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03 エルフ対スラボールアタック

 東雲さんと俺は呼び出したついでにアナウンスちゃんに質問をすることにした。


 「アナウンスちゃん、この世界からはどうやってログアウトすればいいの? 私かれこれ6時間以上いるけど、セーブ画面もログアウト方法も未だに分かんないんだけど」

 「このゲームではセーブ機能はありません」

 「オートセーブって事か?」

 「いいえ、セーブの必要がないからです。なぜならプレイヤーはゲームクリアまでログアウト出来ませんし、ゲームオーバーになったらもう二度とプレイできなくなるからです」

 「え!? つまりクリアまでカプセル内に監禁状態ってこと?」

 「おいおい、二度とプレイできなくなるってどういうことだよ」


 常識外れなゲームに俺たちは矢継ぎ早に質問をする。


 「はい、ゲームクリアまであなた方はカプセルから出られません。また、カプセルは外部からの物理的干渉を一切受け付けません。無理に外部から出そうとすると警告音ののちにゲームオーバーとなります。またゲームオーバーとなったプレイヤーはカプセル内に即効性の致死毒が散布され、速やかに死亡するようになっています」


 自分たちはデスゲームに閉じ込められたらしい。頭で理解すると同時に膝が震え呼吸が荒くなる。もしもさっきスライムから東雲さんが助けてくれなかったら、俺は間違いなく死んでいた。想像よりもはるかに身近な死の感触に俺は戸惑った。横を見ると、東雲さんも俺と同じく呼吸を荒げ胸を押さえている。アナウンスちゃんは俺たちに死の宣告をした後、「それでは引き続き頑張ってください」と言い残して消えた。


 「なんで俺たちがこんな目に合わなきゃいけねーんだよ!」

 「……このゲームは引きこもりだけを対象にしている。しかも重度の引きこもりのみ」

 「目的は社会復帰なんかじゃなく、引きこもりの物理的削減って訳か」

 「多分」


 この謎のゲームの正体が見えてきた。おそらく真相は引きこもりの削減。それも政府あるいはそれに匹敵するような力を持つ何かによる裏の力が働いているはず。となると、ゲームオーバーはなんとしても避けないといけない。さっきのアナウンスちゃんの言葉を信用するなら、ゲームクリアをすればここから出られるはずだ。


 「東雲さん、協力してゲームクリアを目指しましょう」

 「うん、そうするしかないみたいだね」


 俺たちはゲームクリアまでの現状を整理する事にした。東雲さんは俺に会うまでの6時間で、5種類のモンスターを倒したらしい。また、モンスター図鑑というアイテムを5種類倒した時にアナウンスちゃんからプレゼントされたそうだ。


 「おそらく、このゲームはトロフィーシステムがあるんだと思う」


 東雲さんはそう言う。トロフィーシステムとは、一定数モンスターを倒したり、ミッションをクリアする事でトロフィーを獲得して運営からボーナスが貰えるというものだ。東雲さんが貰ったモンスター図鑑も5種類コンプした記念に貰ったのだろう。俺は早速東雲さんのモンスター図鑑をチェックした。


______________________________

【モンスター名】スライム

【特徴】緑色のゲル状の生き物。体液は強酸性なので触れると危険。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = D/D/D/A/D

【ドロップ】『スラボール』…粘着性のあるボール


【モンスター名】ゴブリン

【特徴】子供くらいの大きさ。こん棒による攻撃に注意。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = C/B/D/D/D

【ドロップ】『こん棒』…装備すると【こうげき】がアップ


【モンスター名】パラサイトバタフライ

【特徴】空中を飛んでいる。中毒性のある鱗粉りんぷんに注意。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = D/D/D/B/C

【ドロップ】『痺れ粉』…相手を一定時間しびれさせる


【モンスター名】ワーム

【特徴】地中にいる。日光が苦手。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = D/D/D/D/D

【ドロップ】『ワームテール』…一部モンスターが好む餌


【モンスター名】スケルトン

【特徴】一部魔法に耐性あり。日光が苦手。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = C/C/C/C/B

【ドロップ】『長いほね』…40㎝ほどの頑丈な骨

______________________________


 さっきあれほど苦戦していたスライムのステータスが装備を外した俺とほとんど変わらないことにショックを受けた。この中では最弱のワームでさえ装備を外せば【かしこさ】以外俺の上位互換じゃねーか。幼虫以下か俺は。


 落ち込んでいる俺を東雲さんは両手でガッツポーズをしながら「ファイト!」と励ましてくれた。可愛いが、下手に励まされるよりも罵倒してくれた方がかえって楽だ。可愛いからいいけど。


 さっきスラボールを見たときも思ったが、これらのドロップアイテムは戦闘でも役に立ちそうだ。上手く活用すれば俺でも格上相手に戦えるかもしれない。俺は東雲さんに頼んでいくつかのドロップアイテムを召喚してもらった。


 ドロップアイテムを集めるために、東雲さんと俺は草原から見える近くの森まで歩くことにした。目視できる木の大きさから考えて、ここから1kmほど歩けばつくだろう。俺たちは軽く雑談しながら歩を進めた。


……1㎞くらい楽勝だろと思ってた時期が僕にもありました。身に着けた鎧は体にフィットするとはいえ、15年間自室とトイレの間を往復する事しかしていない体には重すぎる。300mほど歩いたところで体が悲鳴を上げた。


 「ちょ、ちょっと休みませんか?」

 「まじですか……」


 半ばあきれながらも東雲さんは草むらに座り込んだ俺の横に腰掛けた。汗だくの俺はカンカンに照った太陽を恨む。


 「御手洗さん、装備解除してみたら?」

 「そんな事出来るんすか?」

 「召喚と同じ感じで解除すると煙になって消えてくれるんだよ。私はこのローブの下、下着だから出来ないけど、御手洗さんの場合服着てるし鎧だけ解除すれば大丈夫」


 その手があったのか。俺は早速『闇騎士の鎧』を解除した。体が一気に軽くなる。【ぼうぎょ】が下がってしまうが、背に腹は代えられない。敵を見かけたらまた召喚して着ればいいさ。身軽になった俺は、ふと下着の不快感に気が付く。そういえばスライム戦の時に漏らしたっけ。東雲さんにばれないように『闇騎士の下着』も解除した。服の下でパンツが煙になって消えていくのが分かる。幸い、尿は下着内に収まっていたらしく下着を解除しただけでも不快感は消えた。


 5分ほど休憩した後、俺たちは再び森へと歩を進めた。鎧がないおかけで先ほどとは違いサクサクと軽快に動ける。あっという間に深い森の手前まで到着した。


 「森に入る前に、鎧を元に戻しといたほうがいいと思うよ」

 「それもそうだな」


 今の俺は【ぼうぎょ】D-の紙装甲。不意打ちされたらひとたまりもない。鎧を召喚すると、体の上に装着された状態で現れる。早着替えみたいでなかなか便利だ。鎧を装備した俺たちは目の前の深い森へと入っていった。


 森の中に入ると、風で揺れる木々のざわめきの音がなんだか不気味だ。いつどこから敵が襲ってくるか分からないので俺たちは左右を分担して辺りを見渡しながら慎重に進んでいく。森の中には木々の間から差す木漏れ日のみが照らしており、草原と比べるとかなり薄暗い。五感を最大限活用しながら俺は集中した。

 

 ふと、周囲の木々のざわめき音が止み、辺りに静寂せいじゃくが訪れる。


 「中級疾風呪文トルネード!」


 東雲さんが俺の反対側に向けて魔法を放つと同時に、俺の横を矢がかすめた。狙いがそれた矢は、近くの大木に深々と突き刺さる。


 「御手洗さん、大丈夫ですか!」

 「ありがとう、おかげでなんとか。敵襲か?」

 「そうみたい。複数いるよ、気を付けて」


 あわてて剣を抜いた俺は、東雲さんと背中合わせに立つ。【すばやさ】の高い東雲さんがいなかったら、あの矢が刺さっていたのは間違いなく俺の頭だった。敵は相当、矢を使い慣れてやがる。どこにいたのだろうか、先ほどまで気配を殺して隠れていたのであろう敵が3体、弓を構えてこちらを見ている。


 「敵3体確認!」

 「私の方も3体いるっぽい」


 前と後ろ合わせて6体の人型の敵。どうやら挟み撃ちにあったらしい。敵は人間の少女のような姿をしており、葉っぱで作ったのであろうワンピース型の衣服を身にまとっている。髪は金髪や銀髪の長髪で耳が尖っている……これってエルフなんじゃないか。エルフと思われる少女達は剣を持っている俺の間合いに入らないよう、遠巻きに弓を構えながらこちらの様子を伺っている。おそらく俺たちのどっちかが動いたら、その時が戦い開始の合図になるだろう。


 遠距離攻撃が出来る東雲さんは問題ないが、俺はエルフに対する有効打がほとんどない。さっき作ったアイテムは一応遠距離攻撃が可能だが、3対1の状況で使うには向いてない。ここは、一度奴らを分断するか戦況を立て直す必要があるな。


 「東雲さん、合図したら出来るだけ大きな音を魔法で立てて奴らの気をそらしてください」

 「了解」


 俺は小声で彼女に言うと、『長いほね』を取り出した。このスケルトンのドロップアイテムの骨の先端には『痺れ粉』をたっぷりとまぶした『スラボール』が装着されている。思いっきり振る事で投擲力とうてきりょくのない俺でも遠心力を活かして、遠くまでこのスラボールを飛ばすことが出来る。不意を突いて上手く相手に当てられれば、確実に一体は戦闘力を奪える。草むらで何度もシミュレーションした動作を脳内で反復し、俺は骨を構えた。


 「今だ!」

 「中級落雷呪文サンダー!」


 東雲さんが放った落雷呪文はエルフのそばの大木に命中すると、轟音を立てた。想定外の攻撃ではなく爆音を立てる事を目的とした魔法に、エルフたちは一瞬怯む。その隙を見逃さずに俺は、一番手前にいたエルフめがけてスラボールを放った。


 「くらえ! スラボールアタック!」


 大きく弧を描いて放たれたスラボールは見事、エルフの横っ面に命中する。勢いよくビンタされたような衝撃がエルフを襲い、思わず開いた口に痺れ粉が吸い込まれる。


 「ひゃんっ!」


 エルフは一言悲鳴を上げると、その場に倒れ込んだ。パラサイトバタフライの痺れ粉はモンスターが自身の卵を対象に産め付けるまでの数分間、対象の自由を奪う事を目的とした物である。口から吸いこまれると同時に相手の脳へと粉の成分が充満し、対象の筋肉の活動を制限する。吸い込んだ相手は立ち上がる事すら出来なくなり、ピクピクとその場で痙攣けいれんする。効果があるのは数分だけで、その後はまったく後遺症もなく元に戻ってしまう。


 「くっ! 撤退するよ! 敏捷呪文アクセル!」


 エルフ達は仲間が倒されたのを見ると、倒れた仲間を置き去りにして散り散りに駆けていった。敏捷魔法を使った彼女たちの足はチーター並に加速され、あっという間に見えなくなってしまった。


 「逃げちゃったね……」

 「普通、仲間を置き去りにするかよ」


 俺たちは倒れて痙攣しているエルフに近づくと、彼女の弓を奪い、東雲さんの「束縛呪文バインド」で拘束した。銀髪のエルフはすらりとした体にうっすらと筋肉が付いているのが分かる。エルフの痺れが取れるまで、俺たちは武器を構えたまま彼女の両側に立って待った。


 「ぐっ、早く、と、止めをさせ……」


 完全に痺れが取れてない彼女が俺たちに言う。舌の筋肉も麻痺しているのでしゃべるのが辛そうだ。


 「くっ殺かよ」

 「うーん、人型のモンスターは殺したくないなあ」


 俺たちがエルフの処分に困っていると、東雲さんのモンスター図鑑が軽快な音楽を奏でた。


 『エルフを新しくモンスター図鑑に登録しました!』


______________________________

【モンスター名】エルフ

【特徴】可愛い少女のような姿。好戦的だが非常に臆病。

【ステータス】体/攻/防/速/賢 = C/C/D/B/B

【ドロップ】未獲得の為、不明

______________________________


 図鑑を見ていた俺がふと閃く。


 「なあ、モンスターのドロップアイテムを集めるのが目的なら、別に倒さなくても直接貰えばいいんじゃないか?」

 「確かに! エルフさん、ドロップアイテム下さいな」

 「ドロップアイテム……? 一族に伝わる角笛つのぶえの事か? あれは貴様らにはやれん」


 痺れの取れてきたエルフは全身をぐるぐるに拘束されながら上から目線でいばる。どうやら角笛というのがエルフのドロップアイテムらしい。見た所、弓を奪われたこのエルフは葉っぱ製のワンピース以外なにも持ってなさそうだ。臆病らしいし、ちょっと脅してみるか。


 「東雲さん、魔法をかけるフリをしてください」

 「へへへ、了解」


 東雲さんに小声で耳打ちすると、彼女はニヤニヤしながらエルフを見下ろした。


 「貴様ら、何をこそこそしている! ……なんだ! その手に持っているのは!」

 「初級火炎呪文ファイアだよー。殺すのは嫌だし、私たちあなたを拷問する事にしたの」

 「ご、ごご拷問!?」

 「うん、足の先からじわじわと焼いていくの。うふふ、弱火でじっくりとね」


 火球を手に持ちながら東雲さんは楽しそうに笑う。話ながら火球をエルフの顔の10cmほど手前まで持っていってちらつかせたり、火力を若干強くしてみたりパフォーマンスを加えている。すっかりビビったエルフは顔面蒼白になり、火から逃れようと大きく体を動かす。葉っぱでできた服はほどけていき、服の隙間から色々見えそうで目のやり場に困る。


 「待ってくれ! 角笛の場所を言うから許してくれ!」

 「許してくれ?」

 「ゆ、許して下さい。お願いします」


 必死の命乞いをするエルフをご満悦な顔で見下ろした東雲さんは火球を消した。俺はこの人を怒らせるのはやめようと心に誓うのであった。

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