閑話 サークィンでの休日:3日目
いわゆる修行回……?
お金もあるし、時間もある。
ここ最近は録石や本を読んだり、手帳に書き込んだ雑多な情報をまとめたり。お金も時間もあるせいで素人研究者って感じの生活を送っている。
もちろん今まで通り古い記憶を書き込んだりもしてるけど、どこまでが正しいのかは後でダールのものと見比べなければ分からない。
手帳自体はあんまり大きいものではないし、嵩張ってしまっては困るので半年に一度ダールに送りつけている。ダールを発った時もかなりのページを部屋に置いてきた。
自分の手元にないのはちょっと不安だし、読まれたら……という不安もあるけど、できる限りは日本語で書いてるし、ほとんどの部分は読めないはず。最近は分からない言葉が増えてきてるから、日記以外はこっちの言葉で書くことの方が多いけども。
今日は模擬戦は無し。3人は早々に外出してしまって、私は宿で1人ぼっち。シパリア達ももういないし、こうなるとめちゃくちゃ暇になる。
手帳をまとめてる最中、いくつかの魔言を実際に試したくなった。……1人で町の外に行くのはちょっと不安だけど、これでも一応5級冒険者。あんまり遠くに行き過ぎなければ大丈夫だろう。多分。
一応、魔導ギルドでいくつかスクロールを買っておこう。念には念をって奴だ。
◆◇◆◇◆◇◆
町を出て1時間と少し。いつも模擬戦に使ってるせいか、最初に来た時に比べて更に禿げてしまった土地に到着。こういうの、禿げ散らかすっていうんだっけ?
周囲に生物の気配はない。やや凸凹とはしているが、視界はかなり広く、ある程度の大きさの生物であれば先にこちらが発見できるはずだ。だから多分安全だろう。……街道の方に撃たなければ、だけど。
移動中にもいくつか考えていたが、今日はその中でも複合属性詞と呼ばれる魔言にチャレンジする。アルアのスクロールはちょっと高かったけど、自分1人じゃどうしようもなくなった時用に必要だ。3枚もあればさすがに大丈夫でしょ。
手始めにエルのものをいくつか使ってみよう。
魔術というのはイメージした通りのものが出やすいらしく、逆にいえば上手くイメージできないと発現させられないことが多い。
最初に選んだのはエルとリチ。魔力配分は複合属性詞に備えてややエル寄りで、沸騰するほどの熱湯をイメージ。さてどうなるか。
「エル・リチ・クニード」
手から湯気の立った水が溢れ始める。よし、想像通り。
触れてみる。……入浴するには熱すぎるけど、触れられないほどの温度ってわけでもない。確かに熱湯は熱湯だけど、イメージとはややズレたものが出た。
「エル・リチ・クニード」
全く同じ詠唱。今度は魔力配分はややリチに寄らせてみた。
湯気の立つ水が溢れ……ここは変わらない。触れてみて……あれ、温度はさほど変わらない。魔力配分で温度が変わるってわけでもないのかな?これはメモっておこう。
よし、次の魔力配分は最初のもので、真名だけ変えて使ってみよう。
「エル・リチ・クニード」
湯気ヨシ、温度ヨシ、何ら変わらないものが発生。消費魔力はややこちらの方が少ないか。
「エル・リチ・クニード」
湯気ヨシ、温度……わ!さっきまでと違ってめちゃくちゃ熱い!「水、火」と「湯」は同じものが生まれるのに、「熱湯」に変えた途端こうも変わるのか。やっぱ慣れるまでは魔力配分とかよりも真名の方が大切なのか。
結果を手帳にまとめつつ、次のステップ……の前にプートの場合の変化も見ておく。どうなるかは知ってるけど、今なら同じ消費魔力の感覚を掴むのに便利かもしれないし。
「エル・クニード。……ゲシュ・プート・リチ」
手は2本しかないので、かなり術数を増やすこととなってしまった。これじゃ消費魔力を比べるのは難しいか。
発生した水は今度も熱湯。ブクブク言いながら凄い蒸気を出しているし、触れた瞬間に手を引っ込めるくらいには熱かった。ゾエロを使っててこれなのだから、使ってなかったら火傷コースまっしぐらだったかも。
エル・リチ・クニードと使うよりも、エル・クニードとプート・リチの方が圧倒的に高温のものになる。ここまでは想定通り。ここからがどうなるかだ。
「エルィチ・クニード」
複合属性詞での詠唱。イメージは全く同じだけど、こっちの場合はエルの色が強くなるはず。
湯気ヨシ、温度ヨあっつい!……びっくりした。「熱湯」の時と同じくらいのものが発現した。ってことはここから真名を変えると……?
「エルィチ・クニード」
特に変わりなし。真名の変化による影響は消費魔力が多少軽くなった程度で発現した水は全く同じ。
まあ使えないこともないだろうけど……単にエルで発現させた方が確実に早い。よっぽど接近戦してるでもなければ最初から熱湯にする必要もなさそうだし、これは却下だ。
さて次。
「リチ・エル・クニード」
今度は魔力配分をややリチ寄りに。それに合わせて魔言の接続をやや変更しつつ詠唱。イメージは全く一緒。
結果、これも熱湯が生成。かなりの高温のものであり、エルィチ・クニードとの違いは……こっちの方が消費魔力がやや多いか。どうせ熱湯を作るならエルィチの方がいいっと……。
「リチ・エル・クニード」
結果、これも熱湯が生成。消費魔力は少し減ったがエルィチの方が軽いことに変わりはない。リチ・エルでの出番はないか。
さあ本番。
「リクテル・クニード」
手から熱湯が……あれ、出てこない。
いや、発現自体はしてる。してるんだけど、もはや液体じゃなくて気体になっちゃってる。なるほど、イメージとは大分乖離してるけど、分からんでもない結果になった。
リチとエルの複合属性詞の場合、リチ寄りにすると温度に耐えきれず蒸発してしまうのか。こっちは使えるかもしれない。あれ、ってことは真名は……。
「リクテル・クニード」
うん、でしょうね。
こっちの方がかなり消費魔力が小さいし、さっきよりも発現量が多い。
ただ真名に関わらずリクテルは発現後が不安定らしく、こちらから魔力を絶ってるわけでもないのにも関わらず、5秒としないうちに魔術自体が蒸発してしまっている。うーん、もうちょっと時間が伸びればいいんだけど……あ、そうだ。
「リクテル・ログ・クニード」
こっちの魔言をつければ……うん、やっぱりだ。発現時間がかなり伸びてる、っていうか全然消えなくなった。風に乗ってどっか行っちゃってはいるけど、蒸発してしまってはいない。成功だ。
なるほど、長量詞を付けてあげれば十分働くのか。後は攻撃魔術として使えるか……うーん、これ、ダンで打ち出せるんだろうか?いや、ウィーニ・ダンとかいう風弾があるわけだし、イメージさえしてあげればちゃんと飛ぶのかもしれない。
イメージ……うん、ウィーニ・ダンの水蒸気版。これだ。当たるとちょっと火傷するかもしれない若干白っぽい半透明のウィーニ・ダン。よし、イメージ完了。
「リクテル・ダン」
詠唱。手から放たれた蒸気弾は……10mは飛んだっぽいけど、そこらへんで霧散してしまった。どうにも風に弱すぎるみたい。ウィーニが良くてなんてリクテルはダメなんだ?うーん……固めてみるか。
「リクテル・ウニド・ダン、リクテル・ズビオ・ダン、リクテル・レズド・ダン」
固める系の魔言は2種類あり、1つがウニド。こっちは凝固させる魔言であり、実は微妙に使いづらい。私も普段はあんまり使わないけど、固めるといえばこれなので使ってみた。
結果としては「蒸気を固める」となってしまったらしく、液体が発射されたように見える。飛距離自体は結構伸びたけど、これならエルィチ・ダンでいいのでは?いや、試してはないけどさ。
もう1つはズビオ。こっちは固めるというよりかは圧縮する魔言なんだけど、なんだかんだ固める効果もあるのでこっちを使うことの方が多い。
結果、蒸気のまま形を保って放たれた。つまり文句無し。ウィーニ・ダンとは違い白っぽくはなっちゃうけどこれは使い道がありそうだ。ただ50mほどで形状を維持できなくなったっぽいから、あんまり長距離の攻撃には使えないかも。ログを付ければワンチャン?
実はもう1つ。流体であればレズドによっても「固める」効果を期待することができる。
結果、蒸気のまま形を保って放たれた。こっちも文句無し。レズドの性質上仕方ないが消費魔力はこっちの方が多い。けど、見えなくなるところまで飛んでいった辺り、ズビオよりもレズドの方が相性は良いのかもしれない。
もし蒸気弾を撃ちたくなったらリクテル・レズド・ダンかリクテル・ログズビオ・ダンと詠唱すればいいんだな。撃ちたくなるかどうかは置いといて、ちゃんとメモっておこう。
次はゾエロだけど……こっちはいっか。なんとなく碌な結果にならない気がするし、ていうか全身火傷とかになったらマジで洒落にならないし。うん、触らぬ神に祟り無しじゃ。
そうだ、ウズドを付けてみるのも面白いかもしれない。あ、でもそれなら最初は水の方が面白い……ってことはウニド?うーん、どうだろうか。とりあえずやってみよう。
「リクテル・ウニド・ウズド・ダン、リクテル・ズビオ・ウズド・ダン、リクテル・レズド・ウズド・ダン」
蒸気弾の3連発。当たった際の効果が見たいので10mほど先の地面を狙う。
まずはウニド。やはり見た感じ熱湯弾だが、触れた瞬間に凄まじい蒸気が発生。辺りが真白になるほどのものだったが、一瞬で蒸発してしまった。時間さえ伸ばせば煙幕として使えそうだ。
次はズビオ。こちらの見た目は蒸気弾だったが、当たった瞬間に少し長めの爆発を引き起こして消滅。魔力を見た感じ、どうにも全ての蒸気が爆弾に変化してたっぽく、横に撃てるクラスター爆弾みたいなイメージだろうか。地面を見た感じ威力は全くないらしく、びっくりさせるくらいしか期待できなさそう。
最後はレズド。こちらも蒸気弾だが爆発しなかった。あれ?ちゃんとウニド使ったよね?ってことで再度撃ってみたけど変化無し。魔力的にも爆発してるように見えないし、ウズドだけが発現失敗を起こしてるイメージだ。
なるほど。蒸気弾として使うならレズドが良いけど、それにウズドを付けるならウニドの方が良いよと。ズビオはクラッカー代わりに使えるよと。
うーん、どうしてこうなるのかがさっぱり分からない。ズビオとウズドの相性が良いとはよく聞くけど、威力だけ見たらウニドの方が強そうだし、レズドと合わせた場合にはそもそも発現してくれない。……これは宿題だな。他の魔術も調べつつ考えておこう。
◆◇◆◇◆◇◆
エルの複合属性も残すところはエレスのみ。
残念ながらドイとの複合はエルドイ・ドチェル共に発現失敗、というか両方とも魔力暴走を引き起こしてしまった。何度か使えるスクロールもあるにはあるんだけど、私が買ったのは一度きりの消耗品。使用済みスクロールは魔導ギルドで買い取ってくれるし、そこまで痛い出費でもないけどさ。
ラスト1枚を使ってしまったら今日は帰ろう。エルとエレスの組み合わせは以前にも何度かやってるから絶対大丈夫だけど、その先となるとやや不安。
「エル・エレス・クニード」
まずはこれから。イメージは、と言いたい所だけどこれはどういうものかを知っているから確固たるものができてしまう。泥水だ。
真名を変えても同じものが出来ることを知っている。というのも昔セメニアの弟に掛けられたことがあるのだ。その場で即座に再現できた辺り、私と相性が良いのかもしれない。
「エレス・エル・クニード」
こっちで出てくるのは泥。要するにエルを強くすると水が増えて、エレスを多くすると土が増える。だから泥水になったり泥が出てきたりする。
当然真名もそれぞれ泥水と泥の方が上手いこと発現してくれるようになる。とはいえこの2つの属性は相性が良いのかなんだか知らないけど、真名は適当でも結構な発現率を誇っている。だって当時5歳くらいのセメニアの弟が使えるくらいだし。
ちなみに使い道は特にないらしい。でしょうね。ていうか弟の名前なんだっけ。マジで思い出せない。……まいいや。さて、これを接続してみると。
「エレレス・クニード、エレセル・クニード」
先ほどと全く同じ発現の仕方をする。むしろバラバラの魔言だったりゲシュなんかを使ったほうが水分量をいじれたりしていたずらとしては使い勝手が良い。
だから私はこれを使わない。ていうか泥とか泥水とかいつ使えばいいのよ。
まあいいや。ウィニェルとリズの関係の魔言、つまりはその特殊属性詞は既に判明している。ダールに帰った際にサンが教えてくれたし、実際に何度か使ってみたことがある。
「デヌス・クニード」
エルス・エル、エレセル、そしてデヌス。これらは全て泥を発現させる魔言になる。
デヌスはエレセルよりもやや消費魔力が多く感じるが、これは単に私がエルを使い慣れているせいもあるかもしれない。
ただしエレセルよりもデヌスの方が自由度が高く、泥とか言ってるけどほとんど泥水になるまで水分を増やすこともできるし、逆に湿り気のある土くらいまで乾かすこともできる。自由度としてはエルス・エルよりも更に高い。
私がリズよりウィニェルの方が使いやすいのは単なる使い慣れであって、本来氷を出したければリズの方が遥かに向いているという。
デヌスの場合、私自身がエレセルを使い慣れていないせいかあまり変化させられないため、リズの方が向いているって意味がよく分かる。デヌス自体も使い慣れない魔言ではあるけど、現時点では確実に自由度はこちらの方が高い。
じゃあ慣れてれば出番はないのかっていえばそうでもなく、デヌスの方が明確に優れている点がある。
「プート・リチ」
エレセルにリチでは3属性となるが、デヌスにリチでは2属性の扱いになる。つまり魔術の制御が圧倒的に楽になる。
私は現状エレセルとリチを同時に扱う事ができない。ウィニェルとエレスを同時に扱える辺り、リチが微妙に苦手属性だからだとか、単に使い慣れだとかがあるかもしれないけど、とにかくエレセルとリチは両立させられない。
それがエレセルの代わりにデヌスを使うと両立させられるようになる。とりあえずデヌスが優れている点はこれだ。
デヌスにプートリチはただのエレスに近い土になる。エルを吹き飛ばすような感じなんだろう。最初からエレスだけを使えだとか、そもそもゲシュ・エルにしてから解除すればいいんじゃないかとか色々ツッコミどころはある。
ただ使わないと使えないには大きな違いがあるので一応練習はしておく。一応使い所自体はあるんだよね、例えば。
「デヌス・ウニド・クニード」
かの有名な土壁という術式からエレスの部分をデヌスに変えてみた魔術。つまりは泥壁、土壁のマイナーチェンジ版だ。
想像通りのものが出来上がってくれる。土壁ほど硬くはないが、こっちの方が湿ってる分耐火性が高そうな気がする。
……残念ながら私の貧弱な発想力ではこれが限界だ。一応エレセルよりも粘り気の強い泥を作れたりはするから、足止めだったりに使えないことも……うーん。
これは私が悪いのかもしれないけど、エルにゲシュ・ウィーニだったりで氷を使えばいいんじゃないかと思ってしまう。
氷壁は土壁以上に硬く出来るし、足止めだって水掛けて凍らせばいいわけで。デヌス君には悪いんだけど、ほんっと出番なさそうなんだよね。
あ、いや、クッションとして使えば……うーん、エルやウィーニでよくないか?これがリチやドイしか使えないような人間なら便利かもしれないけど、そんな人間は多分デヌスすらも使えないんじゃないだろうか。
プートの際の挙動は確かに面白いけど、結局それくらいでしか出番がない気がする。
プート・エレレスは対象の融点や沸点を下げてくれるとかいう意味の分からない挙動を取る。
マジで意味が分からない。ある程度物理的な足し算をしてたくせにいきなり凄まじい方向転換をしやがる。何をどうしたらその手の温度を下げる事ができるんだ?とは思うけど、そういうものをイメージしておかないと使えないのでそういうものとしておく。
シトプート・エレレスの形を取ることで鍛冶職人なんかが使ったりもするらしい。魔力と金属って仲が悪いみたいなファンタジー世界がよくあるけど、こっちの世界はそうでもない。
ただあんまり綺麗な金属にはならないらしく、ちょっとした補修に使ったりとか、一部の溶かすのに熱が足りなさすぎる金属に使ったりする程度らしい。専門外だから詳しくはしらないけど、ちょっとした便利術程度であって必須術ではないとかなんとか。
プート・エレセルの場合は対象を軟化させてくれる。いや軟化ってなんだよとは思うけど実際ふにゃふにゃになるからそういうもんなのだ。もう変なツッコミは野暮なのだ。
これのおかげで細かい装飾品が作れたりするとかなんとか。こっちも専門外だけど、鋳造的な感じで使うんだろう。私としてはカッチカチの干物に使ってあげて水を吸いやすくしたりする程度。もしかすると分子間の距離を作り出すような魔術なのかもしれない。いや知らんけど。
こっちは生活魔術としてもよく知られているせいか、たまにめちゃくちゃ硬い干物があったりする。これを使えること前提で作られてる奴らだが、結構美味しいので許す。
プート・デヌスは現状どうなるか不明。というのも魔力暴走こそ引き起こさないものの発現してくれないのだ。サンによると流体化を引き起こすらしいけど、どうにも私には発現させられない。なんだろう、相性とかだろうか?
リズと違ってデヌスはあまり研究が進んでいないらしい。リズは冷凍系の魔道具なんかに逆輸入され始めているというし、割と新しめな魔言の割には結構研究が進んでいる。
デヌス君はダメだ。この子は使い道がないと判断されてしまっているのか、さっぱり情報が出ていない。あるいは可能性の塊なのかもしれないが、現状はただの使えない子だ。ポンコツだ。
でも存在しているってことは何かしら使い道があるのかもしれない。例えば相手の肺に直接発現させて……それならエルの方が絶対強いよね。ていうかできないんだよねそれ。できれば文字通りの必殺技なのに。証拠すらも残さない暗殺ができちゃうのに。
どうにも魔術というのは通常の魔素があるところでしか発現させられず、本来は自身の体内ですら発現させられないらしい。座標現象詞は自身の魔素、つまりは自身の魔力領域内での発現可能な魔術群だけど、逆にいえば自身の魔力領域内でしか発現させられない魔言だとも言える。
要するに通常の魔術は非生物にしか使えず、一部魔術は自身の魔力内でのみ発現させられる。後者に含まれるのがタイナを筆頭とする座標現象詞と唯一の例外であるゾエロ。ゾエロだけはちょっと特別で、最初から自身の魔力を指定している座標現象詞のような印象を受ける。
仮に魔力が全くない空間があるとしたら、恐らく魔術師とはほとんどの魔術が使えないことになる。そんな空間があるのかは分からないけど、意図的に作り出すことはあるいは可能かもしれない。
魔素ってのは使った分が全て空間に還元されるわけじゃない。例えば密室にアルア・エル・クニードをし続ける魔法陣を展開してみれば、恐らくそこは限りなく真空に近くなるだろうし、当然魔素もほとんど0になるはず。試したことはないけども。
こうして考えてみると魔素ってのは減る一方なはずだ。しかし現実はそうでもなく、この世界は一定量で満たされ続けているらしい。つまりは失われた分の魔素を回復させるための機構が存在している。……それがダンジョンに相当するんだろうか?
ダンジョンとは異空間だともいうし、別の空間から補充している?とはいえダンジョンもダンジョンで回復しないのであればいつかは枯渇するはず。そもそも魔素とは――。
考えが逸れてきた。今日は複合属性詞の検証と練習に来たんだった。
魔言と真名を聞き取れて、尚且つそれをいじれるような人間じゃないとこういうのはできないっぽいし、私は案外幸運なのかもしれない。これパズルみたいで結構面白いんだよね。
さて次。エル系は全部終わったから……ウィーニにしようか。その次はエルス、次がリチ、最後がドイ。単純に得意順だ。どうにも属性詞は得手不得手があるらしく、エルはともかくウィーニですらも一部発現しないものがある。
エルは確実に発現させられる一方、ドイは固定術式を除くとクニードとレズドくらいでしかまともに使えない。
ここらへんはどのくらい使っていたかとかそういうのに関連するらしい。エル、ウィーニ、エルスは確かに小さい頃からよく使ってた辺り、間違いでもないんだろう。
ただリチとドイも普通に生活していく上ではかなり使ってたはずだし、リズに至っては最近知ったばかりにも関わらず既にドイよりも扱えている。デヌスも同様確実にドイよりは使いやすい。
……現象魔術と物質魔術だっけ。あれによるとリチとドイ、ゼロは現象魔術で、エルとウィーニ、エルスは物質魔術になるんだったか。なるほど、私はどちらかといえば物質魔術の方が得意ってことなのか。
いやでもうちの家族は全員ウィーニ使えるし、そのくせサンはリチとエルが得意だって言ってたし、ロニーはドイとウィーニが得意だって言っていた。うーむ、この区分はあんまり参考にならないか?
よく分からん。単に使い続けるだけで使いやすくなるわけでもないみたいだし、属性詞ってのはホントによく分からん。ゼロなんてほとんど使う機会無かったのに使えてるし。……いや、ゾエロでよく使ってはいるけども。
考えるのはここらへんでまでで、次はウィーニとの組み合わせ。エルはさっきやったし、残るはリチとエレス、ドイとの組み合わせ。
まずはリチから使ってみよう。イメージは……シュ・リチとかなり被るけど、熱風だろうか。
「ウィーニ・リチ・クニード」
手からは……やはり不可視だ。普通の人なら何が起こってるかは分からないだろうけど、私には魔力視がある。見た目は普通のウィーニ・クニードと同じで……あれ、なんか草が燃え始めたんだけど?
なんだこれ、発火するほどの高熱なのか?それとも温度とか関係なしに発火させる風?いや、ていうか、それどころじゃない。まずは消火だ。さすがに山火事――平原火事?――の原因となっては困ってしまう。
魔力を切ってっと。
「エル・ダン」
既に結構な箇所が燃え始めているが、それぞれを水弾で撃ち抜いていく。いちいちクニードで走りながらばらまくよりはこっちの方が楽で良い。
エルは通常の水と同様、ほとんどの場合は消火剤として機能してくれる。ただ消せる火は自然の火だけ、つまりは発現させているリチ・クニードそのものを消すようなことはほとんどの場合できない。
例外こそあるものの、どうにも魔術は魔術に対して利きが悪い。魔素を物質に変化させてるっぽいエルやエレスはともかく、現象そのものを引き起こしてるっぽいリチとウィーニは特に影響を受けづらい。
これが自身の発現させている魔術であればもうほとんど不干渉になる。変な見た目になるが、水の中で火を作ったりなんかも簡単にできてしまう。一方で水の中で風は起こせず水流になってしまう辺り、断言できるほどでもない。
ともかく、ゾエロを多重に掛けられないのも恐らくはこれが原因だ。既に別のゾエロが発現しているのだから、他のゾエロは発現させられないはずなのだ。ティナはきっとどこかバグってるんだ。
録石や本を読んだ限りになるけど今までも使える人が何度か確認されてるし、確実に抜け穴か何かがあるっぽいんだけども、残念ながら技術として確立されているわけではない。ティナの説明が分かりづらいのもあって私は多重ゾエロなんてのは当然できない。
どうにも魔人は平常時から自身が使うゾエロとは別のゾエロが発動しているとも聞いたことがあるし、実際にそんな魔力を目にする。つまりはその"別のゾエロ"をいじってるだけなのかもしれないけども……うーん、分からん。
よし、消火完了。次からクニードの魔力を少し減らそう。
真名は熱風……でいいのかな?発火させる風って印象の方が強いけど……もうちょっと試したいけどここじゃダメだな、更に禿げが進行してしまう。おおティリムよすまぬ。私はお主を禿げさしてばかりじゃ。
一応、リチ・ウィーニのパターンも確認だけしておくか。
今度はリチにウィーニに乗せるんだから……うん?どうなるんだこれ?物理的に考えるなら酸素が供給されることによって火の勢いが上がるとかだろうけど、どうにもそうじゃないパターンも多い。
ウィニェルなんかはその筆頭。エルとウィーニでなんで氷なのかは実はいまいち分かっていない。むしろ水から熱を奪うって意味ではエルとリチじゃないのかとも考えてしまうし、水を固めるって意味ではエルとエレスでもいいような気もする。
ていうか実際エルにプート・エレスで氷にすることも可能なわけで。……やっぱりイメージ?理論が優先されたりイメージが優先されたりと魔術はいまいち分かりづらい。まあそれも面白さの一因なんだけども。
とりあえず、大きな火をイメージしておこう。リチと何が違うんだってのは置いといて、とにかくすげーファイアー!ばああああん!!!って感じで。うん。少しアホになるのも大切だ。
「リチ・ウィーニ・クニード」
手から吹き出したのはやはり火。確かにリチよりも大きいものの、特筆するほど差があるわけでもない。
リチ・クニードとの違いはその流れ。リチ・クニードが手元に小さな火を発生させ続ける術なのに対し、こちらは火自体がまっすぐ伸びていくような、それでいてダンとは違い軌道自体も燃え続けている。あ、分かった。火炎放射だ。ガドゥートにも似てるかもしれない。
これはあれか、ウィーニの"流れ"の方が強く出たのか。ウィーニの真名は風のくせに、挙動自体はレズドとかなり似ているときがある。それが今回の複合で現れたのか。なるほどなるほど。
とりあえず消火だ。火自体はまっすぐ伸びてるみたいだけど、燃え移らないのかっていえばそうでもない。……ただのエル・ダンやエル・クニードじゃ足りなさそうだな。ニズニも付けておこう。
よし、消火完了。
リチを大きくすると伸びる火、ウィーニを大きくすると燃えさせる風か。うーん、やっぱり法則があるようでないような、ないようであるような……いまいち分からないな。
リチは火を生みます、ウィーニは風を生みます、足し算すると火炎になります、魔力配分変えても一緒です。みたいな簡単なものならいいのに……いや、それなら面白みがないか。まあエレスとエルはそんな感じだけどさ。
どうにも組み合わせによって性質を変える属性詞がいくつかある。というかぶっちゃけ全部だ。エレスとエルも変化の幅が小さいってだけで、プートと合わせるだけでやっぱりかなり変わる。
例えばエレスのプートは結晶化であり、実際に複合属性として使った場合も土として現れるか固める効果として現れるかで分かりやすい。ほとんどの場合この2パターンだから変化の幅は小さくとも扱いやすい。全然使い慣れてはいないけど一通り使えるのはこのせいだ。
エルも同様だけど、こっちは液化だったり吸熱だったり加湿だったり水だったり……パターンこそ増えるもののまだなんとか理解しやすい。なんか水っぽい効果なんだな!ってギリギリ理解できる。
ウィーニからは変化の幅が一気に広がる。流れを生み出す、体積を増やす、腐食?を引き起こす、蒸発させる……ぱっと思いついたのはこれだけど、風っぽい効果なんだな!で理解できる範囲を超えてる。
恐らく風自体を生み出してるわけじゃなく、大気に流れを生み出すような効果……だとは思うんだけど、そうすると風弾の説明ができなくなる。
魔力視で見れば明らかになる。風弾自体は渦巻く風の塊って感じではあるけど、発現時に周りから風を集めたりーとかそんなことはなく、私の魔力だけで形成されていく。つまり流れを生み出すだけじゃ説明できない。そのくせ使いやすい。なんだあれ。
しかもこれらはあくまで基本であって、複数にまたがる効果もあったりする。なんなのだこれは、一体どうすればいいというのだ。……これ何のセリフだっけ。まあいいや。
リチになると火を発生させる、熱を生む、気化させる、体積を減らす、膨張させる、などなど……もうさっぱりだ。なんで小さくするのと大きくするのが両立してるんだ。火って感じじゃない奴らが多すぎる。なんだ体積を減らすって。なんで小さくなるんだ。
どうしてそうなるのかがイメージできないせいか、発現率はかなり低い。極端な話、私は火弾がまともに使えない。なんで火が飛んでくんだよ。いや、なんで風弾が使えるんだよ……?ダメだ、混乱してきた。落ち着け私。
よし、落ち着いた。
ちなみにドイはよく分からん。ロニーのを何度も見てるし、シパリアもよく使っていたし、なんならカクもティナもレニーも使っているのに、いまいち私には使いこなせない。例えばドイ・ウズド・クニードとか絶対に魔力暴走を引き起こす。
静電気を起こす程度にして、掃除の際に便利に使うようなことはよくある。つまり使用回数自体はかなりのもののはずなのに、いまいち使える幅が広がらない。多分だけど全属性詞の中で最も苦手だ。
というかドイはいじれる要素が多すぎる。そしていじり方を間違えるとすぐ暴走する。そもそも電気を生み出すってなんだよ?電子なの?電子作ってんの?魔術なんていう科学とはズレたものにこんな知識を応用しようとするのが間違い!?
……考えないようにしよう。ドイ・ダンもドイ・レズド・ダンもドイ・クニードも使えるのだ。ただ残念ながら他の属性詞と複合させることは現状全く出来ていない。ゲシュ・ドイ・レズドみたいに追加すること自体はできてるけども。
だからというべきか、ドイに関しては見聞きした知識ばかりで実際に試せたものがほとんどない。ウィーニ同様ドイも流れを生み出すような効果があるらしいが、ウィーニと違って設定がめちゃくちゃ難しい。私じゃせいぜい例外を数点追加する程度でしか起こせない。
いや、とりあえずはこの禿げ野原でリチィニやウィルチを使ってみよう。
真名は……熱風と火炎でいいか。大まかにはズレてないはずだし、ドイ以外の属性詞は真名の自由度は結構高いはずだし。
「ウィルチ・クニード」
恐らくは発火する風なんだろうけど、とりあえずは熱風で我慢。
あれ、くっつけただけなのに透明じゃなくなってる。なんか白っぽい?蒸気でも含まれてるの?よく分かんないけど可視術だ。
はい発火確認。見た目は変わったけど効果自体は大きくは変わってなさそう。消火してっと。
「リチィニ・クニード」
お次はこっち。こっちも真名が正しいとは思えないけど、いざとなればスクロールさんがなんとかしてくれるはず。
……ん?魔術が発現してない。魔力も流れていない。なんでだろう、真名が本来のものと違いすぎた?うーむ……まあリチとウィーニだしこういうこともあるのか。うーむ。
まいいや。ウィルチは白っぽい発火させる風、リチィニは不発現っと――。
◆◇◆◇◆◇◆
使い慣れない魔言を使いまくったせいか、思ったよりも魔力を消費してしまった。しちゃダメってことはないけど、あんまり使いすぎると頭痛が始まったりと碌な結果にならない。
結局エレス・リチの検証中に再度の魔力暴走が発生。なぜか足元で発生したせいでびっくりした。自分1人でなんとかなる感じじゃなかったのでスクロールを引っ張り出したけど、よくよく考えたらここ砂地だし、スクロール使うほどでもなかったかもしれない。
まあともかく、今日はここまでだ。使えそうな魔言はリクテルの蒸気を起こすものくらいか……目くらましとしては面白いかもしれないけど、それ以上は期待できないかも。
空録石にまとめて……っと。細かく分類し直すのは宿でやろう。インクは持ってきてないし、それに一雨降りそうだ。
帰ろう。
◆◇◆◇◆◇◆
宿でまとめていると、いくつか面白い点を見つけた。
例えばエルィチ。今回は熱湯が発現したが、本来は爆発を生み出す術であるらしく、既に書き込まれていた。
ただ実際に使ったのは今回が初めて。書き込まれていたのは録石や本、そして噂からの情報を雑多にまとめたページ。かなり昔に聞いた情報らしく、出典元は不明だった。
あの時私は熱湯をイメージし、熱湯の真名を与え、そして発現させた。……やっぱりイメージの問題だろうか?それとも真名?
どちらかといえばイメージの方が強そうだ。最初にエルィチと詠唱した際の真名は"水よ、火よ"だったし、その後真名を熱湯に書き換えてもほとんど同じ結果になった。
私がリチ・ダンを苦手としているのはイメージがしづらいという点とも合致する。やはり魔術はイメージが最優先、そして魔言や真名……あれ?でも短縮詠唱は頭の中で……そもそも魔言はイメージングを代わりに行なう言葉であって、それなのにイメージングが優先されて――
――なるほど。無詠唱ってそういうことか。じゃあ領域ってのも……もしかすると、魔法も。
次回更新は12月29日(火曜日)です。
デヌス、享年1話。黙祷。




