二十六話 模倣人形1
カク曰くダンジョンからは魔力が溢れ出ているらしく、ある程度近づけば匂いで分かるのだそうだ。探すのには手間取らないとの事から初日は大森林にギリギリ入らない地点で野宿、2日目でダンジョンの位置を確認、アタックを開始する事にした。
大森林へはダールよりもダーマの方が若干遠いが誤差の範囲、ゴブリンとの戦闘地域からは離れてるおかげで荒れていない地域で寝る事が出来た。夜中に多少の魔物は現れたものの、大森林の魔物は出ないし草原の魔物は弱いしでそこまでひどいものでもなかった。
今回の見張り順はカクがうるさかったのでレニーと入れ替えた。まぁ鼻が鈍るとは言っていたし、妥当かもしれない。ダンジョンを探すのはもっぱらカクの鼻頼りだしね。私の目も隠すつもりはないがあんまり濃ゆいと見づらいから信用できない。
そんなこんなで翌日、私達は大森林へと足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇◆
大森林は魔力異常によって高温多湿、それに加え鬱蒼と生い茂った木々により辺りは薄暗く、熱帯夜のような息苦しさがある。
それだけじゃない。木々により視界は遮られ奇襲を受けやすく、だからと魔力視を強めれば高濃度の魔素によって視界が紫一色。つまり視覚だけでは頼りない。
特段聴覚や嗅覚に優れているわけではない、むしろ魔力視が出来る分視覚振りな私にとってこの森は非常に動きづらい。薄暗く蒸し暑い森は例え上着を脱いだとしても容赦なく私の体力を奪う。
「カク」
「あれか」
先程から繰り返される会話。レニーが見つけた果物を伝えカクがすばしっこく木に登って採集、これを食す事で水分を補給している。似たような見た目の果物でも毒の有り無しがあるらしく、カクもある程度は見分けがつくようだが私には分からん。
水袋に水を入れては来たのだが、森に入った時点ですっからかんになってしまった。昔は水が貴重だったなんて聞くけど今だったら分かる、あれは本当だ。まさか水が無いのがこんなにもキツいものだとは思わなかった。
レニーが居なかったら私達は水分不足で干からびていたんじゃないかと思えてしまう程、レニーに頼りきっている。他の冒険者は水分補給をどうしているんだろうか?ゲームやアニメなんかの浅い知識だと魔法で作っていたりもしていたが、あいにく私は魔術しか使えない。
「ティナ」
「おう」
カクに比べティナはすばしっこく木に登れるわけではない。その代わりゾエロ系を常用しているおかげかパーティ内では実は1番力持ちだったりする。その場で摂りきれない果物はティナに運んでもらい、代わりに戦闘への参加は極力控えてもらっている。
こんな細身な女の子が1番の力持ちとは笑いそうになるけど、これが魔術だ。多分盾をおけばレニーの方が腕力はあると思うけどね、闘気とかいう謎の力も使えるらしいし。そういやティナも闘気は纏えないらしい。仲間だな。
途中、7度の魔物襲撃はあったものの大事には至らなかった。火蛇に至ってはティナが果物投げたらそれだけ食べて逃げていった。可愛い。
そうして歩き続けること数時間、ダンジョンを見つけた。
「あれか」
「ああ、飛び切り濃い匂いがする。それに人が何度も出入りした跡がある。確定だな」
「おい、この果物どうすんだ?」
「各々持てるものは持って、持ちきれないのは食べちまおう。余ったのは捨てていく」
「ここまで運んだのにマジかよ」
「おい、そろそろ気を引き締めろ」
「はいはい。塩くれ」
渡された果物を一口、シャクリ。アカシャという果物だが見た目、味共にりんごだ、りんごって呼ぶ事にする。こんな熱帯林に生えているのには違和感があるが、しかしありがたい。
汗による塩分不足はカクが持ってきている塩で補う。そういえば塩って結構安いんだよね。現代ほどじゃないけど、だからって中世だったり江戸だったりの高級ってイメージとは程遠い。香辛料も結構安かったりする。
ところで塩のかかったりんごをどう思う?私は結構好きだ。さくらんぼに塩掛ける星人じゃないけど結構合うと思う。汗かいたせいかな?
フィロスという梅に酷似した果物を7つポーチに入れて、準備完了とした。フィロスは見た目こそ梅にそっくりだが味はスイカの皮の部分に近い。つまりキュウリだ。サイズの割に水分豊富な気がするのでこれにした。
「準備良いか?」
「食べすぎてお腹たぽたぽ」
「おいおい」
初のダンジョンアタックが始まる。
◆◇◆◇◆◇◆
入り口の外見は崖にぽっかり空いた洞窟という風だった。外とはがらっと雰囲気が変わり、あれだけ生い茂っていた植物は全く見られない。それに薄暗いとはいえ多少明るい。光源は見当たらないし影も出来ていないことから壁が発光しているのかもしれない。
カクが持参したランプに魔石を入れ明かりを確保する。テルーによれば火の魔術によって二酸化炭素は発生しないらしいし、ランプによって酸欠になって死んだりはしないだろう。というかカクがやる事に間違いは滅多にないし、これでも一応パーティリーダーだ。信用している。
ランプによって照らされたダンジョンだが、見える限りは一本道のようだ。どうやらぐねぐねと曲がっているらしくあまり遠くまでは見通せない。それに何より一歩歩く毎に地面がカラカラと嫌に音を響かせる。
よくよく見てみればそれはどうやら骨のようだった。
「ひゃっ」
「どうした!?」
「い、いや……これ、骨だよね?」
カクが骨を拾い、眺め観察する。
「何の骨かは分からんが大分風化してるな。つーか驚かすな」
「ごめんごめん」
「標を落としていくのは意味が無さそうだな、俺も覚えるが出来る限り地形を覚えていってくれ」
暫く一本道を歩き続けた。10分くらいだろうか?特に魔物も出てこず、多少緊張感が途切れているところでカクの足が止まった。……前方が大きく開けている。どうやら部屋のような場所に出たらしい。
咄嗟に魔力視を強めてみたものの、やはり全く意味がない。ダンジョンやその周囲ではこの能力はぽんこつになるらしい。
「魔物が居るな。3……いや、4か。どうする」
「種別は」
「二足歩行タイプだ。亜人種かもだが詳しくは分からん」
「厄介だな」
何が厄介なのだろう。先日のゴブリンを思い出しても、さすがに魔王が4体とかじゃなければ簡単に思えるが、と聞いてみれば1番厄介なのは亜人ではなく魔人や呪人だった場合、戦いづらいだろう。との事だ。
私としては別に戦いづらいとは思わない、と答えればティナもそれに同意。結論としてはとりあえず戦ってみて無理そうなら撤退という話に落ち着いた。
どうやらダンジョンの魔物は深追いをしてこないらしい。通路を半分も戻れば安全だろうとのことだ。
「だけどよ、ドッペルならどうすんだ?」
「ドッペルって?」
「模倣人形、5級の魔物だな。戦闘相手をそっくり真似る面倒な奴らだ」
「それそれ。どうすんだ、自分と戦うか?」
「……この中で魔力を識別出来るのは俺だけだろ?それしかない」
「りょーかい」
ダンジョン内じゃ私の目はほとんど使い物にならないことが分かってる。今度もうちょっと細かく操作できるように練習しておこう。
各員が武具やスクロールの確認をしだした。……私、スクロールは土壁4枚と上級土壁1枚しか持ってきてないし、戦闘にナイフは使わないしこの時間暇なんだよな。魔力視の調整でもしてみるか。
◆◇◆◇◆◇◆
「よし、行くか」
「ん」
結局魔力視の調整は上手くいかなかった。さすがに数分で調整出来るような代物じゃないか。薄く細く魔力を流すのは昔から苦手だったし、録石を読めるようになるまでも時間が掛かった。長い目で見ていこう。
それよりも今は目の前の脅威だ。
大部屋に入ると土人形のようなものが4体歩き回っていたがこちらに気が付くとその姿を変え、やがて私達そっくりな人間が4人現れた。模倣人形だ。
「悪い勘は当たるもんだな……散開、それぞれ自分自身のドッペルの対処だ。それからアンとティナ、水魔術はあんまり使うな。さっきの説明通りだ」
ダンジョンの壁や床は水魔術を吸収し、脆くなるらしい。原理は不明だが魔力の供給を絶っても吸われた水だけは消えることがないらしい。一体どうなってんだか。
さて、私が対処するのはアンジェリアだ。どんな術を使ってくるのか、正直少し楽しみだ。




