十八話 ゴブリン大戦3
緒戦です。
現在は昼の鐘が鳴る少し前、午前12時30分辺りか。草原で浴びる日光は非常に気持ち良い。そろそろ夏が来る。
今はゴブリン野営地の地点から凡そ2kmの地点で待機している。正午になると同時に野営地へと襲撃を掛ける算段だ。
しかし暇だ。寝る前に革鎧のメンテナンスはしっかりしているし、ナイフも小さいからかすぐに終わってしまった。周りの戦士連中は自身の武具の点検を続けているが、私にはあまり重要なことじゃない。そもそも革鎧なんて外じゃまともに整備出来ないし、ナイフも解体用にしか使っていない。
「アンジェリアさん」
ぼけーっとしていたらセフィ○スが声を掛けてきた。こいつも名前なんだっけ。えーっと、そうだ。
「イーグルさん。どうしましたか?」
「アーグルです。お暇のようでしたので話でもと」
「失礼しました。人を覚えるのは苦手で」
こりゃ失礼。
「それで、話とは?」
「いえ、ただの雑談ですよ。魔術師はこういう時、暇ですからね」
「あー、まぁ確かに暇ですね」
気配りできるいいヤツだな。中身イケメンタイプか。
「失礼でなければ良いのですが、ご出身は?」
「ダールです。生まれも育ちも」
「おお、私と同じですね。では下級学校で魔術を?」
「いえ、兄や両親、その元パーティメンバーから習いました」
「なるほど。ご両親が冒険者なのですね。お名前を伺っても?」
「サニリアとロニリウスです」
「なんと!薄氷の陽炎の癒手と空蹴の!」
……"薄氷の陽炎"?パーティ名っぽいけど……あかん。卒倒しそう。つーかうちの両親有名人なのか?癒手ってのがサンだろうから空蹴ってのはロニーだろうなぁ。
「有名人なんですか?」
「ダニヴェスの冒険者であれば知らない人は居ないと思いますよ!まさかあの癒手のサニリアと空蹴のロニリウスの子とは……」
「あんまり冒険者時代の話聞いたことないんですよね。……もしかして、セレンのことも?」
「黒壁のセレンですね!会ったことが!?」
「最初に魔術を教わった人です」
「おお……彼らの話、もっと聞きたいです!」
親の七光り的だが悪くはない。きっと今の私はどっかの狙撃王よりも長い鼻になっているだろう。
「あまり知らないんですよ。薄氷の陽炎でしたっけ。他にどんな人が居たんですか?」
「神眼のラグナ、千本のユリスエ、大力のシナトンですね。本当にご存じない?」
「残念ながら。というよりダールに住んでいるのなら、うちの親には会ったことがあるのでは」
「ええ、ええ、お母様からは魔術を教わりましたよ!今も臨時の教員をしているはずです。弟が下級学校に通っていますからね」
労働者以外に教師までやってたのか、初耳。つーか弟も居るのか。弟はクラ○ドみたいな髪型だったりしないだろうな。
「お父様とは特に接点はありませんが、前に街中で声を掛けた際には快く応じてくれましたよ!」
「そんなパパでも勝てない敵も居るんだよね」
「なんと!その話詳しく!」
「14年前にあったじゃないですか。エリアズ襲来事件」
「あれはご両親が退治したのでは?」
「ん、そ、そうだっけ」
しくった。そういうことになってるのか。実際は瞬殺だったんだけどな、ロニー。
◆◇◆◇◆◇◆
「詳細は先程伝えた通りです!開始!」
恐らくダールで正午の鐘が鳴ったのだろう。午前13時、クザニャからクエスト開始が宣告された。
私達は野営地から逃げるゴブリンを狩るだけ。その傍ら徐々に野営地へ近づき、最終的には制圧しろと。うん、単純だ。見えるゴブリン全部ぶっ殺せばいいわけだ。
「んじゃ、とりあえず進むか」
「だな。行こう」
緊張感が微妙に足りてない中、緊急クエストが始まった。
◆◇◆◇◆◇◆
開幕から大体10分くらい。特にゴブリンを見かけなかったので野営地方面に進んでいると茂みからゴブリンが現れた。
金属製の兜、木製っぽい鎧、それに弓や槍を持っている、足軽みたいなゴブリンが5匹出てきた。弓の方は矢を番えている。
防御が必要になる、土壁を作らないと!と考えるよりも早く、シパリアと双子が動いた。シパリアの諸刃のショートソードがゴブリン2匹を、双子の剣と弓がそれぞれ1匹を殺した。
後1匹生きているはずだ、と目を向ければ奇妙な……ブリッジをして固まっている。どういうことだ?シパリアも驚きの表情だ。
「ギナ、今回は捕まえる必要はありません。目もあります」
アーグルが赤毛の魔術師、ギナに声を掛ける。するとまるで投げられたトマトのように、赤い液体を吹き出しつつ縮小したそれは、どちゃりと鈍い音をたて、地に落ちた。
「うっわグロ」
「……」
「ズビオ系ですか」
「ご想像に」
顔を顰めたのはティナとレニー。ティナの方はレニーほど深刻な顔をしているわけでもないが。
私の問に答えたのはギナではなくアーグルだった。この人よう喋るな。
不思議な魔力だった。ギナとゴブリンが魔力の2本の管?で繋がっていた。アーグルに声を掛けられると一層輝き、するとゴブリンが破裂した。今はギナの体に巻かれているが……なんだありゃ。
「――見え……だ」
ギナが口を開いた。よく聞き取れなかったが"見えるんだ"かな?魔力視バレちゃった?別に隠すつもりもないからいいけどさ。
「不思議な術ですね」
「秘伝の魔術です」
へぇ、そういうものもあるのか。この管、どっかで見たことある気がするんだけどなぁ。サンが使ってたとかかな。
ギナと会話中、シパリアと双子兄……ドラフトだっけ?が魔石を取り出していた。4体のゴブリンは首が綺麗に撥ねられており、美しさすら感じる。一方ギナの方はまるでミンチだ。あれを見る限り、人間の幸せとは思えないな。魔石は……あ、ドラフトが取り出してる。ぐろ。
しかしやはりと言うべきか、6級や5級ともなると早かったな。というかカクはアンブッシュしてたゴブリンに気付いていなかったのか?或いは――いや、止めておこう。そんな嫌なヤツだとは思ってないし。
唯一動かなかったアーグルはどう戦うのやら。魔力量はティナ以下だけど魔術師を名乗っていた。アルアが得意なタイプなんだろうか?私はあれさっぱりだ。
「カクカ、お前の役割は斥候だ。違うか」
「あーわりぃ、考え事してた」
「もはや戦闘は始まっている。気を抜くな」
「だな。紫陽花は何も出来ないのか?」
「ああ!?」
食って掛かったのはご存知我らがティナお嬢様。
「おい普通野郎。そりゃどういうことだ?焼いてや――」
「すまん。次はこちらも動こう」
ティナの口が抑えられ、レニーが謝る。レニー居て良かったわホント。ブレーキ役って必要よね。はぁ。
「ドラウト、口を慎みなさい。泥を塗るつもりですか?」
「はっ失礼しました」
そうだ、ドラフトじゃないわドラウトだ。アーグルに怒られてるが……リーダーはドラウトだよな、アーグルの方がめっちゃ偉そうに見えるけどどんな関係なんだろ?ちょっと興味出てきた。
「争う相手が違いますよ。先に進みましょう」
上手い事場をまとめてアーグル。でもな、お前も何もしてないからな?いや、口論止めた分私より動いてるか。
◆◇◆◇◆◇◆
多少ギスギスはしていたが、そんな空気も幾度と現れるゴブリンと戦ううちに消えていった。
私もレニーも問題無くゴブリンを殺していった。何度も何度も殺していった。途中から数えるのが嫌になるほどに。
連戦に次ぐ連戦、野営地に近づけば近付くほどゴブリンの数が増える。戦闘音で釣られたゴブリンを戦闘中のゴブリンごと吹き飛ばし、逃げ出すゴブリンの足首を弾き飛ばし、味方を狙う矢には風弾で対処する。
途中から魔石の回収を諦め、高圧縮の風弾で心臓を貫く事にした。これならば魔石毎壊せるはずだ、とは双子の弟、ダラウスによるもの。彼は自身の矢に風の魔術を与え、魔石毎貫いているらしい。
当然、魔力も減ってくる。連戦に加え強く圧縮するのに魔力を消費してしまうからだ。だが大森林が近いせいか、私の魔術はいつも以上に高精細だ。自然と消費魔力も減る。この勢いならば300は行けるだろう。500は盛りすぎだな。
野営地へ向かって20分。大森林の入り口となる若木の多い地域が見えてきた。凡そ1kmくらいだろうか、私は思わず足を止めてしまった。
魔力の塊が居た。
ロニー「っくし!……花粉?」




