十一話 セルティナ1
2018/07/29 一部名称の間違いを修正
ティナの言うとおりで確かに道中は危険度の高い魔物はおらず、せいぜいが土蟲とケノー程度だった。
というのも1日目はダーマト・セムへの街道を利用したからだ。むしろ何故土蟲が居るんだ?とカクは不満げだった。確かにこの前土蟲を狩りに行ったのは北にある小さな森だったし、街道では兵士が駆除しているはずなのに。
その日の夕方、私たちは街道の側でキャンプを張ることに。馬車を道から外し、木陰の近くで焚き火を作った。
まずは一晩中の焚き火に耐えられるように枝を集めるのだが、ここで一苦労。乾いた枝って結構少ないんだ。
最初は見つける度に発熱の魔術で乾燥させてから持っていっていたのだが、それでも非常に重い。
いくら魔力で補えるとはいえ、地力は大切だ。筋トレ代わりにもなるだろうとゾエロを使わずに運んでいたのだが、早々に腕がパンパンになってしまった。同じく湿ったままで運んでいる2人は平気そうで、なんだか悔しい。
レニーはまだ分かるとして何故ティナは平気なんだろう、と思いよく観察すれば高出力のゾエロを使っていた。私も最後の方は諦めて魔力だけで運んだ。ゾエロってマジ便利。
ちなみにカクは焚き木を組んでいた。こいつは日本に居たら便利屋に就いてたと思う。
「あー腹減った。カザルさん、飯あるんだよな?」
「ああ、もちろんだとも」
この男は飯の事しか頭にないんだろうか。1番疲れて無さそうなのに……ぐちぐち。
でも確かに食事付きとあったんだよね。荷馬車に載せてあるのを使うのかな?
予想通りで、食料を氷漬けていたのはカザルさんの魔術によるものだった。
あのあの私まだ複合属性扱えないんですけど。というかあなたそんなに魔力あるように見えなかったんですけど。1日中凍らせるってどれほど魔力使うんでしょうか。
私の考えなんて勿論伝わらず、カザルさんは少しだけ氷を溶かし、まるで削るかのように食材を用意してくれた。
食材だけは用意してくれた。
「あのー……これは?」
「ん?食材だよ」
「いえ、そうではなく」
「ああ。私は料理が得意ではなくてね。誰か手伝ってはくれないか?」
集まる視線。ああ、知っているさ。私に押し付けるんだろう。でもレニー、お前も手伝えよ。今回は野菜も多いんだぜ。
レニーを引っ張り私達はある程度出来る事を伝え、焚き火を使って調理を始める。
カザルさんの魔術は思った以上に凄く、氷で出来たまな板と包丁を作ってくれた。あのあのそれどうやるんですか。後で教えてくださいマジで。椀と鍋は持参した奴だったけどね。
◆◇◆◇◆◇◆
その日の食事はとても美味であった。やっぱり食材と調味料が揃ってるってのは素晴らしいね。それに比べて先日の亀と来たら……いや、忘れよう。あれは黒歴史だ。
食後、私達は見張り順を決めた。順番はレニーとティナ、ティナとカク、カクと私、最後が私とレニーだ。レニー曰く呪人は魔人に比べて睡眠時間は短いんだとか。
確かに大毒亀の時も起こしてまわってたし、無理してるって感じじゃなさそう。魔人の睡眠が長いのか呪人の睡眠が短いのか……前者だな。なんかの文献で魔人をナマケモノ扱いしてたし、パーティ名を決める議論で朝まで過ごした時は夜が妙に長く感じた。
多分気の所為じゃなくて本当に夜は長いんだろう。前世の冬くらいの長さがデフォなんだろうな。
さ、早めに寝る準備しよう。後半2回の見張りがあるのだ、早めに寝ておかないと。
火があるとはいえ露天だから寒いし、地面が硬い。ああ、ベッドで寝たいよ。マントがあればなんて言ってたけど、無いよりかはマシってだけで寒さは変わらん。
ポーターを募集する冒険者の意味が分かった気がする。キャンプ用品を持たせたい。サモン荷物持ちとかいう魔術、無いだろうか。うー寒い。
ティナから聞いた短縮詠唱の練習はやめておいた。ここは人の領域じゃない、いつどんな危険があるか分からないからな。練習できるような環境なら、そもそも見張りなんて立てないだろう。
いつもなら寝る前にしている魔言を無視した魔術も今日はおやすみだ。私もおやすみなさいだ。
◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、レニーと共に他の人を起こし、出発した。
カクだけは途中で起きる羽目になったせいか、非常に眠そうにしていた。まぁ朝食を出したら一気に目が覚めたみたいだけど。
街の外でちゃんとした食事を摂る。実は非常に難しいことであり、だからこそありがたい。なんてカクが言っていたが大げさじゃないか?大体、冒険者稼業だってそこまで長くないだろうに。
その後準備を整え出発。ダーマへは数時間程で到着した。
ダールの外観はまさに壁だ。多分巨人に襲われることを想定しているんだろうが、10m級には覗かれてしまいそうな高さ。
一方ダーマの壁は低い。3m程度の石壁だ。その周りに木で出来たトゲトゲの壁が並んでいる、懐かしの先生だ。ゾンビに殴られパニクって、足元に置いて何度も自殺したなぁ。現実で見ると結構威圧感がある。
今回は中に入らず東に行くんだけどね。冒険者をやってりゃそのうちまた来るでしょ。
ダーマが視界に入らなくなった頃、馬蜥蜴の足が止まった。しきりに舌を出し入れし、周囲の匂いを伺っているようだ。
「カク、何か居るのか?」
「……分からんな。さすがにこいつらには劣る」
レニーとカクが言葉少なに確認しあう。レニーは私よりのカクと一緒に居た時間が長い。きっと頼りにされているんだろう。
私も魔力視を強め、辺りを警戒する。だが魔力視とは所詮視力の延長であり、見えないところは見えないのだ。それに、あまりに強めると魔力しか見えず、視界が紫一色だ。匂いで探知出来るらしいカクにはこういう時は劣ってしまう。
やはり何も見えない。蜥蜴は何に反応しているのだろうかと様子を見ていたら、また歩きだした。一体なんだったんだろう?
皆不審がってはいたがそのまま進むことにした。警戒レベルは引き上がったんじゃないかな。ま、その後村までは何事もなかったんだけどね。つまり、村では何事かがあったわけだ。
◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ、到着だ。護衛ありがとう、後半も頼むよ」
と、カザルさんが唐突に言い出した。何を言っているんだろう。辺りには何も無いというのに。私達は互いに顔を見合わせ、理解できないとジェスチャー。
そう。カザルさんが到着と言った場所は何もない平原だった。まさか地下に村があるとは思えないし、だったら空にでも浮かんでるのか?と空を見ても月が見えるだけだ。もうすぐだからと暗くなっても歩き続けたのに。
「カザルさん?到着ってここ……」
「ああ、私の故郷、アラト村さ。何もないとこだが、今日はゆったりしていってくれ」
何もない。それは慣用句的な意味で使っているのか?それとも、この何もない空間を指しているのか?私が混乱している最中、ティナが爆弾を落とす。
「カザルさん?確かにここには何もねーよ。騙したのか?」
ティナ、なんでそれを!
ティナの言う通りだ。いや、カザルさんの言う通りでもある。ここには何もない。こんなところまで護衛しろだと?こんなところに、支援物資を送っているだと?
訳の分からなさにイライラしていると、カクが静言ではなく直接耳打ちをしてきた。
「思い出した。アラト村って、60年前くらいに滅んだとこだ。もっと早く気付いてれば……」
「なっ!?」
「2つに1つだ。奴が俺らを騙して何か……例えば奴隷にするだのを企んでる。こっちは最悪だが、そうなら昨日の飯の時点で毒でも盛るはずだ。だから多分、無い。
もう1つはカザルさんはイっちゃってて、本当にあると思いこんでる。今もカザルさんの目には村が見えてるってパターンだな。多分こっちだろうが……これも厄介。あの人、魔法使いだ」
思わず声をあげてしまった。そして魔法使いという言葉、これにも衝撃を受けた。確かにあの氷の魔術は例え複合属性を扱えたとしても想像できない。魔術はそこまで器用じゃないのだ。
前者ならば何故私達なのかという疑問が残る。後者ならばなぜ魔法使いがそのようなことになったのかとも。
ぐるぐる、ぐるぐると回る。
一方カザルさんはゴミを見るような目でティナを見る。ああ、きっと後者なんだろうな。カザルさんの目にはどんな景色が映っているんだろう。
◆◇◆◇◆◇◆
翌々日朝。私達は"アラト村"を後にした。パーティの雰囲気が絶望的に悪いのは"アラト村"がただの平原で、野宿を繰り返したからだけではない。
アラト村を出る前の日の夜。
カザルさんを除いた全員がイライラしていた。
私だってそうだ。野宿続きで体があちこち痛いにも関わらずこれからまた野宿、シャワーも浴びていない。いくら魔術である程度綺麗になるとはいえ、水の流れは心を癒やす。火の揺らめきは人を惑わせる。
"アラト村"とはいえそこは何もない平原。いつ魔物が出てもおかしくないため昼夜問わず警戒態勢を緩められない。私達の疲労はピークに達していた。だからそれは、いつ誰が起こしてもおかしくなかったんだと思う。
「なんでこんなクエスト選んだんだ」
始まりはティナの愚痴だった。"アラト村"に着いてから何度も聞いた愚痴。いつもの私なら聞き流していたはずなのに。
「私だって、こうなるなんて知らなかった」
「あのクエストを見せなきゃ雷狼狩りだったのにな。知らない村への護衛なんて選ぶから」
「は?だったらティナ先輩がアラト村はもう無いですって言えば良かったんじゃない?経験豊富な大先輩がなんでこんな事も知らないわけ?」
「知るわけねーだろこんな辺境の村!短縮詠唱も出来ない自称魔術師が!」
「今それ関係無いでしょ?バカなの?論点をすり替えないで」
ティナと同じように私もイライラしていた。更に言えば私は生理前で尚の事イライラしていた。そのせいか、この時はつい喧嘩を買ってしまった。
レニーは相変わらず無口で介入して来ない。いや、その日レニーの声を聞いたかも怪しい。カクは周囲の見回りと言って席を外していた。最悪のタイミングだった。
「つーかよ、新米のくせに生意気なんだよ!大毒亀の一件で調子乗ってんだろ」
「そだね。私が居なきゃ、皆死んじゃってたかもね?ティナは転んで動けなくなってたんだっけ?」
「は!アタシより強いって言いたいのか?」
「当たり前じゃん。私は転んで水弾受けたりしないよ?」
売り言葉に買い言葉。静かな平原を流れる冷ややかな風も、その時ばかりは私達の熱を強くする鞴だった。
今思い返せば煽りまくってる私も悪いとは思うんだが、喧嘩を売ってきたのはティナだ。
「避けてみろよ!水弾!」
そして、先に手を上げたのもティナだ。言葉に詰まった彼女はあろう事か私を突き飛ばし転ばせ、手をかざした。
たかが水、されど水。質量攻撃だ。だが突き飛ばされた時点で私も魔術を構成し始めていた。片手しか使えず中途半端な受け身……尻もちを付いたのはそのせいだ。
ティナが水弾を放った。
だが私の詠唱のほうが早い。
「シトプート・リチ・レズド!」
ティナの放った水弾は、しかし私の手に触れた途端に霧散する。
大毒亀の話。転んで水弾を受けたという話。相手に転ばされたという事実。次に来るのは水弾だと分かっていた。分かっていれば対抗策なんていくらでも考えつく。
ティナは水弾をかき消した右手を見て、驚きの表情を浮かべる。
「短縮詠唱も、避ける必要もなかったね?」
今度は苦虫を噛み潰したような顔に。コロコロ変わるやつだ。だが1発は1発……この場合は2発か?まあ良い。魔術には魔術を、だ。
「今度はこっちの番。イゲウィーニ・セブクニード!」
私の手から突風が発生する。人1人簡単に吹き飛ばしてしまう風は、だがティナには届かなかった。ティナの前に鉄の壁が現れ、よろめく。レニーだ。
「……そこらへんにしとけ。特にアン。煽りすぎだし、その魔術は下手をすれば死ぬ」
ドスの利いた低い声で私を諌めるレニー。
頭に昇っていた血がさっと降りていくのを感じた。死ぬ、死ぬ?死ぬ。
この魔術は、人を殺す。そんな本気の魔術を仲間に撃とうとした。
「ティナ、お前もお前だ。アンだって知っていれば選ばなかったはずだ。落ち度はない」
「だってよ、こいつ――」
「上級なら折れろ」
ぐぬぬと書かれそうなティナの表情にほっとした。魔術は人に向けて使うべきではない。ましてや味方に向けるだなんて。
もしレニーが止めに入ってくれなかったら今頃どうなっていたか分からない。
私としては10mも吹き飛ばしてやれば十分だと思っていたが、それ以上に魔力を込めていたらしい。体がだるい。
「ティナ、ごめん。少し言い過ぎた」
「あ、アタシこそ、その……悪かった」
だがティナの表情には多少の怯えが見える。そりゃそうだ。私だって相手が剣で斬りかかってきたりしたら怖い。ティナとの仲、悪くなりそうだななんて思った。
なんて事があったせいで、こんな雰囲気だ。
結局、ダールに付くまで険悪な空気は付きまとっていた。
ストックがかなり溜まってきたので7話連続更新します。
……前の話(第43部分 十話 護衛)からするべきだった気が。とか言わないで(´・ω・`)




