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三十四話 ひとりでできるもん

 一度宿に帰った。居るとは分かっていたのでノックしたのだが、外で着替えたせいか二度見された。あんな綺麗な二度見はなかなか見れないかもしれない。

 数秒、観察されたと思えば無言でまた調合に戻った。なんか言えよ!と思いつつ覗いてみれば謎の液体や粉を入れてこねている。ねるねるみたいで面白そうだけどよーわからん。

 多分知っておけば何かで役に立つんだろうけど、今は良いかなって……多分レニーが居なくなった後で後悔するパターンだなこれ。逃がすつもりはないけども。

 何か買ってきてほしいものは増えたかと声をかけたが、特に無いと言われた。服に関して言及はなし。つまらん。カクなら大げさになんか言ってくれただろうに、レニーはこれだ。


 荷物を一旦預けまた買い物。さっきも通ったけど、再度大広場へ。真ん中には歴代アマツ王の銅像が色んな格好で――大体は格好付けて――立っている。

 多分、北西門を見てる1番大きいのが初代なのかな?他の11個の像も、それぞれ色んな方向を見てる。道を見てたり、区を見てたり、壁を見てたり。そのうち埋まっちゃったりしないのかな、これ。

 周囲にはいくつかベンチが並んでいて、暇そうな人が結構座ってる。カップルっぽいのも居る。リア充爆ぜろ。

 まだまだお昼だってのに、明らかにお酒を飲んでる人も居る。やれやれ、昼間から酒か……いや、どの口がって奴だな。この前朝から飲んだし。まあ冒険者は朝帰りも多いから仕方ないっちゃ仕方ない。カクの誘いでもあるし、私は悪くない。


 大広場を南に行くと、右手側に商店街が広がっている。ここらへんはちょっと高いから、もうちょっと進まないと手頃なものは買いづらい。

 通りに沿って進むと通りの分かれ目に合わせて小さな広場がある。東に伸びる道は港方面に繋がってるんだったかな?でも港に行くための門は通れないって聞いた。南側の方なら通れるらしいんだけど、ちょっと不思議。東の通りは学校や病院が多くて、あんまり用事はないかも。

 そして南に続く道が、買い物客にとってのメインストリート。さっき立ち寄った古着屋さんなんかもこの広場に面してる。靴屋さんはもうちょっと奥にある。


 まずは、と預かった録石片を確認する。これは要するにメモ帳だ。録石は使い続けるとそのうち小さくなって最後には中の情報が消え始める。そこである程度小さくなったら情報を移し、小さくなった録石はメモ帳として再利用されるわけだ。

 個人で使う分には消費速度はそこまででもないから、多分元は教科書とかの比較的何度も読まれるものだったんだろう。録石片は中身消されて売られてるからよく知らんけど。

 普通の録石より明らかに容量も見た目も小さいが、日常生活で使うには十分だ。いざとなれば物理的に削って魔石粉として使えない事もないし、それに小さいというのは持ち運びに便利であるとも言える。

 記入、というか入力?方法も音声であれば魔人なら大体の人が出来るはず。あ、そういえば他の冒険者で魔力無しなんて言ってた人が居たな。ああいう人はどうするんだろう?

 といつもどおり頭の中をころころ。あんまり記憶力がよくないので考え直す事が大事なのだ。前世でもよくやってた。草を反芻して消化をよくするようなもんだ。多分。


 録石片に薄く魔力を注ぐ。

 それだけで、私にだけ聞こえる声がする。

 レニーとカクから頼まれてたお使いだ。ティナからは何も頼まれてない。ええと……


「アカクサベラの乾燥種を3つだろ。後は小さめの水袋も1つ欲しいな。スクロールは自分で買うとして、なら武具の手入れ用具を2セットくらいだな。こんくらいか?」


 こっちはカクだな。アカクサベラの乾燥種は気付け薬だ。噛むととんでもない臭いがして、ついでにおまけ程度の魔力を回復させる奴だ。この前、呆蝶(クシャルバタフライ)を駆除する時に使った分かな?

 1回だけ使ってみたけど、出来ればお世話になりたくない。


「ツノハの葉を10枚、俺の拳くらいのテルネメの根を1つ、アカクサベラの乾燥種を20粒、アカネルベラの樹液の小瓶1つ、マカギリの小箱3つ、アッキンニの髭1束、火蛇(フィラルスネーク)の唾液の小瓶2つ、パラヴィテールの中瓶1つ。

 後はカクと同じく手入れ用具を2セット頼む。ついでに耐電ブレスレットも新しくしたい。

 それから、気になった香辛料を見かけたら買ってきてくれ――あんまり高いのは要らん。ああ、塩の小瓶も1つ頼む」


 ええと?


「ツノハの葉を10枚、俺の拳くらいのテルネメの根を1つ、アカクサベラの乾燥種を20粒、アカネルベラの樹液の小瓶1つ、マカギリの小箱3つ、アッキンニの髭1束、火蛇の唾液の小瓶2つ、パラヴィテールの中瓶1つ」


 まずここからしてヤバい。アカクサベラと火蛇くらいしか分からん。しかも結構多い。

 いや、待てよ。パラヴィテールって確かめちゃくちゃ強いお酒だったな。……飲むわけじゃあなさそうね。よく分かんないけど多分薬の材料とかそういう感じなんだろう。

 こんなんどこで買うんだ。お酒屋さんは行くとして、他は……店員さんにでも聞くか。うん、そうしよう。地元民に頼るのだ。


 はあ、と一息。

 渡された金額が多いなとは思ったけど、こんなに大量だとは思わなかった。小瓶だけで4つ、中瓶1つ、って、転ばないように気をつけなきゃじゃん。

 日はまだ高い。時間は足りるだろうけど、それでも結構面倒だ。



◆◇◆◇◆◇◆



 お酒屋さんでパラヴィテールをくださいと言ったら、どれのことだと言われてしまった。どれってことは、そもそも種類があるものだということ。もうさっぱり分からん。

 聞き返せばパラヴィテールとは前世でいう蒸留酒の事であるらしく、蒸留酒とだけ言われたんじゃ分からないと言われてしまった。

 なるほど確かに、と薬の調合に使う予定なんだと伝えるとすぐに出てきた。定番商品的なのがあってよかった。帰ってレニーに違うと言われたら、それはもうお手上げだから諦めよう。


 他のほとんどは薬師で扱っているらしい。

 歩いて2分程と近場のお店を教えてくれたので、そこで買う事にした。


 教えられた薬師の店は、想像よりもずっと綺麗だった。

 古臭いお店に顔を隠した怪しげな老婆が……なんて事もなく、やや乾燥した匂いこそするが嫌な匂いではない。店員は100歳は超えてそうな清潔感のある初老の男性。現代に居たら割とモテそうな感じの老け方をしている。

 イケオジ、というにはやや貧相な肉体だが、これは魔人だろうから仕方ない。ロニーですら結構ひょろいんだし。レニーが女に囲われるのはその身体のせいかもしれない。あいつめちゃくちゃマッチョだし。ってことはセレンもモテるのか?


 ツノハの葉は私の顔より大きい。前世で似たようなやつを見たことがある。フキという植物だ。だがツノハの葉は太いところでは葉脈が1cmくらいとかなりずっしりとした印象を受ける。

 テルメネの根は小さなジャガイモだ。こっちはツノハと違い毒も無く食べることが出来るらしい。味は、と聞けば雑草よりはマシ程度だという。食べたことあんのか。これは言われた大きさのがなかったので、小さいものを3つ買う事にした。

 アカクサベラの乾燥種は……と買っていったのだが、マカギリの小箱なるものは置いていなかった。マカギリとは木の名前らしく、雑貨屋にでも置いてあると言われた。つまり素材を指定された木箱を買ってこいって事か。

 ちょっと面倒だ。


 最後になると良いな、と思いつつまずは1番近いところから雑貨屋に向かう。

 雑貨屋の看板は謎だ。卵にアホ毛が2本生えている看板なのだ。

 薬師の看板は葉の、宿屋の看板はベッドの、服屋の看板はドレスの……と一目で想像が付くのだが、なぜか雑貨屋の看板だけさっぱり分からない。

 なぜ卵にアホ毛を生やしたのか。そもそも卵でもないしアホ毛でもないのかもしれないが、しかしあれをみて1発で雑貨屋だ、とはならない。謎だ。


 なんて考えてるうちにすぐに着いた。

 雑貨屋はよく使う。それこそダールに居た時もちょくちょく来ていた。

 耐電ブレスレット、カイロ、ランタン、電気箒……などなど、いわゆる魔道具のうち小さいもの、特に魔石を使わないものはだいたいここで買える。

 もちろんそれだけじゃない。アクセサリーや瓶詰め薬、化粧品、小物入れ、香辛料、染料……他にも色々あるが、Seliaもびっくりな品揃えだ。さすがに中銅貨1枚でなんでも買えたりはしないけども。


 前世でもそうだったが、買い物は結構好きだ。男性としては少し珍しかったと思う。買い物が好きというよりかは、様々に並んだ商品を見て歩くのが好きに近いけども。

 女の買い物は長くてしんどい、なんて愚痴を零す友人も居たが、私は結構好きだったな、なんて。


 この雑貨屋は結構大きい。入ってまず目につくのは化粧品。化粧の歴史は詳しくないが、この世界ではファンデーションやコンシーラー、チーク、リップ辺りが一般的であり、目元はアイライナーくらいしかない。

 町をゆく人の半数は男女問わず化粧をしている。一応私も薄いがしている。

 ただ外で活動する人はしない人も多いんだとかなんとか。あんまり人と会わないせいもあるのかもしれない。ちなみにカクはメイク派で、ティナも最近し始めた。

 なぜレニーはしないのかというと、多分呪人と魔人の種族差だろう。私達魔人は手の平を除く部位からの発汗が前世の人間よりも少ないのだ。

 もちろん全くないというわけではないんだけど、それでも明らかに少ない。見えない人には分からないだろうが、魔人は魔力による温度調整が常に行なわれている。特に除熱が得意らしい。ここらへんは前世の「人間」とは別の種族なんだと再認識させてくれる。

 要するに、動き回っても汗をかきづらいため、よれたり崩れたりがしにくいのだ。だから面倒臭がりでない魔人はだいたいしてる。前世で例えるならば眉を整えるくらいのイメージが近い気がする。

 魔力は戦闘だけでなく、生体の深いところにまで関わっている。魔力切れが危険だというのは、単に頭が痛くなるだけでなく、生命の維持そのものを脅かすからだ。まあ大体は使い切る前に意識が飛ぶから普通は気にしないんだけども。……もしかしたら意識も魔力に依存してる?


 と、また考えがどっか行ってしまった。今は目の前の棚だ。安いのをいくつか買っていこう。コスパの良いのが混じってるかもしれないし、合わなかったらティナとかに押し付ければいいし。

 今日自分に使える分は小銀貨4枚くらいしかない。あんまり使いすぎるのは好きじゃないし、他にも何か買うかもしれないから、あくまで安い奴だけにしておこう。


 マカギリの小箱はすぐに見つかった。10cm程度の正方形の小物入れだ。単に入れ物として使うなら素材の指定は要らないだろうし、そもそも既に持っているはずなので、これはこれでまた何か使いみちがあるのだろう。

 つい近くにある別の小物に目移りするがこれは我慢。ガラス製の綺麗なカップも、木彫り卓上鏡なんてのも、私達には無用の長物だ。

 いや、待て。この折りたたみ式の手鏡はちょっと欲しいな。コンパクトミラーと言うんだっけ。大銅12……買っちゃおう。あ、このコームも……いやまだいいか。というかおつかいに来てるんだぞ?アンジェリアよ忘れるな。


 後は武具の手入れ用具。セットなんて言うが私はあんまり詳しくない。なので店員に聞いてみれば、

 穴を塞ぐ釘のようなもの、替えの革紐、錆落としの薬剤、錆止めに塗る粉、この粉を定着させるための油、砥石――

 この辺りのことではないかという。当然と言うべきか、セットで売られているなんてこともなかった。

 なるほど、これは私にはやや荷の重いイベントなのかもしれない。名前ですぐに分かったのが革紐と砥石くらいしかないぞ。ていうか革紐ってこんなに種類あったのか。

 ゲームで鎧の手入れなんてしたことないし、興味が湧いたこともあんまりない。しかしこれが現実となるとまた面倒なものらしい。


 もしかしなくても魔術師は、私は楽なのかもしれない。

 普段は各所を守る程度の革鎧を付けているだけであり、これは汚れを落とし、たまに油を塗り込んだり消臭粉を塗り込んだり程度と面倒ではあるが他に比べると楽なものだ。そもそもレニーが防いでくれるから、攻撃なんてほとんど受けたことがない。

 一応ダガーを携帯しているが、魔石取り以外では滅多に使わないし、こっちは汚れを洗い落とすだけ。サンから砥がずに洗うだけにしなさいと言われてるのでその通りにしている。だから手入れタイムは結構暇なのだ。なんで錆びないのかはしらない。

 むしろ1番面倒なのはマントだ。結構汚れるし、たまにほつれる事がある。ちゃんと洗わないとすぐ臭くなるし、臭くなったら寝たくもなくなる。

 カクも似たようなもんだけど、私の鎧より守る箇所が多い。前線向けの革鎧って感じなんだろうか。一応、手甲だけは金属らしい。


 一方レニーとティナは金属鎧を着けている。

 ティナはまだ良い。カクの鎧をそのまま金属にしたような、比較的小さな物だから。

 でもレニーはガッツリ鎧を着込んでる。そりゃ騎士様の魔石入りのプレートメイルみたいな素晴らしい格好ではないけど、それでも見るからに重そうな鎧だ。実際、ゾエロ無しだと持ち上げるのも難しい。

 スプリントメイルっていうんだったかな?胴体部分はチェーンメイルの上に小さな金属の板が何枚も貼られてて、それ以外の部分は革がベースだがやはり部分的に金属の板が貼られてる。一体いくらしたんだか。ちなみによく見るとところどころハゲてたりする。

 盾もそうだ。そこらの武具屋では円盾がほとんどで、大体が鉄枠に革や木を張ったり嵌めたような見た目なのに対してレニーのは表面部分がほぼ金属だ。やっぱり重いし、そもそも丸くない。カイトシールドってやつにちょっと似てるけど、前世では見たことがない形をしてる。

 どちらもかなり手入れが大変そうで、たまにカクやティナが手伝ってるのを見たことがある。……え、私?やり方知らないから持ってみて「重ーい!」ってしかしたことないよ?


 ただ、どういう風にやるかは結構見慣れてる。だから言われた品が正しいんだろうなというのはなんとなく分かる。でも1回でどのくらい使うかとかは知らない。

 うーん、2人分で4セットか。どのくらい必要なんだろう。


 店員にどんな装備かを伝えてみたら、恐らく、と前置きした上で見繕ってくれた。結構な量だ。レニーの1セットはカクの3セットくらいある。これだけあるとさすがに重たい。

 武具は買うのにかなりのお金が掛かるけど、メンテナンスで更に掛かるらしい。前世でいう車みたいなもんか。あれもあれで維持費が高い。あんまり使わなかったからすぐに手放してしまった。


 最後に、ここ数日でかなり消費した分の香辛料や調味料を購入。マサポネという甘酢は結構美味しかったのでちょっと多めに買い込む。このくらいは怒られたりはしない、はず。


 おつかいも無事終えられそうだし、楽しみとしてのお買い物も出来た。

 うむ、良い1日だ。

 次が閑話、その次も短い話なので3日連続更新にします。

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