表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/270

三十八話 凶刃

 北の森へ逆戻り。

 この森は良い。どっかの大森林と違い――ってもういいや。


 1日目はクレルトという村に泊まることにした。やや遅い時間に出たこともあり、森に着く頃には夕暮れだったのだ。

 いくら私が魔力視で夜もある程度見えるとはいえ、それは私だけだし、そもそも普通の視界の方が使えないのはそれはそれでちょっと困る。

 試験官とやらは後方から距離を取って付いてきている。どちらも知った顔ではないが、元2級と元3級のギルド職員らしい。ある程度階級を上げればこういう仕事も回ってくるようだ。

 えっと、なんて名前だったかな。以前レニーと戦わされた試験に居た赤っぽい鎧を着た赤い髪のザ・赤なおばさん。ゴブリンの緊急クエストの時に指揮を取ってた人を顎で使ってた人。レニーに抱かれて顔赤らめてた人。……ダメだ、名前が出てこない。

 名前は良いか。とにかくあの人もそういう系だったりするんだろうか。私の術が何度か当たってたけどケロッとしてたし、少なくともある程度の実力はありそうだけど、ギルドのホールで見たことないんだよな。

 逆にハゲたおっさんの方は3級冒険者って名乗ってた辺り、まだ実際に活動してる人だろう。ロニーの知り合いだったみたいだけど、どういう関係かは聞いてない。昔の仕事仲間とかそんな感じかな?

 つまり引退後の冒険者もある程度は拾ってるってこと?確かに腐らせとくのはもったいないのかもしれないけど、ロニーは練兵場で働いてたんだよなぁ。働き口が無い場合は、みたいな感じだろうか?

 そもそも喧嘩っ早いのが多いんだから、それを戒めるための警備員的な役割もあったりして。


 直接聞いちゃえば早いんだけど、今回は試験官との接触が禁止されてる。ちなみにティナの時は接触可能どころか一緒にクエストを行なったらしい。どういうこっちゃ。色々種類があんのかね。

 ま、今回は試験官に見られながらのクエストってことだ。分かりやすいな!……この考え方はティナっぽくなりそうだ、やめとこ。


 今日は2日目、つまり実際に森に行き、風刃熊(イーントベア)を見つけて、それを殺す日だ。

 ふと振り返ってみれば、見えるか見えないかギリギリの距離に試験官が1人見える。もう1人はどこだろうか。木が邪魔でどこに居るかが全く分からない。


「フア」


 ちなみにフアにちゃん付けするとシパリアに怒られる。なんでやねん。

 聞いてみれば人攫い対策なんだとか。男の子よりも女の子の方が人気な辺りは前世とあんま変わらないらしい。ある程度強くなるまではちゃんは控えてくれと言われてしまった。

 いや、可愛いショタはそれはそれで需要があるのでは?なんて思ったけど変に捉えられそうだったので黙っておいた。ショタコンではない、多分。というかロリだし。


「何?」


 いや、ロリコンでもないと思うけど、それでも年下の子は可愛く感じる。なんだろうか、不思議な感覚だ。

 よくよく考えてみれば年下の子と接することがほとんどなかった。そのせいなのかもしれないが、新鮮だ。


「何術くらい使えるの?」

「4つくらい、ってさっきも言ったよ」


 単に反応や声が可愛いって理由だけで話しかけてる。いや、私の中身がおっさんであることを考えたらなかなかヤバい光景では?……まあバレるわけないし、いっか。

 しかし10歳で4術か。私の時は6術くらい使えてたから、あんまり向いてないのかもしれない。

 闘気はうっすら纏えるって言ってたけど、シパリアが武器を持たせていない辺りそっちも微妙なのかも。

 冒険者に向いてないんじゃないか?なんでやってるんだろう。


「こいつロリコンなんだよ。可哀想にな……」

「違うわ!」


 何度か話しかけてたらカクにいじられた。もしかして表情に出ていた……?


「氷結の魔女様はロリコンだったかー」

「やめなさい!」


 そしてカクだけじゃなくてティナにもいじられる。こいつらほんま。


「……そろそろ静かにしろ。逃げられるかもしれんぞ」

「そうだそうだ!」

「アン、お前もだ」


 遂にレニーの救いの手が!と思いきやその手は平等パンチを作り私をも殴ってきた。なんでや!あたいが悪いんか!?



◆◇◆◇◆◇◆



「ここらへんって言ったか?」

「そうそう、えーっと……あった、あの木!」


 ある程度進み、先日風刃熊が傷を付けた木を見つけた。

 歩きづらいので距離的にはそんなでもない浅い位置だけど、40分くらいと体感では結構な移動距離。


「何か分かるのか?」

「ああ。あの高さなら、多分俺らが見つけたやつとは違う個体じゃねーかな。こっちの方がデカそうだ」


 カク達は先日実際に遭遇したという。ただ即座に逃げられてしまったので戦闘にはならなかったらしい。

 それに傷のある木も何本か見つけていて、途中何度が教えてくれた。


「ってことは最低でも2匹以上居るってこと?」

「になるな。群れで行動するタイプじゃねーから、同時に戦闘になることはないと思うが」

「2体同時に遭遇したら逃げろ。殿は私だ」

「了解。ここらへんはデカい方の縄張りっぽいから気ィ引き締めて行くぞ」



◆◇◆◇◆◇◆



 辺りを警戒しつつ、歩みを進める。

 カクは探知能力に長けており、紫陽花だけで動く時もほとんどの場合はカクが先頭だ。だから今回も自然とそうなった。いつもどおり少しだけ距離を取っている。

 レニーは文字通りの盾だ。前面からの攻撃に備え、カクを除いたパーティ全員を守れるよう先頭に立っている。カクに関しては自身の回避能力に頼ってもらう他無い。頑張れカク。

 フアは6級ではあるがまだ幼く、仲間というよりかは守る対象としての印象が強い。そのため最も安全だと思われるレニーのすぐ後ろに配置。

 私は後衛であり、あまり近接戦闘が得意ではない。そのためレニーが次に守りやすい右手側後方を行くことになった。フアの脇を固める意味もある。

 ティナは私とは対照的で、近接戦闘が得意だ。だからレニーの死角になりやすいフアの左手側後方に配置し、そこを守ることになった。だが戦闘となれば話は変わるだろう。あくまで奇襲に対してだ。

 最後にシパリア。彼女はフアの後方に位置している。一通りの魔術が使用でき、また近接戦闘もこなせ、探知もある程度出来るという。そのため後方を警戒しつつ、戦闘時はフアの守りに徹する事になった。カクと違い離れてはいない。


 ぶっちゃけて言えば、フアの守りに大きくリソースを割いた隊形だ。

 その上で最も探知に優れるカクを前に配置、次に優れるシパリアを後に配置。この2人を感覚器官とするならば、ティナは爪、レニーは鱗で、そしてフアが心臓だ。

 私の立ち位置はいまいち分かりづらいが、単純な火力だけで見れば紫陽花一だ。最悪フアを抱えて逃げることも出来るだろう。瞬間的なゾエロの出力ではティナよりもあるんだ。ただ、維持が難しいだけで。

 フアの魔力は以前見たときよりも増えている。このくらいの年齢はまた魔力が伸び始めるのだ。私も伸びているとは思うが、自分のことなので分かりづらい。ティナには失礼だが、あえて言うならば2ティナに届かないくらい。いや、ティナも増えてるんだけどね。

 ただ魔力があればあるだけ良いってわけでもない。出力量は術式と慣れによって大きく変わる。つまり、上手く扱えない人間では大量の魔力を持て余すこともある。

 100ティナと10ティナ、これだけ比べると前者の方が優れているが、術式に練り込める魔力総量が1ティナと10ティナであれば後者の方が瞬間火力では優れているのだ。もちろん、両方あるに越したことはないんだけどね。

 とはいえこれだけでもない。その込められた1ティナを上手く扱えるか扱えないかでまた優劣が変わることもある。ここらへんは慣れの問題が大きいが、魔力総量だったり出力量だけでは見えてこない、それでいて1番重要な要素だ。

 私の魔力量、出力量は共に同級の魔術師に比べれば高い方だと思うのだが、先日会った美人の魔術師、ええと、スターナだ。スターナには負けた。あの人は魔力量こそ確かに多かったが、魔力の操作がめちゃくちゃ上手かった。私と同じ術を私よりも魔力を込めずに発現させられるのだ

 あれで7級っていうんだから世界は広い。私はまだまだだ。


 ……また思考が飛んでるな。魔術ついでに風刃熊のおさらいをしておこう。

 風熊(イームベア)ではなく風刃熊(イーントベア)。風熊の亜種でありやや中距離での戦闘を好むが、風熊に比べわずかではあるが気性は穏やか。

 風弾を使うのは当然のこと、爪からよく斬れる別の風弾を扱うらしい。術式は想像出来ないが、例えばダンにトウを付与するような感じ……だろうか?私には出来ない。単に圧縮率が高いだけかもしれない。

 大柄なくせ足が早く、その上足音がしないらしい。ガイ系統と思われるが分からない。ガイは魔力のコントロールが難しく、私では使いこなせない。代わりにズビオでなんとかしていることが多い。トウ、ガイ、アルア、デルア辺りは苦手だ。

 穏やかと言われてはいるが、発情期などでは人を襲うこともよくあり、5級の中でもやや強い方に位置している。というか、一般的に見られる魔物の中ではこれが1番らしい。

 そもそも5級には大豚頭(オーク)が筆頭の亜人種と呼ばれる知性のある魔物、泥人形(ゴーレム)や筆頭のダンジョンから発生するもの、それから6級までの生物の大きな集団が含まれる。ちなみに模倣人形(ドッペルゲンガー)は泥人形の仲間で、5級に位置する。

 その中で単独で5級を勝ち取っている野生の魔物だ。強力じゃないわけがない。あの模倣人形と同じランクの強さを持つってことになる。……あれあんまり強くなかったから分かりづらいけど、人によっては苦労するらしい。カクとか確かに苦戦してた。


「アン」

ウィニェル・ダン(氷よ、穿て)


 あの大森林ほどではないが、この森でも果実は見つかる。今回は私が魔術で撃ち切ることにした。あんまり魔力を使いすぎるのはよくないと思ったけど、果物を落とすくらいなら消費量はなんてことはない。

 他の問題を挙げるとすれば、ここらへんの果物は青いってことくらいだ。どっかの大森林とは違いこっちは普通の季節が流れている。まだ熟れてないのだ。食べると不味いのだ。

 幸いな事に水を蓄えている変な果物があるので、たまに見つかるそれを撃ち切り、中身だけを頂いている。ごめんね果物さん。

 1つの実からコップ1杯分くらい取れるし、そもそも大森林ほど暑くない。つまり汗として水分を消費することも少ないので、大量に必要なわけではない。あくまで水袋の水を消費しないためにやっているだけだ。

 ちなみにこの実の名前だが、魔物酔わせという。秋の終わり頃にはこの水がアルコールを含むようになるらしい。へー。


(ストップ。匂いが強くなった。近いかもしれない)


 カクの静言(せいごん)というテレパシーのような魔術。私はまだ上手く使いこなせない奴だ。

 互いに目配せ、いつ戦闘が始まっても大丈夫なように意識を集中させる。考え事はここまでだ。


(アン、16時の方向)


 魔力視を強め、言われた方向を睨む。

 魔力はごく薄い物体であれば貫通するため、ぼやけはするが透視的な使い方が出来ないこともない。瞼を閉じても見えるのはこれのせいだ。

 とはいえ辺りは森で、魔力は魔力を通さない。木が太さで透視出来ないのはもちろん、葉ですら魔力が含まれてるのでほとんど透けることはない。

 だが一点、明らかに魔力の濃い場所がある。魔力視を弱めてみるが、通常の視覚ではさっぱり分からない。木陰にある草むら、おおよそ20mくらいの距離だろうか。


(見つけた、かも。強い、魔力)

(右側、警戒体勢)


 カクにだけ、それも不鮮明な言葉で送りつけたが伝わったらしい。

 ごくり、と誰かの唾を飲む音が聞こえた。

 瞬間、不可視の魔力の塊が飛んできた。


シュ・リュウィーニ(強風よ、放て)!」


 何の攻撃かは分からないが、咄嗟に術式を構築した。

 が、衝撃は訪れない。私の前にはシパリアが居た。


セブ・ゼロ・ゾエロ(多くの魔力よ、纏われ)!……危なかった、ありが――」


 魔力を霧散させ、上級のゾエロを掛ける。さっきはほとんど生身だった、危なかった。

 礼を言おうとした瞬間、風刃熊が姿を表した。

 のそのそと、ゆったりと、だが確かにこちらに向かってくる。


「……でけえ方か」

「っるぁあ!」


 真っ先に動いたのはティナだ。

 最近お気に入りのフランベルジュなダガーを逆手に飛び掛かる。

 しかし風刃熊は口から風弾を発射、ティナを撃ち落とした。

 尻もちを着くティナ。風刃熊が襲いかかる。


「させっか!リチ・ダン(火よ、放て)!」


 咄嗟にカクが火弾を放った。

 風刃熊の頭部に何らかの魔術が発現、火弾をかき消す。

 動きは止まらない。


「「土壁!」」


 ティナとフアが同時に短縮詠唱。ティナを守るための壁が2枚出現する。

 しかし、風刃熊が近づくだけで崩れ去る。

 何らかの対抗術式を構築しているらしい。

 風刃熊の右腕が、その爪が、ティナを襲った。

 体が吹き飛んだ。


「マジかよ……おい、ティナ!」


 カクが声を掛ける。しかし返事はない。姿も見えない。

 ……え?


「ティナ!?」


 返事がない。


「ぐぅわああぁぁぅぅうううう!!」


 両足で立ち上がり、風刃熊が雄叫びをあげる。

 身体の芯から揺さぶられるような感覚に陥る。

 体が動かない、これは。


「"解"!」


 独特の音と魔力の波、フアによって体が自由になった。


「シパリア、頼む」

「ああ」

「クソ、おいティナ起きろ!」


 レニーが前に出るのと同時、カクがティナを抱えて来た。

 ティナに付けていた鉄の鎧が、左肩の部分がベコベコになっている。

 だが出血はない。全身に擦り傷が見えるが、これは死ぬほどの傷には見えない。


「気ぃ失ってるだけだ。しかし……こいつぁヤバいな」

「ああ、魔術が効いていないように見える」

「効いてないってよりも、打ち消されてる」


 カクは意識のないティナをシパリアに預け、前線に戻る

 レニーが一歩前に、カクがその左に、私は更に一歩引いた位置に。いつもの布陣だが、1人足りない。

 シパリアは恐らく前には出ないだろう。しかし私ほどではないが魔術が使える。

 普通なら期待してもいいはずだが……風刃熊は魔術を打ち消しているように見える。人間風に言うなら無詠唱だ。音がなければ魔力の流れしか見えず、術式の断定には至れない。


「さてどうすっかね。うちの剣はぶっ倒れ、主砲は多分豆てっぽう。そんで守るべきが3人居ると」

「やるしかないだろうな」

「どうやって?」


 矢継早に言葉を交わす。風刃熊は咆哮が解かれた事に驚いたのか襲ってはこない。だが私達の後方を何度も見ている。

 前世では、熊は自分の獲物を奪われる事が許せないだなんてことを聞いたことがある。もしかすると似たような習性を持っているのかもしれない。


「アン、どうやって魔術が消えてるか分かるか?」

「当たる直前、体の表面に何らかの魔術を発現させてる」

「そうか。じゃあ俺の攻撃に合わせろ。その次は両手で、連続で放て」

「了解」


 魔術とダガーによる同時攻撃が有効かどうか。それから魔術のみの同時攻撃が有効かどうか。

 前者はともかく後者が正解であれば楽だ。


「防御頼む」

「ああ」


 カクは最近真っ向から戦うわけじゃない。ティナに気を引かせ、レニーに気を引かせ、その隙に攻撃する。

 自身が狙われれば簡単な魔術を放ち、その隙にまた攻撃する。

 前衛というにはやや心許ないが、今回はカクが前衛を務めるらしい。


 カクが駆け出す。次いでレニーも駆け出した。

 同時、風刃熊の口元に魔力が溜まる。


「風弾!」

「ああ!」


 カクが急停止、レニーの後ろに隠れる。

 風刃熊から風弾が放たれるが、レニーが受け流す。

 秋でも無いのに木の葉が舞った。


「重いが、アンよりマシだな」

「じゃ、任せるぜ!アン!」


 カクの下半身とダガーに魔力が集まる。

 それに合わせ、術式を構築する。

 先程よりも硬く、大きく、素早く。


ラウィニェ(強氷よ、)ル・イゲズ(収縮し、)ビオ・ダン(敵を穿て)


 大きく巨大な氷塊、それを無理矢理拳大にまで圧縮する。削る事は難しそうだ。

 風刃熊は右腕を大きく振りかぶり、正面から飛び込もうとするカクに振り下ろそうとしている。

 だがカクは急加速。風刃熊の右腕の付け根を狙って斬り込もうとする。

 今だ。

 削る事は出来なかったが、回転させての射出には成功。

 カクの斬撃が命中。しかし被毛によって大きな傷を付けるには至らない。

 同時、自分でも驚くほどの魔力を込めて放った一撃は、しかし狙いをズレて左膝に直撃。

 そう、当たったのだ。


 当たる直前、魔力の変化が当然見られた。

 氷塊は小さくなった。

 しかし、当たった。消しきれなかった。


「同時攻撃は意味無いみたい!でも、練り込めば当たる!」

「オーケー、もう1つも頼む!」


 少しだけ笑い、すぐに真剣な顔で攻撃に戻るカク。

 普段はチャラいけど、こういう時はやっぱりかっこいい。

 が、別に恋する乙女じゃないのですぐに術式の構築に入る。

 全く同じ術では芸がない。かといって効かない術では意味がない。


 1発1発の威力は下がるが、複数の氷塊を同時に打ち出す術式へ再構成。

 何発まで防げるのか、どこまで削られるのか、これである程度は出せるはず。

 魔力の収縮率を下げ、狙った箇所へ届くようにも調整する。


「カク!」


 手数が多い術は味方に当たる可能性がある。だから声を掛け、一旦引かせる。

 カクのバックステップ。風刃熊とカクの間にレニーが割り込む。


ウィニェル・ラ・(氷よ、収縮し)イゲズビオ・ダン(、敵を穿て)!」


 先ほどと似た術式。違うのは数詞の位置。たったこれだけで、威力は下がり、代わりに手数が増える。

 左腕からは通常よりもやや強い氷弾が2発、右腕からはそれぞれ逆の横回転を掛けたものを2つ。

 威力が下がるとはいえ、どれも直撃すれば骨ごと抉る。それだけの魔力を込めて撃った。

 風刃熊の口元に小さな魔力が集まり、放たれる。

 だがその程度では、1発撃ち落とすので限界だ。

 自身の体を守るように左腕を上げ、そこに魔力が集まっているのを確認する。

 3発が直撃コースへ、しかし消失。


「ダメみたい!」

「んじゃ強いやつをありったけだ!」


 直後、風刃熊が左腕を振り下ろした。

 腕にはまだ魔力が残っていた。

 今まで見ていなかった、腕からの魔術が飛来する。

 魔力は薄く、円盤状。不可視であるため風弾だと理解する。


シュ・エレス(土よ、土塊を)ゲシュ・ダン(これを放て)!」


 咄嗟に唱えたのはエレス系。土の板を作り、これを放出。

 だが空中で掻き消えた。いや、砕かれた。


「……ぐぅ!」


 私の術に反応してか、レニーの防御がギリギリ間に合った。

 ――いや、間に合ってなんかいない。

 直撃した風弾に盾が弾かれ、その弾みかレニーの右腕が変な方向に曲がっている。

 骨折か、あるいは脱臼だ。


「下がれ!」

「しかし……」

「良いから下がっとけ!」


 残ったのは、カクと私だけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ