二十三話 シパリアの酒
テルーと別れて数分。頭を使った上に昼食を抜いたせいか小腹が空く。うーん、疲れたし酒場でも行こうかな。この前の"熱い酒屋"にしよう。あの時結局何も頼まなかったし。
あーでも時間帯的に混んでるかな。1人で行っても迷惑じゃないかな。……行ってから考えよ。
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熱い酒屋に到着。日はだいぶ暮れ、空が紫色に輝いている。今日はちょっと魔力が濃いのかな。なーんて。店の外からでも分かる、騒がしい。
んー、どうしよっかな。別のとこ探そうかな?なんて考えていたら声が掛かった。
「アンジェリア」
「あ、シパリアさん」
「奇遇だな。クエスト終わりか?」
「いえ、今日はちょっとお勉強を。疲れたのでお酒でもと思って」
「そうか。なら飲もう。フアも居る」
別に嫌いって訳でもないし、いっか。1人で飲むのは寂しいしね。
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"熱い酒屋"の飯はお世辞にも美味しいとは言えない粗末なものだ。酒も同様になんか臭い。そのかわり、非常に安く量がある。なるほど冒険者相手に受ける訳だ。冒険者は基本大食いだからな。
「今日はどちらのクエストに?」
「風熊だ。魔王ゴブリンが居なくなったからか、森から出てくる奴が増えていてな」
風熊とは大森林に生息する6級の魔物だ。見た目は前世のツキノワグマに似ていて、個人的にはちょっと可愛いと思えてしまう。とは言え熊だ。筋肉の塊みたいな熊が風の魔術まで使ってくる。力比べじゃもちろん勝てないし、魔力もそこそこあるらしい。昔は5級だったとも聞く。
「あれ、フアさんも6級に上がったんじゃありませんでしたっけ」
「手頃な5級クエストが無かったからな」
「あー確かに。5級くらいからは無い日もありますよね、2級以上のとか見たことないですし」
「2級と1級は指名依頼がほとんどらしい。知らんのか?」
へえ、そうなのか。そりゃ見ないわけだ。
そもそも2級以上ってダールに居るのかな。ゴブリンの時だって3級が1番高かったし、それも1パーティしか居なかった。
やっぱダンジョン潜ってたりするのかな?たまーにギルドですんごい魔力の人見かけたりするし、ちらほら居たりはするみたいだけど……そいやあの3級の女の子には見覚えないな。ふらふらしててたまたまダールに居る時にクエストに捕まったとか?
「ってことは3級からは名前売るのが大切だったり?」
「いや、そもそも3級って時点で名は売れてるはずさ。あの魔王を2人で殺したらしいしな」
「えっそれも初耳」
「今回の緊急クエストに参加した3級パーティ。あれは幸運って名前だが聞き覚えは?」
「……ないです、多分」
「そうか。リーダーのシーナが妙に悪運強くてな、それで幸運のシエナなんて呼ばれてるうちに定着した――」
正式なパーティ名称は赤き月の昇る夜。けどこっちはあんま知られてないらしい。元は赤き月と月夜の別々のパーティだったとか。
リーダーは"幸運のシエナ"ことシエナ・スエルナ・ヴィーナ。魔戦士と言われる事が多いが本業は魔術師であり魔導ギルド出身の女性。魔術師としても剣士としても優秀だけど、1番の特徴は悪運の強さ。殺しても死なない奴らしい。
トゥンガ・エレンガ。剣の生えた大盾を振り回す盾術士。魔術もかなりイケるクチらしい。というか剣の生えた大盾ってなんぞ。壺の人のロボットか?ありゃロケットか。呪人とよく間違えられるが魔人の男性。
ナナシ・エキセンドラ。月夜のリーダーだったらしい。右手盾左手剣のオーソドックスな剣士スタイルの男性。緑の服着てたりしないよね?勇者様だったりしないよね?"雷襲のエキセンドラ"と呼ばれる事もあるらしい。むしろ関西弁?
セエレ。魔術師とも魔法使いとも言われている。あまり表に出てこないらしく詳しくは知らないとのこと。男性。
ネイプ。斥候系らしいが同じく不明。そもそも斥候系は魔術師以上に情報が出てこないって言われた。双子の姉と言ってたので女性。
ガート。魔術師らしいが同じく不明。ネイプの双子の弟らしい。つまり男性。
てことはこの前見た10ティナ以上あったあの子がリーダーのシーナ?結構若そうってか幼く見えたけどな。近くに居たあの女性はネイプって人かな?あの人もだいぶ魔力があるように見えたけど、魔術師ですらないのか。ならセエレってのはどのくらいなんだろう?と言うより――
「――魔王はセエレとトゥンガがやったらしい」
「うーん。実は私、人の名前覚えるの苦手なんですよ」
「はは、いつか覚えられるさ。私の事も覚えられたろう?」
「それは、一緒にクエスト行ったからで……」
「なら3級になって、一緒に行けばいい。1級を目指すんだろう?カクカから聞いたよ」
最初は接しにくそうと思ったけど、一緒にクエストに行って、こうしてお酒を飲んでると分かる。この人、言葉が強めなだけで好きな部類かも。
というか私そんな事言ってたっけ。カクに付き合うとは言った覚えあるけど、私が1級目指す訳じゃないし。……まぁ、やるなら1級まで昇ってみたいもんだけど。うん、そうだ。1級になってやるか。
「シパリアさんも急がないと抜いちゃいますよ?」
「はん、やってみろってんだ。2つも階級差があるってのに」
「2ヶ月前に始めたばかりでもう6級ですよ?もう少し危機感をですね」
酒が美味い。あんまり人脈が広い方でもないし、クエストで顔を合わせた人と仲良くなるってのもありだな。
フアとも話してみようかな。魔術師としてってのもあるけど、それ以上に性別が気になる。こいつどっちだ。
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頭がくらくらする。でも楽しいからいっか。先輩冒険者の話って為になるし、うん。別に楽しいだけじゃないからいいのだ。外から大きな音が聞こえる気がする……ん、聞こえない。気の所為さ!
「ねーシパリアさん、ダンジョンって潜った事あるー?」
「ああ、昔ちょっとな」
「どうだったー?」
「どうだったって……危険な場所だな。もう潜る事は無いだろうさ」
「んー?でもダンジョン攻略すると有名になれるんだよねー?あ、このお酒おかわりー!」
通りがかったウェイターに木製ジョッキを投げ渡した。うん、ナイスキャッチだ!このワインっぽい酒、美味いなー。なんて名前だろ?
「そろそろ飲むの止めたらどうだ?」
「んー?だいじょぶ、ゴブリンのお金があるじゃんさー」
「いや、そういう意味ではなくてな」
「いーのいーの。ダンジョンの話聞かせて?あ、フアちゃんは?あるー?」
「僕は、無いですよ」
「へー」
この焼き鳥も美味しい。塩味のが特に!だって前世と同じ味で懐かしいんだもん。こっちのスパイス強いのも悪くないけど?でも私には塩が合ってるのだ!通は塩っておにぎり頭も言ってたしな!
「でさ!なんで行かないの?」
「今はフアが居るからな。ダンジョンは危――」
「親子なの!?」
「……まぁ、似たようなもんだな。だからダンジョンへは行かない」
「へーよく分からんねー。1回どーんと稼いで引退しちゃった方が楽じゃないー?」
「私は生涯現役を目指しているし、この子も冒険者志望だったからな」
「あ、またこの子って言った」
「すまんすまん」
なーんか複雑な家庭事情でもありそうですねー?あ、シパリアのおつまみ貰っちゃお。
おお、この葉っぱ美味しい!なんだこれ!塩っぱい!葉っぱ自体が塩っぱいとかどういうこっちゃ!見たこと無い奴だな!
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「じゃ、またなんか有ったらな」
「は~い」
どのくらい飲んだっけ?お互い懐も暖かいし、ちょっと飲みすぎた気もする。でもたまにはいーよね。あー夜風さいこー。こういう時だけは寒い地方だってのがありがたいね、さいこ~。
ちょっと散歩してから帰ろかな?夜道を酔った女の子が1人で歩くのは危険かね?いーや平気だね。中の人男だし、ぺちゃぱいだから女に見えないのさ。ハハッ。
んー妙に静かだな。や、閉店まで居たらさすがにこーなるか?今何時だろ。夜の鐘鳴ったっけ?店内うるさすぎて忘れちゃったや。
しかしフアが女だったとは。あんな可愛い子が女の子のはずが……完全に可愛いショタ枠じゃん。なんだよ僕っ娘って~!
ん、寒ぅ。♪帰ろ帰ろ、カラスも鳴いたし帰りましょ。カラスってなんだっけ?エリアズが鳴いたら帰りましょ~!
お、こんなところにちょうど良い石が!家まで蹴って帰れたら勝ちゲーム開始~!!
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熱い酒屋を後にし、夜風で酔いを覚ましつつ帰宅する2人が居た。
「……あいつ、1人で帰れるか不安だな。どう思う」
「大丈夫じゃない?酔ってても魔術師は魔術師だよ」
「それもそうか」
2人……特に長身の女性、シパリアの方は表情がやや重い。先程まで酔っぱらいに延々絡まれていたからだ。
次はあんまり飲ませないようにしよう。彼女の言葉は誰に拾われることもない。




