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四十話 特訓

 糧食を5食分、水を2日分用意してダーロを出た。

 一応2日分持ってはいるが、1日も歩けば大体は途中に小さな町がある。水も食料もそこで補給出来るし、ちょっとお金を払えば木の板のような硬いベッドで眠ることも出来る。野宿よりは少しマシ程度だが、コスパは悪い。

 仮にもし買えなかった場合に備えて水は2日分用意したけど、ああいう町は冒険者を含む旅人がメインのお客なので大体は買えるはずだ。今の所買えなかった例がないし、一応程度の保険である。

 ちなみに、ダーマまで直線で歩いた場合は4日掛かる。今回はシパリアが簡易テントのようなものを持っていたが、ここで寝れる人数は2人が限界。

 どうせ2人は見張りに立てるからってことで1つだけ追加購入した。シパリア達が抜けた後も使えるしね。


 さて、移動とくれば会話だ。

 私達の話題の中心は当然シパリアになった。


「あの剣術、どこかで習ったのか?」

「以前は兵士だった。その頃に教わった」

「へー。どの町だ?」

「ダーレだ。その後ダールに異動した後に教わった。14年前の災害で兵士が足りなくなったからな」

「ああ。あんときゃアタシの村もひどかったからなぁ」


 あらびっくり。うちの町の兵士様だったらしい。もしかしたら冒険者になる前に会ってたりして。

 ティナはその時……13歳か?その頃はまだ村に居たのか。冒険者になる前のティナってどんなんだったんだろう。ガキ大将的な感じかな。


「ダールの教官は厳しかった。普段は優しいんだが、訓練の時は容赦しないんだ。キツかったが、おかげで強くなれた」

「なんで兵士をやめたんだ?」

「ダーロに異動命令が出てな。だからやめた」

「なんかきな臭いもんなー」


 ここ最近の情勢は私の耳にすらちらほら入ってくる。

 戦争自体は大昔から続いているらしいが、大山脈イーリル南部の小さな平原に砦を築いたこともあり、ウィグマ側は手を出せないって状況だった。

 だがどうやらその砦が落ちたらしい。それも夜間、兵士だけが突然殺されたとかなんとか。

 ま、あくまでケスト側のブラフかもしれないけど。こんな情報が一般国民の耳に入るなんて少しおかしい気もする。

 中には魔導人形を復活させて操ってるだとか、魔物の大群を率いて攻め込むだとか、アマツが姿を隠しただの、どこからどこまでが本当なのかはさっぱり分からんがとにかく色々聞こえてくる。

 ちなみに最後のを言ってた奴は連行されてってた。不敬罪的な奴でもあるんだろうか。


「流派とかあるのか?」

「一応南陸(ミナム)が基礎だが、教官の我流だ」

「名前は聞いたことあるな。闘気の操作が重要なヤツだっけ?」

「そうだ。武器の先の空間を刃にする……私には出来ないがな。せいぜい、剣を闘気で纏えるようになったくらいだ」

「そこまで出来りゃすげーじゃん。アタシもゾエロなら纏えるんだけど闘気はなぁ」

「トウじゃないのか?」

「ああ、ゾエロは昔から得意なんだ」


 さて、2人の会話に戻ろう。

 女同士にしてはやけに汗臭そうな会話だが、一応はガールズトークの分類になるんだろうか。

 この世界、少なくともダニヴェスでは前世ほど男女の区別があまりない。前世の人間が見たら、町を歩くだけでびっくりするかもしれない。


「セルティナは我流か?」

「アタシは村育ちだからな。たまに来る冒険者にちょっと教えてもらったりはしてたけど、我流だ」

「そうか。カク、お前はどうなんだ」


 セルティナが突然カクを乱入させた。

 剣を使う同士で話したいことがあったりするんだろうか。カクのは両方とも短剣だけどさ。

 一応、レニーと私も持ってはいるんだけど、振られることはなさそうだ。


「俺らは霧剣(シート)を習ってたよ。4級だ。レニーは5級」

「霧剣か。確かにダガーやナイフとの相性は良いな」

「つーかティナ、たまに教えてやってんだろ」

「あそっか。んじゃアタシも霧剣だな!」

「まだまだだがな」

「るせー、アタシはもっとぶった切りてぇんだよ!」


 と思っていたらレニーまで混ざり始めた。

 い、一応私も過去に微かに僅かに短期間だけ剣術やってましたよ?闘気纏えなくてすぐ諦めたけど。

 うん、多分話にはついていけないだろう。聞き専しとこ。ぶった切りたい欲とかないし。ぶっ放してる方が楽しいし。うん。


「魔術の方は?誰に習ったんだ?」

「これが同じ教官でな。私はそれまであんまり使ってなかったんだ。量は多かったから、魔力売りはたまにしてたな」


 魔力売り。魔道具なんかに魔力を流し込むやつだ。私もティナも未だにたまにやる。ダーロともなればどこでも需要はあったりする。

 労証要らずで小金を稼げるから暇な時にやると食事代くらいは賄えないこともない。


「武術と魔術が同じ教官?アタシらみたいな感じのヤツなのか?」

「ああ。だが比べ物にならん。教官は空を蹴るんだ。立体的に動き回り、強力な魔術も扱い、一瞬の隙すら許さない。あれは人間じゃない」


 空を蹴る、だと……?


「人間じゃないって、そんな強ぇのか」

「ああ。不甲斐ないが、私が10人居ても勝てないだろう」

「どんな人だったんですか?」


 一応聞いておこう。うん、一応だ。


「……よく自分の家族の話をしていたな。妻の飯が美味い、息子が天才だ、娘が学校に行かない、とな」

「へえ、学校。ってことは金持ちなのか?」

「いや、ダールの学校は結構安いらしい」


 天才的な息子を持っていて、学校に行かない娘を持っていて、剣術と魔術を扱う空を蹴る人。

 なんか、うん。私はその人をよく知ってる気がする。というかもう、確定なのでは?


「教官の名前、覚えてます?」

「ああ。ロニリウス・レーシアと言う」

「「あ」」


 ティナとカクの視線が刺さる。はーい、娘ですよー。ここに居ますよー。


「つまり、パパの教え子なんですね」

「パパ!?」


 シパリアの首がとんでもない速度で回転し、私の方を見た。見開かれた目はそのまま驚きの度合いの指標になるだろう。

 シパリアもこんな顔することあるんだなぁ……。


「学校は行きたくなかったんですー。どうせ兄と比べられるしー」

「優秀な兄を持った妹はふてくされこんなチンチクリンに――」

エル・クニード(水よ、放て)

「ぶぇ」


 適当な理由をでっち上げ、カクには水のプレゼント。今は夏だし、歩くと多少は暑くなる。真心込めてお届けいたしました。


「そ、そうか、教官の……小さい頃に少しだけ教えたとも聞いたが」

「ほんとにちょっとですよ。闘気のコツが掴めなかったのでやめちゃいました。5歳頃だったかな」

「もうやらないのか?」

「うーん、二足のわらじとも言いますし、剣も持ってないですから」


 ティナみたいにゾエロで誤魔化すことは出来るかもしれないけど、魔力切れを起こしたらひとたまりもない。

 魔力は魔術よりも闘気として扱ったほうが効率が良いとはロニーの言。実際、レニーを見る感じそう思う。あの魔力でゾエロを使ったら2時間が良いところだろう。

 闘気にも欠点はある。高濃度の闘気を長時間纏うことは命に関わるらしいのだ。故に部分的に・瞬間的に使用するのが基本らしい。

 ゾエロは注ぐ魔力量こそある程度は調整出来るが、それでも魔言で調整した方が遥かに楽だ。それに部位の細かい指定など出来ない。掛けるとなれば全身を覆うし、切るとなれば全身解除される。部分的に覆う魔術はゾエロではなく、トウやガイといったものだ。

 トウ・ガイは魔力消費と制御が共に難しく、更にいえば魔術師向けではない。どっちかっていうとカクのような遊撃向けに思える。一応私もたまに練習しているけど、なかなか上手いこといかない。

 闘気は長時間の使用が難しいなんていうけど、同じだけの質を持ったゾエロだなんて使おうもんならすぐに魔力が切れる。やっぱり闘気の方が優秀だと思う。隣の芝生だから青く見えているだけなのかもしれないし、使えれば使えたでまた別の問題があるのかもしれないけどさ。


「なあ、サークィンに着くまでの間でいいから教えてくれねーか?」

「私がか?……上手くないぞ?」

「良いよ。今まで上手く教えられたことなんてねーし」

「そうか。カク、レニィン、お前らもやるか?」

「んー……やっといて損はないよなぁ」


 考え事をしている間に、会話はうちの肉体派連中がシパリアに稽古をつけてもらう方向になったらしい。


 確かにシパリアは優秀な戦士だと思う。

 南陸をベースにいくつかの武術を混ぜ込んだ、ロニー流とでも呼ぼうか。そんな武術を使う。


 南陸とは槍術だ。槍術とはいうが、現代では斧槍の使用を前提とされている。よくよく考えればこの世界の兵士は斧槍を持っていることが多い。多分、南陸を修めている人が多いんだろう。雑食だ。

 だが南陸は武器だけではない。そもそもが体内の魔力のコントロールを主としているのだ。槍による物理的な攻撃を活かすために魔術を使用する。魔術師とは少し性質が違うし、ただの戦士でもない。魔戦士と言った方がいいだろう。

 だからといって他の武術ほど体を鍛えないかといえばそうではない。結局のところ、真の攻撃は刃にある。魔術は二の次とまでは言わないが、どちらかといえば武器に傾倒している武術だ。


 かなり昔にロニーから聞いたことだから曖昧だ。そもそも私が直接学んだわけじゃないから詳しく言えないのは当然なのかもしれない。

 ロニーはここに他の武術や魔術を取り入れ、我流ではあるが独自の武術として発展させた。もうロニー流とか名前付けた方がいいんじゃないだろうか。


 ロニー流の武器は槍に限らない。そもそもロニーは剣を使っていたというし、鍛錬には木剣を利用していた。なぜ剣なのかは分からないが、槍だと空中を飛び回るロニー的に扱いづらかったのかもしれない。ともかく、どちらかといえば槍術ではなく剣術だろう。

 剣以外も一通り扱えるらしいが、少なくとも私の知っているロニーは剣を振っていた。だから剣術としておこう。ロニー流剣術だ。ちょっとかっこいいな?

 ロニーの使う魔術を詳しく知っているわけではない。あの人は短縮詠唱や無詠唱も多かったし、あの頃はまだ知らない魔言も多かった。記憶の中のロニーの詠唱は、今は知ってる魔言でも真名だけが聞き取れない。多分、記憶ってのはそういうものなんだ。

 話を戻そう。空を蹴る、なんていうが、あれは足から魔術を放ってるだけだ。足から出すのは私にはちょっとイメージしづらいが、練習すれば体のどこからでも出せるらしい。箒に電気を帯びさせるのだって同じ原理だし、ゾエロだって手に限らない。

 ただ習得には時間が掛かる。シパリアは足でこそ使えるようになったが、元からあまり使っていなかったせいか細かい操作や連発が苦手で、もっぱら瞬間的な加速にしか使わないらしい。風刃熊の腕を斬り落とした時のが多分それだろう。

 思い返せばゴブリンの魔王に最初に斬り込んだのもシパリアだった。シパリアの方だけを見ていたわけではないからか、気づいたら魔王のすぐ側に居た、という印象の方が強い。

 風刃熊戦ほどではないけど、あの時も似たような魔術を使っていたのかもしれない。その後にゴブリン狩りがあったので全力ではないって感じだろうか。単に闘気による加速だけかもしれないけど、それならそれでやっぱり凄まじい。

 ……ということは、最初に死んだ双子、ドラウトか。もしかしたらドラウトもロニー流だったり?千人の頂とはあれ以来会ってないし変な人が多かったので絶対とは限らないけどさ。


「――に入り込んでるのか?」

「さあな、単にぼーっとしてるだけの時もある。でも足は止まらないから面白いよな」

「だが危険じゃないか?」

「危ないときゃ俺が起こすさ」


 と、また考えすぎていた。カクとシパリアが私の方を見て談笑している。


「聞こえてますが」

「おう、おかえり」

「……ただいま?」


 どうやら話題は変わり、私の考え癖の話になってたらしい。ていうかバレてたのか、そりゃそうか。しかし「ぼーっとしてる」とは……そんな風に見えるんだろうか。

 考えてみよう。外からの情報をほとんど拾わずに考え込みながら歩く人を。別に歩かなくても良い、宿でベッドに座りながらでもいい。

 その人は傍から見たらどうだろうか。……うん、そうだね。ぼーっとしてるだね。私はぼーっとしてる人と思われるのか。なるほど。


「つーことで、ダーマで木剣を買って稽古をつけてもらうことになった」

「ごめん、もう1回」

「シパリアに武術を習う」


 らしい。木剣……ロニーが振り回してた記憶が蘇る。とんでもない動きで飛び回って、たまに近所の人に怒られてたのが懐かしい。あの頃は災害のせいで空き地が多かったからなぁ。

 いや、待て。私もやるのか?


「えっと、それは、私も?」

「いや、代わりにフアに魔術を教えてやってくれないか」

「私が?」

「ああ」

「シパリアさんじゃだめなの?」

「私は戦士だ。魔術は使うが魔術師ではない。……教えられるほど上手くは扱えない」


 まあ、うん。今まで何度か話したけど魔術はあまり得意ではないと聞いた。

 でも私と違って剣や足なんかから魔術を使えるのだ。そういう意味では私よりも上手く扱えてる気もするんだけどなぁ……。

 人に教えるなんてほとんどしたことがないが、物は試しでやってみようか。


「わかりました。出来るか分かんないけどやってみます」

「ああ、頼む」


 食事前の2時間くらい、シパリアが武術を、私が魔術を教えることにした。

 またシパリアは起きた後も30分くらい簡単な稽古をすると言っていた。準備運動的なものだろうか。もしそうなら、私も参加しようかな。



◆◇◆◇◆◇◆



 ダーマに到着するまで、彼らは体作り……つまり筋トレや魔トレなんかを主にしていた。

 これ自体はよく見る奴だ。というか、今までも食事前にやってるのを何度も見た。汗を流し、飯を食い、それから魔術で体を洗い眠る。野宿する時のお決まりパターンだ。

 木剣を買った今は、素振りなんかを主にしている。もちろん体作りを欠かしているわけではない、というか素振りって結構疲れるんだよね。


 彼らの素振りは面白い。木剣の先に薄い土の板を発現させながらやっているのだ。

 なんでもこうする事によって剣を傾けて振る事が減るらしい。よく分からないが、空気抵抗的な意味だろうか。

 魔力を注がなすぎると土の板自体が割れたり消えてしまう。注ぎすぎると重くなり、重心がブレてしまう。らしい。魔力のコントロールも同時に覚えちゃおうって感じなんだろう。多分。

 彼らは苦もなく剣に土の板を発現させていた。術式はエレス・トウ(土よ、覆え)というもの。普段から武器に魔力を流している彼らにとってはこの魔術の詠唱くらいは朝飯前なのかもしれない。

 ちなみに私は出来ない。武器が自分の体の一部になりきれてないらしい。手刀的な感じなのは出来るけどそれならシュで調整したほうが良い。つーかこいつらトウの真名を書き換えて使ってやがる。


「レニー、魔力が淀んでいる。流れ続ける水を意識しろ。

 ティナ、お前は込め過ぎだ。もっと力を抜け。それからゾエロも薄くしろ。

 カクは、その調子だ」


 とはいえレニーは呪人、つまり魔力の扱いが苦手な種族だ。土板を作るまでは良いがそれを長時間維持することに躓いている。

 ティナの問題は魔力視のおかげでよく分かる。明らかに魔力を注ぎすぎている。というかなんなら魔力視無しでも分かる。注ぎすぎて板っていうより塊になっている。……あれはあれで武器になりそうだけどさ。

 カクは今の所注意されていない。確かに普段から器用なタイプだとは思ってたけど、こういうところでも差として出てくるんだろうか。


「先生、よそ見」

「ごめんごめん。えっとね、エレス・ダン(土よ、放て)、これをエレスとダンに分解するの」


 と、私はこっちだ。フアに魔術を教えているのだ。

 最初は体内を流れる魔力を感じるところから始めたが、これは既に出来ていた。魔術師なら当然なのかもしれない。

 それから発水……つまりエル・クニード(水よ、放て)。これを長時間維持させる練習。出した水が消えないように、出続けるようにの練習。私もよくやった奴だ。

 フアは飲み込みが結構早い。もう10分くらいなら維持出来るようになった。これだけ出来れば十分として、今日からは魔言と真名の座学をしている。


「分解……?」

エレス・ダン(土よ、放て)ウィーニ・ダン(風よ、放て)。ほら、ダンは一緒でしょ?」

「え?」

「え?」


 え?


「土弾と風弾の詠唱ですよね、分解って?」

「両方ともダンの魔言が含まれてるでしょ?ってことはエレスとダン、ウィーニとダンに分けられる」

「えっと……?」


 えっととは?


「ごめん、ちょっと土弾唱えてみて」

エレス・ダン(土よ、放て)

「前半だけ唱えてみて」

「前半?」


 会話が成立していない。


「めちゃくちゃゆっくり詠唱してみて?」

「え、出来ないですよ」

エーレースー・ダーン(土よ、放て)……ほら、出来る」

「……何が違うんですか?」


 飲み込みが早いとはいえ、躓くこともある。

 どうやらフアは魔言を聞き取れないらしい。

 うーむ、どうしたもんか。そもそも聞き取れる人と聞き取れない人の違いってなんだ?


「短縮詠唱は出来るんだよね?」

「はい。土弾」

「なるほど」


 これって後天的に身につくものなの?

 もし付かないなら、教えようがない気がする……そうだ。他の人にも聞いてみよう。


「ちょっと待って、シパリアさーん!」



◆◇◆◇◆◇◆



 結論から言うと、魔言を聞き取れるのはカクだけだった。

 詠唱自体は聞き取れているらしい。実際に魔力を練った状態でいくつか詠唱してみたが、やや間を置いてから答えてくれた。

 エレス・ダンといえば土弾だと答えてくれるし、ウィニェル・ダンといえば氷弾と答えてくれる。

 だがエレスとダンに分けられる、と言ってもカクしか理解してくれない。

 カク以外はそれを知識として持ってはいるが、実際に聞き取れはしないと言う。

 そもそも魔力を込めたエレス・ダンと込めなかったエレス・ダンでは音が違うらしい。私にはむしろこっちの方が理解できない。


 大問題だ。

 魔言を聞き取る、というのはどうやら誰でも出来るわけではなく、特殊能力的なポジションらしい。

 つまり、普通の人は聞き取れないのだ。4色型色覚とかの類なのだ。

 盲目の人に色を説明するような、では済まない。体1つで色を識別する仕事をしろと言ってるようなもんだ。

 説明自体は出来る。土弾はエレス・ダンと詠唱し、エレスとダンに分けられる。だから2術。ここまでは良いが、その先に進めない。

 ここにズビオをはめ込めと言ってもそれが出来ない。

 エレスが土だとは理解出来る、ダンが砲弾である事も理解出来る、ズビオが圧縮であることも理解出来る。

 だがその先、これらを組み合わせることが出来ない。


 ではどうやって魔術を詠唱しているのか。

 聞いてみれば耳コピのような感じらしい。

 エレス・ダンを何度も聞き、これは土弾だと覚え、詠唱する。

 これで魔術が発現するらしい。

 その後はエレス・ダン=土弾というのを頭に叩き入れれば短縮詠唱になるんだったか。ティナ情報だけど。


 さて、どうしよう。

 どこまでがひらがな1文字なのかは理解出来ないが「こんにちは」といった特定の単語だけは読める。ただし「こんにちは」と「こーんーにーちーわー」の違いは分からない、といった状態。ちょっと無理矢理かな?

 単に扱える魔術を増やすだけならば、術式の詠唱を覚えさせるだけでいいんだろうけど、それだけで本当にいいんだろうか。

 咄嗟に魔言を増やしたり減らしたり、そんな事が出来ない魔術師でいいんだろうか。

 そもそも一般的な魔術師はどうなのだろうか。……あ、思い出した。スターナの、ハイペストの研究所に来てという話があった。

 もし行っていれば、この問題を解決する手段が分かったのかもしれない。ちょっとバタバタしてたせいですっかり忘れていた。


 とりあえず、今は構築後の術式を教えればいいか。

 エレスが土だとも、ダンが砲弾だとも理解はできるんだ。理解は出来るけどその先に進めないんだ。

 ティナやシパリア、それからレニーもそのやって魔術を扱っているらしいし、もしかすると魔言の聞き分けは後天的に習得出来るものではないのかもしれない。

 もし出来ないのであれば、それを教えようとするのは滑稽すぎるし、互いに時間の無駄だ。


「じゃ、どんな魔術が良い?」

「アンが使ってた氷弾とか」

「先生って呼んでくださいー。……ウィニェル・ダン(氷よ、穿て)、これ?」

「ですです」


 実際に詠唱してみる。

 そういえば、スターナに言われたことがあるな。

 同じイメージで唱えてみよう。


リズ・ダン(氷よ、撃て)


 見様見真似だが、スターナと同様の術が放たれた。

 魔力消費はウィニェルと同じか若干多いくらいな気がする。……もしかしてこっちの方が効率良い?ウィニェルのが少ないのは慣れの要素が大きいだろうし。

 ていうかダンの真名って撃てだったの?ずっと放てだと思ってた。他の人から話を聞くのも大切だなぁ。


「よし、リズ・ダンで覚えよっか。真名は"氷よ、穿て"。短縮詠唱は"氷弾"。イメージはやや縦長の、回転している、音の速度で飛ぶ氷の塊。

 リズ・ダン(氷よ、穿て)。……さ、やってみて」

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