三十一話 街道
ほとんど書き上がってたものです。日曜日にもう1本上がる予定です。
ダーマに戻り4日が経った。宿の契約も切れる丁度と言う頃、私達はダーロへの護衛クエストを見つけ、それを受けた。
「結局ほとんど何もなかったな、あの街」
太陽は頭上を超えてやや後方、こっちの世界だと15時すぎ、つまり1番暖かい時間。ダーロへの道すがら、特に警戒心もなく雑談中。
「そう?腹ペコで死にかけるとかいう貴重な体験は出来たけど」
クエスト自体は6級向けのものだが報酬はやや少額。とはいえダール・ダーマ・ダーロを繋ぐ道はダニヴェスの主要街道とも言われており、安全性は高いと聞くから仕方がないのかも。
「悪かったって。マジで」
であれば、単に移動のついでに受けられるクエストとして捉えたほうが良いのかもしれない。少なくとも、腹ペコで死にかけることはなさそうだ。
「へぇ、何があったんです?」
「ちょっと背伸びして難しめのクエストを……失敗してしまったんですが」
「あはは。死ななかったならいいじゃないですか」
依頼主の外見は特にこれと言った特徴のない無個性な青年、商人らしく大荷物だが、あまり儲かってはいなさそうだ。この無個性さはあの双子とは別のベクトルの無個性だ。あっちは兵士Fでこっちは町人Cってとこ。……うーん、死んだ人をいじるのは良くないかもしれない。口には出さないでおこう。
なんか妙な濃さの魔力を持ってる……1ティナくらい?これも口に出したらティナになんか言われそうだな。そもそも1ティナってなんだ!って言われそうだ。個人的な基準だ。
というか最近気付いたけど、もしかしたら私もティナも魔力が多いとはいえ冒険者基準で考えると特別でもないのかもしれない。シェンさんですらこれだし。いや、一応私は化け物のお墨付きがあったりしないこともないけど、こうも周りの魔力が多いと不安になる。
もちろん、その扱い方や一度にどれだけ操れるか、その効率は、そもそも外に向かうものか内に向かうものかと、状況次第で評価は変わる。つまりところ、魔力の絶対量がそのまま強さではないし、少なければポンコツってわけでもない。
例えばアーグルさんなんかはその貧弱な魔力量に反してとても強かった。彼は一般人より多い程度の魔力しか持ってなかった。……シェンさんもまた魔法使いだったりするのかな?言うほど希少でもないのかもしれない。
いや、あの氷魔法のおじさんは見た目そんなに魔力はなかった。ってことは、そもそも魔法使い=魔力が多い、というわけでもないのかも?
……っと、また考えてる。護衛クエストだっていうのに、上の空じゃダメだな。
両の手で頬を叩く。よっし、これで気合が入ったぞ!何事も形からだ!
「何してんだ?」
と、素っ頓狂な声をあげるのはティナ。私と同じく馬車の後方に位置しているが、左右は反対だ。私が右側で、ティナが左側。理由は特にない。
「ちょっとぼーっとしてて。目覚めろー!的な?」
「この街道はきっちり整備されてるもんなぁ。アタシもちょっと眠くなってきたところ」
そういうとティナは私と同じように両の頬を平手で叩く……にしては、ちょっと力を入れすぎではなかろうか?
「ててっ、効くなこれ!」
「いや、ふつーはそんな強くしないと思うけど……」
こんな風にふざけては居るが、それはカクが居るからだ。
カクの鼻は魔力探知能力に非常に長けている。私の目と違い、風向きだったりと面倒な要素もあるが、今は軽い向かい風。こんな時が1番利くとは本人談。
そもそもこの街道は魔物がほとんど居ない。ダールからダーロへの街道は兵士の手がよく入っている。おかげで少々緊張感に欠ける。
「こんな事言っちゃアレだけどさ、街道使うなら護衛は要らないんじゃねえか?」
軽い雑談の中、ふとカクが疑問を投げかける。
「確かに整備はされていますし、魔物や賊もほとんど出ません。ですが最近、悪い噂が絶えないんですよ。
ほら、ケストと戦争中じゃないですか。どうやら風向きが悪いらしくてですね。
以前よりも街道の手入れも届いていないとか。ほら、パトロールも少ないでしょう?」
と言われても、私はダーロに行ったことがないのでその以前はどのくらいの兵士が巡回していたのかを知らない。
「風向きが悪い?数年間ずっと睨み合いだって聞いてたけど、なんか変わったのか?」
「ええ、ダーロ北東部の砦がここ数ヶ月でいくつも落とされているらしい。私のような木っ端な商人にすら伝わる始末ですよ。
賊も見られるようになったと聞きますし、危険な賭けは嫌いなんです。
なので、今のうちにエレヒュノイズ行きの船に乗ってしまおうかと」
エレヒュノイズ。群島からなる連合国家であり、島ごとに主要な種族が違うとかなんとか。布人が主権を握ってる島もあるとも聞いたことがある。
国外の情報、とりわけ大陸外ともなればほとんど手に入らないし、まだ文字も全部が読めるわけでもなく。あまり詳しい事は分からない。これならニアケさんにもうちょっと教えてもらうべきだったな。
……いや、シェンさんに直接聞いてみちゃうのもありなのでは?
「エレヒュノイズって、どんな国なんですか?」
シェンは難しい顔をし、少し考え、それから答えてくれた。
「一言では言い表せないですね。複雑な国です。そもそも島ごとに主要な人種もある程度違いますし……」
詳しく聞けば、大別して布人島、森人島、獣人島、呪人島に分かれるらしい。あれ?魔人島無いの?と聞いてみれば魔人が主な島は無いらしい。少し悲しい。
一般的な商人は交易島と呼ばれる大きめの島がメインだとか。どんなところかと聞けば、文字通り交易のための島だとか。
エレヒュノイズの輸出品は一度交易島に集められ、また輸入品のほとんども交易島を経由することになってるらしい。
海流と距離の問題で交易島以外は大陸行きの船を出しづらく、この島を奪い合った過去があるとかなんとか。
そんな経緯からかはともかく、現在は共有の土地として扱い、いわゆる首都機能もこの島にあるらしい。
ついでに言えば各種奴隷は扱っていないらしい。変だな、ダーロではエレヒュノイズから布人奴隷を仕入れてると聞いたんだけど……。
「名目上は、ですよ。国民を商品として輸出しているだなんて、あまり大きな声では言えないでしょう」
シェンさんは交易島と、それからテンディと呼ばれる布人島以外には足を踏み入れたことがないと言う。
確かに商人であればそれだけで十分なのかもしれない。
「まぁ、昔の記憶です。父に連れられ色々なところを見て回ったんです」
遠い目で、しかし穏やかな表情で彼は語ってくれる。
今日はまだ、着かない。




