十二話 セルティナ2
冒険者ギルドで職員に片を渡し、報酬を得る。いつもはここで終わるが、今回は違った。
「アンジェリアさんは、皆さんから見て頼りになる存在ですか?」
「ん?ああ、そりゃ勿論。こいつが居なきゃ、俺ら今頃大毒亀のクソになってたしな」
唐突に職員が話しかけてきた。私以外の3人に。いの一番に口を開いたのはカクだ。それは言い過ぎじゃないか?そもそも、私抜きの3人なら2チームに分けたりはしなかったろうに。
「……防御魔術の構築も早え。無詠唱や短縮詠唱は出来ないが、それでも十分なくらいにはな」
次に口を開いたのはティナ。喧嘩したっきりほとんど口を聞いてないのにこの評価だ。あるいは内容的に私を煽っている可能性もあるが……いや、悪く考えるな。彼女も彼女なりに仲直りしたいんだろう。素直じゃないやつめ。
「そうですか。レニィンさんからはどうでしょう」
「まだ未熟なところはある。だがそれを補う才能がある。俺達にとっては欠かせない存在になるだろうな」
おおレニー。私の有り余る才能を見破るとはさすがだ。でもその才能、多分そんなでもないぞ。
欠かせない存在、か。うん、いいね、いい評価だ。いつかはそうなるように努力していこう。でもなんか、ちょっと恥ずかしいぞ?
「ありがとうございました。ではアンジェリアさん」
「え、あ、はい」
「7級への昇格条件を満たしました。最も近い日だと4日後に空きがありますが受けますか?」
4日後、か……ちょうど生理が終わる頃か?ナイスタイミングかも。一応パーティメンバーに目配せするが、特に文句のある奴は居ないみたいだ。
でもまだティナと私の距離は若干遠い。
「はい、受けたいです」
「では4日後、朝6時までにこちらに来てください。詳細は当日に伝えますが、2人1組で戦闘をしていただきます」
「戦闘……それは人とですか?それとも魔物?」
「すみません、詳しい内容は伝えられないのです。それから同じか前後1階級の方でしたらアンジェリアさんからの指名も可能です。下の階級の方であればその方も1つ昇級出来ますが、アンジェリアさんは現在――」
前後1階級。それはつまり、うちのパーティの3人と一緒に行くことも可能ということだ。伺えば3人共嫌な顔はしていない。ならば。
「ティナとでお願いします」
「セルティナさんはよろしいですか?」
「えっアタシ?……別に良いけど」
相手が歩み寄ってきてくれたんだ、私からも。こうして、私はティナと共に昇級試験へ挑むことになった。
冒険者ギルドから出た私達の空気はいつもよりかはまだ重いが、それでも多少は元の空気に戻った気がする。その場に居なかったカクのムードメーカーっぷりが発揮されているともいえるだろう。何もしてないとも言うが。
その後、私は初めて仲間内での飲み会というものに参加した。実に良いものだった。私達は完全に仲直り……いや、更に深く互いを知れた。
◆◇◆◇◆◇◆
「じゃ、今日は俺らは別行動だな。合格してこいよ?」
「あったしまえよ」
冒険者ギルド内、テーブルに集まった私達はカクの声で2つに分かれる。男女で分かれる形になった。
彼ら2人は別の冒険者と動くようだ。私も他の人と組んでみたいとは思う事はある。顔が広いってのはそれだけでメリットも多い。
今回の昇級試験でも組むことは出来たのだが、しかし今回はパーティの空気改善に使わせてもらった。魔術師はあんまりふらふらとパーティを行き来するのもよくないらしいしね。
「行こっか」
「おう」
ティナと2人。昇級試験を受けるとなってからもクエストへ行き、どう戦うのかを詳細に観察してみた。
一言で言うならば魔戦士。ゲームなら序盤強くて終盤器用貧乏になるタイプだな。こいつ、お兄ちゃんとか居ないよな?いや、大丈夫か。青髪じゃないし、そもそも女だし。そういや刀ってこの世界にもあんのかな?極東に和の国やら黄金の国やらがあったりしないかな。いや、知ってる限りじゃないな。エレヒュノイズにあったりして。
っと、ちょっと興奮してしまった。どうせあったとしてもエセジャパンだろうしな。
言ってしまえばカクが物理寄りでティナが魔力振りの魔戦士だな。ティナの場合はかなり特殊で体を動かすのにも魔力を割いている。聞いてみれば魔力量が多いから常時ゾエロ展開しているとのこと。
なるほど確かに魔力量は今まで見た人の中でもかなり多い方だ。というかロニーよりもあるような気もする。私とも遜色ないらしい。ということは私も同じような事が出来る……とはならない。そしてしない。あれには欠点がある。
私のような魔術師は、魔力の絶対量で全てが決まるのだ。無駄に魔力を使いたくはない。確かに使えば使うほど、ある程度は増えていくが……いざという時に魔力切れを起こして何も出来ないじゃ意味がない。
だから、1日の使用魔力は8割まで。ご飯と一緒だな。8割ってのも厳格に分かるわけじゃないけど、この前の大毒亀で使ったのが4割くらいだな。100は撃ったはずだが、それでもこのくらいしか消費していない。
一日中ゼロ・ゾエロをかけても大体2割ってとこか?徐々に消費していくやつは分かりづらい。何にしろ、無駄に魔力を消費したくないのだ。ティナはその点迷いがない。
自身を動かすためだけに魔力を使い、攻撃の際も刃にゾエロで魔力を纏わせるだけだ。トウではなくゾエロだ。私には出来ない。
代わり、魔力が切れてしまえば何も出来ない。先日雷狼を狩った際、実際に起こった。
最初は5匹の群れだった。3匹を戦闘不能にした辺りで援軍、最終的には17匹と戦った。キツいはキツいが順調に戦っていた。
しかし最後の3匹というところで、ティナが唐突に戦線離脱した。たった3匹とはいえこちらも動けるのは3人、むしろ1人守りながら戦ったため数的には不利、非常に苦しい戦いになった。
ティナのような魔力の使い方では連戦は魔術師よりも苦手なのかもしれない。逆に短期決戦ならかなり強いんじゃなかろうか。
目にも留まらぬ……とまではいかないが凄まじい速さで攻撃を回避していたし、大毒亀の時もドジらなきゃもっと楽だったのでは。ガス欠が早いのが唯一の問題点かな。カクも私もその戦闘能力に驚き、頼った。
だからこそ最後の3匹に苦戦したんだけど。
そんなティナと一緒に受ける昇級試験とはどんなものだろう?カクとレニーはペアで受け、ティナはソロで受けたとか。内容は教えてくれなかった。カンニング対策か知らんがギルド側から口外するなと言われてるらしい。
「昇級試験受けに来ました、アンジェリア・レーシアです」
「拓証をお渡し下さい」
8級冒険者アンジェリア・レーシアの拓証を渡す。7級も8級も拓証の見た目は同じなんだよね。拓証を受け取った職員はそれを持って裏へ行き、少しすると男性を2人、女性を1人連れて戻ってきた。そのうち男性の1人はよく知ってる人、と言うか……。
「やあ、アン」
「えっパパ」
「は?」
ロニリウス・レーシアだった。
◆◇◆◇◆◇◆
私の父、ロニリウスなんとかレーシアは練兵顧問を務めている元1級冒険者だ。とっくに繋がりは切れてるもんだと思ってたのに、ギルドに頼み込んで見学しに来たらしい。親馬鹿め。恥ずかしいわ。まぁもはや冒険者ではないので、本来の昇級試験官2人に加えてロニーって事で3人組である。
他の2人はロニーと一緒に出てきたスキンヘッドのおっさんと、見た目年齢40代って感じのおばさんだ。
「部外者はホントはダメなんだけどね。キャンに頼み込んだら行けた」
刃の潰したショートソードと分厚い円盾、金属鎧を着けているスキンヘッド。彼はキャニンと自己紹介してくれた。
貫禄たっぷりな見た目に似合う3級冒険者だとか。3級冒険者って普段どんなのと戦うんだろう?今日は私達と戦うんだけど。
「さ、そろそろ始めようか」
ロニーに連れられて歩くこと20分、街の外にある薄く禿げた草原に到着。途中で顔を合わせた門兵はロニーの教え子らしく頭をぺこぺこ、私のときとは大きな違いだった。
この草原でキャニンさんと2対1で戦うのが試験内容とのこと。思いっきり魔術使ったら死んじゃいそうで怖いんだけど?っと聞いたら8級程度にゃ殺されねーよと笑われてしまった。
一応、私の使える魔術もざっくり伝えておいた。大丈夫かなぁ、大丈夫だよなぁ。
ティナと少しだけ作戦会議、時間にして10分も経ってないだろうにおばさんが始めろと言い出した。全然まだ決まってないよ。つーかお前も名前教えろや。
「先手はやる。但し!あんまり半端な攻撃なら、殺す」
ただでさえ気迫のあるキャニンさんが凄む。あれは本気の目だ。冒険者でなる以上死ぬ事は考えていたが、実際目にすると恐ろしい。ティナなんか後退りしてんじゃん。私?足が竦んだ。動けない。
「おい。実戦なら今、死んだぞ?」
「うぉらぁっ!」
左手前に居るティナが叫び、斬りかかる。
きっと盾で防がれる、と思った私の予想は外れた。
キャニンは右手の剣でティナのダガーを受け、何故かティナが後方に吹き飛んだ。
「……え?」
「どうした魔術師。来ないのか?ならこっちから行くぞ」
魔力視を強め、キャニンを見るも魔力の変動は感じられない、非常に穏やかだ。
私までの距離は約15m。一瞬で詰められることはないはず。なら。
「ヴウィーニ・ズビオ・ダン!」
圧縮された空気の塊……風弾がキャニンに襲いかかる。
直撃。金属音のような高い音が鳴り響き、土煙が上がる。
どうだ……?
「寒ぃじゃねぇか」
私の首元にショートソードが当てられた。キャニンが後ろに居る。
いつ、いつだ。見えなかった。そもそも当たっていなかったのか?
この状況を覆すには……。
「シュ・ティウ――」
「そりゃ悪手よ」
後頭部に衝撃が走り、意識が途切れた。
◆◇◆◇◆◇◆
く、苦しい!
「ゲホッ!ゲホッ……」
「おはようさん」
顔に水を掛けられ、目が覚めた。ティナも同様に起こされたらしい。しかもこれ、魔術じゃなくて川の水だ。少し飲んじゃったぞ。
「何が……あっ」
思い出した。キャニンと戦ってる最中に倒れたんだった。確か、後ろから殴られて……。
頭を抑え、怪我を確認する。血は出ていないがコブになっているようだ。ズキズキする。
「どうだ?俺、強えだろ」
「はい……」
「でもな、3級の魔物は俺より強いんだ。さってと、試験の続きすんぞ」
「……続きって?失敗じゃ?」
「あんなのに勝てる7級冒険者なんて、まず居ないよ」
「だな!最初だけは手を抜くなって言われてっから――」
ロニーとキャニンが笑い合う。なるほど、最初だけは全力で来るらしい。結構本気で放った魔術も"寒い"の一言だ。あんなの、倒せるわけがない。
ちなみにティナが吹っ飛ばされたのはシートという剣術の技の1つらしい。私の魔術も勢いだけ利用したとか。合気術みたいなもんか?つーかどうやって倒すんだこれ。
少しだけ作戦を練る時間をもらい、2度目の戦闘が始まる。
戦闘は一話の中で収めたいのですが出来ませんでした。




