三十二話 口説き
ここから新しいです。
記憶が曖昧な部分もあるので間違えていたらすみません。ツッコんでください。
「着いたぞ!ダーロ・アマツ!!」
2つの門を潜り、いの一番に走り出したと思えば大声を上げるカク。
「ちょ!ねえ、ねえ!恥ずかしいからそういうのやめない!?」
「ダーロ・アマーツ!!!」
突然走り出すもんだから、私も一応はついていったのだが、これだ。
私のツッコミはティナに上書きされてしまった。なんでこいつまで便乗してんだ。……いや、そういう奴だったっけ。なんか到着まで凄い時間が掛かった気がするんだけど、気の所為?
「……片は受け取っておいたぞ。換金に行こう」
こういうとき、しっかり者のレニーが役に立つ。私じゃ振り回されちゃうのに、レニーは振り回されない。凄い。
「あれ?シェンさんは?」
と気になり聞けばレニーは海側、つまり南を指す。そこには相変わらずの荷物を抱え、ダーマであれば大通りと呼ばれそうな道をゆくシェンさんが居た。
簡単な護衛とはいえ、三泊四日の旅を共にしたのだ。別れの挨拶くらいさせてくれても良さそうなもんだが。
「お前らが走り出したからな。残念そうだった」
というのは、あちらも同じだったらしい。つまりカクが悪い。私は悪くない。悪くないったら悪くない!
「観光も良いが、まずは宿、それからギルドで換金だろう。カク!」
振り返れば未だにカクとティナがぴょんぴょんしていた。何やってんだあいつら。ガキか。……魔人の20歳はまだまだ子供か、忘れてた。つまりガキだな。
ていうか観光?面白そう。いくつか録石買おうかな。飽きたら実家に送ればいいし。あ、そろそろ実家に手紙も送った方が良いのかも。
でもまずは宿だ。一度とはいえ野宿をしてるんだ。夏とはいえやっぱり夜は寒いし、地べたで寝るとなんか関節が痛い。おじいちゃん……いや、おばあちゃんになった気分だ。
「おう!んじゃまずは情報収集からだな!」
珍しい。こういうとき何故かおすすめの宿だの飯屋などを知っているカクだが、今回は1から始めるらしい。
「そうだな。ならギルドに向かおう」
あ、あれ?宿は?宿が先じゃないの?もう鎧脱ぐ気満々だったんですけど!
◆◇◆◇◆◇◆
「ほー。んじゃあの爺さんはまだ生きてんだ?」
どうしてこうなった。
今私は酒場に居る。席には見知らぬ冒険者が4人。顔も名前もさっき知った、つまり初対面の相手と酒を飲んでいる。真っ昼間どころかむしろ朝に近い。
ギルドには寄ったが、宿はまだ決まっていない。つまりこの重い鎧――レニーに比べれば遥かに軽いが――を脱げていない。ホントにどうしてこうなった。
カクは向こうのリーダーと雑談している。これが彼なりの情報収集なのだろう。よぉ!と声を掛けたとき、向こうは困惑していた。初対面の相手から親しげに声を掛けられれば、大体の人間は困惑するんじゃなかろうか。
しかし今は楽しそうだ。ああいう能力は私にはない。欲しいと思ったことはあるが、努力はしたことがないし、するつもりもない。多分、根本的にコミュ障なのだ。仕方ないのだ。アンさんは明るく喋るのが苦手なのだ。
一方ティナは男戦士と意気投合したらしく、こちらもこちらで楽しそうだ。さっきから互いに武器を取り出し合い、たまにカクや向こうのリーダーと怒られている。
レニーは魔術師と弓術士と思われる女2人に囲われ微妙な顔をしている。たまにこちらに目配せしているが、何をしろっていうんだ。モテる男は辛いよってか!
私?私はだな、枝豆のようなものを食べている。塩味が効いていて結構おいしい。
考えてみてほしい。4人ずつのパーティが飲み交わし、なぜかレニーが2人持っていってしまったのだ。私の相手はこの枝豆になることは自白の名では無かろうか。
合コンで見たことあるやつだ。人気の男女が複数持っていくせいで、余り物が出る。今回はそれが私だったってことだ。くそ。この豆うまい。
「そればっか食ってんな」
「!」
プチプチと豆を皿に出し、ある程度まとまったら食べるフェイズに移行する。そしてかすかに苦みのある、炭酸の効いたお酒を飲む。アルコールはあんまり強くないけど、妙に炭酸が強い。
なんて繰り返しながら考えていたら突然カクに声を掛けられた。豆を出すのに集中していた私は驚き、豆が飛んでいってしまった。おおすまぬ大地よりの贈り物よ。私は君を食べることができなさそうだ。なぜならちょうど通りがかったウェイターに踏み潰されてしまったからだ。アーメン。
「ハハッ、何してんだよ。一発ネタか?」
「……突然声を掛けられて、驚かない人間は居ないと思うんだよ?」
なんて愚痴っぽく口を尖らせてみたがどこ吹く風。
気づけばこの2人の会話に参加させられていた。
彼らは一塊というダーロを拠点とするパーティらしい。由来とかは聞いてない。
カクとは当然初対面だったが、同じく仕事終わりだったので丁度いいやと受け入れたとか。なんでやねん。警戒心とか無いの?いや、そもそもカクは許可しそうな人間を見つけて声を掛けたの?謎だ。
ダーロが拠点ともあり、目論見通りある程度の情報を得た。
例えばダニヴェスにおける八神教の本山があるのだそうだ。そういえば、門をくぐって11時の方向に遠目からでも分かる程度には大きな建物があった。もしかしたらあれの事なのかもしれない。
しかしあいにくと私は宗教に詳しくないし、特に何も信仰していない。というか、自称神様と遭っちゃった私が、今更どんな顔をして神を信じればいいのだろうか。
ちなみに知り合った魔人の大多数が八神教の信者である。サンとロニーも確か入会してたはず。といっても、別に礼拝があったりするわけじゃなくて、聞いてる感じだと神道に近い。
前に「縁起が悪い」って言ってたし、カクも多分八神教なんだろう。孤児院出身らしいし。一塊のリーダーもそうっぽい。もしかしたら私も無意識のうちにそれっぽいことしてたりして。宗教というよりかは文化としてだけども。
一応エヴン教のもあるとか。こっちの信徒は周囲では見たことない。確か一神教の宗教だったはずだ。信徒に「神様ってのはただの頭に響く声だよ」って伝えたらどんな顔をされるのやら。
関係としては日本におけるキリスト教と神道に近いんだろうか。あれ?仏教どこ?
個人的には宗教なんてどうでもいいと思ってる。
神なんてのは1人1人の頭の中に居れば良いし、それを他人と合わせる必要があるなんて考えたこともない。実際、頭の中から声したし。争いの種なんて撒かないほうが無難だから口には出さないけど、神なんてのはお腹が痛い時に祈る程度でいいのだ。
それからダーロの侵入制限区域を教わった。ダールにもあったが、要するに入っちゃダメなとこがあるのだ。
ダーロの場合はむしろ入れるところの方が少ない。これは身分証によってある程度変わるらしいが、冒険者であれば、南の宿屋や飲食店の多い区は出入り自由。区域としては滅多に呼ばれないけど、壁外の農場辺りは多分自由。
西の冒険者ギルドや酒場の多い区、南西の商店や職人の多い区、東の宗教施設や学校の多い区、南の海沿いに広がる港のある区。これらは大丈夫なとことダメなとこが混ざってる。
北にある練兵場のある区、それから北東に広がる貴族の住む区はダメらしい。こっちはまあ、入れると言われても特に行かないだろう。用事もないし。
あんまり興味の無いところだと、竜殺しで有名なノジミって人は未だ存命だとか。私からすれば、誰とはならないけど、そういえば歴史書で見かけたな、程度の人物だ。
平成生まれ的には昭和天皇とかあそこらへんがイメージに近いのかもしれない。聞いたことはあるし、何をした人かもなんとなくは知っている。だが、身近ではないし、どんな人かも詳しくはない。
お伽噺にも時々出てきたから、もうちょっと詳しいかもしれないが、距離的にはそのくらい遠い人だ。
最後に、これはカクからの情報だけど、どうやら街によって発行される拓証は微妙に違うらしい。金型とかそういう問題?と聞けば、なんか輝きが違うのだとか。さっぱり分からん。魔力視を強めてみても、やはり同じに見える。少なくとも、魔力的な差異はないように見える。
◆◇◆◇◆◇◆
めちゃくちゃ飲んだわけじゃない。ほろ酔い気分って感じ?こんな時に冷たい空気を吸うのも良いけど、お日様を浴びるのも悪くないかも。
一塊と別れして、宿に着き、ベッドに飛び込んだ。ああ、もうだめだ。脱ぐのも面倒だ。このまま寝落ちしたくなる。
ティナとカクは元気だ。2人共私よりめちゃくちゃ飲んでたのに足元が覚束ないなんてこともなく、武具の手入れをしている。
レニーは散歩に出たらしい。大盾が置かれてる辺り、なぜ町中で大きな武器を担いでいる冒険者が居ないのかがよく分かる。そして妙に綺麗にまとめられている。性格なんだろうか?
「手入れ終わったらよ、武器屋行かない?」
「良いけどよ、あんまり金ねーぜ?あんだけ飲んだから飯も入らなさそうだし」
やっぱり元気だ。
そしてカクの言う通りお金が無い。由々しき事態だ。
パーティ用の財布も宿屋やスクロールの購入、後は手入れに使う雑貨、糧食、その他色々で実はあんまりない。私の魔力粉だってここから購入している。
最初は個人で買うつもりだったが、ある程度は全体で負ったほうが良いだろう、とはレニーの意見。
ちなみに1人だけ明らかに消費金額が高いカクは個人で払うの一点張りだったが、使用後にパーティから出すかを決める事にした。今の所はほぼパーティから出てるんだけども。
最初の頃は節約しだしてパフォーマンスが落ちるなんて事もあったので、レニーがスクロールを押し付けたりなんて場面もあった。今はそんなことはないけどね。




