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01 引きこもりボーナス

 薄暗い4畳半の部屋をパソコンの光だけが照らす。匿名掲示板でレスバトルすることが日課の俺は引きこもり歴15年、今年で30歳になる無職童貞。名前は御手洗大作みたらいだいさく、付けられたあだ名は「大便」「うんこ」「糞もやし」などなど……。


 「糞! 武蔵たんは俺の嫁なんだよ! この引きニートが!」


 俺は先ほどまで書き込んでいた掲示板を閉じると、大きく伸びをする。レスバトルに負けた苛立ちを癒やすために、この部屋のどこかにある「萌え萌え大乱世~お兄ちゃん、天下取っちゃらめぇ~」の単行本を探すことにした。PCをスリープモードにしてから後ろを振り返る。


 そこには見知らぬ段ボールがあった。我が目を疑って何度も見直すが、確かに先ほどまでなかった人間大の物が目の前に鎮座ちんざしている。段ボールに近づいてよく見てみると、箱の側面には『ファンタジーアイランド』と一言だけ印字してあるのみ。こんなものアマで注文したっけな? 俺はカッターを手に取ると勢いよくその箱を開封する。中には俺の身長よりやや大きいカプセルとヘルメット型のヘッドギアが入っていた。なんだこれ? 用途がさっぱり分からないので、とりあえず写メを撮って呟いてフォロワーさんに聞いてみることにした。


 「こんな物が突然部屋に現れた件について」


 写真付きでツイートをすると、タイムラインには俺と同じようなカプセルの写真をアップしている人が2・3人いた。リプライを飛ばしてみると、彼らのところにも突然『ファンタジーアイランド』とだけ書かれた段ボールが出現したらしい。偶然とは思えなかったので、先ほど閉じた匿名掲示板に再度アクセスする。


 【ファンタジーアイランド総合スレ part1】


 あったあった。さすがここは情報が出回るのが早い。早速、スレに書き込む。


 「俺のところにもファンタジーアイランドが届いたわ」

 「お前もか これで15人目だな」

 「ID付きでうpしろ」

 「ほらよ」


 俺はカプセルの前にIDを書いた紙を貼った写真を掲示板にアップする。どうやらこのスレでは俺で15人目の入手者らしい。掲示板では、この謎のカプセルの使用方法について議論が進んでいた。


 「これってどうやって使うんだ? カプセルっぽいの開かないし」

 「繋ぎ目もないしなんだこれ」

 「関係ないけどヘッドギアっぽいのをさっき被ってみたら頭にジャストフィットしたんだが」

 「俺もぴったしだったわ なんか怖くね」

 「悪戯いたずらにしては手が込みすぎ」


 慌てて俺もヘッドギアを頭に装着してみる。すると、まるで俺の頭で型を取ったようにぴったしフィットした。当然俺は、頭のサイズを採寸された記憶なんてない。偶然と言い張るにはあまりに一体感がすごいこのヘッドギアは、明らかに俺用にオーダーメイドされているとしか考えられなかった。

 掲示板の住民が次々とヘッドギアを装着していた時、専門家を名乗る人物が書き込みをしてきた。


 「これはVR式のゲームだな 以前工場でこれと似たの作ったことあるわ」

 「ゲーム? どうやってプレイするんだ?」

 「ヘッドギアをはめた状態でカプセルに触れてみろ そうするとカプセルが開くから中に入るんだ」

 「マジだ すげええええ」

 「うわ、開いた」


 その人物の書き込みの後に、次々と開いたカプセルの画像がアップされる。住民はすっかり自称専門家の意見を信じたらしい。話題はゲームの内容に移る。


 「でもこれ何のゲームなんだろ?」

 「VRだしFPSだったらいいなあ」

 「俺、プレイしてみるわ 後で感想書くからスレ保守よろ」

 「俺もやってみる」

 

 次々と勇者が謎のゲームに特攻していく。俺は彼らが帰還して感想を書くのを見てからプレイすることにした。


 ……1時間たっても勇者のレスはない。

 ……3時間たってもレスはゼロ。

 ……とうとう6時間が経過したが、ゲームをプレイした感想を書き込む者は現れなかった。


 時刻は午前2時、もうすっかり丑三つ時。はじめはプレイに時間がかかっているのだと思っていたが、いくら何でも6時間も初回プレイでプレイヤーを拘束するゲームなんて聞いたことがない。それにカプセルに入って行うVRゲームなら尚更、こまめな休憩がとれるように作られてないとおかしい。俺は背後に鎮座している開いたままのカプセルに恐怖心と好奇心を感じていた。

 

 結局、好奇心に負けた俺が『ファンタジーアイランド』の世界にログインする事に決めたのは、すっかり空が明るくなってきてからの事だった。




*******サーバー接続中……*******




 俺は青白い光に全身を包まれていた。


 「ファンタジーアイランドの世界にようこそ! 御手洗大作様ですね、お待ちしておりました」


 どこからか機械っぽい声が聞こえる。どうやら無事にログインに成功したらしい。


 「はじめまして、わたくしこのゲーム内のガイダンスを務めさせていただきますアナウンスちゃんと申します。このゲームは全国の引きこもりの方たちの社会復帰を目的としたオンラインアドヴェンチャーです。ゲームクリア目指して頑張っていってくださいね!」

 「社会復帰?」

 「はい。昨日の午後8時ごろに全国の引きこもりから特に重度だと判断された約1万人の方たちの元へ、このゲームは配信されました。つまりあなたはその選ばれし引きこもりの一人なのです!」


 ファンファーレが鳴り響く。たしかに俺は高校卒業後から今の30歳になるまでの約15年間、家から一歩も出たことは無い。自分が引きこもりだという実感はあったが、こう目の前で堂々と言われると非常につらい。


 ふと気が付くと、目の前には妙なパラメータが浮かんできた。


______________________________________________________________

【プレイヤー名】御手洗 大作

【年齢】30歳

【性別】男

【引きこもり歴】15年:Sランク

【たいりょく】D-

【こうげき】D-

【ぼうぎょ】D-

【すばやさ】D-

【かしこさ】AA+

【スキル】御手洗菌バイオハザード…触れた相手が周りから避けられる

【引きこもりボーナス】初期職業のランク大幅アップ

_______________________________


 「なんだこれ?」

 「御手洗様のリアルのステータスを可視化したものです。スキルは御手洗様の過去を参照して最も適切だと考えられるものを用意いたしました」


 小学生の時に大便というあだ名のせいで、俺が触れた物にみんなが触ろうとしなかった事を思い出す。こいつ俺のトラウマを的確に刺激してきやがる。


 「では、初期職業を選択してください」


 ステータス画面の横にリストが浮かび上がる。


_______________________________

◆職業リスト(上級)

・聖騎士:【こうげき】【ぼうぎょ】にボーナス大。闇属性無効。

・闇騎士:【こうげき】【ぼうぎょ】にボーナス大。聖属性無効。

・上級魔法使い:【かしこさ】にボーナス大。習得魔法上限アップ。

・救世主:【たいりょく】にボーナス大。仲間の【たいりょく】もアップ。

・バトルマスター:全パラメータにボーナス中。

_______________________________


 このゲームは初プレイだが、これは初期職業にしてはかなり強いというのは理解できた。どうやらこれが【引きこもりボーナス】の効果らしい。俺のステータスは【かしこさ】以外がめちゃくちゃ低かった。ゲーム的に上級魔法使いを選んで極振りするのもアリだが、最悪詰む可能性もあるかもしれない。俺は響きが気に入った闇騎士を選ぶことにした。


 「闇騎士で頼む」

 「分かりました。では、闇騎士装備にチェンジいたします」


_______________________________

御手洗大作は『闇騎士の剣』『闇騎士の鎧』『闇騎士の服』『闇騎士の下着』をそうびした。

ステータスが更新されます。


【プレイヤー名】御手洗 大作

【職業】闇騎士Lv.1

【年齢】30歳

【性別】男

【引きこもり歴】15年:Sランク

【たいりょく】D-

【こうげき】B(D-)

【ぼうぎょ】B(D-)

【すばやさ】D-

【かしこさ】AA+

【スキル】御手洗菌バイオハザード…触れた相手が周りから避けられる

【装備】闇騎士装備(剣・鎧・服・下着)

_______________________________


 俺は全身が黒く禍々(まがまが)しい鎧に包まれ、黒刃の刀を腰につけていた。装備はまるで長年愛用している普段着のように体に馴染なじむ。


 「それでは、ファンタジーアイランドのゲーム説明をいたします。このゲームはとある島が舞台になります。その島にはたくさんのモンスターが住みついており、プレイヤーのみなさんは互いに協力しあいながらこのモンスターを討伐する事が目的となります」

 「よくあるRPGと同じ感じか。ラスボスとかいるの?」

 「はい、モンスターを討伐するとそれぞれ種族ごとに異なったアイテムをドロップします。そのアイテムをコンプリートすることで、ラスボスである魔王と戦う事が可能になります。無事に魔王を倒すことが出来たらゲームクリアです」

 「つまり、全種類のモンスターを倒していけばいいのか」

 「その通り! なお、ドロップアイテムはプレイヤー間で交換したり渡したりすることは出来ません。したがって自力でコンプする必要があります」

 「オッケー、理解した」

 「では、ガイダンスはこれで終わりです。ファンタジーアイランドの世界へようこそ!」


 アナウンスちゃんの声が終わると同時に、周りを包んでいた青白い光が消える。周囲の景色は変わり、俺は大草原のど真ん中にいた。

12/31 文章表現を若干修正しました。

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