいだが、どうやら無駄足を踏んだみたいだ。東雲さんも適当なエルフを脱がすと、アイテムを獲得した。


 「まあレアアイテム手に入れたし、人助けできたしいいか」

 「そうだな」

 「あ、そういえば今までドワーフと戦った際に、戦死したドワーフが金槌かなづちを落としていった事があります。もしかしてこれってドロップアイテムなんじゃないですか?」


 立ち上がったエルフィがそう言うと、宝物庫の奥から2対の金槌を持ち出してきた。俺たちがそれを手に取ると、金槌は煙と化した。


 『御手洗様! 東雲様! ドロップアイテム【鉄の金槌】初獲得です! おめでとうございます!』

 『図鑑を更新します』


_______________________________

【モンスター名】ドワーフ

【ドロップ】『鉄の金槌』…固い岩を壊せる

_______________________________


 これで俺が4つ、東雲さんが8つアイテムを手に入れた事になる。疲れた俺たちはその日、エルフの村に泊まることにした。幸い、弓矢と火縄銃の戦いでは村の住居に大きな損害は出ず、一部壁に小さな風穴が開いた程度で済んでいた。俺たちは村長の家で休憩を取る。

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