十五話 発芽
どんよりとした面持ちのレニーと一緒に彼らの宿へ向かう。空は黄昏時、2人はもう帰ってきているはずだ。
「よう!どうだった、結果は」
「うん、合格。ねえカク、明日休んで良い?レニーも一緒に」
「……まぁいいぞ。よな?ティナ」
「あー……まぁいっか。んじゃアタシらも休みにしようぜ」
◆◇◆◇◆◇◆
昇級から2ヶ月、適度に休暇を取りつつ似たようなクエストを回し続けるとレニーに昇級の話が来た。
レニーの指名により私も受ける事に。この前まで7級だったのにもう6級。悪いな先輩、一足お先だぜ。
内容は試験官立ち会いのもと、レニーと決闘しろというものだった。もしかして昇級試験って試験官の気分次第?
そもそも昇級試験自体もあやふやだ。クエスト達成数からなのは確かだが、他にも条件がありそう。これは公開されていないらしく、よく分からない。
負けても上がれる場合、勝っても上がれない場合もあるし、さっぱり。討伐や採取系だと成功させないとダメらしいけどね。
そういや7級への昇級試験だけど、レニーとカクは互いに手合わせ、ティナは大毒亀を狩りに行かされたらしい。試験を突破した者同士なら喋っても良いらしいし、酒場とかで聞き耳立ててたらなんとなく内容も分かりそうなもんだ。
まぁその日その人それぞれみたいだから参考程度にしかならないかもだけど。
ああ、決闘の結果?負けたよ、ボロ負け。何あいつ。闘気纏えるとかもうね、勝てるわけない。これでも私結構強いつもりで居たんだけどな、全部の攻撃避けて受けて弾いて近づいてくるとか怖すぎよ。
条件変えて5回やって、結局1回しか勝てなかったからね。色んな奥の手使ったんだけどな。
しかしおまけなのか知らんが私も6級になれた。
そんなこんなで6級が2人居る私達のパーティ階級は恐らく6級になるのだろう。リーダーより構成員の方が階級高い。カクとティナは一緒に受けるのかな?
最後のアレ、2人は大丈夫かな。レニーにもかなり効いてたみたいだし。おかげで私も色々捨てられたけどね。
◆◇◆◇◆◇◆
翌日、レニーの泊まる宿へ向かった。予め部屋の番号は聞いてある。
戸をノック、少しすると声が掛かる。入っても良いらしい。
「……アンか。どうした」
部屋は薄暗い。机の上に魔石ランプが1つ置いてあるだけだ。鎧を着用していないレニーも珍しいな。
「顔見に来た」
「そうか。……座るか?」
「ん。2人は?」
「出掛けてる」
レニーに促されるままに隣の机の椅子を借り、座る。
言葉を選び、口に出す。しかし、選んだはずの言葉は胸に戻ってしまう。
暫くの沈黙。
「……昨日は眠れたか?」
レニーの言葉。先に言わせてしまったらしい。苦笑いしつつのその言葉は少し来るものがある。
「多分、似たような感じ」
「そうか」
再びの沈黙。
「飲み物貰ってくるね。何が良い?」
「ああ、頼む。なんでもいい」
「ん」
部屋を後にする。あの空気に耐えられなかったのが半分、本当に喉が乾いたのが半分。
1階のカウンターでプルムジュースを買う。後で請求してやろ、10倍で。
「ただま、はい」
「……プルムか」
「うん、これ好きだから」
一口ごくり。酸味の利いた乾いた喉を潤してくれる。きっと、少しは喋りやすくなる。
何から話そうか。
レニーはあちら側の人間だというのが分かった。なら紫陽花の話でもしてやるか。
「紫陽花って花、知らないんだっけ」
「ああ、聞いたことがない。どんな花なんだ?」
「春の終わり頃、雨の日に花を咲かせる花なんだ。小さな花が寄り集まったような――」
小さな花が集まり、大きな花になる。寄り集まる様はまるで弱い者が捕食されないように群れ成すようでもある。
一般的に花と思われている部分は、実のところ花ではない。装飾花という、花に見せかけたガクだ。本当の花は奥深くにひっそり外を伺っている。まるで何かから身を護るように。目立つ色の自身を隠すように、目立つ色の装飾花を咲かせる。
「私達の紫陽花。紫陽花のように寄り集まり身を護るし、本当の自分を隠してもいいんだ」
「本当の自分、か」
「うん。紫陽花の意味、言ったでしょ。あなた色に染まるって。これは同じ紫陽花でも咲く場所によって色が変わるところから来てるんだけど――」
確か、地中の酸性度によって変わるのだ。咲く場所咲く場所に適応し、そこで大輪の装飾花という嘘を開く。
今の私にもぴったりだな。前世も嘘、今世も嘘、自分にすら嘘で固めている。浮気とかじゃない、そうしないと生きていけないんだ。
「だから私達もさ、紫陽花のように冒険者に適応して、冒険者用の装飾花を咲かせよう」
「……そうだな、そうして本当の自分を殺すのか」
「んーマイナスだなぁ。装飾花はいつか枯れるのよ?そしたら本当の綺麗な私を出せるのだ」
これは嘘だ。枯れる順なんて知らない。
「そしてね、まだ言ってない意味があるんだ。……冷徹」
「冷徹に自分を殺せってか?」
「違う違う。冷静であれ、クールに徹しろって事よ。熱い自分を殺せとかそういうことじゃない」
「感情を殺せってことだろ。何が違うんだ」
「殺すのは感情だけ。自分は生きて、隠しておくの。自分のために感情を殺すの。自分を殺しちゃ、意味無いでしょ」
「……アンは強いんだな」
レニー、心折れかけてるな。もう一押しだ。
「私だってそんなに強くない。大毒亀の時だって、ホントに心折れそうになった」
「でも、今は違うんだろ?」
「今だってそうだよ。昨日なんて家で何度も吐いた。でも、必要な事なんだ」
「……子供を殺すことが必要?魔王さえ排除すれば、あいつらは静かな隣人だ!……すまん。責めるつもりはないんだ。ただ、分からなくなってて――」
「大丈夫」
レニーの顔を抱く。よしよし、大丈夫だよと頭を撫でてやる。心が折れかけてる奴は、結局こういうのが1番効く。
折れそうなら一度折ってしまえばいい。そして、新しい芯を作ってやればいい。その際に、自分を少しだけ混ぜて。
1人で立ち上がれるように。1人で歩けるように。1人で走れないように。
「お、俺、この仕事、向いてないんじゃないかって」
「レニーが居なかったら、大毒亀の時、皆死んじゃってたよ?私を助けてくれたのは確かなんだ」
「……ぁ、ぁあ、あああ」
泣かせてやれば良い。男は泣くのが苦手というのはこの世界でも変わらないらしい。
泣くのは大切だ。感情を一度ぶちまけることで、スッキリした心にスッキリと物事は収まる。
ごちゃごちゃと色々な物が乱雑に突っ込んであるなら、一度整理整頓するべきだ。
それが人間だ。
「……ああ、みっともない。すまん。だが、カクには言うなよ」
「んーこのジュース奢ってくれたらチャラにしてやろう!」
「ふっ、がめついな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
やがて静かに顔を上げたレニーは、少しばかりスッキリした表情を見せてくれた。
やはり泣くことは大切だ。人は感情で動く。それは内が向くか外に向くかはそれぞれだが、内に向く人間こそ外に発散するべきだ。
赤ちゃんだって、最初にすることは泣くことだ。泣けない赤子は死ぬ。
「だいぶ、楽になった」
「よっし、我らが紫陽花の盾がふにゃふにゃじゃ皆死んじゃうからねー」
「……そうだな、そうだ。俺がしっかりしなきゃな」
「でももっと頼ってくれていいんだよ?なんていうか、距離、感じてたし」
「そうだったか?気をつける」
「うむ、気をつけたまへ」
良かった。元気になってくれたようだ。一種のドーピングのようなものだが、だが一時でもそれは大切な事だ。これで立ち上がれるなら良し、立ち上がれないでも私に依存させてしまえばいい。
「しかしアン、本当に胸無いな」
「おい!今言うかそれ!今!」
「ふっ……助かった、本当に。実を言うと、ちょっとだけ、引退なんてのも考えててな」
「えっ」
「いや、今は考えてない。それに元々、アイツの夢に付き合うって約束だったしな」
◆◇◆◇◆◇◆
結局一日中レニーと一緒に居た。昼食を取りたいというレニーと共に外へ。その帰りに雑貨屋へと寄り、役に立つ薬草諸々の知識を教えてもらった。単体での効果は知っていたが、一方で案外組み合わせの効果というものは知らなかった。
植物好きなのは知っていたが、想像以上に博識だった。いつか紫陽花も見せてくれだって。この世界にないのにね。
あ、それとヘアアクセサリーを貰った。小さなバレッタ……サイズ的にはむしろパッチンに近い気がする。
あんまり女の子しいのはどうかと思うが、しかし今の私は女の子。似合えば良かろうなのだ。右耳の上に付けてみたらレニーも似合ってると言ってくれた。
……あれ?これこそホントにデートか?まあいっか。
その後宿に戻るとカクとティナが居た。何してたんだろう?あっちもデートかね。
「珍しい組み合わせだな!デートか?」
「無い無い。呪人はデカパイが好きなんだ」
「へーそうだったのか?」
「ティナ、魔人の好みは皆一緒か?そういうことだ」
よしよし、調子は戻ったようだ。カクがアイアンクローされてるのは見なかった事にしよう。
「ね、ちょうど4人居ることだし、ギルドにパーティ申請し直しに行かない?6級からは名前付けられるんだよね」
「ああ、それなら今日やっといたぞ」
「えっ」
む、一緒に行きたかったんだけどな、残念。
しかし、という事は私達は正式に紫陽花パーティとなったわけだ。うん、やっぱり名前って大切だな。
「アン、その件でなんだが……そろそろ家を出ないか?」
「……あー、そうか。確かにそうだね」
「説明する必要もないと思うが……冒険者は街から街へ渡り歩く者が多い。だから冒険者なんだ。ただ街を守るために戦うなら、兵士でもいい」
「そだね」
「しかし、俺達は冒険者だ。なら名前通り冒険するっきゃないだろ?まだ見ぬ食事を求めてよ」
「いや、最後は同意しないけど。んー、そだね。今日帰ったら伝えるよ」
「ま、一生会えないって訳じゃあねえんだ。たまにはダールに顔出す事もあんだろ」
◆◇◆◇◆◇◆
自宅に帰り、夕食を取る。両親が揃うのは基本この時間か朝しかない。
集まったところでカクカクシカジカと説明。
「というわけでありまして」
「いいよ。いってらっしゃい」
えっ軽くない?普通もうちょっと、こう、反対したりとか、色々あると思うんだけどさ。
「私達でもう話し合ってたからね。アンの好きにさせてあげようって」
「うん、いってらっしゃい。でもユタと同じように、定期的に連絡は入れることを約束してね」
あ、そゆことね。両親共に冒険者だし、ここらへんは理解があって助かる……のかな?
ユタか。途中で会えたら良いな。……今は国外に居るって聞いてるけど、どうなるだろ。
Q,読者層はどこですか?
A,むしろ私が聞きたいです。




