六話 大毒亀2
2018/3/13 大毒亀のルビ追加。
3/31 リチ・クニードのルビ修正。
結局昨日は男女に分かれて寝たが、ティナの寝相が悪く、夜中に何度も起こされてしまった。狭いベッドの上であんまり暴れないでくれ……抱きつくな、暑い。前世なら役得♪とか思ってそうだけど、今の私に"息子"は付いてないのだ。Oh my son.
辺りは真っ暗で、日も出ていない。点けっぱなしで寝た魔石で灯るランプだけが唯一の光源だ。
今が何時なのかを知る術も無いのにレニーに起こされた。
「アン、起きろ。朝だ」
「ん……まだ夜だよ……」
「起きろ」
「……あ、そだった」
おはよ、と声を掛けるとレニーは頷きティナを起こし始めた。カクの姿が見えないが……?
「カクは?」
「あいつは湯浴み中だ。まだ時間はあるから、ティナが起きたら一緒に浴びてこい」
湯浴み……風呂か。そういやお風呂なんてどのくらい入ってないだろう?あ、寝る前起きた後に魔術で簡単に汚れは落としてるし、3日に1回は水浴びしてるぞ!……前世に比べたら不潔なのは確かだね、うん。
若干落ち込む裏で必死にティナを起こすレニー。揺さぶっても声を掛けても全然起きない。レニーは悪戦苦闘中だ。
「アン、起こせるか?多少乱暴でも良い」
怒られないかなぁ……いや、寝坊の方がまずいか、うん。ならばと考え、ティナの頭上に手を翳す。唱えるのは"いつもの"魔術だ。
「エル・クニード」
魔力供給を絶てば消える、便利な水。それが手から溢れ出しティナに降り注ぐ。ふふふ、私の安眠を阻害した罰だ。
「ぶぉっ!?なん……ゲホッゲホッ」
「おはよ、ティナ」
「アン!」
「俺が頼んだんだ。起きないからな」
あーやばい。めっちゃ睨まれてる。ティナの体の魔力が活性化していくのが見える……ああ、神様。私の第二の生は、ここで終わるのですね。
「お返しだ!水流!」
恐らく短縮詠唱したエル・クニードだろう。眼前に水が迫る。これは避けられない……ビシャリ。私のほうが重症に見える。まぁ魔術を解けば消えるんだけどさぁ。
「……お前ら、遊んでないで早く行け」
◆◇◆◇◆◇◆
レニー曰くこの宿は湯浴み場という簡易お風呂のようなものがあるらしい。かっちり使用料金も取られるが、水自体は無料で使えるんだとか。お湯が出ないのに何故湯浴みと呼ぶのか……使用者が魔人前提なのか?
確かに私等魔人なら、水をお湯にするのは簡単だけども。レチで温めた水は魔力を絶っても暫くは温かいしね。
「家以外で浴びたことないんだけど、どんな感じなの?」
「んーそうだな、簡単な仕切りと蛇口以外何も無いとこだ」
「蛇口!?」
「ひねると水が出て来るんだよ。魔力も使わずに、凄いだろ」
蛇口って、あの蛇口か。話を聞く限りそうとしか思えないんだけど……蛇口かぁ。中世に蛇口って有ったのかな?錆びないのかなぁ。
「お、あそこか」
水滴のような絵が書かれた扉が見えてきた。裸にならなきゃなのかぁ。
おや、扉が開かれた。中から誰か出て来るようだ。未だ日も昇っていないのに……ほかほかしたカクが出てきた。そういや浴びてるとか言ってたな。
「おう、朝早いな」
「アンに水ぶっ掛けられたからな」
ジト目で私を睨むティナ。私は戯けて見せ、事の顛末を簡単にカクに説明した。
「思い切った事するな!んじゃ俺は用意があるから、先に戻らせてもらうぜ。女は時間掛かるって言うけど、お前ら急げよー」
「はいよ。んじゃ行きますか」
「おー」
◆◇◆◇◆◇◆
ティナの言う通り、湯浴み場には仕切りと蛇口以外特に何も無かった。いや、排水口もあったな。ランプの類は無く、外も暗いので私達は魔術で光を確保した。
ドイ・レズド・ズビオの魔術には多少驚かれたが、彼女は普通に発火……恐らくリチ・クニードを使っていた。ドイの光は目が痛いらしい。確かにこれ、青白いもんなぁ。
部屋自体はそこまで大きくなかったが、4つに仕切られているおかげでティナとは脱衣所以外で顔を合わさずに済みそうだ。……つまり、脱衣所では見てしまった。ああ、犯罪感が。これ、男性の裸を見ても同じように感じるんだろうか?
レニーの裸……ああ、ダメだ。考えてはいけないものだ。それになんとなく、大きそう……端ない、端ないぞアン!あ、でもここ、さっきまでカクが……止めよう。止めろアン。止めるんだ優人。お前は別に男好きじゃないだろう?あ、いや、だとしたら女好き?そうでもないな。というか、どっちに転んでもダメなような。
うだうだと考えながら蛇口をひねる。そう、蛇口だ。見るからに、触るからに金属製だし、前世で見たものに酷似している。
なんでこんなものが?蛇口の歴史って結構古いのか?と思いつつも風呂桶に水を溜め、逐一温めつつ髪を洗う。
これでシャンプーもあれば最高なんだが、そもそも石鹸の時点でなぁ……。多分、あれは貴族や豪商向けの商品なんだろうな。
持参した手拭いで体を洗っていく。何故仕事前に体を綺麗にするんだろうか。ジンクスって奴?いや、でも土蟲の時はそんな事無かったしなぁ。
体を洗い終え、もう1枚の手拭いで体や髪を簡単に拭っていく。びちゃびちゃになったら絞ってからシュ・リチと唱え、乾かす。手拭い1枚で済ますコツだ。
ある程度拭えたらプート・リチ・アロゾエロで熱を起こし、水分を蒸発させる。発熱と呼ばれるシュ・リチと違い、全身一気に乾かせる便利魔術だ。髪もハンドブローでうん、完璧。肌や髪には悪そうだけども。
そして火照った体にはエル・クニードが気持ちいい。
「アンー?まだかー?」
不意に仕切りが開けられ、素っ裸のティナが声を掛けてくる。華奢な肢体が露わになり、私よりも大きな、しかしサンよりは小さな胸がやたら目につくのは姿勢のせいか、或いは男心が残っているせいなのか。
……それにしても筋肉無いなぁ。これで前衛とか出来るのか?あ、いや、そうじゃない、ツッコミどころはそこじゃないぞ。
「ティ、ティナ!いきなり開けないで!」
「なんだ?裸見られんのは恥ずかしいのか?」
「そ、それもあるけど……見るのも、恥ずかしい」
「んー?アンって胸無いと思ってたけど、もしかして……男なのか!?」
「いや、女だけど……てか胸無い言うなやコラ」
エル・クニードでティナに水をぶっ掛けてやった。ぺちゃぱい結構気にしてんだぞこの野郎!いや、この女郎か?
「おい、今日は水難の日なのか?」
「今のはティナが悪いだろ!」
バチバチと睨み合い、お互い牽制する。さあ、何をしてくる!……ん、どこを見て――?
「確かにモノは付いてないな」
「ちょっ!?」
咄嗟に体を捻り、手拭いで局部を隠す。手遅れなのは分かってはいるが条件反射だ。
「アタシの勝ちだな!もう乾いたろ?戻ろうぜ、アンジェリアちゃん」
「ぐぬぬ」
女2人でシャワー。きっと小説や漫画、アニメなんかじゃキャッキャウフフな効果音が付いているんだろうけど……現実はそんな事はない。バチバチって感じだ。あいつ後で覚えてろよ。
とは言えお互い険悪なムードになるでも無く、今日の日程に付いて簡単に話をした。まぁカクが居ないからある程度の予想ではあるのだが、幸いにもティナは大毒亀の生息地近くの村出身だ。
大毒亀の使用する魔術や生態、地域の話を復習がてら聞き直しておいた。
魔術師である私が気をつけるのは3点。
1つ目が麻痺毒。水弾と呼ばれる魔術なようなものに混ぜ、相手を弱らせてから牙による直接注入でトドメを刺す。口から放つものであるので正面にさえ立たなければ脅威では無いが、首が非常に長く真後ろ以外には飛ばせるらしい。
対処法はやはり正面に立たないこと、それから避ける事。最後は魔術による相殺と言うが、恐らく初見では無理だろう。パッと思いついた術式でも、ゲシュ・シトプート・リチ・レズドとかになりそうだ。戦闘中に5術を綺麗に決める自信はないし、触れる瞬間に使わなきゃいけないし、蒸発させちゃダメだよね……。
2つ目が投石。到底投擲を行なう生物には見えないが、後ろ足から石弾と呼ばれる魔術のようなものを使うことがあるそうだ。水弾と合わせることで全方位に攻撃することが可能であり、死角は無いと言っても過言ではない。
対処法は同じく背面に立たないこと、それから避ける事。こちらは魔術による相殺は難しいらしい。
3つ目が圧倒的な防御力。甲羅が魔力を含まない物質であり、そのせいか甲羅には魔術の通りが非常に悪い上に物理的にも堅固である。おまけに死ぬとすぐ脆くなるため、観賞用にしかならないと散々な"素材"だ
対処法は甲羅を攻撃しないこと。または現実的ではないが非常に強力な物理攻撃を行なうこと。甲羅が割れれば死ぬらしい。
もっとも、想像通り動きは鈍いんだとか。村では複数人で囲み、甲羅に入ったのを見計らって火炙りにしたそうだ。エグい。
つまり私は正面や背面に立たないようにして手足や頭、尾を狙えば良いらしい。なんだそれめっちゃ難しいじゃねーか。しかも足場は泥濘んでいて動きにくいと来た。確かに戦闘は避けたいな。
どうしたら良いのだろうかと2人で話しながら部屋に戻ると、カクとレニーも何やら話し込んでいた。作戦会議だろうか?空気を読まずにティナが声を掛ける。
「おう!戻ったぞー」
「遅かったな」
「女には色々あるんだよ。な!アン!」
いや、そのタイミングで私に振るな。とりあえず頷いておいたがレニーの目が痛い。……そういやこいつもよく見たら綺麗じゃん。いつ浴びたんだ?つーか呪人だし水浴びする羽目になったんだろうか。かわいそ。
「んじゃ、行きますか」
カクの一声で宿の外、そして街の外へと繰り出す。辺りは未だ暗く、月も出ていない。心許無い星明かりだけを頼りに、私達は北東……アーフォート方面へと足を運んだ。
アーフォートに関して。本章四話で説明し忘れた(加筆済み)ので補足です。
山岳都市ダレ・イーリルをイーリルに沿って北上していくと現れる、ダニヴェスとは別の国家です。




