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二十話 ゴブリン大戦5

「……これは失礼。非常に不味いです」


 アーグルの小声が嫌に響く。

 私にも分かる。魔王の魔力が膨れ上がっている。


 動いた。

 今までのはお遊びだったと言わんがばかりの速さでドラウトへ殴りかかる。

 レニーが動く。が、間に合わない。

 ドラウトが潰れた。


「兄ぃ!」


 死んだ。

 さっきまで一緒に戦っていた人間が。

 断末魔もなしに。

 正直好きなタイプでは無かった。

 口癖のように同意を示し、何かと攻撃的な言葉を重ねていたドラウトが死んだ。

 静まり返る中、魔王だけが動く。

 魔王だけがドラウトに触れている。

 魔王の咀嚼音だけが、聞こえる。


「お前ぇぇぇぇええええ!!」


 ダラウスが矢を番え、放つ、放つ、放つ。3度放たれた矢は、しかし全て皮膚に弾き返される。

 火鳥を喰らい、ドラウトを喰らった魔王の魔力は元通り……いや、それ以上に膨れ上がっている。


「撤退しろ!」


 カクが魔王の右腕を拾い、叫ぶ。

 その声で全員が我に返った。いや、ダラウス以外が我に返った。

 この魔物には勝てないと、ダラウス以外が悟った。

 ダラウスだけが攻撃を続けた。矢を番え、放つ。繰り返し放つ……矢が切れると腰のダガーに手を掛け斬りかかる。


「ダラウス!撤退だ!」

「嫌だ!こいつは俺が殺す!!」


 シパリアの声にも耳を貸さない。

 ふと、腕を掴まれた。レニーが私の腕を掴んでいた。


「撤退だ」


 そうだ。何もここで死ぬ必要はない。殿は必要だ。ダラウスが丁度いい。

 魔王に背を向け、走り出す。振り返る事はない。魔力視で見えているのだから。



◆◇◆◇◆◇◆



 5分ほど走っただろうか。なだらかとはいえ多少の段差はある。おかげで私達は振り切れたようだ。或いはダラウスによるものか。


「……すまなかった」

「いや、後少し撤退の判断が遅れれば更に被害は拡大しただろう」


 全員に対し頭を下げるカク、慰めるシパリア。カクが頭を下げる必要は無いと思う。魔王狩りを言い出したのはシパリア、同意したのはドラウトとアーグル、ギナ、そしてティナだ。


「申し訳ありません。判断を誤りました」


 アーグルの謝罪。彼が火鳥で攻撃しなければ魔王の回復はなかっただろう。だが彼が居なければ、そもそも攻撃自体が出来なかったかもしれない。

 たらればで話しても意味がない。


「お前の術が無ければ私達は為す術無く殺されていただろう。2人の犠牲で済んだんだ。むしろ魔王狩りを言い出した私を攻めろ。……特に千人の頂の2人。すまない」


 シパリアの表情はどこか硬い。自分が殺したようなものなのだから仕方無いか。……いや、私が強く否定していたら交戦せずに済んだのかもしれないな。誰も責任でもないのかもしれない。


「双子、死んじゃいましたかね」

「あの様子では」


 ギナの無邪気な声。当たり前の事を確認する意味とは。


「カク、なんで腕を?」


 心臓が落ち着いてきた。ふと疑問を投げかける。撤退時に何故腕を拾ったのか。


「魔王種の中には自分を食べ、怪我を治す者が多いのです。恐らくそれを知っていたのでは」

「……あぁ、アーグルさんの言うとおりだ」


 魔王種の胃袋はどうなってんだ。自分を食べて回復するって。魔力食べてパワーアップしてた辺りもう頷くしか無いけどさ、無いけどさぁ……物理的にどうなのよ。電気食べて腕生えてくるみたいなもんじゃん……。


 しばしの沈黙。空気が重い。


「死体は回収しないんですか?」

「無理だ、というよりかはもはや残っていまい」


 そっか、残さず食べるのか。行儀良いな。

 ん、変な事考えちゃったな、さすがに疲れたんだろうか。魔力も体力も未だ余裕はあるのに。

 ふと遠くに視線を動かす。考えすぎてしまっていたり、疲れている時はこれが効く。

 視界にゴブリンが映る。3匹。魔力視を使っていたおかげで見えた。いや、魔力視を使っているせいで疲れたのか。普段はここまで強い状態で見ないし。


「正面にゴブリン3。こちらに近づいてきています」

「……クエストはクエストだ、やるか」

「私に任せてもらえませんか?魔力が切れかかっていて」

「切れかかっているのに任せるのか?」

「ええ、私の魔術は相手の魔力を奪うものです。魔術から魔力を還元出来ますから」


 火鳥は元からそういう魔術なのか。だから食われたのかもしれない。ギナや私の魔術は取り込まれはしなかったしな。

 アーグルは1人、ゴブリンへ向かう。誰も一緒に行かないのは精神的な疲弊からだろうか。まあ私も付いていく気はないんだが。でも確認くらいはしておいたほうが良い気がする。


「良いんですか?1人で行かせて」

「……あ、私に?大丈夫だと思いますよ。彼、とっても強いですから」


 可愛い声、ギナだ。どっから出したらそんな声になるんだろう。はぁ。しっかしそんなに強いものなのかね?確かにあの火鳥とか言う謎の魔術は気になるけどさ。見てみるか。



◆◇◆◇◆◇◆



 その後私達は18時間ほど戦い続けた。日が昇り、辺りが明るくなった頃にギルドから終了宣言があった。

 不幸中の幸いか魔王は追撃を掛けてこなかった。後から聞くところによると魔王は3級パーティによって討ち取られたらしい。特に腕の事は言われなかったし、あの2人の死体も特に言及される事はなかった。


 今回のゴブリンとの戦闘で、冒険者ギルド側は2割程度が失われたようだ。ゴブリンは恐らく全滅。魔王を討伐出来たとしても、一度凶暴化したゴブリンはもう戻らないらしい。

 3級冒険者が魔王討伐に遅れた理由だが、ゴブリンだけではなくオークの集団が混じっていたからだそうだ。オークって言うとあれだよな、豚頭。大森林の一部に生息しているらしい彼らが何故ゴブリンを手を組んでいたのかは知らない。

 討伐クエストでの階級は5級に位置する、ゴブリンを一回り強くしたような魔物らしい。私は見たことがないからなんとも言えないが、とにかくそれらに手を焼いたらしい。

 だがどちらにしろ殲滅、こちらもほぼ全滅。この戦闘の大きさではむしろ短時間だったとも言える。こんなの、戦争じゃないか。


 1つ、思い出した事がある。ギナの魔術、管のようなものについてだ。あれはダールを襲った化物が生やしていた半透明の腕によく似ている。あの腕も今思い返せば似たような動き、似たような色をしていた気がする。完全に同じものなのかは聞くことは出来なかった。

 もし同じものなのだとしたら、あの化物と何か関係のある者なのだろうか。アーグルの火鳥も気になる。精霊召喚にも思える魔術だが、そもそも召喚なんて概念、この世界には無いはずだ。少なくとも私の読んだ録石や聞いた話には1つたりとて出てこなかった。

 だがあの火鳥は魔物図鑑で見た精霊、フィラルエレメント(火の精)系に酷似していた。そんな不思議な魔術を使う者同士が偶然、同じパーティになることなんてあるんだろうか。

 それに、どちらの魔術も私の知っている魔言では説明がつかない。本来魔力とは、自身から離れると急速に形を保てなくなり、消滅するものだ。寝る前に離す練習をしていたりするが40センチが限界だ。

 しかし火鳥は完全にアーグルから独立して動いていた。物理法則が適応されるが如く羽ばたき、そして重力を受けているかのような急降下攻撃も行なっていた。ただのダン(発射)では説明がつかない。それならばまだギナの方が分かりやすい。

 あの管は術者であるギナから発生していた。空間を自身と認識し、ゾエロ(纏化)を掛けられるような魔術師が居ればああいうのも出来そうだ。それが現実的にありえるのかどうかはともかく。


 戦闘中、ゴブリンの声を聞いた。だが他の者に聞いても意味が分からないと一蹴されてしまった。まるでケシスと会った時のようだった。ゴブリンの言葉が何故理解出来たかは分からない。そもそも他の魔物と戦っている最中には全く起こらなかった。

 まるでポッター少年のようだな。彼も蛇語を無意識に理解し、扱っていた。私のこの変な能力も何かしら理由があるんだろうが、思いつかない。


 最後に。レニーが5級に、カクが6級になった。ティナと私は据え置きだ。何故こういう采配になったのかは知らんが、とにかくパーティのうち2人の階級が上がった。元々ギリギリ6級みたいなもんだったからパーティ階級は変わらず6級だ。

 報酬金は破格の大銀貨3枚。私達4班は現在8人だが、元は10人。最初は10人で割ろうとしたのだが千人の頂の臨時リーダー、アーグルから拒否されてしまった。結局小銀貨5枚を各々の報酬とし、余らせた8枚をあの双子の遺族に渡す約束付きでアーグルに無理やり掴ませる事になった。

 その他、ゴブリンの魔石が大量に回収できた。取引価格は1つにつき大銅貨1枚と安いものではあったが、164個もあったのでそこそこな稼ぎにはなった。

 こちらは3パーティで分配、余った分は1番人数の多い私達が受け取る事になった。私達は相談の末、魔石で稼いだお金はパーティ用に。あんまり財布が重くなったら再分配するらしいから楽しみだ。


 カクは腕を持ち帰った。食べるつもりだろうか。さすがについていけない。

 センチメートルは「センチ」「センチメートル」「cm」どれが良いんでしょうかね。同じくメートルも「メートル」「m」で悩んでおります。その単位を出さなきゃ良いって言われればそれまでなんですけど。

 縦書きだとカタカナじゃないですか。横書きだと記号の方が良いんですかね。

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