二十一話 繰り返し
2018/05/29 誤字とルビの抜け修正。
『ナニ、オ前ラ、殺ス!?』
ゴブリンの言葉が響き、意味が頭に伝わる。思い出したくもない、あの化物の術に似ている。
もしかしたら。
もしかしたら。
「待って!ストップ!!」
「何っ!」
叫ぶと同時にゴブリンの左足が千切れる。ティナのフランベルジュによるものだ。
シパリアの追撃。完全に絶命する。
「魔物に情けを掛けるな!」
最後の1匹だったゴブリンが死んだ。
「言葉っ!聞こえないんですかっ!」
「そんなものに惑わされるな!奴らは敵だ!」
◆◇◆◇◆◇◆
『ヤム!子――』
母ゴブリンと思われる個体が子ゴブリンと思われる個体を庇い、絶命する。
「食べなさい、風食!」
火鳥が2匹のゴブリン目掛け飛び込み、肉を喰らった。
◆◇◆◇◆◇◆
しばしの休息。近くにゴブリンは見えない。夜風が火照った体に気持ちいい。返り血が乾いていく。
「俺ァそろそろ眠りてーよ」
「お前だけじゃないだろう」
カクが愚痴り、シパリアの突っ込みを受ける。なんだか2人の距離が妙に近い。お肌の曲がり角に差し掛かりそうなシパリアでも守備範囲内なんだろうか。
いや、そういうなら私もアーグルやギナとかなり話してる。アーグルは話しやすいし、ギナは声が癖になる。
一方レニーはフアと睨めっこしてる。何してんだろ?可愛いな、おっさんと子供の組み合わせって。別におっさんじゃないけどさ。なんかこう、バスケやってるゴリみたいな空気あるじゃんさ、レニーって。
「アンジェリアさん、よく魔力保ちますね」
「アーグルさんこそ」
「私はこの魔術のおかげですから」
「火鳥と言いましたっけ。便利そうで羨ましいです。私、あんまり戦えてないですし……」
「この人数ですからね、私達魔術師は巻き込むのが怖くて動きにくいですね……それと、これは言うほど便利でもないですよ」
「というと」
「いえ、水場に非常に弱いのですよ。彼は火の鳥ですからね」
見た目通りだな、水鳥とか雷鳥とか作れたりはしないもんかね。
◆◇◆◇◆◇◆
一際大きな、人間大のゴブリンが崩れ落ちた。
『ナンデ!』
すかさずカクが飛び込み、守られていたゴブリンを殺す。
ティナ、シパリアも同様だ。まるで血の洪水だ。糞尿の臭いが鼻に付く。
ギナもまた、管をゴブリンへ伸ばし内側から破裂していく。
「アンジェリアさん、魔力切れですか?」
「……いえ、ちょっと、ひどいなと思って」
「彼らは魔物ですよ?魔石が歩いていると考えましょう」
◆◇◆◇◆◇◆
月が雲で隠され、辺り一帯が陰る。魔力視が無ければほとんど何も見えない。
「照らしますよ!光っ!」
ゴブリンとの戦闘中、月が雲で隠され、辺り一帯が陰りだした。
ギナの詠唱、頭上に光球が浮かび上がる。火でも雷でも無い、まるでLEDのような、それでいて柔らかい光だ。
「サンキュ!」
前衛が駆け出し、目を抑えて暴れているゴブリンへ斬りかかる。が、運悪くカクのダガーは弾き飛ばされてしまった。
「ウィニェル・ダン!」
氷弾を放ち、体勢を崩させる。カクが仕留める。
「もうっ!しっかりしてよねー」
「わりぃわりぃ」
反撃されていたら怪我していたかもしれないのに。危機感というものは無いのか。
しかしあの術は一体。あれは再現出来そうな気がする。
◆◇◆◇◆◇◆
7体のゴブリンを捕捉する。
「ウィニェル・ヴダン!」
3つの氷弾がゴブリンの頭に直撃、まるで彼岸花のようだ。
続く4体がこちらに気付き、戦闘態勢に移る。だが遅い。
「ウィニェル・ダン!」
まずは1体。銃弾のように放たれた氷弾にてゴブリンがまた絶命。
息を呑むゴブリン。が、それが隙になる。
「よっと!」
軽い足捌きでティナが転倒させ、そのまま切り裂く。全滅。
◆◇◆◇◆◇◆
「うわぁっ!」
ティナが突如転んだ。
「おい、大丈夫か!」
「す、すまん魔力が切れ――」
「ウィニェル・ダン!」
転んだティナを襲うゴブリンに氷弾で攻撃、咄嗟に放ったため予想よりも大きな氷弾が生まれ、ゴブリンの胴体に直撃、ティナに血のシャワーを浴びせてしまった。
「……アン、礼と文句、どっちを先に言うべきだ?」
「あんま飛ばしすぎるティナが悪い!後で水掛けてあげるから我慢してて!」
◆◇◆◇◆◇◆
暁の空の下、ゴブリンはコリもせず攻撃してくる。こっちは動けないティナを守りながらだってのに。
氷弾で反撃。が、兜に弾かれてしまった。角度が付いてるとこうなるか。
「シパリアは左、俺が右、魔術師は外側の奴を頼む!」
カクの掛け声と同時、火鳥がシパリアの方へ飛んでいく。なら私は、右だ。
「ウィニェル・レズド・ダン!」
小さな氷弾が無数に放たれる。魔力を注ぎ続け、牽制し続ける。
敵のゴブリンの数が多い。この状況で30は超えている集団との戦闘とはツイてないな、なんて。
「風輪!」
火鳥が炎の輪がゴブリンを焼いていく。
「ウィニェル・ダン!」
前衛の援護が頼めないと判断、右手の拡散氷弾で牽制しつつ、左手の氷弾で各個撃破を繰り返していく。
1、2、3……カクのアイコンタクト。撃破の術式を解き、バラけさせる。カクにアイコンタクト。重心を落としてもらう。
「ヴウィーニ・ズビオ・ダン」
ゴブリンの中央より若干左寄りの地面を狙い、放つ。
爆風。人よりも小さなゴブリンが吹き飛ぶ。
「ウィニェル・ダン!」
◆◇◆◇◆◇◆
緊急クエストの夢を見た。夢は記憶の整理っていうのはよく聞くが、まさかここまで長い夢を見るとは思わなかった。体が重い。
窓を開け外を見るもまだ暗い。こんな早朝、明け方に目が覚めるとは……しかも寝汗でびっしょりだ。気持ち悪いし、おまけに喉もカラカラ。
荷物をまとめすっきりとした部屋の中、魔術の光がやけに眩しい。いつでも出れるようにしているせいだ。中途半端な生活感こそあるものの、数日前に比べるとやはりどこか寂しい部屋。
明かりを頼りに下の階へ、冷蔵庫に入っているピッチャーから果実水を1杯。カラカラな口が、喉が喜んでいるよう。あんまり飲むと朝食の分が無くなって怒られちゃう……もう1杯だけ。
ホント、変な時間に起きちゃったな。二度寝するには短すぎるし、布団があんなんじゃ寝たくもならない。
とりあえず体綺麗にしよ。ちょっとベタつくし、それに寒くなってきた。そろそろ夏だというのにダールは寒い。世界地図によると北の方にあるみたいだししゃーないか。前世でいうならロシア辺りだしな、ここ。
っと、考え事してたら階段で躓きかけた。こんなんで骨折ったりしたら笑えないわ、気をつけよ。
というか世界地図があるって事はある程度発達した航海技術があるってこと?ダーロ・アマツはエレヒュノイズとの交易が盛んだとか読んだな。奴隷市が発達してるとかなんとか。品揃え豊富らしい。
現実で世界地図っていつ頃描かれたんだろ。日本地図は……名前は忘れたけど、なんか最初に描かれた地図が凄い精度だったってのは覚えてる。でも途中で死んだんだっけ、浮かばれないのう。
ん、あったあった。部屋桶片付けちゃったかと思った。エル・クニードっと。手拭いは――あ、先に服脱がなきゃ。
まあいいや、世界地図よ世界地図。それが作られてるってことは前世で言うなら大航海時代には突入するくらいには文明が進んでるってことよな。ってことは中世じゃなくて、えーっと、近世?いや、それにしちゃそこまで文明進んでないような。異世界だしズレはあってなんぼか。
そもそも近世ってどこらへんだっけ、中世の次なのは覚えてるけど。……あ、エッチオの時代か、最強のアサシン。あいつ船長もしてたし、って考えれば近世って中世に似てるな。まぁ連続してるからそんなもんか。
プート・リチ。……うん、こんなもんかな。適温だね、温かい。ゲシュの有り無しで効果が変わるって不思議だよなぁ。手拭い絞ってっと。髪も洗っちゃおうかな?いや、エルで作った水だと痛むらしいんだよな、止めとこ。
んで大航海時代、近世っていうと産業革命の前か。この世界でもいつかそんな事が起こるのかね。起こったら前世とはだいぶ違う世界になりそう。ていうかそもそも魔力ってなんなんだ?物質……だよね?
現に私は見えるし、カクは嗅ぎ取れる。ギナも何かしらで感知出来るっぽいし、そもそもある程度の階級以上の冒険者は魔力を"肌で感じる"らしい。それって触覚の事なのかもしれない。ただの勘かもだけど。
んでその魔力は様々な物質に含まれていると。……原子とか粒子とかそういう奴?あんまりそういうの詳しくないんだよな、仕事終わりに宇宙の事ググって眠れなくなった経験は何度もあるけど。二重スリット実験とかは面白くって覚えてるけど、小さい方はよく分からん。
エル・クニード解除っと。うん、スッキリ。この水は魔力によって作られた水だけど、普通の水と何が違うんだろう。純水ってなんでも溶かしちゃうんじゃなかった?って事はこれは不純物の含まれた水なわけだ。寒、服着よ。
そもそも何をもって水としてるんだ?エルで作った水には何かしらの不純物が混じってる。けどエルだけじゃ泥水は作れない。エレスが必要になるわけだけど……エレスは土や石は作れる、でも砂は作れない。意味が分からない。
そもそもウィニェルは氷を作れるけど、氷も水の形態の1つじゃん?でもエルだけじゃ作れない。うん、考えれば考えるほど訳分からんらん。あかん、出荷されてまう。
……エルで作られる"水"は"水のような何か"って事なのか?魔力は他の何かに擬態する物質?ん、これ多分1人じゃ解決しない奴だ。今日は暇だしテルーさんとこ行こうかね。ケシスは――学校だな。つまらん。
朝の鐘がなるまでは日記でも書こうかな、ここ2日間サボってたし。




