十三話 セルティナ3
「じゃ、始めっか。殺す気で来い」
地面に描かれた2m程度の円、その中心に立つキャニンの号令。試験開始だ。
まずはティナがキャニンの右側に走る。キャニンとの距離5mまで詰めてもらう。
同時に私も接近。同じく5mほどまで近づき、停止。
「今度はちゃんと動いてんなー」
余裕そうなキャニン。目に物見せてやる!
「土沫!」
ティナの短縮詠唱。複数の小さな土塊が連続して放たれる。
魔力を供給する限り延々と飛ばし続ける機関銃のような魔術だ。
一方キャニンはその場から動かない。ショートソードで適当に弾くだけだ。
だが今はそれでいい。
「エレス・レズド・ダン!」
ティナと同じ術を使い、十字砲火を開始する。
しかしキャニンは盾も使い器用に全ての土弾を弾く。
「十字砲火か。今考えたのか?それとも知ってたのか?」
まだ余裕、といった顔だ。だがこれだけじゃない。
更に魔力を込め、土塊を大きくしていく。
さしものキャニンも受け流すのに足を動かしはじめる。
本当は動いてほしくなかったんだけどな。でも動くなら動くでいい。
「シト・プート・エル!」
左手を右手に添え、シトで土弾に属性を加える。言うならば泥弾だ。
弾こうものなら剣や盾、鎧にへばりついていく。足元にもだ。
徐々に、徐々にだがキャニンを泥で埋めていく。
「めんどくせぇ!これ止めろ!」
「実戦なら、やめません」
お返しだ。
今回の試験はキャニンを円の中から追い出せばいいというものだ。
円の中を泥で埋めてしまえば良い。逃げなければ死んでしまうからな。
呪人であろう彼には中々対処出来ないであろう?考えた時自分は天才だと思った。
が、どうやら天才ではないらしい。
「うぜぇ!」
体に付いた泥、足元の土、その全てが周囲に撒き散る。
魔力供給を停止。
咄嗟にだがティナも同じ選択をし、全ての土や泥がこちらに届く前に掻き消えた。
せっかく積んだ土が全てぱあだ。
「即席の戦術としちゃ悪くねぇ!だが詰めが甘い」
「おい、アン……」
相手が弾くならば延々土弾を詠唱し、油断を誘ってから水を加え泥し動きを止める。
相手が躱すならば同じく土弾を詠唱し続け、疲労した時点で巨大な風弾で弾き飛ばすつもりだった。
だが結果はこれだ。積み重ねた土塊は全て消えた。
これ以上の作戦は考えていなかった。
だがキャニンは後退、円から出た。
「お前らの勝ちだ。闘気を纏う魔物は5級までは出てこねぇ、足の遅い奴には効果的な戦い方だろう。だが十字砲火なら火か雷、或いは岩で直接ダメージを与えるべきだ。これは遠回りすぎる」
「それは」
怖かった。人に向けて撃つ魔術としては土よりも危険だと思った。土だって頭に当たれば死ぬかもしれないのに。
何はともあれ2戦目は合格らしい。疲れた。魔力もかなり消費した。
「休憩は無しだ。次は俺も動く、最初と同じだ。止めてみせろ!?」
言うが早いか駆け出すキャニン。最初の戦闘とは違い、常識外れの速度ではない。魔術も何も使っていないただの人間が、しかし凄まじい速さで近づいてくる。
「今度は魔術師からだ!止めてみろよ遊撃!」
言われる前からティナは動いている。
が、少しだけ遅い、間に合わない。
キャニンの左手が私の首に伸び、掴む。息ができない。体が浮く。
「無詠唱が出来ない奴は首や胸を狙われる!」
キャニンが腕を振り、体が投げ出される。
宙に浮く間考える。こんなの理不尽だ、勝てっこない。
だがティナは諦めていない。ダガーを握り必死にキャニンへと向かう。
私の試験だ。私が諦めてどうする。
「う、ウィーニ・ズビオ!」
圧縮空気を作り、胸の前に。大きく作り上げていき、地面との激突に備える。
だが所詮はただの空気、完全に衝撃を殺すことは出来ずに地面と衝突。
幸いにも骨は折れていない。
振り返るとティナは未だ戦闘中。
あの妙な剣技は使わないということか。
ふらつく体をゾエロで支援、なんとか立ち上がる。
もう、作戦も何もない。
咄嗟の詠唱で魔力も大きく消費してしまった。
さっきの戦いは私達の勝利だった。ということは何かしらの条件があるはず。一度目の勝利条件は恐らく戦術だ。であれば今回は?
私のよく使う魔術は風と水。そして先日、あの魔法を目にした。
例え失敗しても、ロニーがなんとかしてくれるはず。
ティナに当たってしまうのも、きっとキャニンがなんとかしてくれるはず。
ならばやってみよう。こんないい舞台、滅多にないんだから。
イメージしろ、寒さだ。身も凍る、全てが凍る氷の世界。極寒の銀世界だ。
ありったけの魔力を込めろ。この魔術で打ち止めになってもいいんだ。
呼吸を整える必要なんてない。これで最後だ。不合格でも次があるはず。
「シュ・ニズウィニェル・ニズニレズド」
胸から右手、そして空間へと魔力が溢れ出す。
少ししてそれは現れた。
1つが生まれると、後は堰を切ったように魔力が形になっていく。
白い結晶が辺り一帯を覆い尽くす。
体中の魔力が持っていかれる。
不慣れな魔言を、無理やり制御しているせいだ。
だけどまだ、まだ足りない。
ほとんど全部の魔力を注ぐ。
言われた通り殺す気でいってやる。
キャニンが私を見る。そして口を開く。
「おっ複合属性!なら――」
もう十分降った。
「ゲシュ・ゲイゲズビオ・イゲウニド!」
辺り一帯に舞う雪が一点に集まる。
対象はキャニン。氷漬けにしてやる――
◆◇◆◇◆◇◆
「――き……ろ――ン!」
頭が痛いし体がダルい。うるさい。
「アン!」
ティナか。朝からうるさい。こっちは二日酔いなんだ。静かにしてくれ……?
二日酔い?二日酔いか?違う、そうじゃないはずだ。さっきまでキャニンと!
「ティナ!」
「アン!いきなり倒れるとか脅かすなよ!」
「どうなった!?」
「合格だとさ」
そうだ。私達は戦っていた。そして……氷の魔術を使ったところで記憶が途切れている。
体が重い。鉛みたいだ。知りたいのは試験の結果じゃない、魔術の結果だ。
強い倦怠感を押し殺し、周囲を伺う。が、何の変哲も無い平原だ。強いていうなら少し禿げかかってる程度だ。キャニンの頭と比べればふっさふさのふさだけどね。
「アン?」
「私の最後の魔術……どうなった?」
「ああ、それか!驚いたぜ、氷は使えないって言ってたのによ!」
どうやら成功していたらしい。暴走には陥らなかったようだ。良かった。
安心したらなんだか笑えてきた。大毒亀の時には使えなかったのになぁ。キャニンさん、強すぎだよなぁ、なんて。
「……ティナ、声大きい。……頭痛い」
「あ!?心配してやってんのに!」
「うん、ありがと……でも、頭に響くのよ」
合格、か。これで7級だ。私もやっとティナやレニー、カク……紫陽花のメンバーと肩を並べられるようになったんだ。
ティナと顔を見合わせ笑う。疲れた。ほっとした。少しすると試験官2人が声をかけてきた。
「複合属性、使えないんじゃなかったのか?」
「……はい、初めて使いました」
「驚いたぜ。その戦士を抱えて避難したからな」
「あー、だってよ、アンがよ、アタシまで巻き込むからよ」
キャニンさんに抱かれてるティナか、ちょっと見てみたかったな。お姫様抱っことかなら延々いじってやるのに。
でも良かった。この人、やっぱり助けてくれたのね。
「だが実戦じゃ味方を巻き込むのはご法度だ」
「今回は試験でしたので。キャニンさんかパパがなんとかしてくれると思って」
「そうか、ならいい。でも"パパ"は干渉禁止だったからな、見てるだけだったぞ?」
「……えっ」
「ごめんごめん。そういう決まりだったからさ」
ロニーが申し訳なさそうに頭を掻く。そういう決まりか、なら仕方ないか?キャニンさんやよく分からんおばさんだけでなんとかなるとの判断だったのかもしれない。
何はともあれ合格だ。大事に至ることもなく、私の力で成し遂げた。こんな達成感、久しぶりだ。前の世界じゃ誇れる物なんて無かったしな。
少し休息を取り、ギルドへ向かう。まだお昼前だというのに魔力は底をついてる。今日はもう、何も出来ないな。
そして私は7級になった。
5月1日に更新される予定のこの話、書いたのは3月12日です。
更新される頃にはリアルで氷の魔術欲しいーってなってそう。




