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四十七話 土虎1

2021/06/08 誤表記修正(サークィンの西の大森林→サークィンの東の大森林)

 酒場での話通り、私達は雷光と別れた。

 別れたとはいっても、同じパーティじゃなくなったってだけ。同業の冒険者であることは変わらない。

 宿は隣の部屋同士だし、朝にギルドに向かうのも変わらない。


 雷光とパーティを分けたことで紫陽花は海証を持たないパーティとなった。つまり、私達は海上クエストを受けられなくなった。

 あの時は酔っていたからか誰も言わなかったのだが、つまり私はレニーやティナと同じく旅客船派に肩入れしたことになる。

 カクは反対するのかなとも思ったが、別に何も言わなかった。元から別れる予定ではあったし、これで良かったのかもしれない。


 さて、旅客船についてだが。

 どうやら旅客船そのものの数が少ないらしく、すぐには渡れないらしい。呪人大陸行きは予約がびっちりであり、1ヶ月程待つことになった。

 あくまでこれは一般人の話だ。例えば奴隷は物として扱ってもいいからもっと早く移動させられるし、高級な部屋はそこまで予約がびっちりだったりもしない。

 私達は奴隷でもないし、大金持ちでもない。だから待つ必要がある。


 そもそも航路に問題がある。

 海の魔物は巨大で強力。その魔物を避けて通れる航路があまりないのだ。

 同じ海でも浅い部分、そこには大型の魔物が出づらいらしく、そこを選んで通るのだが、通行量に対して道幅が狭すぎる。要は渋滞しているのだ。

 そもそも規定の航路ですら魔物に襲われる可能性があるのに、規定外の航路を通るとなればほとんど確実に沈められてしまう。

 シパリアは後者の船の護衛をよくしていたらしいが、聞けば聞くほど生きているのが不思議なくらいだ。あの人もまた人外なのかもしれない。


 もちろん、護衛の腕や船の性能次第でそういった海を渡ることも可能だが、実現させるにはめちゃくちゃにお金を積む必要がある。

 どのくらい高額かといえば、金貨がちらと顔を出すようなレベルだ。生まれてこの方金貨など見たことが無い。

 そもそも一般に出回っているのは大銀貨が最も高額な硬貨であり、なんなら大銀貨ですら使いづらいからと崩す事の方が多い。

 使いづらさの他に、換金性の悪さがある。大銀貨と金貨はそれそのものにそれだけの価値がないのだ。

 要するに、この硬貨を発行している国の信頼性が落ちるとこの硬貨自体の価値もセットで下がるのだ。

 小銀貨まではその値段で売り払えるが、大銀貨からは本来の価値よりも買取額が低くなるということになる。


 まあお金の事はいいや。どうせ金貨なんて見る機会はなさそうだし。

 要約すると、船が無いのだ。1ヶ月程度の足止めになる。

 こんなことなら船の予約だけしておいて、その間にクエストを探し、見つからなければ乗る、としておいた方が良かった。



◆◇◆◇◆◇◆



 1ヶ月という時間はかなり長い。

 しかし毎日ギルドに顔を出す必要が無くなったため、窮屈な生活ではなくなった。

 日を跨ぐようなクエストも出来るようになったのだ。

 先日、大物を狩ったので財布も温かい。あんな状態の毛皮でも高く売れたし、生体は驚くような値段だった。


 アストリアのクエストはあまり稼げない。見たところ5級が上限だ。

 いや、厳密に言うならサークィンのクエストは、だ。ネフリンまで行けば大きなものもあるし、シュテスビンはサークィンよりも大森林に近く、クエストも比較的多いらしい。

 一応キャンセルが有れば順番は早まるし、逆に金を積まれて後回しにされることもあるので定期的に海運ギルドでチェックは必要だが、毎日する必要はない。


 時間が出来ればクエストを受けられる。

 クエストを受ければお金が稼げる。

 お金が稼げれば休日を楽しめる。


 今日は久々に絵を描いている。

 本当に久々だ。しっかりしたものを描くのはそれこそ前世以来だ。


 サークィンの景色は美しい。

 空、海、草原、森、城……描こうと思えばいくらでも描けるだろう。

 ツールは全てレンタル品であまり品質の良いものは言えないし、絵の具も安物ばかりを買い集めたが、それはいい。


 中学校で仲の良かった子が漫画オタクだった。

 私も合わせていくつかの漫画を読んでみたが、どちらかといえば話よりも絵に興味を持った。

 その友人の名前はもう思い出せない。顔はまだギリギリ判別出来るが、ぼやけている。

 結局その子は転校してしまったのだが、なんとなく絵は続けていた。

 見えているものをそのままに描く、見えないはずのものを描く、どちらでもないものも描く。

 単純だが奥深く、楽しい日々を過ごせていた気がする。


 ということを夢に見たのだ。もはや失われた記憶と思っていたのだが、夢として見ることはあるらしい。

 頭の中のどこかには残っているのかもしれない。ただ、その記憶の引き出しが見つけられないだけで。


 今日は休日で、天気もいい。

 サークィンの周辺はあまり魔物が出ないこともあり、外で描く人も少なくはない。

 何かの天啓かと久々に私も描いてみてはいるが、あまり上手には描けない。16年以上のブランクは致命的であるらしい。

 とはいえ、描くだけでも楽しいものだ。絵の具の匂いは気分を落ち着かせてくれる。

 絵は気持ちいい。


 翌日、私はこの絵を売り払った。

 1日で描いたものであるし、お世辞にも上手とは言えないし、そもそも著名な画家とかでもない。

 しかし大きさも大きさだったので処分に困ったのだ。値段は中銅貨12枚。ぶっちゃけ絵の具代にもならなかったが、暇潰しとしては悪くなかった。



◆◇◆◇◆◇◆



 今日はクエストを受け、大森林に来ている。

 サークィンの東の大森林、アストリアの南の大森林、シュテスビンの南の大森林……呼び方はともかく、この森もまた暑い。

 もしかすると魔力異常の起きている森はみんな暑いのかもしれない。


「カク」

「おう!……ほれ」

「はい」


 レニーの指示でカクが果実を落とす。いつもの光景だ。

 いつもと違うのは、雇ったポーターが居ることだ。ガシャと名乗った彼に果実を渡し、歩き続ける。


 この森は広い。そりゃ大森林なんて名前なんだから広いのは当たり前と思うかもしれないが、めちゃくちゃに広い。

 アストリアの国土の1/4はこの森だと言われているくらいには広い。

 森の端であればサークィンからも日帰りで往復出来るのだが、中心部、特にダンジョンがある辺りに行くとなると片道で2週間は掛かるらしい。

 2週間というのはあくまで道を知っていて、迷わず、しかも森歩きに慣れている人間を想定しての数字だ。そんな人間ですら、往復で1ヶ月は掛かるらしい。


(ストップ)


 カクの静言が頭に響く。魔力嗅と静言、加えて豊富な知識によってカクは斥候として優秀な部類になるらしい、とシパリアが褒めていたのを思い出した。


(……少し待とう)


 珍しく意図の不透明な指示が飛ぶ。

 いつもなら「どっちの方向にうんたらって魔物が居る、戦闘準備」だとか「なんちゃらだ。通り過ぎるのを待とう」みたいな感じなのに、何があるのかを教えてくれない。

 一体何があるのだろうか、と疑問が浮かぶが質問は出来ない。私は無詠唱での静言が出来ないのだ。

 ここ最近、大森林でも魔力視を扱えるようになってきた。ちょっと間違うと全面紫になる諸刃の剣ではあるが、上手く制御すれば眩しすぎない程度には抑えられるのだ。

 だから魔力視に意識を集中させ、またいつでも魔術を詠唱出来るように準備をする。ゾエロの濃度を上げるのは感知される危険があるため今はしない。


「よし、もういいぞ」


 時間にして5分くらいだろうか。集中していたせいか体感時間は遥かに長かったが、実際の時間はそのくらいのはずだ。


「何があったの?」

「分からん。初めて嗅いた匂いだ」

「どのくらい居たの?」

「1体だ。血の匂いも混じってたから、多分肉食か、あるいは手負いだろうな。

 どっちにしろ、良い情報ではないのは確かだ」


 血の匂いか。前世よりも魔人のこの体のほうが五感は敏感だと思っているのだが、気づかなかった。

 いや、男性の方が血の匂いには敏感だと聞いたことがあるし、そこらへんの問題なんだろうか。

 あるいは魔力嗅の影響で、カクの嗅覚は常人よりも優れているか。というのも私の視力は魔力視のせいかかなり良い。似たようなことになっているのかもしれない。


「どっちに行ったんだ?」

「いや、突然消えたんだ。分からん」


 テレポートでも使う魔物でも居るのかね。使う魔物が居るというのは聞いたことがある。あるけど実際に居るのかは知らない。


「調べてみるか?」

「そうだな」


 今回受けたのは土虎(デーテンタイガー)の討伐。5級に位置する、この森の覇者だ。

 というのも、この魔物には天敵が存在していない。文字通りの無敵の生物なのだ。

 ただし数が少なく、また狩猟制限も掛けられている。1ヶ月の間に8体までしか狩っちゃダメですよって奴だ。

 まあそんなのを無視する狩人や冒険者も居るらしいが、やはりというかなんというか、結構返り討ちに遭うらしい。

 普段は3組のパーティがこの魔物を狩っていたのだが、うち1つのパーティが逆に狩られたのだという。

 そして浮いたクエストをたまたま拾えたのが私達というわけだ。


 とはいえこの魔物は希少な部類に入る。

 カクの脳内データブックにも登録されておらず、情報を集めるのにやや苦労した。

 温厚、好奇心旺盛、食欲超旺盛。出てくるのはこんな情報だ。好奇心旺盛ってのはつまるところ、相手の味を知りたいだとか、そういう感じなんだろう。

 つまり、野生のカクだ。こんなこと言ったら燃やされるかもしれない。


 使う術式については見つけられなかった。が、名前的に多分エレス()系に分類されるような魔術を使うんだろう。

 シンドやペルズではなくデーテンの名を冠しているのがやや引っかかるが、大まかな系統としてはエレスに分類されるはずだ。


 エレス系の魔術。例えばゾエロであればエレス・ゾエロ。土塊のカザンという人物はあまりにも有名であり、エレス・ゾエロが得意な人間のほとんどが土塊の二つ名を夢見ている。

 ゾエロ系の中でも特に硬度に優れる術式であり、雑にいえば岩の鎧を装備するような術だ。物理攻撃、魔術攻撃どちらにも高い耐性を持つ鉄壁の魔術。

 欠点としてはその重量だ。岩の鎧のイメージ通り、エレス・ゾエロは重い。私もたまに筋トレの際に使うが、弱い魔力でもかなりの重量となる。

 その発展術式であるエレス・ガイ。瞬間的に小さなエレス・ゾエロを発動させるような術だが、魔力消費はゾエロとほとんど変わらない。

 同じだけの魔力を使う分、ゾエロよりも遥かに硬く重い。一方で全身を覆うわけではないので、あくまで攻撃を受ける瞬間に発動させるのが主な魔術だ。

 エレス・トウはあまり有名な術ではない。単に硬度を増すだけの術だ。とはいえ爪なんかが硬くなったらちょっと困る。切れ味は落ちるらしいけど、単純に痛そうだ。

 シュ・エレスは瞬時に土塊を生成する術式。かなり自由が効くらしく、暗殺用にもよく用いられるらしい。力詞を付けたりしていけば、瞬間的にナイフを作り出せるのだ。


 とエレス系で思いついた術式をいくつか上げてみたが、デーテンという名前的に単純なエレス系だけとも限らない。デーテンとはシンドやペルズと違い指し示す範囲が非常に広い。

 極端な話、溶岩弾だったり、砂煙だったり、そこらへんを使う可能性すらあるってことになる。一応警戒はしておいた方が良いかもしれない。

 ま、虎だ。こんな魔術系だけじゃなくて肉体能力も凄いことになってるんだろう。大事にならなければいいけども……最悪私さえ居ればある程度の傷は治せる。他人に対するのはやはり得意ではないが、多少は出来る。


「おい、ボーッとすんな」

「ったー!」


 と考え込んでいたらティナに結構な威力で叩かれた。貴重な脳みそが減ったらどうすんの!ガシャがドン引きだぞ!

 いや、こんなところで集中してない私が悪いな、うん。仕返しは後回しにしてやろう。……縮んでないと良いな。



◆◇◆◇◆◇◆



 カク曰く"消えた"魔物。

 消えたと思われる場所からは血痕が続いており、その量や付き具合からどうやら手負いであったとカクは分析した。

 指に付けた血を眺めるカク。


「え、何やってんの!?」


 少し考えた後、それを舐めた。

 いや、さすがにそれはおかしい。お前はアンドロイドではないはずだ。


「わーお」


 いや、わーおじゃねーよ。葉についた血液を舐めるだなんてどう考えても不衛生だろ。

 ティナは声を上げるだけ、レニーは無反応。あれ、これもしかして私がおかしいの?と思いきやガシャが固まってる。そうだよな!それが普通だよな!


「分かったぞ」

「え、何してたの?」

「血を舐めてた」

「いや、そうじゃなくて……!」


 屁理屈大好きキッズみたいな問答は今は期待していない。


「味で何の魔物か分かるかと思ってよ。

 多分人だ。出血した人間がここまで追われて、そして消えた」

「人だと?結構深いぞ」

「多分だけどな。匂いは人とはちょっと違ってた」


 現在地点は結構深い。そろそろダンジョンから溢れた魔物が出てきてもおかしくないくらいには深い。

 サークィンを発って1週間も潜っているのだ。食料は果実といくつかの山菜とたまに居る魔物の肉。糧食も1/3ほど残ってはいるが、帰りのために残している。

 多分、レニーが居なければ途中で引き返していただろう。この大森林は奥に入ると嘘みたいに静かになり、魔物がほとんど見えなくなる。蜘蛛達が平らげてるのかもしれない。肉を稼ぐのも一苦労だ。

 そんな奥地に人間だ。入り口付近では駆け出しの冒険者が大人数で蜘蛛をいじめていたりするが、奥の方では滅多に出会わないはずだ。


「探すか?」

「いや、どこに向かったかが分かんねえ。迷子は勘弁だ」

「じゃ、何に襲われたか確認しねえか?土虎かもしんないし」

「そうだな、ティナの案で行くか」


 冒険者達はそこそこに仲間意識がある。それは実利を求めてのものかもしれないが、少なくとも困っていたら声を掛けるくらいはする人のほうが多い。

 そういう人間が困った時、また別の誰かが助けてくれるかもしれないからだ。

 そうでない人間であれば見捨てられる。仮に私がここで捨てられた場合、生き残れる確率は低くなってしまうだろう。私だけでなく、他の人間も同様だ。

 だが自分の命を賭すほどではない。自分の命のために自分の命を賭けるのは本末転倒だ。あくまで自分に問題がなさそうだったら、程度である。


「しかし、どこに行ったんだか」

「転移魔法陣か?」

「森の中にか?勘弁してくれよ。ここはダンジョンじゃねーって」

「そうか……」


 レニーはたまにだけど天然っぽい事がある。一帯(フィールド)型のダンジョンがあるとは聞いたことがあるが、ここは洞窟(ケーヴ)型だったはずだ。

 洞窟型、つまり穴を通ると別の空間に繋がってるタイプのダンジョンだ。世の中のダンジョンのほとんどはこれであるらしい。

 別の空間と言われてもぱっとしないが、明らかに周囲の環境や広さを無視していることが多いため、多分異空間だろうと言われている。

 一方の一帯型は少し違っていて、周囲の影響をしっかり受ける。1番有名なのはアーフォートの近くにある永劫砂漠だろうか。

 なんでも、湿地帯を歩いていると突然景色が砂漠に変わるらしい。ある程度進むと帰ってこれなくなるんだとか。じゃあなんでそれが知られてるんだとかそういうのは無粋だ。

 しかし空間が正しく接続されていないっぽいのでやっぱり異常なところではあるっぽい。行ったことがないからぽいぽい言うしかないけどさ。


「一帯型になったとか?」

「ないない。ダンジョンは生まれてからはずっとそのまんまだよ」

「へー、そうなんだ」


 洞窟型から一帯型になったりはしないのか。1つ賢くなった。


「ッ!来るぞ、戦闘準備だ!」


 突然カクが大声を出す。

 視線からしてどうやら人を襲った何者かが近づいてきているらしい。

 いや、らしいではない。音が聞こえる。足音だ。かなりの重量に思える。

 まだ距離はありそうなのに、辺りの魔力に乱れが見える。大物だ。


「ガシャ、隠れてろ!レニーは前、ティナは右後だ!」

「は、はい」

「ああ」

「おう」


 ガシャと呼ばれるポーターは魔術師見習いだ。

 見習いとはいうが一応4術使いではあるらしい。

 しかしそれを下がらせるということは、結構な奴であるはずだ。


「こりゃビンゴだな、気ィ引き締めろ!」


 重そうな足音、それでいて接近速度はかなりの物、音の高さまでは分からないから大きさは不明だが、カクは土虎だと判断したらしい。

 風刃熊(イーントベア)以来の大物だ。ワクワクする。


 数秒後、土虎と思われる魔物が現れた。

 誰がどう見ても明らかに虎だ。

 大きな手足、大きな牙、丸い耳、黄と黒の縞模様、美しい体毛。

 虎だ。今まで見てきたモドキとは違う、前世で見たことある奴だ。

 いや、それは正しくないのかもしれない。

 虎にしては大きい。目線の高さが私と同じだ。

 立ち上がればどれほどの大きさになるのか。

 風刃熊よりも遥かに大きいはずだ。


『返せ!』


 虎が言葉を喋った。

 いや、確かに言葉を操る魔物は居ると聞く。

 亜人種のほとんどが、他にも竜の一部なんかは喋ると聞いたことがある。

 実際にゴブリンの"声"を聞いたこともある。

 だが、とはいえ、虎だぞ?


『言葉が通じぬか?』


 いや、よくよく見れば魔力に声を載せている。

 昔出会った化け物がやっていた、あの魔術だ。

 他のメンツは土虎を睨んだまま動いていない。

 魔力による会話……じゃないのか?もしかして、これは私の耳の問題なのだろうか。

 確かにゴブリンの声も私にしか聞こえていなかった。

 分からない。


『困るん――』

「らぁ!」


 土虎の言葉を遮るが如く、ティナが飛び掛かる。

 ティナはいつも1番に飛び掛かる。

 が、土虎の体表に岩が発現し、ダガーはただ弾かれるだけだ。


『おい、お前らか?』

『待って、分かる?』


 とりあえず、話をしてみよう。

 油断を誘えるかもしれない。

 声を考えるのはまた後だ。


『分かるぞ』

「おい、どうした!?」

「ちょっと、静かにしてて」

『返せって、何を?』

『お前らじゃないのか?』

『何が!?』


 土虎との対話はいまいち進まない。

 仕方がないのかもしれない。魔物と話すだなんて、ほとんどしたことがない。


『肉だ』

『肉?』

『お前らだろう?』

『私達が、肉?』

『肉だが、違う』

『もうちょっと優しく説明して』


 ダメだ、思った以上に難航している。

 土虎の目が徐々に険しくなってきている。

 意味のない行動だったのかもしれない。


『肉を奪っただろう?』

『う、奪ってない。今来たばかり』

『匂いがするぞ』


 いまいち読み取りづらいが、どうやら肉を奪われて怒っているらしい。

 そして私達がその犯人だと疑われている、と。


『飽いた。狩りにしよう』

『待って、もう少し――』

『ダメだ。食う必要がある!』


 言うや否や土虎の言葉は音となり、叫びとなった。

 もう何も聞き取れない。

 殺し合いだ。

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