八話 大毒亀4
カクとティナの復帰は早かった。大毒亀の麻痺毒は即効性こそあるものの、持続力はそこまでないんだそうだ。
私とレニーは少し休み、その間2人に卵の回収をお願いした。回収した卵は13個。そういえば、いくつ回収するとか聞いてなかったな。聞いてみよう。
「卵っていくつ必要なの?」
「10個だ。それ以上は追加報酬が出る」
「なら足りるね、良かった」
あれほど魔術を連射したのに、思ったより魔力は減っていないし、なんならまだ戦える。これならダールに帰るまでは余裕で持つかな。どっちかって言うと舌と喉とそれから顎が疲れた。ついつい叫ぶように詠唱してたせいかな。
あ、それと戦闘の副産物かしらんがレニーとの距離がぐっと縮んだ気がする。無口っぽいのは変わらないが、なんとなく接しやすくなった気がする。
「……そろそろ歩けるか?」
「うん、もう大丈夫。ありがと」
レニーが手を取り立たせてくれた。うわ、分厚いしデカいし何より硬いな。この手で私達を守ってくれてたんだ、なんて考えていたせいか、立った後も暫く握り続けてしまった。
「なーにイチャイチャしてんだ!」
「ホントだよ!俺ら2人に卵回収させやがって……」
「……お前らは十分休んだだろ?」
2人の突っ込みに赤面し、ぱっと手を離した。すかさずレニーの突っ込みが入る。いや、あの、あれは休んでいたんじゃなくて倒れていたんだと思うんですけど。
それと、こう、なんか来た。認めたくはないんだけど。
2人、特にティナは申し訳無さからか率先して動いていてくれた。因みにティナの倒れていた訳だが、レニーの口から聞くことが出来た。
「あいつは亀の直ぐ側で転んだんだ。そこに水弾を打ち込まれてな」
だそうだ。ドジっ子ですかそうですか。ドレス姿にお嬢様口調だったら可愛かったのかもしれないが、戦士姿に男勝りな口調じゃなぁ……ギャップ萌えって奴はこの世界でも通じるんだろうか。
「亀、どうするよ。魔石は取ったが肉は捨てていくのか?」
「惜しいが捨てていくしかねーか……ああ、大毒亀ちゃん、食べたかったな……ちゃんと捌いたんだけどなぁ……はぁ」
「私の鞄に入る分で良ければ入れていこうか?」
「マジかっ!?愛してるぜアン!」
「そんな安い愛なんて要らない!」
後は帰るだけという安堵感か、皆先程まで殺し合いをしていたとは思えないような明るい声だ。私も周りに合わせ、明るくなる。
カクは切り取った足を渡してきた。うげぇ、生々しい。私の千切ったやつでは無いが、これはひどい。そして生臭い、亀臭い。捌いたとは一体なんだったのか、と聞くとそっちはそっちでカク自身が持っていくらしい。なるほど、足のほうが美味いってことなんだろうか。
明るい空気のまま、ダールへの帰路に付いた。私的にはさっさと湿地帯を抜けたい。そして足を湯に浸けたい。
◆◇◆◇◆◇◆
湿地帯を抜けるかどうかという辺りで、カクのハンドサイン。"止まれ"と"黙れ"だ。ティナとロニーが身構え、私も魔力視の強度を上げ、辺りを伺う。
数瞬後、脳内に声が響いた。カクの静言だ。
(右前方の林、二足歩行の何かが複数居る。こっちにはまだ気付いていないようだ)
ゴクリ。誰かの喉が鳴った。私は無詠唱どころか短縮詠唱すら出来ないから返事が出来ない、ティナはどうだ、と目を向けるも首を振られた。使えないのか、あるいは打開策が思い当たらないのか。表情からは読み取れない。
カクの静言が続く。
(俺達は消耗してる。ここは木陰に隠れてやり過ごそう)
同意し頷きそっと移動する。こちらに気付かず通り過ぎてほしい。それか友好的でありますように……!
暫くして、私にも足音が聞こえてきた。鎧などの音は聞こえないが数が多い。また誰かの喉が鳴った。
それほど大きな音でも無かったはずなのに、一団の足音が止まった。気付かれたか……!?
「……おい!」
「あん、どうしたぁ?」
「臭うぞ。お前、屁したろ!」
「はぁ?」
「勘弁してくれー!」
「そういや何か臭ぇぞー!」
やいのやいのと捲し立てる声が聞こえる。子供の声のような高い声。少なくとも言葉の通じる相手ではあるらしいが、しかし他3名の顔は晴れない。盗賊の類って可能性もあるからだろうか。私としちゃ、言葉が通じるだけでもマシと思えてしまうんだが。エリアズとか通じないし。
「ん、マジでなんか臭うなぁ。生臭ぇ」
「こっから先は湿地帯ですし、多分泥や生き物のせいでしょう」
「あーそっかぁ。そういやもう湿地帯かぁ、結構歩いたなぁ」
晴れない理由が分かった。私も驚いたが、どうやら私達の亀肉の臭いに反応したらしい。まだ湿地帯を抜けて居なくてよかった。……本当に良かった。声からして少なくとも10人は居たし。
騒ぐだけ騒いだ後、一団が通り過ぎるとカクが様子を伺う。少ししてから私達にもう大丈夫だ、と声を掛けてきた。
「ありゃ、アノールか?」
「匂い的にもそうじゃねーかな」
「隠れて正解だったな」
アノール。ユタが1歳の誕生日にくれたぬいぐるみだな。……あんな下品な会話するのか、ショック。
ダールでのアノールの評価は芳しくない。せいぜいが奴隷扱いだそうで、エレヒュノイズから出荷されてきたアノールがアマツにはたくさん居るらしい。ダールでは滅多に見ないし、喋れなくされているせいか声なんて聞いたことなかった。
しかし、なんで隠れて正解なんだ?
「逃亡奴隷だよ。恐らく、アーフォートへ亡命する道すがらだったんだろ。ああいうのには関わらない方がいい、ダールに戻っても知らぬ存ぜぬを突き通そう」
ティナが答える。
今の私を簡単に表すなら、複雑な心境ってところかな。アノールを助けてあげたい反面、変に関わると碌なことが無いと分かっている自分が居る。
だから素直に疑問を投げつけてみる。話題の転換も狙って。
「なんでアーフォートに?」
「アーフォートじゃアノールは布人って呼ばれててな、人間扱いなんだ」
なるほど。昔ユタが言ってたな、アノールは国によって人かそうでないかで分かれてるって。亡命、かぁ。
◆◇◆◇◆◇◆
ダールに着いた頃には完全に日が落ちていた。つまり、門は閉じられていた。
途中から「時間的にやばい!」となって走ったはものの、レニーが装備的にも人種的にも早く走れず、結果はこれだ。呪人ってのは不便だ。
「……すまん、俺のせいだ」
「あー、まぁ気にすんな。大毒亀戦じゃ大活躍だったんだしよ」
「だな。アタシなんてコケて終わりだぞ?」
「それは許さん。見張り番しとけ!」
「は!?嫌だ!寝かせろ!」
野宿かぁ。そういや初めてだ。目と鼻の先に自宅があるのに、こんな場所で野宿とは……壁の上を見回る巡回兵、入れてくれないかなぁ。ロニーの名前出せばいけないかな?……いや、やめとこう。それはなんか卑怯だ。
「なぁ、折角だしパーティ名決めねーか?」
「パーティ名とは」
「6級以上のパーティは名前を付けられるんだ。今はまだ8級と7級だが、近い将来6級にもなるだろ?」
ニカッと笑うカク。
頷くレニー。
ほっとした表情のティナ。
三者三様だ。一方の私は?多分ニヤニヤしてただろう。いや、今もニヤニヤしている。だって、○○のアンとか呼ばれるようになるかも知れないんだぞ。赤毛以外ならなんでもいい。
しかしパーティ名か、どんなのになるんだろう。漆黒の剣とか付けたら全滅だな、旋風の斧なら助かるかもしれないが、縁起が悪い。
デッドエンド?これもダメだ。子供好きの緑髪おじさんなんて居ない。
「普通に、美食団とかか?」
「いや、普通は鋼の刃とかだろ、普通は!なんだよそれ、ダセー」
「それこそだせーだろ!刃物は俺とお前しか使ってねーんだぞ!半分じゃねーか!」
「私も一応持ってるんだけど……」
「そもそもなんで誰が美食なんだ!」
「そら俺よ!俺がリーダーなんだから、俺っぽい名前のがいいだろ!」
「はぁ?パーティの名前付けるって話だろーが」
「カクと愉快な仲間達」
「おい、なんだそりゃ?」
「じょーだんだよ」
ああだこうだと言い合う。ついつい楽しくなって私も変なことを口走ってしまう。どんなものになるんだろうなぁ。と言うか、喉乾いた。そういえばもう数時間も何も飲んでないな。ダールに入れる前提で動いてたし。
魔術で作った水は魔力供給を止めてしまえば霧散してしまう。飲料としては使えない。後で川から汲んできて浄水しないとな。
「有名なパーティだと、どんなのがあるの?」
「んーそうだな、まずは1級パーティだと青の団、真紅の瞳だろ?2級だと流星槍や薔薇の申し子、白狼団、銀が通る、道を作る者達、ハライン戦士団――」
大毒亀編、終わりました。
仮にアンとレニーがくっついたらBL扱いになるんですかね。ティナとならGL?ならアンを絡ませたらNLにはならないということに?
あっレニーは呪人だから体だけ女にしたら……いや、BL且つGLになる。光と闇が両方そなわり最強に見えてしまう。




