十話 護衛
途中でF5押して消えて泣きそうになった。しかも3回も。バックアップって大切だね……。
2018/4/10 ロニーの年齢修正 65歳→133歳
たまの休日って必要だよね。だのになんで私は一日中歩き回っていたんだろう?
日記に今日の出来事を記しつつ、思い返していた。
ドイ・レズド・ズビオを使った魔力制御の練習をしながら。
――――
朝の鐘の音に起こされた。
私は予想通り、朝まで寝ていたようだ。だって、仕方ないよね?朝早くどころか夜中に起きてからの徹夜コースだったもん。
ってそれは置いとこう。で、いつも通り朝の身支度をしてる時に気付いたんだ。あれ、今日は予定無くね?って。
だから二度寝しようかな、と思ってベッドに入ったんだけどあれだけ眠った後だし、全然眠れなかった。
じゃあもう起きるしかないじゃん。って事で朝の身支度再開。
リビングに向かうとサンが朝食の準備をしていた。だから私も手伝った。
少しするとロニーが降りてきたから、大毒亀の話をしたら驚いていた。サンとロニーが現役の頃は、大毒亀関連は6級の仕事だったらしい。
最初それを知らなかったから、親からしたら2階級飛ばしに聞こえてたんだとか。そら驚かれるか。
朝の簡単な会話が終わったらロニーは仕事のために出ていった。サンが掃除をする、手伝えと言うので私は逃げ出した。
その後は目的もなく街をぶらついた。セメニアは食事処で働いてるとは聞いていたけど、別にお腹も空いてなかったから行かなかった。
街をぶらぶら、面白いものはないかと歩き回ったがよく考えてみれば見知った街。南東部のスラム以外は大体知ってる。スラムだけは危ないから行くなと皆に言われるせいで行ったことがない。
今日は鎧を付けてなかったから、革鎧を買った店に行くこともなかった。もし着てたら、遊び行っても良かったけどね。
革鎧って一式で小銀貨16枚だっけ。ってことは大毒亀のクエストを15回クリアすればやっと手が届くのか。うへぇ、毎日やったとしても45日掛かるのか。
しかも今の家出ちゃったら食事代や宿代も掛かるだろ、って事は……どれくらい?しかも日替わりで依頼が変わるんだ。毎日あれを引けるわけでもない。とかぐるぐると考えてた。
小銀16をいつかお返ししてあげたいな、とは思うけど、別に今日一日くらいの休みはいいよね?
ケシスも学校だし、ロニーの職場は一般人は入れない。さて、やることがないぞ!と私はやっぱり街をぶらつくことにした。
でもやっぱりやることなくって、結局日がな一日ぶらぶらしていた。
夕方になると早めに家に帰り、サンと一緒に料理をした。大毒亀の肉じゃなくて普通の塩漬け肉でよかった。
夕飯は家族3人で食べた。ユタが居ない事が寂しくなったので、部屋に戻るとユタから届いた録石をいくつか読んで、そのまま日記を書いて寝た。
――――
……あれ?これで終わり?って言われそうだけどこれが全てだ。やることなんてなかった。明日に備えて寝よ。日本語と英語は既に書き終えてるしね。
そういやこの魔術、初めの頃は手から離す事すら出来なかったんだよね。だいぶマシになったんじゃないか?それでも30cm程度で消えてしまうんだけど。
何度か繰り返し、丁度いい疲労感を覚えた辺りで今日におやすみなさい。
◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、私は言われた通り冒険者ギルドに顔を出していた。
やはり朝のギルドは騒々しい。しかし昨日の私達のような朝帰りは居ないようだ。
辺りを見渡し、レニーを発見。大きな体と大きな盾はとても目立つ。呪人って便利。
「おは!」
「うぉっ!?」
後ろから腰を叩きつつレニーに声をかけた。驚いてやがる。昨日のお返しじゃ!
ティナはそれを見て吹き出していた。カクは……。
「あれ?カクは?」
「あいつはスクロールを買いに行ってる」
「スクロール?」
「知らんのか?」
まぁ名前からなんとなく想像は付く。
聞いてみれば予想通りだ。魔術や魔法が込められた巻物や魔石の事だった。魔導ギルドで買えるとの事だが、そんなとこあったっけ?と聞けば屋台が出ているらしい。
魔導ギルドか。名前は聞いたことあるけど、街で見かけたことはない。ダールは大きい街であるのに、何故無いんだろう?と聞けばどうやらケスト由来のギルドだからだそう。
あの国は魔人至上主義。故にどの人種も受け入れるダニヴェスとは戦争中。
ダニヴェスとしてはケストのものがあるのは面白くないのだろう。資金源でもありそうだし。
ま、だからと言ってギルド自体の活動停止命令が出てるのはいかがなものかと思うけど。
ただ、冒険者から凄まじい反対があり、苦肉の策として早朝に屋台を出す事だけは許したらしい。
んでカクはそこでスクロールを買いに行ってると。
「しかしなんでまたスクロールを?」
「魔人としちゃ魔力が少ないって言ってたし、それを補うためじゃねーか?」
そういえば確かにカクの魔力は薄かったな。無詠唱やら短縮詠唱やら使ってるから、魔力の扱い自体は上手そうだけど。つーか私出来ないし。
「薄すぎて昔、呪人と間違えられてたらしいぞ?だからレニーとは幼馴染なんだってよ。つーかこいつら同い年」
「えっ」
「……お互い今年で21だ。呪人と魔人じゃ、老いる速度が違うからな」
「アタシは秘密」
「26だ」
「おい」
あらびっくり。つーかカク、あれで21歳なのか。
ティナよ、1番年上なのに何故レニーのほうが落ち着いているのだ。
……レニーはもっと老けてると思ってた。なんかこう、落ち着いてると年上に見えるよね、うん。
「私は今年14歳……いや、そうじゃなくて。今日のクエスト決まった?」
「いや、まだだ。アンが来たら一緒に見ようと思ってな」
「大毒亀のクエストって報酬的にはどうだったの?」
「良い方だと思うぞ?7級って言ったら1から7小銀ってとこだからな」
ほう、まだ上があるのか。2人には悪いけど、正直レニーさえ居れば大毒亀5匹くらいなら倒せる気がする。
さすがに同時に掛かられたら無理だけど。1匹ずつ来る分にはいけないかな?
そう考えるとレニーが人気ってのもなんとなく頷ける。確かに組むならカクじゃなくてレニーだ。
私がまたもうだうだ考えているうちに、カクが戻ってきた。スクロールってどんなの買ったんだろう?
「土壁を1つだけな。一昨日飲みすぎて素寒貧よ」
「あー、それ、アタシに使った奴か?なら金出すよ」
「いや、いい。俺もあの壁に隠れてたしな」
もしかして短縮詠唱は出来ないんだろうか。静言を無詠唱で出来るのは凄いと思うけど。後でコツ聞くか。
その後軽く会話を挟んだ後、クエストを選ぶ流れになった。
ゴブリン野営地の調査はまだあった。
「こっちは?火蛇調査及び討伐」
「火蛇とは」
火蛇とは火を噴く大蛇の事らしい。水の亀の次は火の蛇か。爬虫類ばっかか。次は雷を放つワニか?
最近東にある大森林で山火事が増えているので調査、討伐してほしいものとの事だった。
何か証拠を持ち帰れば大銅貨8枚、討伐すれば1匹に付き大銅貨5枚だと。結構数が要るな。
「いや、これ大森林だろ。危なくねえか?スールースパイダーとか」
「レニーが居るだろ」
「んじゃイームベアとか出たらどうするよ。逃げられないぜ?」
「そんときゃアンになんとかしてもらおう」
「ああ言えばこう言う」
「アタシのセリフだ」
どんどん知らない魔物の名前が出て来る。私は諦めた。私は貝になりたい。私はなんともできない。
「コクロにしよう。これを終えればアンは7級、俺とカクは6級だろう」
「え、そうなの?」
「コクロ……雷狼だよな。こいつらって、数多いぜ。守りきれるか?特にアン」
「お前みたいに転ばなきゃ大丈夫だろう」
「うっ」
雷狼、またはコクロとは大きな黒い狼らしい。それだけならあれ?前世にも居そうじゃね?ってなるけどけど、どうやら雷系統の魔術を使うらしい。
単体だとそうでも無いけど、群れで生活する魔物なので結構手強いんだとか。
これは1匹に付き大銅貨8枚。蛇より上だとか。10匹倒せば大毒亀と同じに加えて魔石収入もある。
ティナの解説を聞きつつ、録石棚に目をやった私に1つのクエストが目に入った。護衛というものだ。
「ねぇ、これは?」
分類:護衛
報酬:小銀貨6枚
内容:アラト村までの往復護衛
期間:6日前後
名前:カザル
詳細:4名のパーティ限定。食事付き。本日8時に出発します。
「護衛クエストか。6日で小銀貨6枚って安い気もするが……飯が気になるな、俺は」
「そもそもアラト村ってどこだ?」
「ダーマト・セムを超えた、イーリルの方だったか」
「あー南東側か」
「まぁ、途中で魔物でも出れば魔石売れるし良いんじゃねーか」
「7級からの護衛依頼って事はそこまで強い奴も出ないだろうしな」
ささっと話し合いが行なわれ、トントン拍子で決まってしまった。ちょろいな。
しかし護衛クエストとな。なんでも7級では力不足、5級ではコスパが悪いと6級に集中するものらしく、7級向けのは珍しいようだ。
あるいは6級以上のものが取ってくれる事を期待していたのかもしれないが、あいにく私達の目についた。というか8級が1人混じってる。そーりーそーりー。
「まだ時間あって暇だな。アン、スクロール見に行くか?」
スクロールというものに興味が無いと言えば嘘になる。それにギルドのクエスト更新は朝6時だ。時間的には丁度いい。冷やかしてしまうことになるだろうが……。
道中、無詠唱のやり方についてカクに聞いてみたが、脳内で詠唱しているだけらしい。つまりダメだった。それはもう試したのだ。
逆にティナは短縮詠唱のコツを教えてくれた。
発火。即ちリチ・クニードであれば詠唱文に当たる"リチ・クニード"を"発火"と覚えれば良い。
リチ・クニードは発火という意味だ、発火はリチ・クニードという意味だ、と頭に叩き込み、
これを繰り返し行ない、発火と言う言葉自体にリチ・クニードの意味を持たせるというものだった。
……魔言を解してしまう私には非常に難しそうだけど、それでもやり方が分かっただけありがたい。
もちろんこれには欠点があって、その場で魔言を組み立てるような場合、短縮詠唱は出来ないというものだ。だが一般的な魔術師はそもそも魔言を組み立てて詠唱文を作るなんてことはしないとか。
逆に利点もある。詠唱文を相手に知らせずに魔術を使えると言うことだ。無論無詠唱のほうが良いのだが短縮詠唱の方がいい場合もある。その1つが対人戦だ。
「火球」と短縮詠唱した場合、レチ・ダンとして対応するのが基本だ。だが放たれる魔術がウィーニ・ズビオ・ウズド・ダンだった場合どうだろう?
相手が魔術を使用して防御を行なったならば、予想外の属性に加えウズドでの被害も見込める。
人に限らず言葉を解する魔物であれば友好的であるらしい。確かにそうだ。ジャンケンでグーって言いながらチョキ出すようなもんだ。
少しずつ練習していこう。魔導ギルドの屋台へ向かう道すがらそう考えていた。
◆◇◆◇◆◇◆
街の南東部の門。荷馬車に凭れかかりつつパイプを加え、時たま白煙を吹き出す男性が居た。
ギルドで聞いた特徴と一致する姿だ。ンボーイとか言い出しそう。
青い服、黒い髪、よく蓄えられた口ひげ。高齢男性。まぁ前世基準で考えると中年って感じの見た目なんだけども。魔人は15歳辺りから極端に老化が遅くなる。この人多分100は超えてるぞ。ロニー?あれは例外。だって、130超えのくせして30代に見えるんだもん。アンチエイジングでもしてるのかしら。
「アンタが護衛クエストを出したカザルさん?」
「おお、じゃあ君達が護衛か」
「6日間、しっかり守ってやるよ」
「そりゃ頼もしい」
荷馬車、と表現したけど厳密には違う。というのも引くのは馬ではなく、大きな蜥蜴だからだ。
まぁ蜥蜴車とか呼びづらいし馬車でいっか。こいつら確か馬蜥蜴って名前だし。馬車は1匹で引っ張るらしい。つーかちっちゃい恐竜みたいで可愛いな。
馬も馬でたまに見るけど、このミニ恐竜の方が圧倒的によく見る。名前もそのまんまで馬蜥蜴だ。馬より力強くて安くて管理もし易いんだとか。
代わりに夜になると走れなくなるとも聞いた。見た目通りの変温動物なんだろう。
何はともあれ、私達はカゼルさんの荷馬車を護衛しつつ歩きでアラト村へ向かうことになった。カゼルさんだけは御者台だ。
今回運んでいるのは凍らされた多種多彩な野菜、大きな肉の塊、それからチーズや服、農具等だという。
売りに行くのかと聞けば違うと答える。では何をしにと聞けば"支援"だそうだ。
彼はアラト村の出身であり、しかし幼い頃に奴隷としてダーマト・セムに売られてしまった。極貧の村ではよくあることらしい。幸いにも飼い主は綺麗な服と食事を用意してくれ、あまつさえ学校にまで通わせてくれた。
しかし彼の飼い主はある日唐突に消えてしまった。しかも不思議と誰も、彼とその飼い主の事を覚えていないのだという。
学証はあるのにも関わらず、同級生や教師も覚えていない。しかし学証自体は使える。彼は飼い主から貰っていたお小遣いを密かに貯めていて、その貯金を使いなんとか冒険者になった。
6級まで上ったものの自身の才能の無さを感じた。それと同時に自分の事を何故か覚えてくれないダーマに愛想を尽かしダールへ移住した。
ダールでは人は彼を覚えてくれた。だからそこで暫く冒険者を続けたものの、ゴブリン大討伐での怪我が原因で引退することになってしまった。
なんとか冒険者時代の友人のツテを頼り、教師としての定職に着いた彼はある時自分の村が気になり行ってみた。
自分の親は生きてはいたが、カザルは幼いころに死んだというのだ。もはや何が何だか分からず、ダールに戻った後も教師を続けた。
ある程度の蓄えが出来ると、2ヶ月に1度ほど村に物資を送り始めた。自分を忘れてしまった村でも、それでも故郷だった。
最後に、彼は笑いながら左手の甲に残る奴隷紋を見せてくれた。もうこんな人間が生まれないように送っているんだ。と力強く話してくれた。
正直半信半疑だ。変な妄想に取り憑かれてんだな、と聞いていたが最後の奴隷紋で少しだけ信じる気にはなった。
しかしそんなことあるんだろうか?ティナに目を向けてみれば全く信じていないらしい。レニーも同様だ。カクはここからじゃ見えない。
善人であるのは確かなんだろうが、ちょっとこの話はなぁ……。




