二十八話 模倣人形3
魔物の居なくなった部屋で多少の休憩と装備の点検を行ない、更に奥へと進むことになった。正直身体中がズキズキと痛み、帰りたいなと思ってもいたが自分勝手でやったことなので口には出さないでおいた。
あの部屋からは3本の通路が見えていたが相談の末左の通路を選んだ。相談っても単にチョキが親指と人差し指で作るやつに変わっただけのジャンケンだけど。
先程の部屋とは違い、入ってきた通路と同様の洞窟が広がっている。ただ1つ違う点を上げるなら床が黒一色でかつ蠢いていることだろうか。
足場には小さな蟻が非常に多数、徘徊している。歩くたびにぷちぷちと音がなり、背筋がぞわぞわする。正直いい気分はしない、それどころか気持ち悪すぎる。虫は別段嫌いな方だとは思っていなかったが、ここまで数が多いなら話は違う。
幸いにも靴の中に入ってくる事も噛み付いてくる事もしないが、ああ、悍ましい。虫が嫌いになりそうだ。
分かったことがいくつかある。カクは虫があまり得意ではないし、ティナは全く平気ということだ。……前世ならカクは男らしくないと言われてるかもね。こっちの世界じゃ性に関する偏見はだいぶ薄い。
恐らく呪人という妙な存在のせいだと思う。前世の一般人種がこれならきっと新宿はあそこまで盛り上がることはなかっただろうし、色々な問題が解決したんじゃなかろうか。いやむしろ色々な問題が追加されたりして。トイレとか。
っとこれだ。すぐ色々考え始めるから私の頭は都合が悪い。
小蟻の蠢くこの通路は非常に狭い作りであり、若干身を屈めなければ通れない。レニーの盾がたまに支えてしまうほどだ。
まさか自分の低身長が活きるとは思わなかった。なんとギリギリではあるが屈めずとも通れるのだ!……言ってて辛くなってきた。未だにカーチャンよりも背が低いってどゆことさね。はよ伸びろ。
身体中がズキズキと痛む現状、変な姿勢をせずに済むのはラッキーかな。ぶっちゃけ次の戦闘が終わり次第出口に向かいたい。
だがきっとそれは叶わない。大森林には強力な魔物も数多いし、そもそもダンジョン内にはいくつか安全地帯と呼ばれる箇所があるらしい。安全地帯まで進んで一泊するとはなったのだが、実際どの程度まで潜ればあるのかがわからないのが唯一の不安だ。
1階層にもあるとカクが言っていたから多分そこまで深くはないんだろうけど、1階層がだだっ広かったらどうするつもりなんだろう?
と、特に痛む左脇を摩りながら歩いているとカクのハンドサイン、停止だ。今度は一体何だ、と魔力視を……っとこれは使えないんだった。
「トラップだ」
カクが指をさした地面だけが不自然に見えている。
小蟻が全く居ないのだ。奥行き50cm程度、横幅は壁から壁というべきか。とにかく普通に歩いていれば確実に踏んでしまうようになっている。
「……カク。解除は」
「いや。困ったな、そういや俺出来ねーじゃん」
「は?」
「うっかりしてた」
うっかりだとかそういう問題じゃないと思うんだが。というかこのくらいだったら――
「エレス・ウニド・クニード」
地面から土壁を直接生成させる。蟻が蠢いているせいで気持ち悪さはあるが、多少は仕方ないだろう。
土壁で出来た橋で罠を遮ってしまえば渡れるはずだ。
「お、サンキュ。さすが魔術師」
「いや、戻るべきだ。今後の罠にアンの魔術だけで対処するのは難しい」
「……それもそうだな。帰るか」
なんだよ、痛む体を引きずって進んできたのに結局戻るんかよ。でもどこに行くつもりなんだろう。今日中にダーマに戻るのは難しいだろうし、とはいえ大森林で野宿はもっと難しい。
大森林を抜けられればある程度なんとかなりそうだが、ダンジョンに辿り着くまでに何時間も歩いた。はたして間に合うんだろうか。
それだけじゃない。最初の部屋の模倣人形が復活していたらどうするつもりなんだ。
◆◇◆◇◆◇◆
悪い予感は的中するものだ。やったか!?はやってないし、ゾンビ映画のアジア人は死ぬ。こういうのはフラグと呼ばれるものであり、模倣人形が復活していたら?なんて考えてしまったら当然復活するもんだ。……私のせいか?
だが最悪の状況ではない。復活した模倣人形は1体のみ、私に模倣した奴だ。どうやら先の戦闘で完全に倒しきれていなかったらしい。そういや他の3体は土人形の姿に戻ってたし、そもそも魔石抜かなかった気がするもん。そら復活するわ。
「2人は他の魔物が出ないか警戒、アンは援護だ」
「ありがと」
カクが居なかったら私1人でまた戦うことになっただろう。でも今回はカクの手が空いてるし、カクは私同様魔力の識別が出来る。
今回は2対1だ。もちろんカクが前衛の私が後衛でいつもの布陣。ここにレニーも居れば文句無しだったのだが、あいにく彼は引っ込んでる。あれ?私滅多に近距離戦しないんだからレニーも呼べたんじゃない?……まいっか。どうせすぐ終わる。
「んじゃ好きにぶっ放せ。でも、あんまでかいのは勘弁な!」
軽口を言いながら突っ込むカク。余裕そうだな、私は弱いと思われてるんだろうか?こっそり尻にぶちこんでやろうか……もちろん氷弾だ。ナニは付いてないし、そういう趣味もない。
「ウィニェル・ティダン」
「シュ・イゲウィーニ!」
今回も私の先制、氷弾を5つ飛ばしてみたが模倣人形の風に弾き飛ばされる。
模倣人形が右手をカクへ向け、そのまま風で吹き飛ばす。
「ドイ・レズド・ダン」
「シュ・エレス・クニード!!」
「ぐぅっ!!」
模倣人形の拡散雷槍。咄嗟に土塊を作ろうとしたが術式構築失敗、雷撃がカクを襲う。
おかしい、さっきの奴より強い気がする。
「カク!大丈夫!?」
「もろに食らっちまったな。けどまだ大丈夫だ!」
「さっきの模倣人形より――」
「ヴウィーニ・スビオ・ウズド・ダン!」
会話の時間すらくれないか。
詠唱や轟音からして放たれたのは上級爆風弾と呼ばれる威力と範囲のバランスが良いやつだ。
おまけに速度も早く不可視というふざけた部類の魔術。
直撃はもちろん、近くで破裂されるだけで大怪我は必須だ。
だが避けるだけの時間は無い。せいぜい3術までの魔術で防ぐ時間しかないだろう。
ダメだ、考えつく限り対処は出来ない。
いや、1つだけある。間に合わずに直撃するくらいならやってみるか。
「アルア・ウィーニ・キュビオ!!」
模倣人形の腕と目の動き、詠唱時の私達の立ち位置、そして私ならどこを狙うか。
3点から恐らくここであろうという軌道を計算、予測。
右手に魔力を集中、そして詠唱。
私の苦手な魔言だが、きっと成功する。
成功しなければ、カクも私も良くて重症、最悪死ぬ。
だからこれは、成功する。
魔力が正常に通り、詠唱成功を確認する。
同時、右手に衝撃が走る。魔力が体に流れ込んでくるのが分かる。
このままでは内側から破裂しそうだ。だからユタはクニードで捨てたのか。
「う、く、ゼロ・クニード!!」
体内に流れ込んだ魔力を無理やり左手に集め、詠唱。
流れ込んだ魔力の半分は排出出来たが、逆にいえば半分は吸ってしまった。
感覚で分かる。魔力の流れる管のようなものがズタズタだ。
私の右腕は当分使い物にならないかもしれない。
いや、それだけじゃない。下手したら一生使えないかもな。
もっと予習するべきだった。でも今は、今はまだ左腕が残ってる。
まだ戦える。
「シュ・セブエル!」
「ゼロ・ゾエロ」
左手から大量の水を放つ。
模倣人形だけに当たるよう、カクに掛からないよう細かく魔力を操作していく。
模倣人形は攻撃と判断しなかったのかこれを気にする素振りもなく纏身、突撃してきた。
やはりさっきの個体とは中身が違うのかもしれない。だがそれならそれでいい。
後もう1つだけ唱えればいい。喉に魔力を込め、詠唱するだけでいい。
私の勝ちだ。お前の負けだ。
「ゲシュ・プート・ウィーニ・ウニド」
強引な魔力吸収のせいか、魔力が効率よく使えない。
だが問題無い。いつもよりも更に魔力を込めるだけだ。
模倣人形の動きが鈍くなっていく。
私の意識も遠くなっていく。
久々の魔力切れかな。まぁ、なんとかしてくれるはずさ。
残った魔力を全て放出、模倣人形の動きが完全に停止したのを確認。
あれ。そういえば粉、持ってきてたっけ。……忘れたかも。
持ち物の不備に怯えながら、私は意識を手放した。
ダニヴェスでは指をそろばんのように使い、片手で1~8、16を表すことが出来ます。
親指1本だけ立てた場合は16となり完全や完璧の意味があるため、サムズアップの意味はそのまま向こうでも伝わったり、逆に掌を相手に向けてパーにすると半端者という意味になったり。
二十九話 限界にて一旦定期更新休止となります。




