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三十話 飛翔

 さよなら旧プロット。こんちわ新プロット。

「他に手は……無いか」


 衰えていくだけの現状を打破すべく、カクに相談してみた。飛び降り、魔術でなんとかしてみようという案だ。

 正直自分1人で4人を支えきれるとは思えないが、だからといってここで死ぬなんてのは御免だ。


「下に見えている陸がどこか分からない。これが1番の懸念だな」


 難しそうな顔なカク。それについてはさっき説明した通り、落ちていく間に周囲を確認、その後人気のある場所で聞けばいいと思うんだが。


「いや、ここから見る限り一帯が大自然だろ?東の大陸だって可能性すらある」


 なるほど盲点だった。魔人(マジケル)大陸の東にはほとんど手付かずの大陸があるらしい。らしいってのは探索しに行った人が帰ってきてない……手付かずってところで、一応世界地図にもぼんやりとは書かれてる以上実在はしているっぽい。

 ただ人が住んでいない可能性すらある以上、確かに下手に降りるのは危ないのかもしれない。

 魔人大陸の北の方にはドラゴンがたくさん住んでいるともいうし、もしかしたらそれ以上に危険な魔物も居るかもしれない。

 でも、だからって、ここに残る?それは無い。だって、このままじゃ死んでしまう。


「確かに言う通りなんだが……うーむ」

「アタシは飛び降りに賛成なんだがなぁ」


 ぽつりと体育座りで呟くティナ。色々あったが要約すると、バカは黙ってろってことで隅っこに追いやられてしまった。こういうときこそ相談すべきだと思うんだけどね。私の中でのカクの評価が少し落ちた瞬間でもある。

 ちなみにレニーはちゃんと戻ってきてる。まぁいつもどおりあんまり喋らないけど。


「……気になることが」

「なんだ?」

「そもそもここはどこだ」

「分かってたら苦労はしてねえよ」


 久々に口を開いたレニーが投げた疑問は、もはや私達が何回も考え諦めた疑問。イライラしてるカクが食ってかかるが、レニーは言葉を続けた。


「息も出来るし、寒くもない」

「何言って――そうか」


 意味が分かった。確かに下には地面が広がっているし、その風景からここは空に浮いた洞窟的なものかと思っていた。

 この世界でも同じかは分からないが、少なくとも地球では高度が上がれば上がるほど酸素濃度は低下するし、気温も下がるものだ。

 だがここは。多少の寒さは感じるものの脱いだ上着を着ればなんとかなる程度。なんだったらダールよりも暖かい。

 確かに変だ。ダンジョン固有の何かが働いてるとか、そもそもそういう世界なのだと言われてしまえばそれまでだが、どうやらそうでもないみたいだし。


「……いつ仲直りしたんだあいつら」


 もしダンジョンの力でこの気温や酸素濃度が維持されているとして、換気はどうやっている?やっぱり魔術、あるいは魔法?でもそれをする意味は?

 そもそも殺すのが目的なら、ダンジョン自体の温度を極端にしてしまうか、あるいは無酸素にでもしてしまえばいい。

 でも大蟻のダンジョンはそうではなかった。となればそのような能力はダンジョンにはないのでは?

 なら外に見えている景色は――


「確かめてみる」

「あぁ」


 きっと、嘘だ。



◆◇◆◇◆◇◆



 洞窟の終端、見える景色はやっぱり絶景で、偽物だなんて思えない。

 だがレニーの疑問が、私の考えが正しければこれはまがい物だ。


エル・クニード(水よ、溢れよ)


 左手に魔力を込め、慣れ親しんだ発水の魔術を唱える。

 手のひらから流れ出た水が通路から外に流れ出し――落ちた。

 だがただ流れ落ちただけではない。2mくらい?そこらへんの高さで不思議と溜まっていって……ついにはトゲの生えた落とし穴があるということが分かった。

 更に魔力を込め、ひたすら水を注ぐと溢れ出し、直線状の通路になっていることまで判明した。


「……飛び降りたら危なかったかも?」

「だなぁ……レニー、サンキュ」

「あぁ」


 対岸までは1m程度。さて、誰から飛ぶ?お互いにそんなことを考えているのかしばしの沈黙が訪れた。カクに目で行けと命令しておこう。ちらっちらっ。


「しゃあねぇ。俺から行くか」

「さっすがリーダー」


 助走を付け、カクの大ジャンプ!……どうやら無事らしい。


「あーなるほどな」

「そっちからはどう見えるの?」

「見たほうが早い」


 またそれか。何故か微妙に目が合わないのが気になるが、まぁいいや。

 えいっ。



 無事に対岸にたどり着き、振り返ると……なるほど、ただの壁にしか見えない。隠し通路みたいなものだったのかな?


「ここって、模倣人形(ドッペルゲンガー)の居た部屋かな?」

「通路の位置が変わってるが、そうっぽいな。ってことは……」


 他のメンバーの到着を待たずしてカクが部屋の探索に向かう。模倣人形(ドッペルゲンガー)が復活してないっぽいのは唯一の救いかな?このコンディションでもう1回戦えって言われたら、今度こそ負ける自信がある。……自信?


「やっぱりだ!この部屋、いくつも隠し通路があるぞ!」


 部屋を調べていたカクが声をあげた。この部屋からは無数の通路が伸びており、その全てが隠し通路になっているらしい。いや、全てがってわけでもないのか。多分全部の通路に幻の壁があって、常に何本かは見えなくなっているんだと思う。

 ……私を抱えて出口に走っていったって言ってたよな。ってことはあの落とし穴を回避出来たってわけで。つまり別の通路を通ってあの部屋に?

 うーん……考えても仕方無いか。今はどこから外に出られるかを調べるべきだ。



◆◇◆◇◆◇◆



 ダーマを出て8日目。

 私達はようやくダーマに帰ってきた。


「おや、アンタら生きてたんか」


 久々のダーマ、久々の宿、久々の他人(宿主)……ダンジョンなんて行くんじゃなかったと思っていたけど、帰ってこれた時の安堵というか、安心感というか……癖になるかもしんない。

 生きて帰れたからこそ思えるんだろうけどさ。あそこで死んでたら、きっと最後は「ダンジョンなんて糞食らえ!」だったと思う。


「1週間以上も帰ってこなかったから、てっきり死んだもんかと思ってたよ」

「もう少しで死ぬところだったけどな」

「命あっての物種ともいうからねぇ。昨日の分の夕飯なら残ってるが、食べるかい?」

「あぁ、貰おう。腹ペコだ」

「あいよ」


 ぐぅ、とお腹が鳴った。ダンジョンの外に出てから果実を少し齧った程度でほとんど食事をしていなかったし、昨日の残り物でもなんでも良いから確かに食べたい。出来れば温かいスープが飲みたい。

 カクの返事に、誰一人文句は言わなかった。


 部屋に入り、ベッドに倒れ込むこと大体10分。

 食事の準備が出来ましたと宿主の息子に呼ばれ、ほとんどの客は昼食を食べに行ったかしてがらんどうな食堂で、久々の温かい食事をすることとなった。


「……悪かった。少し……いや、だいぶ軽く考えてた」


 出てきた食事を前に、カクが言いづらそうに口を開く。


「危うく死にかけた。安易にダンジョンに行こうだなんて言わなきゃ良かった」


 少しの間の沈黙。耐えられずにか、次に口を開いたのはティナだった。


「ま、生きて帰って来れたんだ。いい経験になったと思うぜ?」

「……だな。罠師が居ない紫陽花にはダンジョン攻略は不可だ」


 罠師。ゲームなんかじゃシーフとか盗賊って呼ばれる罠の解除に特化した人の事だ。昔やってたゲームのせいでどっちかっていうと仕掛ける側の印象があるけど、この世界ではどうやら逆らしい。

 特化とはいえ戦闘能力がないわけではなく、あくまで罠を看破したり解除出来る人の事を呼ぶ時も罠師だったかな?魔術師よりかは見つけやすい反面、1つのミスでパーティ全体が危機に陥る事もあって、責任重大だとかなんとか。

 落とし穴くらいなら私もなんとか出来るし、罠が見破れるのであれば罠師になるのかな?名乗る予定はないけどさ。


「この街で見つけるつもり?」

「いや……少なくとも大森林のダンジョンは避けたい」

「踏破者ゼロだもんねー」


 そう、大蟻のダンジョンは未だ踏破者が居ないと言われている。実際には私達みたいにこっそり潜ったやつも居るわけで、その中に居るのかもしれないが、少なくとも一般的には未踏破ダンジョンだ。

 さすがに入り口程度なら難易度も低いと思っていたが、どうやら甘く見すぎていたらしい。

 二度目の人生、大切にしていこう。

 旧プロットでは、ある人物によって助けられるコースでした。彼にはもう少しだけ楽屋で待機してもらいましょう。

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