二十七話 模倣人形2
戦闘回は好きじゃないのにどうしても増えてしまう。困り物です。
模倣人形と戦うことになった部屋は、50メートル程度の広さだでありそこまで広くはない。恐らく長引けば混戦は免れないだろう、早めにケリを付ける必要がありそうだ。
だがまずは小手調べからだ。
「ウィニェル・ヴダン」
この空間なら長射程である必要はない。旋条を刻んだ氷弾を3発放つ。
「ウィニェル・ウニド・クニード」
が、模倣人形の氷板によって阻まれる。ていうかその氷、そこまで耐久力上げられたのか。ウニドが含まれてるからか。
なるほどこれは厄介だ。さてどうやって倒すか、と考えていたら模倣人形の詠唱。
「ヴウィーニ・ズビオ・ダン」
見えないのは面倒だが詠唱から推測は出来る、中級風弾だ。
不可視の巨大な風弾が轟音を響かせ近づいてくる。不可視ってのは面倒だ。
触れたものを削り飛ばす巨大な塊。だが弾速はそこまででもない。ここは冷静に避ける。
今度はこちらの番だ。もしかしたら突破口が見えたかもしれない。
放つのは拡散雷槍と呼ばれる初歩的な攻撃魔術。ドイ系統は着弾までは非常に早いのが特徴だが、同時に狙った箇所へ飛ばすのが難しいという問題点も抱えている。
拡散雷槍は威力こそ劣るものの、面制圧に長けた魔術。さて、どう出る。
「ドイ・レズド・ダン」
「うぐっ!!」
予想通り、直撃した。
実のところ私はエレス系統とドイ系統はあまり得意ではない。普段使わないせいか消費魔力が多く、発動までに手間取ることも多い。
更に言えばドイ系統の方が苦手だ。そもそもエレスやエルとの相性が非常に悪いし、私も滅多な事では使わない。
もし模倣人形が私の得手不得手までコピーしていたらどうだろう。コピーした時点での私の知識で動いていたらどうだろう。
恐らくドイ系統への対処は一瞬遅れる事だろう。そして同じ術は何度も通用しないだろう。私は魔言を聞き取れるし、防御術式の構築は得意と自負しているからな。
「ウィニェル・ヴダン」
「ウィニェル・ウニド・クニード」
……もしかしたら私よりおバカさんかもしれないな。私ならこの場面、この術式は使わない。先に防がれているものをもう一度使う理由が見当たらない。
それともよっぽど弱ってるように見えたのか?まぁいい。
「エル・ダン」
「シトプート・リチ・レズド!!」
水はあまり使うなと言われたが、あんまり余裕も無いので使ってみたらこれだ。それにレズドを抜かれていないってことはもはや確実だな。
私は私の弱点を知っている。さて、模倣人形さんは付いてこれるだろうか。
仮にも私なんだから、あまり無様に負けてほしくはないものだが。
「ゲイゲ・ゼロゾエロ」
本邦初公開、超硬化纏身。
ゾエロと闘気は非常に似ている。自分自身と認識した範囲のみを強化する点や結局魔力を消費するところなんかがそうだ。無詠唱化したゾエロ系統と言えなくもない。
もちろん異なる点はある。闘気は魔力視でも不可視だし、魔力を感じ取る能力もあるらしい。ただの肉体強化魔術ではなく感覚まで鋭くさせるというのが最も違う点だと思う。
だが肉体強化の点だけで考えてみればどうだろうか。岩を粉々にする程に筋力を増強し、鎧を纏ったような硬度を手に入れ、無理な制動にも耐えるだけの肉体へと作り変える。
レニーとの戦闘の際、接近戦での戦闘力不足を痛く感じた。だから密かに対策を考えてはいた、実際に使ったことが無いこの魔術なら模倣人形は使えないはずだ。
「シュ・ウィーニ!」
左手を前方に向け、風を放つ。反動制御を全く行なわずに放った風は私の体を後方へ吹き飛ばす。
だが無事だ。腕が多少ビリビリするが特に怪我はない、これなら戦える。ロニーの二番煎じだけどね。
「シュ・ウィーニ!」
左手を後方に向け、急加速。模倣人形との距離を詰める。
「イゲ・ゼロゾエロ!ウィニェル・ダン」
加速すると同時に模倣人形がゾエロを使い距離を作り始める。同時に氷弾も放ってくるが……。
残念、それは悪手だ。そもそもイゲゾエロ程度ではこの速度からは逃げられないし、氷弾では掠り傷程度しか負わないだろう。
だが直撃は免れたいし好んで当たろうとは思わない。だから途中でシュ・ウィーニを何度も使いジグザグと移動していく。途中、カクに当たりそうになった。後で謝っておこう。
模倣人形までの距離はもう後少ししかない。右手を前に突き出し、用意していた術式を詠唱する。
「プート・ドイ・クニード!!」
模倣人形の首を捉え、一気に放電。
突撃した勢いのまま倒れ込んだ。
私は前衛と違い絶縁リストバンドは着けていない。結果としては私のゾエロも切れてしまい、全身擦り傷だらけだ。どこか折れてたりするかもしれない。
だが捕らえた模倣人形の活動を停止に追い込むことは出来た。呆気ないが私の勝ちだ。
というか模倣人形って奴、死んでも変態は解けないらしい。なんか気分が悪いな、自分の死体なんて、そうそう見るもんじゃない。
……確かにこいつ、胸ねーな。というか普段水鏡ばっか使ってたから分からなかったけど、私は自分で思っているよりも結構可愛かった。it’a true wolrd.ナルシスト?それ褒め言葉ね。
ふぅ、息も整えられた。ティナもちょうど今終わったらしいが、レニーとカクは未だ戦闘中だな……どっちがどっちか分からないし、下手に手を出すと良くなさそうだ。ちょっとだけ見学させてもらおう。
◆◇◆◇◆◇◆
結局、カクが1番長引いてた。おかげで私の魔力も正常化したし、だいぶ休めた。
「ありゃきっついわ。大蟻のダンジョンなんて呼ばれてるのに模倣人形かよ」
「どうやって勝ったの?私は普段使わない魔術駆使して最後は肉弾戦」
「アタシも似たようなもんだ、魔術戦でなんとかって感じだな。あいつら魔力少ねぇからな」
そうだったのか。魔力視が使えないから全く気付かなかった。結構早めにケリつけたのもあるかも?
長期戦を挑めば相手がジリ貧で勝てたのかもしれない。とはいえ今以上に魔力を消費してしまっただろうから、多分さっきの勝ち方で正解だったと思う。
「それよかレニーのあれにゃ驚いたな」
「そだねー。魔術使えるとは思わなかった」
「呪人とは言え多少は使えるだろ。でもレニーのを見るのは初めてだな」
そう、レニーはなんと魔術を使って戦っていた。私と戦ったときには全く使っていなかったはずだが……一朝一夕じゃ使えないはずだ、って事は元から少しは使えるのかな?
そういえば昔、カクと2人でご飯食べた時にたまに使うみたいなこと言ってた気がする。見たことなかったから驚いた。とはいえ2術が基本、たまに3術が混じる程度だったけど。
「俺も少しは使えるさ。使いすぎると闘気が維持できなくなるから好んでは使わんがな」
カクが1番苦戦していた。どちらも決定打がなく削り合いの泥仕合と言った感じで見ていてあまり面白いものじゃなかった。タッチの差で勝てたようなもんだしね。
「模倣人形は多少劣った性能になるからな。とはいえキツい事に変わりはねえ。マジ疲れた」
少なくともダンジョン1階層の1部屋目で誰かを失うことだけは免れた。
因みに怪我の度合いはカクよりも私のほうがひどかった。……あの戦闘方法はあんまり向いてないかもね、別のを考えておこう。
絶縁リストバンドって今までに登場しましたっけ……?




