四十六話 酒は呑んでも呑まれるな
29日に予定していたものを移動させたままにしていました。1日遅れですみません。
サークィンに着いて2週間が経った。
2週間だ。呪人大陸行きのクエストがあるかを確認し、落胆し、しぶしぶ東の大森林へと足を運ぶ毎日だ。
東の大森林。
以前に魔人大陸のダンジョンについて調べた事があるが、この森には大蜘蛛のダンジョンと呼ばれるダンジョンがある。
魔人らしい雑なネーミングだが、当時は行きたくないと思ったものだ。
別に今も積極的に行きたいわけじゃない。行きたいわけではないが、多少は慣れた。
そう。この森には大蜘蛛が湧くのだ。
大火蜘蛛だけで3種類、大毒蜘蛛に至っては17種類が確認されているらしい。特に種類に応じた名前はなく、大まかにどんな魔術を使うのか程度だ。
例えば火蜘蛛の中でもかなり大きな巨火蜘蛛は毒液を吐く。これなら毒蜘蛛に分類されるのでは?と思ったが、これ自体の毒はそこまで強くない。粘膜に触れるとまずいことになるが、そうでなければ大きな問題にはならない、はずだった。
この毒液は粘度と吸着力に優れたものなのだが、それは空気に触れた部分だけであり、内側の毒液はサラサラとしている。水風船のような構造をしているらしい。そのため当たると結構な勢いで中の毒液が飛び散り付着する。そしてこの毒液は、暫くすると高熱を発するのだ。
結局のところ、毒液を浴びる事自体がアウトということになる。ちなみに粘膜に触れるととてつもない痛みを感じるらしく、特に目に入った場合ではほとんど確実に失明するらしい。怖い。
専用のゴーグルが売られてる程度には有名な蜘蛛であり、私も買った。大銅貨4枚だ。
とはいえ蜘蛛自体は積極的に人を襲ったりはしない。
しかし討伐依頼は常設されている。なぜか。
ダールに事情が似ているのだが、この大森林もダンジョンのせいか気候が安定していて、付近では農作物がよく育つのだ。つまり、付近にかなりの農村がある。
その農作物や人間を狙い、森から出ようとする魔物を罠に掛けるのがこの蜘蛛達。ここまで聞けばむしろ益虫の類なのかと思うが、出る魔物だけでなく入る人間もその対象であるらしい。
要するに、木樵や村民が困っているのだ。
この大森林の木々もやはり成長が早く、木材の名産地でもあるのだが、切ろうとした木にこれらの蜘蛛が巣を張っていた場合は襲ってくるのだ。
分からなくもない。自宅を壊されそうになれば、そりゃどんな生き物だってそいつに文句の1つも言いたくなるだろう。
小さな蜘蛛ならまだいいが、いくつかの大型種は人に襲いかかる。
こうして人と大蜘蛛との大戦争が始まったというわけだ。
ちなみに、大蜘蛛から取れる魔石は非常に小さく級外品とされている。つまり発火石の中でも更にポンコツの豆粒だ。
魔物自体は7級や6級であるというのに、魔石がこれとか嫌になる。級外品とはつまるところ、あの土蟲以下の魔石である。中銅貨1枚が相場とか侘しすぎる。家畜の方がまだ大きな魔石を出す。
魔石ではほとんど稼ぎにはならないし、ダールと違ってかなりの距離があるからあまり長い時間狩りも出来ない。
こうした地理条件のせいもあってか、蜘蛛は仲良く楽しく大量に暮らし続け、付近の村民は冒険者を待ちわびるという構図が出来上がってしまっている。
常設のものではあるものの、この蜘蛛の魔石だと判定されれば一応は中銅貨2枚にグレードアップする。2倍だぞ2倍!だからどうしたってくらいの差でしかない。ゴーグルの元すら取れない。
シパリアに止められたのだが、カクは巨火蜘蛛の一種を食べてしまった。めちゃくちゃ辛い土を食ったような気分だと言っていた。体自体に毒があるらしく、その後は下痢で苦しんでた。悪食ってレベルじゃねえぞ。
お金に余裕を持って行動してはいたのだが、2週間ともなればさすがにそろそろ底が見えてくる。
ここらで大きく稼ぐために一度サークィンを離れるか、あるいは旅客船に乗って呪人大陸に行ってしまうか、と酒場で議論中である。
「俺らは別に急いじゃねーんだ、待っててもいいだろ」
「しかしそれでは……」
シパリアは旅客船派、カクは金策派だ。
私はアイラシュテールというお酒を楽しんでいる。以前ダーロでも飲んだ奴だ。うまい。
調子の乗ってガブガブと飲んでしまいたいところだが、少し前にシパリアに怒られたので無しだ。私は結構楽しくなっちゃうタイプなのだ。
この塩豆も美味しい。今日はまだ飛ばしていない。ウェイターに潰された豆は居ないのだ。
同じ塩豆なのにダーロで食べたものより美味しく感じる。何故だろうか。
「アタシはさっさと行きたい」
ティナは旅客船派であるらしい。
どうせこの町に飽きたとかそんな理由だろう。
「蜘蛛は見飽きたし、嫌いだ」
いや、蜘蛛が苦手なだけだった。
「なんか急ぐ理由でもあんのか?」
とはいえ舌戦はカクに軍配が上がっている。
こいつは口が上手いし、舌もよく回る。多分私も勝てないだろう。
「ティナ、金を稼ぐってなったら、蜘蛛以外も見れるぜ」
「ホントか!?なら、どっちでもいいぞ!」
ティナはチョロい。チョロインだ。とても単純なのである。多分脳みそがちっちゃいんだ。
「冬が来る。それまでに渡ったほうが良いだろう」
レニーも旅客船派らしい。
ティナがどちらでも派になってしまったので、また2対1の構図だ。
「ネフリンと違ってここの港は凍らない。
なのに冬が来る前にってのはどういうこった?
冬の方が海の魔物は大人しくなるっていうじゃねーか」
冬とは概ね12月から16月、そして1月を合わせた6ヶ月くらいを指す。
今日は11月……何日だっけ。とにかく後半側だ。冬間近って感じだ。
「今渡れば向こうの冬を経験出来る。
つまり、冬期の装備の基準を知ることが出来る。
知っているのと経験するのでは違うだろう」
カクの言い分はもっともらしいが何かが引っかかる。なんだろう。
「そりゃ1年間そこで動かないなら正しいな。
1年間、ヘッケレンに居るつもりか?」
ああ、これか。
そうだ、私達は動くのだ。
であればヘッケレンの冬を知ったところで、それが他で活きるとは限らないのだ。
「まあ、それもそうか……」
レニーも落ちた。
残りはフアと私だが、お互いにどちらでもいい派だ。
というか、フアとシパリアは元はサークィンがゴールだったはずだ。
あれ?じゃあ問題無いのでは?
「ねえ、雷光と別れれば良いんじゃない?」
「……あ、そっか。すっかり忘れてた。長く居すぎたな」
「そうだな、そうするか」
単に忘れていただけらしい。なんというか、カクはたまに抜けている。
「じゃ、解散祝いか?ちょっと変だな。
アン、ちなみにお前はどっち?」
「ん、どっちでも……出来れば早いほうが良いけど」
「なんで?」
「なんでってほどじゃないけど、ユタに会いたいからさ」
これは正直だ。
反抗期だか厨二病だか分からんが、変な事になっているユタに会いたいというのは本当だ。
呪人大陸がどんなもんなのか早く見てみたいという気持ちもある。
「ああ、そっか。あっちで冒険者やってんだっけ」
「らしいね。六花ってパーティだって」
「六花……そういやこっちで聞いたな。凄腕の魔術師が居たって。
もしかするとあれが兄ちゃんの事か?兄妹揃って魔術師か」
なんだろう、今日のカクは言葉に棘がある。男の子の日なんだろうか。いや、あるのかは知らんが。
「あーあ、俺ももうちょっと魔力があればなぁ……。
あんまり戦いに向いてねえんだよな。一応霧剣はレニーより上だけどよ。
結局魔人は魔術だよなぁ……魔力降ってこねえかなぁ……」
いや、単に酔いが早いだけなのかもしれない。
「俺ぁ魔言も聞き取れるし真名の組み換えも出来る、魔力だって嗅ぎ取れるんだぜ?
でもよ、魔力が全然ねーんだ。悲しいよなぁ。
フアにだって出来ないことが出来るのに、魔力が無いってだけで魔術師にはなれねーんだ」
完全に酔ってる。
「なあ、魔力のある人間ってどんな風に生きれるんだ?
アン、俺ってそんなに薄いのか?」
「そんくらいにしとけ」
「なんだよ」
半泣きで絡んでくるカクをレニーが止めている。
カクが酔うとちょっと面倒になることはあまりにも有名ではあるが、私に矛先が向けられたのは初めてかもしれない。
こいつは泣き上戸の絡み酒なのだ。たちが悪い。
「レニーはいいよなぁ……鍛えりゃ鍛えるだけ筋肉が付く。
俺にはそんな筋肉付かねえもんなぁ……。
しかもいっちょ前に魔術まで覚えだしやがって、俺の立場はどうなんだよ」
「今度効果的な筋トレを教えてやる」
「それじゃ意味ねーだろ。呪人じゃねーんだよ」
今度はレニーに絡んでいる。なんかもう、面倒臭いやつだ。
知らない人間と飲むとここまでひどくはならないのだが、知ってるメンツだとこうなりやすいのだ。
「今日も泣いてんな」
「だねー」
あの酔っぱらいはレニーに任せ、こっちはこっちで女子会と行こう。すまんなレニー!
「そのユタって兄ちゃんはどんな奴なんだ?」
「んー?完璧な人ってイメージが強いなぁ。何やらせてもなんでも出来ちゃうの」
「アンより魔術行けるのか?」
「うん。私はかなりユタに教えてもらったんだよ。私の出来ることは、大体出来ると思う」
「はー……んで南陸もかなりの腕前なんだろ?」
ユタの記憶が蘇る。
学校から帰ってきたユタに飛びつき、色々な話をしてもらっていた。
学校での生活の話は聞く側としては結構面白かった。マイロという人物の名前は特に記憶に強い。仲が良かったらしい。
学校生活の話だけではもちろんない。録石が読めないうちは、ほとんどの情報をユタから貰っていた。
特に魔術に関しては、サンよりもユタに教わっていた期間が長い。ユタの話は魔術初心者の私にとって分かりやすく、あれのおかげでサンの話もスムーズに理解出来るようになったのだ。
月に1つという遅いペースではあるが、1つ1つ丁寧に噛み砕いてくれたおかげで、ユタから教わった魔言は真名の書き換えも楽に行なえる。
魔言というものは理解度に応じて応用出来る幅がぐっと上がっていくのだ。
「多分。ロニー直伝で5年以上やってたからね」
「ああ、ロニーさんか……そりゃ凄いことになってそうだ」
「私はあんまり見たことないんだけどね。いつも練兵場を借りてたみたいだし」
ユタは魔術だけじゃなく剣術も行ける口だ。いや、あれは槍術になるのかな?
とにかく、ロニーが「飲み込みが早いし眼も良い。大成するよ」と言っていたのは聞いたことがある。
何度か見せてもらったこともあるが、当時はその凄さがいまいち分からなかった。普段からロニーがビュンビュンしてるのが悪い。
今ならある程度は分かる。実際に私が剣を振っているわけじゃないからある程度止まりだが、それでも分かる。
多分、家を出た時点でティナやカクよりも強かった。
ロニー直伝のロニー流南陸だ。ユタも飛び回りながら魔術を使う。ロニーと違うのは、剣での攻撃よりも魔術での攻撃の方が多いと言う点か。
ただ、あの頃はまだ小さかった。体格的に剣を振るうよりも魔術を使った方が効果的だと判断してのことだったのかもしれない。
そんなユタが、反抗期だ。しかも何やらとんでもない劣等感を抱えているらしい。
あんな天才が抱える劣等感とはどんなものなのか、興味がある。
「私と違って魔力視は無いみたいだけどね」
「あん?魔力見えんの?」
「あれ、言ってなかったっけ?見えるよ」
「はーそら凄い。フアはなんかある?」
「僕は何もないよ」
「シパリアは?」
「私も無いな。闘気に頼りっぱなしだ」
魔力視というのは割とレア能力らしい。というか言ってなかったっけ?あれ?気の所為か?
確か、魔力を視覚・聴覚・嗅覚のどれかで感じ取れる魔人が20人に1人、うち5人に1人が目、5人に2人が鼻、5人に2人が耳だと聞いたことがある。
鼻はまだイメージが掴めるが、耳はさっぱり想像も付かない。反響定位が出来る人間が見る世界、が近いんだろうか。
これは遺伝する事もあるらしい。うちの両親は両方とも見えるし、私も見える。ユタは見えないらしいから、両親共に見えていても確実に遺伝するわけではないらしい。
「いいなぁ、アタシも闘気使えればなぁ」
「ねえ、なんでティナって闘気使えないの?」
「なんでって……アタシが聞きたいわ」
ティナは闘気が使えない。そのくせ前衛を就いている珍しいタイプの人間だ。
多分だけど、私も頑張ればティナみたいな戦闘方法が出来るはずだ。
もちろん剣術や短剣術を覚えた上での話にはなるが。
「じゃあ、なんで剣士をしてるの?」
「喧嘩売ってんのか?」
「いや、純粋に疑問。魔術師じゃだめなの?」
「んー……魔術使うより、剣振ってる方が好きなんだよ」
そういや何度か聞いた気がするな。もっとぶった斬りてー!とかもたまに聞くし、そういう人間なのか。切り裂きセルティナだ。おお怖い。
「アタシは昔、体が弱かったんだ」
「え?マジ?」
「マジ。小さい頃は常に屋内で録石を読んでるようなタイプだったんだ。
もっとも、小さい村だったから録石なんてほとんどなくて、大体は考え事をしてるだけだったんだけどな。
今のアタシからじゃ想像も出来ないだろ?」
「出来ない」
突然の昔話だ。私の中でイメージしていたチビティナが崩れ去る。
なんというか、ガキ大将みたいなイメージだったのだ。それが突然虚弱で色白な女の子に変化してしまった。なんということだ。
もしかすると小さい時に脳を使い果たしてしまったのかもしれない。
「あんまり薬が効かないってのもそのせいらしい。
昔っから薬に頼ってたせいで、変に耐性ができちまってんだ」
今明かされる、ティナの謎の体質!
そう、ティナは何故か薬の効きが悪い。確かに気にはなっていたが、そんな理由だったのか。
毒に対してもちょっとした耐性がある。ちょっと止まりだけど、不思議だなとは思っていた。
「ある日、村に冒険者が来たんだ。
名前は教えてくれなかったけど、何本もダガーを持ち歩いてるような奴でさ。
大体、今のカクみたいな感じの奴だ。
親がなんか言ったんだろ、アタシのとこに来て昔話をしてくれたんだ」
「どんな?」
「"俺も昔は体が弱かった。今も闘気は纏えない。
だが纏身の魔術だけでここまで来たんだ。今じゃ1級だぜ?
すげえだろ。お前にもこの魔術を教えてやるよ"ってな」
ティナの村はダールの北側、大毒亀を狩った辺り、アーフォートとダールを結ぶ道沿いにあるらしい。
あそこらへんはあまり冒険者が通らない。護衛クエストが少ないせいだ。
そんな中で通りがかった冒険者。ニャラフィーの時みたいにプチ人気者になったんだろう。
その冒険者の一言で、この暴れん坊ティナが生まれてしまったというわけか……。
「いや、すぐに使えるようになったわけじゃねーのよ。
元々魔力なんて録石を読むくらいにしか使ってなかったんだ。
その後にもう1人来るのさ。
その人は呪人のくせに、魔術を使うんだ。
こっちも名前は教えてくれなかったが、この人に教わったんだ」
呪人の魔術師。数は少ないが、居ることには居るらしい。
魔術師の定義上、レニーは呪人の魔術師になる。本人は名乗るつもりはなさそうだが、あくまで定義の話だ。
4術を使えればそれだけで魔術師になるからね。
「どんな風に教わったの?」
「どんな風に?うーん……。
まずは魔力を感じ取れるかってところからだな。
録石を読むのに結構使ってたから、これはすぐに感じられた。
次は魔力を手に集めるイメージ。今思えば魔力の操作の練習だろうな。
それから魔力を放つイメージ。こっちはコツを掴むのに苦労した。
魔力の安定消費は元からやってたから、これはスキップ。
後はゾエロのイメージを教わって、実際に使えるようになるまで繰り返した」
やけに具体的だ。もしかするとティナはお酒が入ると賢くなるのかもしれない。
「録石を読んでたのが利いたのか、魔力は多い方だったらしい。
コツを掴んでからは、後はトントン拍子だ。
気付いた時には、他の子と一緒に走り回れるようになってたよ」
「やっぱり、他の子をいじめたりしたの?」
「やっぱりってなんだよ!……まぁ、喧嘩はよくしたな」
良かった!ガキ大将のティナも居たんだね!
「結局、その人は魔嵐が来るまでの1ヶ月くらい居てくれたんだ。
もしかすると、親が金払ってたのかもしんねーなぁ。
魔嵐が過ぎると帰っちまったが、いい人だった」
魔嵐とは、年に数回起こる魔素を豊富に含んだ雨を伴う嵐である。特に夏頃によく発生し、魔人大陸中部だけを襲ってくる無慈悲な存在だ。
中部っていってもアーフォートとダニヴェスくらいしか国はないらしいので、ほぼこの2国だけが襲われていることになる。
魔素が豊富な雨が降るおかげか、中部は特に植物の生育が良いと聞く。
魔嵐はイーリル南部で発生してリニアル北部で霧散するらしい。完全にダニヴェスだけををピンポイントで狙ってきてやがる。
一説によるとダールの東の大森林が原因だとも言われているが、詳しいことは分かっていない。だが中部、特にダールが被害に遭っているのは有名だ。
多分、リル家の誰かがなんかの呪いにでも掛かってるんだと思う。ダニヴェスの他の町やアーフォートはその被害者だ。
「ま、その人のおかげで今があるってこった」
「あんまり筋肉が付かないっていうのも体質?」
「ああ。ゾエロで無理やり動かしてる感じらしい。
もう無意識にやってっから、言われてもよく分かんねーけどよ」
無意識にやってる、とまでくればほとんど闘気のようなものだとは思うが、彼女のはあくまでゾエロだ。
ゾエロと闘気は見え方が全く違う。私の目にはゾエロは魔力の膜として映るが、闘気は全く映らない。でも闘気を纏える人間は他人の闘気をある程度感じ取れるらしい。
多分、魔力を感じ取れるようになるからだろうけど、じゃあなんで私には見えないだって話になる。なんでや!
「そういえば、ティナのゾエロって無詠唱だよね」
「そういやそうだな。なんでだ?他の魔術は無詠唱にならないんだけど」
「私が聞きたいわ」
私は現状、無詠唱どころか短縮詠唱すら出来ない。
魔術師としては大きな欠点だ。
せめて療術だけでも無詠唱で使えるようになりたい。そうすれば、肺や喉が潰れた状態からでも自身を治せるようになる。
今の私は口を抑えられると何も出来なくなってしまう。魔術を使うためには、声が必須なのだ。静言という魔術も詠唱が必要なのでほとんど意味がない。
「フアは無詠唱できんのか?」
「出来ないよ。短縮だけ」
「そっか。原理が分からんことにはなー」
ティナの口から"原理"なんて言葉が出るとは。ホントにお酒を飲むと頭が良くなるんだ!
「魔法に似た原理って聞いたことがあるよ」
「魔法?確かにあれも詠唱はしないけど、全然違うくない?」
「僕が使えるわけじゃないから詳しくないよ。
サニリアさんに聞いただけ」
ああ、サンか。そういえばサンは魔法使いだったりする。
私には全然説明してくれないし、ロニーから魔法は使っちゃダメだって言われてるらしく実演もしてくれない。魔法使いの娘ながらさっぱり分かってない奴だ。
録石なんかで調べても、魔法に関してはあまり詳しく書かれていない。
せいぜい、無詠唱でも発現させられるだとか、出した物質が蒸発しないだとか、魔言の制限を受けないだとか、そのくらいだ。
魔術と違い誰でも使えるわけじゃないだとか、とんでもない魔力量を必要とするだとか、そこらへんのせいで使える人はほとんど居ないらしい。
魔法の明確な利点は出した水が消えないとか、療術で老化が発生しないとか、部位を生やすことすら出来るとか……特に療術の分野で求められている。
とはいえ魔術とは魔法の再現だ。あまり一般的な呼び方ではないが、魔物の使う"魔術"は厳密には"魔法"である。あの手の特殊能力を再現し、誰でも使えるようにしたものが魔術の源流だ。
少し飛躍し過ぎかもしれないが、大本の話をすればそもそも魔術も魔法の一種だ。人間とは声によって様々な魔法を再現する魔術という魔法を操る生物だとも言える。
個人的には魔法に属する闘気とその再現魔術であるゾエロ。こっちの方がよっぽど気になる。闘気は魔法に属するせいか私の目では捉えきれない。詳しい理由が分からないから、現時点だとそういう性質の魔法だからとしか言いようがない。
「ティナ、助けてくれ」
「ん?あぁ」
ふとレニーに目を向けると何故かカクを羽交い締めにしていた。
よく分からん。どちらかというとカクが攻めだと思っていたのだが。
ティナとレニーがカクを大人しくさせている間、私はシパリアとフアの2人と楽しくお酒を飲んだ。フアも少しだけ飲んでいたと思う。
どんな話をしたかの詳細は覚えていない。どうやら飲みすぎたらしい。翌日、ベッドの上で二日酔いに悩まされているアンジェリアが発見されたのだ。うえ、気持ち悪い……。




