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四話 災害

2020/10/03 誤字修正と解像度の変更

 あらすじ。

 お誕生日会をしていたと思ったら誰か来た。

 なんつって。


 今は前世で言うところの19時くらい。つまり夜だ。こんな時間に誰が何の用だろうか、なんて考えつつユタに抱えられている。こいつホントに抱っこ好きだな。

 と、客人の対応をしていたサンが戻ってきた。また険しい顔をしてる。シワが出来ちゃいますわよ!


「ロニー、今すぐ準備(・・)して!エリアズが釣られちゃったみたい。8匹以上居るって。A……いや、それ以上かも」

「まだ嵐は来てないじゃないか!……もしかして、アンか。なんて子だ」


 よく分からん単語が並ぶ。エリアズ?8?嵐ってのは、魔嵐の事?

 確かに今年はまだ来てないけど……それが関係あるの?ていうか原因私?あれ?また俺なんかやっちゃいました?


 いや待て冷静になれ。お誕生日会で貰ったプレゼンド、魔玉を握っただけだぞ。悪くないよな?なんかすっげー深刻な空気流れてんですけど。死ぬにはまだ早すぎるのでは?だって今日ようやく1歳になったばっかだぞ。


「母さんも行きなよ。アンは僕が守るから」

「何言ってるの!?」

「母さんは療術師じゃないか。回復の魔法も使えるし、父さんと一緒に行って、そして絶対に戻ってきて!

 僕だってもう子供じゃないんだ、5術まで扱えるからさ。だから、無事に帰ってきてよ…」

「ユタ……。うん、分かった。絶対にアンから離れちゃダメだからねっ!」


 そう言うと、サンも地下室へと向かっていった。

 専門用語が多くてよく分からないけど、どうやらなんか凄い敵?が来てて、両親はそれに駆り出されてるらしい。んでサンはどうにも決めきれてないところにユタが背中を押した、と。

 多分合ってるかな?多少の間違いは後で聞けばいいか。

 とりあえず私はユタに連れられてここで待機するなり、どっかに避難するなりするらしい。

 ユタは年齢の割には大人びてるし、安心とまではいえないけど、一緒なら心強くはある。個人的には7歳は子供だと思う。


 サンとロニーは地下室で何やら準備中。武具の保管庫とかなんだろうか?なら子供が入れないようにする理由も分かる。……金銀財宝が眠ってる、なんてのはさすがにないよな。

 ユタは私を椅子に座らせ、玄関に居る兵士となんか話してる。何の話だろ?


「――じゃあユスタディン君、その子を連れて東の広場に向かうんだ。そこで別の大人に聞きなさい」


 ユスタディン……ってのはユタの事、でいいのかな。結構長いけど、あれが本名で、ユタは愛称?ってことは私の名前もアンだけじゃなくてもうちょっと長いのかもしれない。

 なんてぼーっと考えてたらユタが戻ってきた。今度はおんぶをするつもりらしい。……まぁ緊急事態っぽいし、仕方ない。この体で迷子になんてなったらどんな未来が待ってるかも分からない。でもちょっとだけ待ってほしい。持っていきたいものがあるんだ。今生の別れとか勘弁してほしいし。


 荷物をまとめ――といっても1つだけだが――ユタにおぶわれた。

 家の外は薄暗い。街灯こそいくつか点いてるものの、とはいえ今は夜だ。それなのに人々は慌ただしく走り抜けている。


「アン、泣かないでね。大丈夫だよ、二人共とっても強いから」


 ん、と目を拭ってみたらちょっと涙が流れてた。泣いたつもりはなかったけど……この体は私の意思とは関係無く涙を流すことがある。

 今回のもそれだろう。こういうのはまだ幼いからだろうか。最近は急激な睡魔に襲われることも減ってきたし、そのうち無くなりそうな気はする。


 そうして私達兄妹は東の広場へ向かって移動した。私はユタのくれたぬいぐるみを握っていた。



◆◇◆◇◆◇◆



 東の広場に着き、私は一旦降ろされた。

 ここでは台のような場所に兵士が立ってて、避難先の案内なんかをしてるらしい。どうやらアムド教会や下級学校、他にもいくつかあるらしいが、そういう場所への避難勧告らしい。

 らしいってのは、まだ言葉が完璧じゃないし、周りもうるさいし、遠いところに居るしで、推測が多いせいだ。人がごった返してる上にたらい回しにされてる人も居るようで、怒号や悲鳴なんかも飛び交ってる。この世の終わりってこんな感じなんだろうか。


「うちは2歳と5歳の子供が居るんだ!優先してくれ!」

「もう5件もたらい回しなのよ!? いい加減にして!!」

「おい、てめえ今スったろ!こんな時にふざけんな!!」


 辺りは次第に怒気に包まれ、些細な事から殴り合いにまで発展していっている。


「行こっか」


 ふとユタに手を引かれた。でもユタの向かう先は、周りの人とは別方向。


「ユタ、どこいくの?」

「父さんの仕事場だよ。あそこもかなり堅牢だったはずだし、きっと助けてくれる」


 ロニーの仕事は確か非常勤講師のようなもの……なんて考えていたら、上空を巨大な炎の玉が飛んでいくのが見えた。


「ひ!うえ!!」

「こっちにまで……大丈夫、落ち着けば当たらないよ!」


 こんな時にも冷静なユタが頼もしい。こいつまだ7歳なのに、お兄ちゃんってのは凄いもんだわ。

 なんて考えてる場合じゃない。あれは多分、魔術とか魔法とか言われてる奴だろうか。あんなんバンバン撃ち合ってるとか怖すぎる。サンとロニーはあんなのとやりあってるのか……。

 というか本来今日は誕生日で、それを祝われてるはずだったのに、どうしてこうなった。エリアズとかいう奴許せん。うちの家族が怪我しない程度に痛めつけて欲しい。1番はあの2人が無事に帰ってくることだ。


 ユタに手を引かれつつ、色々と考えながら裏路地を走り続ける。私はほとんど知らない道だが、ユタは知ってるらしい。何度か道を曲がると大通りに出た。


「着いたよ、アン」


 目の前には小さな砦のような、威圧感のある建物。

 少しして、鎧から頭だけ出してるみたいな感じのおっさんが近づいてきた。

 あの人の表情も険しい。蹴飛ばされたりしないといいんだけど……。


「ロニリウス・レーシアの子、ユスタディンとアンジェリアです。避難させてほしい」


 緊迫した空気なのに、どうしても名前らしきものに興味が惹かれる。多分ロニリウスはロニーで、じゃあレーシアは名字みたいな感じかな。アンジェリアは私のことだと思うけど、ならアンじゃなくてアンジーじゃないの?とか考えちゃう。

 まあ今の私に出来ることなんてほとんどないし……なんて考えてる裏で、兵士のおっさんはユタをワシャワシャと撫でている。


「ロニリウスのところのか、よく来たな!だけど今は非常時だ、早く入れ!」


 どうにかこうにかあったけど、私達の避難先はここに決まったらしい。

 中は汗と金属の混じったような、ぶっちゃけ臭い建物だった。道場って奴かな?ロニーはそういうの教えてるって言ってたし。でも兵士が居るってことは詰め所とか、そういうパターンか?

 ユタに手を引かれ、内部を少しだけ観察。手頃な高さの木箱を見つけたのでそこに腰掛ける。こんなに走ったのは生まれて初めてだ。かなり疲れたし、何度か転んだ。


「――起きてるんです?エリアズなんて1匹か2匹、それも嵐の後に来るものじゃないですか」

「さっぱり分からん。ただ、北西の方から来たらしい」

「アストリアの方で何か起きたのかな……今分かる――」


 ユタは大人に混じって色々話してる。建物自体がそこまで広くないせいか、妙に声が響く気がする。

 エリアズ、アストリア、レーシア、エー……正直聞きたいことが多すぎるのだが、どうにもこの場で私には発言権は無い気がする。空気がかなり重い。

 ああ、ホントなら今頃家で豪華なご飯を食べてたはずなのに……クソ、ホントに何なんだ。私が何したっていうんだ。最近は排泄だって失敗してないんだぞ。

 意味が分かんない、ああもう……眠くなってきちゃった。体力が無さすぎる。もうちょっと動けるようになったら、少しは鍛えないと――。



◆◇◆◇◆◇◆



「―――ン、起き――ン、アン!」


 近くで大声、しかも体を揺さぶられてる。

 何事?あれ、ここどこ?なんか臭いんだけど……あ、そっか。そうだ。なんか避難してんだった。ええと……ああもう、お腹の虫が鳴り止まない。せめて少し食べてくればよかった。


「おはよ。少し落ち着いたみたい。避難解除の報せが来たから帰るよ」


 私を起こしたのはユタ。でも服のところどころに血が付いてるし、顔には小さな痣が出来ているし、鼻血が流れた痕もある。

 寝てる間に一体何があったのか、ユタは大丈夫なのか。


「ユタ、いたい?」

「ん、ちょっと転んじゃってね。それより帰ろう?父さん達も心配だよ」

「……うん」


 考えなしに聞いてしまったが、当然のようにはぐらかされてしまった。

 転んで痣は分かる、鼻血も分かる。だからって、服にそんなに血は飛び散らないはずだ。

 彼なりに濁そうとした結果なのかもしれない。でも私は、いや俺は子供じゃない分かってしまう。血の匂いが広がっている。きっと、そういうことだ。

 でもこれ以上は聞けない。ユタからは黙って付いてこいって感じのオーラが出てる。いつも一緒に過ごしてたから、何を考えてるかなんて少しは分かる。

 だから大人しく付いていく。こんな小さな子をこれ以上心配させたくない。


 外に出ると別の臭いが襲ってきた。何かが燃えたような煤けた臭いに思わず咽そうになる。ただ木が燃えただけの臭いじゃない。何か、肉を焼いたような匂いも混じってる。多分、きっと。


「エリアズの中に、火術が得意な奴が、居たみたい……ケホッ、だね。嫌な、うっ、臭いだ。……急ごう」


 あまり長時間嗅ぎたい臭いではないし、両親の具合も心配だ。大丈夫なんだろうか。

 こっちの家族は良い人達だ。あまり悲しませたくはないし、出来れば笑っていて欲しい。


 ユタに言われた通りにおぶさると、凄い速度で走り出した。

 7歳の子の足の速さとは思えないような俊足だ。これも魔法や魔術の仲間なんだろうか。こんなのがあるなら最初から、と思ったがそれは言わない。


 移動中、寝てからどれくらい時間が経ったのだろうと空を見る。しかしまだまだ真っ暗だ。東京では滅多に見ることの出来ない、満天の夜空って感じだ。

 ユタの小さな背に揺られつつ、星の煌めきを眺めていた。

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