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二十五話 興味

2918/07/18 冒頭の会話部分の修正

「4人部屋、まだあるか?」


 護衛クエストを終え、最初に向かったのは宿。辺りは真っ暗だし足が棒だ、今すぐふかふかベッドに倒れ込みたい。いや、アズヴェストの宿は人数分のベッドは無かったし、もしかしてここも……?ダメだ、そんなんじゃダメだ!ベッドは私のもんだ!


「4人は埋まっちゃってるねぇ……6人部屋なら空いてるけどどうだい?ちょっと高くなるけど」

「いくらだ?」

「1人に付き大銅貨1枚、部屋代が大銅貨6枚、飯代は別だねぇ。どれだけ泊まるんだい?期間によっちゃ割り引くさ」


 ああ、この値段ならベッド足りないパターンだろうか……あのベッドも板みたいなもんだったけどさ、床に雑魚寝は嫌じゃよ。

 期間は特に決まってないんだよなぁ、ダーロ行きの護衛クエストで街を発つ予定だ、ということは毎日大銅貨10枚払う1日借りの方が良いんだろうか?なーんて考えてたらカクが勝手に話を進めてしまう。


「2週間、12日だな。ちょっとは安くして貰えるか?ついでに夕飯を付けた場合の値段も頼む」

「2週間ね。部屋が小銀貨7枚大銅貨8枚の飯は小銀貨1枚大銅貨8枚だねぇ。小銀貨8枚と大銅貨12枚でどうだい」

「おいおい、それじゃキリ悪いぜ?中指切り落として(・・・・・・・・)くれよ」

「アンタら冒険者だろう?8の8!これ以上値切るつもりなら他当たりな」

「んーまぁそれでいいや。先払いだよな、レニー」


 なんか怖い言葉が聞こえた気がする。それに人8中8?あ、指を金に例えてるのかな?初めて聞いたぞそんなの。

 つーかなんでレニーもそれで分かるの。ティナと私は顔合わせてワケワカラン表情してたよ?これじゃまるで私がバカみたいじゃないか。



◆◇◆◇◆◇◆



 案内された部屋はベッドが4つとそれぞれに、えーっと、何て言うんだっけ。ナイトテーブル?が置かれてる。日当たりは悪くないし3階だしで4人で泊まるなら悪くない、っていうか4人向けじゃないのかこれは。どう考えても後2人の寝る場所がないぞ。

 ベッドは思ってたよりふかふかだし、大きな机に椅子が6つある。トイレやシャワーが……なんてのはさすがになかったけど、1人頭大銅貨3枚で泊まれるならかなりいい部屋に思える。あるいはアズヴェストの宿がよっぽどひどかったのかもしれないけど。

 とにかく歩きづめで疲れた私はベッドへダイブ。小さめなベッドと大きめなベッドがあるから小さい方へ飛び込んだ。この中じゃ1番小さいし、ベッドもそれ相応のものにしておいてやろうと言う私なりの気遣いだ。


 嘘。ホントは日当たりが良さそうだったからだ。長居するみたいだしね。


「まーだそんな元気あったのか」

「いや、無理。足マジ痛い」

「とりあえず靴脱いどけよ」

「ん」


 言われた通りに靴を脱ぎ、ついでに上着と鎧ともおさらば。ああスッキリ!いくら軽めの革鎧とはいえ1日中、しかも重ね着に重ね着を繰り返したこの装備じゃさすがに疲れた。あ、そうだ。スッキリついでに1つ聞いておこう。


「カクさんや。2週間も借りるなら長宿で良かったんじゃないかえ?」

「住む訳じゃないんだから普通の宿でいいだろ。人数も少ない」

「……え?長宿って長期間借りる人用じゃないの?」

「よっぽどの大所帯じゃない限り、あれは住むとこだぞ?」


 やべぇずっと勘違いしてた、ちょっと恥ずかしいぞ。2つの意味で。

 詳しく聞いてみれば長宿は長期間って意味もあるけどそれ以上に大きいという意味が強いらしい。なるほど確かにうちで使ってたところはかなり広かった。あそこは広い方だと思ってたけど、そうじゃなくてあれくらいが平均ってことらしい。

 16人単位で動いてるパーティなんかは一時的に借りたりはするみたいだけど私達のような少数パーティじゃ流石に勿体無いらしい。うちは5部屋あったし、確かにオーバースペックか。

 というかこの3人が借りてたとこも小さかったもんね。もしかしたらこういう勘違いがまだあるかもしれない。学校行っとけば良かったかな?まぁいいや、今更だし。そういや部屋桶は無いのかな、この部屋。

 机の上にもナイトテーブルにも無い。残念、顔洗いたかったのに……別に顔が熱いわけではない。もしかして氷で作れたりしないかな?この前の昇級試験で氷の板を何枚か作ったし、頑張れば出来そうじゃないか?

 形状はまぁ普通の桶で、水がこぼれないように穴が空いてないやつ。ついでに溶けないといいな、うん。やってみよう。


ウィニェル・ウ(氷よ、形)ニド・クニード(を表わせ)


 が、残念。出たのはただのぼこぼこした氷の玉でした。なんでやねん。複雑な形状は難しいのかね。板をイメージしてもう1回唱えてみよう。


ウィニェル・ウ(氷よ、形)ニド・クニード(を表わせ)


 うん、こっちは出来る。絶対複雑度だろこれ。CADじゃあるまいし頂点数とかで決まってたりしないよね……しないよね?まぁ今作ったのは円盤状だけどさ。


「何やってんだ?」

「んー顔洗いたくって。でもシャワー浴びるのめんどいから部屋桶作れないかなーって」

「ありゃ魔法使いだから出来るんじゃねえか?アタシも欲しいし、借りてきてやるよ」

「おなしゃーっす」


 そう言い残し、ティナが部屋から出ていった。あぁ、それにしても今日は疲れた。まさかこんなに疲れるとは予想外。マジ疲れた。

 よく考えてみれば当たり前か。だって前回ダーマ方面に来た時は1日じゃ着かなかったんだもん。しかも今日中に街に入りたい!とか言われて結構飛ばしてたせいか終始小走りだったしさ。次からはちゃんと依頼文読もう。


「しっかしこんな暗いと何も出来ねえな。ダールって明るかったんだなぁ」

「だねー」


 夜の間光り続ける街灯や、なんだかんだで深夜までやっている飲み屋なんかがあるせいか、ダーマの夜は意外と明るい。

 対してダーマは暗い。街灯って存在自体も来る途中にほとんど無かったし、騒がしくも楽しげな飲み屋なんてものも見かけない。ぶっちゃけ陰気な街だと思われても仕方ないと思う。

 こんな夜更けに1人でなんて出歩いたら攫われてしまいそうだ。まぁダールも大通りを除けば似たような感じだけど。というか私なんか攫ってどうすんだって話だけど。


 なんて、窓から外を眺めていると部屋の扉が開けられた。ノックも無いしどうせティナだと振り返れば予想通り。2つ借りてきてくれたらしい、気が利いてる。


「ほれ、男子」

「サンキュー」


 残念、片方はカクレニーペアに奪われてしまった。まいっか。



◆◇◆◇◆◇◆



 翌日、私達は予定通りギルドへ向かった。というのも、昨日は腹は減るわ足は痛いわとにかく寒いわの三重苦で、とりあえず宿取ろうぜって話になっていたもののいざ入ってみれば誰も外に出たがらなかったからだ。

 まぁ片の期限さえ切れてなければいつでも換金できるしね。んでも期限ってどのくらいなんだろうか、特に明記されてないけどさすがに1年とかは持たないよね、1週間とかかね。


「こちらが報酬金になります。両替しますか?」


 出てきたのは小銀貨3枚。こっちの財布だけで両替出来る程度に硬貨は増えてきてるし、とりあえずそのまま貰う。

 しんどい仕事だった割に低報酬だ。……ゴブリンのせいでちょっと感覚ズレてるかな。このクエストを3回するだけで2週間の宿と夕食が手に入るんだよね。うん、割の良い仕事ってことにしとこう。少なくとも労働者時代よりかは圧倒的に稼げてるし、うん。


 まぁ実際に3回やれば2週間の宿と夕食が手に入るかって言えば厳密には違う。私はだいぶ使わない方だが他の3人はスクロールを割と使って戦闘していたりする。

 使わない方って時点で分かるだろうけど、私もたまに使う。土壁のスクロールは大銅貨5枚で買える割には硬度と持続時間が優秀で、常に2枚はコートの内側に入れておいていつでも使えるようにしている。

 自分自身の魔力を消費せずに、しかも咄嗟の判断で使えるのは非常に便利。無詠唱が出来ない私にとって声を出さなきゃいけないってのはデメリットにはならないけれども、しかし固有のワードで発動するせいで相手に知識があれば内容が読み取られてしまう。

 でも今のところ土壁ってワードを聞いて反応するような魔物に出会ったことがない。もしかしたらゴブリン達は理解するのかもしれないけど、しばらくはゴブリン狩りなんてしたくもないしね。一生分狩った気がしてるよ。


 特にカクは様々なスクロールを持ち歩いている。この前のゴブリンで使っていた上級爆火球のスクロールなんて小銀貨2枚とか言ってたっけ、かなり高価なスクロールだ。ダーマへの護衛クエスト2回で3枚しか買えないなんて、かなりぼったな気がする。

 込められている術式もリチ・ズ(火よ、圧縮)ビオ・ウズ(し、爆発す)ド・ダン(る弾となれ)そのままっぽいしね。もしかしたら数詞や力詞が付いてるのかもしんないけど、試しに撃ってみたらほとんど似たようなのが出せたから多分これだと思う。

 『魔術中級書。戦闘における実用的魔術の一覧とそれらの行使、効率的な魔力の練り方について』だったか?後半はうろ覚えだけど、そんな感じの名前の録石に乗っていた術式だ。家にはここまでしか無かったけど、多分『魔術上級書』ってのもあるんだろうなぁ。

 ……どんなのが書いてあるんだろう。そうだな、『魔術上級書。全てを消し去る最上級魔術の一覧とそれらの実用性について』とか?うぅ、なんだかこんな妄想してたら恥ずかしくなってきたぞ。

 

「――おーい、聞いてるか、アン」


 っとまた悪い癖だ。一度考え始めると止まらない、これだけは治る気配がないしもはや治す気もない。

 でもさ、聞いてなかったのは悪いとはいえ頭を叩く事は無いだろ?私の超上質な脳みそがやられてしまうぞ!……あ、レニーさんもっと撫でて。そうそう、そこそこ!って私は犬か。ちゃうわ。


「えーっと、何の話?」


 そもそもいつ移動したのかも覚えてない。何も考えずにぼーっと歩いたらしい。夢遊病的な?こわ。


「今日のクエストだよ!特に良いのがねーからよ、大森林のダンジョンに行ってみねえかって」

「え、ダンジョン?ねぇ、それって、本気で言ってるの?」


 さすがにびっくりしてどっかの魔法少女みたいな言葉になってしまった。でも本当にダンジョンに行く気なら、それこそ命がいくつあっても足りないかもしれない。退学よりひどいぞ。ただでさえ2つ目の命だっていうのに。


「様子見程度にだよ。大体今の俺らじゃ攻略なんて出来るとは思っちゃいねぇ」

「危険だって分かったらすぐ帰るって条件なら良いよ。私も興味が無いと言えば嘘になる」

「おっし決まりだな!……ところでよ、この街ってスクロールって売ってんのかな?」

「確か門前辺りにあったような」

「んじゃ買いに行ってそのまんまダンジョン行くかー」


 特にクエストは受けずに道中出会った魔物は出来る限り回避、どうしても避けられない場合は狩猟し魔石を回収していく事とした。

 道中で魔力を消費しすぎるのも良くないし、かと言って完全に手ぶらで帰るのも勿体無いって訳でこういう形に。ダンジョンっていうんだし、さすがにある程度の戦闘は覚悟しておかなければならない。

 この後私達は各自必要なスクロールをパーティ用の財布から購入し、その後雑貨屋で保存食等を購入、ダーマを出て大森林へと向かった。

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