九話 記憶
夜明けだ。二度目の夜明けだな。朝靄に昨日と違い、はっきりとお日様が見える。朝靄に包まれていない太陽のなんと美しいことか……うっ!直視したら目が!
「やっぱり"最初の四人"ってのがかっこいいと思うけどなぁ」
「俺もかっこいいと思うけど、それじゃ人が増えたらどうすんだって話だよ」
「そんときゃ最初の五人や六人にしたらいいだけじゃ」
「だーかーらー!それじゃ最初じゃなくなるっつーの!」
「だからって"鉄の雨"はセンスなさすぎだろ!」
「じゃあレニー!お前もなんか出せよ!」
「だから俺は"緑の大地"が……」
「「却下!」」
だと言うのに、パーティ名が決まらない。こいつら……そして何故私は亀を調理したり飲水を頑張って作ったりと雑用をしているのだ。いい加減決めておくれよ。つーかもう開門してるじゃん。
はぁ……。ふと視線を落とすと足元に花が咲いていた。なんだかアジサイに似てるなぁ……そうだ。
「紫陽花、なんてのは?」
「なんだそりゃ?」
「前に本で読んだんだけど、紫陽花って花。レニー、知らない?」
「聞いたことないな」
ま、当たり前だよな。こっちの世界じゃ見たことも聞いたこともないし。
「そしてこの花には意味があるんだ。あなたの色に染まる。あなただけを愛する、なんてね」
「恋愛団体じゃねーんだぞ」
「まーまー、最後まで聞いてよ。でね、ケス語で書くと太陽や高貴って意味にもなるの」
「ほう」
「1つの言葉だけで沢山の意味がある。つまり、多様性のあるパーティ。意味の1つであるあなた色に染まるなんて、どんなクエストでもやってやる!って気概も感じられるしさ」
ホントは紫陽花の花言葉なんてうろ覚えなんだけどね。寛容とか浮気とかじゃなかったっけ?漢字は書けるけど。
「それに、音の響きが素敵じゃない?アジサイって」
「気に入った」
「そうかぁ?まぁ悪かねーけど……」
「やっぱ鉄の雨の方が――」
「ああ!気に入った!鉄の雨よりよっぽどな!」
「じゃ、多数決で決定でいい?」
でも1つだけ覚えている言葉がある。"冷徹"だ。今の私に足りていないもの。何かを殺すことに怯えていたら、きっと冒険者なんてやっていけない。割り切るのは必要な事だ。
植物好きなレニーは確実に味方になると思っていたし、カクも血の雨よりかは気に入ってくれたようだ。
ティナは……いや、鉄の雨よりかは良いだろ、うん。私は悪くない。恨むなら私が魂子だってことを恨むんだな!喰らえ、前世の知識チート!
「あー……ゴホン、お前ら、街に入るんじゃないのか?」
会議も一段落したと思ったのか、門兵が声を掛けてきた。やっと帰れるよ。ただいまダール、僕もう疲れたよ。なんだか、とても眠いんだ。非常に眠いんだ。徹夜したせいだ。でもこの後、ギルドへの報告があるんだ。
◆◇◆◇◆◇◆
「はい、確認しました。基本報酬が小銀貨5枚、追加報酬が大銅貨18枚、魔石の買い取りが大銅貨2枚ですね。4人パーティ向けに両替する場合、手数料分を差し引いて小銀貨4枚、大銅貨32枚、中銅貨48枚になりますが?」
「いや、そのままでいい」
「分かりました。ではこちらになります」
小銀貨5枚、大銅貨20枚。これが今回の報酬だった。前言撤回だ、冒険者は稼げる!……強ければ、だけど。何せこれを4人で割るのだ。1人頭小銀貨1枚と大銅貨4枚。余った小銀貨1枚と大銅貨4枚はパーティ資金として、レニーに預かってもらった。
最初こそカクが「リーダーの俺が持つ!」と言っていたのだが、色々あってレニーにお願いした。カクはどうやら浪費家らしいし。レニーか私かになったのだが不安だったのでレニーに押し付けたってのが事実だったりする。てへぺろ。
それと報酬分配だけど、これは平等に分けることにした。貢献度基準にするとティナは大銅1枚が関の山だし、パーティ自体が不仲になりそうだったからね。お互い苦手な敵や得意な敵って居ると思うし。
「あーねみぃ。飯食いたいけどねみぃ」
「あ、カク。これ」
すっかり忘れていた亀の足をカクに渡す。ちなみにカクの持っていた亀の肉は少しだけ深夜に食べた。なんというか……肉食獣に泥臭さを追加したような、しかしそれでいて鶏胸以上にパサパサな、控えめに言っても非常に不味かった。
みんな同じ感想だったようで、一瞬だけ静まり返ってしまった。しかし仕方ないのだ。あの場に料理スキル持ちが居なかったのだ……。
レニーだけが唯一ある程度は出来るようだったが、奴は野菜関係しか知らなかった。普段肉ばっか食ってるくせに!
というわけで串焼と茹で肉にしてみたんだけど、味は上記の通りであった。忘れたい。女子力向上☆労働者期間とは一体なんだったのか……つーかせめて調味料よこせ。水と肉だけで調理しろって方がおかしい、油すら無い。でもレニーだけ自前のスパイス掛けて食ってた。許さん。
あー魔術で油作れないかな。そしたら素揚げも出来たのに。味の保証はしない、ていうかもうアレ食べたくない。まだ口に味残ってるよ……。
「今度は美味く調理して貰わねーとな……」
「ごめんって!でも次は調味料用意しといてよね!」
「わーったわーった、ある程度買っとくよ。レニーが……いや、冗談」
レニーにガチ睨みされるカク。私としてはパーティ資金から出してもいいと思うんだけどな、って伝えたらレニーは渋っていた。まぁ確かに調味料持ち歩くのは大変か。それにこいつ、夜中も干し肉食ってたし。どんだけ食料抱え込んでるんだ。
「さーってと、んじゃ飲み行くか」
「え、眠いんだけど」
「これだからお子ちゃまは……俺ら大人は3人で飲むか!」
「アン、寝る子は育つぞ、胸が。アタシはもう十分だがな!」
「……小さいうちは寝るべきだ」
あーまたこのいじりっすかそっすか。つーかレニー!お前まで混ざるようになったか!何が小さいんだ!あん!?良いですよ、私は1人で寝ますよ!爆乳になってやる!……いや、重くて大変そうだし、あんまり大きくなくてもいいけど。
つーか全員そこまで年離れてないだろ多分。カクに至ってはまだあどけなさ残ってるからな!
「あ、明後日の朝ギルド集合なー!」
「ばーか!」
クソッ、何が悲しくて中身男が乳無しと罵られてショックを受けねばならんのだ。……はぁ、家帰って日記書いて寝よ。めちゃ眠いわ。
私は足取り重く、自宅へと向かった。おっぱい、落ちてないかなぁ……。
◆◇◆◇◆◇◆
自宅に帰るといつも通りと言うべきか、サンが録石を読んでいた。ああ、懐かしの我が家(2代目)よ……私は寝るぞ!
「ただいま」
「あら、朝帰りなんて不良だわー」
「茶化さないでよー。てかめちゃ眠い。寝る」
「はいはい、明日もクエスト?」
「ううん、明日は休む。多分明日の朝まで寝る」
「はーい」
二階の自室。たった二泊しかしていないのに、妙に懐かしさを覚える。ああ、このベッドだよ!誰とも一緒に寝る必要のない、私専用のベッド。最高、最高だ!
……ああ、いや、それより先に日記だな。1週間分くらいは溜まっている。それらをケス語と日本語、そして英語で書き上げていく。
ケス語で書くのは文字の勉強、日本語と英語は字を忘れないようにするためと、もしかしたら読める人間が居るかもしれないという淡い期待からだ。英語なら、大体の地球人は見たことがあるだろう。そして日本語、つまり漢字で中国圏もカバーだ。インドとかは知らぬ存ぜぬ書き読めぬ。
辞典を引きながらだが、それでもあっという間に書き上げられてしまった。勿論先に書いたのはケス語だ。だってこれは"日記"なのだから。
次に日本語で書く情報。それは14歳の自分だ。些細な事でも良い、覚えている限り書き出す。……うん、やっぱり記憶の混同があるな。なんで中学校の授業で鎧と竹の剣を装備しているんだ?これじゃまるで、兵士の訓練じゃないか。
ま、こっちの兵士は剣じゃなくて槍や斧槍を使うんだけどな。とりあえず書いとくか。後でまた変化があるかもしれないし。
・14歳の私は今日、体育の授業を受けていた。不思議な素材の鎧を着け、竹で出来た剣を持ち――
ふぅ、書き終えた。この記憶の混同、どうやら魔力を大量消費すると起こりやすいらしい。魔力増強のために必死こいて使っていたせいで、小さな頃の記憶ほど混同が進んでいる。覚えてないだけってのもあるかもだけど。
しかし前世の14歳で体育という授業、本当は何をしていたんだろうか?まさか現代日本であんな装備、使うわけないしなぁ……。
あぁ、眠い。でも最後に英語の情報。これは前世の知識だ。前回は何を書いたっけ……ああ、ナイフの種類だったな。ゲーマーとして沢山知っておいて損はない。逆手持ちってかっこいいじゃん?特にカランビットとか。そういやカクは右は順手だけど左は逆手だったっけ。
おっと眠くて思考が逸れたらしい。何書くかなー。アニメでも書いとくか。あぁ、アニメ見たい。ゲームしたい。
・PSYCHOPATH. I think this is the most interesting ANIME that I've――
教えてくれる人居ないし、もし文法間違ってたりしてもどうしようもないんだよね、これ。thatってこう使うんでいいんだっけ?まぁいいや、書いてこ。多分伝わるでしょ。ボイチャで覚えちゃった勢だから書くのは苦手だ。
さらさらり。簡単な感想や解説を付けているせいで5本しか書けなかった。そういやあのとびっきりのクソ4コマ、アニメ化するとか聞いてたけどどうなったんだろ。
ん……そろそろ頭が回らない、寝よう。ベッドにダイブ。ぼすーん!
しかしまぁあいつら仕事終わりの徹夜明け、長距離ウォーキングの後によく飲めるよなー……。
無い英語力を補ってくれるGoogleさんは神。ステマじゃないです。




