五話 大毒亀1
2018/3/13 大毒亀のルビ追加。
早朝、冒険者ギルドへ直行する。カクはクワルドルワさん……と、知らない女性と一緒に居た。
「おはよ、カク!パーティ組みたい!」
「お、マジで!?」
◆◇◆◇◆◇◆
「ママ。固定パーティってどう思う?」
「どうって?」
「いや、組んだほうがいいのかなーって」
母娘のいつもの会話、いつもの流れである。カクに誘われた件について相談したい。
「そりゃ勿論組んだ方が良いよ。あなた魔術師でしょ?」
「カクにもおんなじ事言われた。でも、もう暫くポーターとして色んな人のを見たほうがいいのかなって」
「それロニーに言われたでしょ?」
「なぜ分かった」
「そりゃ、あの人戦士だもの。魔術師は手の内は明かさないのが基本。だから出来る限り他の人に手を明かさない――固定パーティのが良いのよ」
ほえー。やっぱそうなのか。というかカクは色々知ってんだな、アホっぽいのは変わらないけど。
「ママもパパとは組むの早かったの?」
「うっ……実は結構ふらふらしてたのよね。だからこそ言うけど、ぶっちゃけ他の魔術師なんて参考にならないよ?魔力分配なんて見えるものでもないし」
確かに。分配量まで見えれば魔言を聞き取れる私にとって魔術なんて使いたい放題だったんだけども。
「他のパーティをふらふらするメリットって実はあんまり無いのよね。そのお誘い、乗ったほうが良いと思うよ?階級差もあんまり無いみたいだし」
「そっか、分かった。ありがと」
「今日の夕飯のお礼だ!」
親指を立てるサン。この人なんだかんだでノリ良いよなー。
◆◇◆◇◆◇◆
「セルティナ。さっき話してたアンって子」
「話は聞いたよ、よろしくなアンジェリア。アタシはセルティナ。前衛だ」
茶髪ショートな痩身の女性はセルティナと名乗った。短剣を携えた見るからな女戦士って感じだけど、筋肉が全く見えなくて不安になる。クワルドルワさんが誘ってたのはこの人かな?……こんな装備なのに魔力が非常に濃い、と言うかゾエロ使ってるっぽい。不思議だな、やっぱり魔術師なんだろうか?でも前衛って……うーん。
「よろしくお願いします、セルティナさん。魔術師です」
「期待してるぞー?カクカがアンタの魔力はやべぇ!って騒いでたからな!」
「それよか、全員揃ったし改めて自己紹介しようぜ!な?」
カクが割り込んできた。確かにそれは大切だな、うん。具体的にはクワルドルワさんの事が知りたいぞ。ちょっと怖い。
「あーもう1回。アタシはセルティナ、前衛だ!」
「レニィン・クワルドルワだ。……俺も、前衛だな。そして呪人だ」
「アンジェリア・レーシア、魔術師です。唯一の後衛?」
「ティナにレニーにアンな!俺はカフカ・カフカ、カクって呼んでくれ。ポジションは前衛寄りの遊撃ってとこかね」
カクにティナにレニーか。ティナとカクが若干被る。髪色といい身長といい話し方といい武器といい。まぁパーティとしてバランスは良いんだろうか?クワ……レニーは盾職に見えるし。敢えて言うなら回復職が居たらいい感じ?……ってそれネトゲだわ。これ現実だしなぁ。魔法使いは滅多に居ないらしいし。
「んで、アンだけが8級なんだわ。他は7級。つーわけでアンが7級になるのを最初に目指す!でいいよな?」
「それって8級クエストを受けるってこと?報酬減るのは嫌よ?」
「このパーティなら7級がパーティ階級として与えられるからそこは問題ねえ」
「ふぅん。なら良いわ」
あーなんか私のせいでティナが一瞬不機嫌に。つーかパーティ階級ってなんじゃ。私が登録した時には説明されなかったぞ。多分。
「つーわけで7級のクエストを受けるつもりなんだが。レニー、良いのあったか?」
「3つ。1つはゴブリン野営地の調査。もう1つは偽草虫の捕獲。最後が大毒亀の卵回収。……亀は少し、難しいかもな」
「偽草虫はここらへんじゃあんまり見ねえし、ゴブリンか大毒亀か」
「アタシは大毒亀に一票だな。ゴブリンの方は4人でやるようなもんでも無いし。それにレニーは魔術使えんのか?」
「……多少は、な」
「アンは?」
いや、偽草虫って何よ?大毒亀ってのは?ゴブリンって話でしか聞いたことないけどファンタジーゲームでよく出て来るアレのことでいいのか?
マジで分からん。任せよう。任せます。私には何一つ分からない。はい。
「んじゃ大毒亀にすっか。パーティ登録もしなきゃだし……あ、そういやリーダー誰にする?」
「アタシはパス。そういうの苦手だわ」
「私もまだ新米なので……」
「……お前にしとけ。1番行動力あるしな」
「んじゃちょっくら行ってくるわ。大毒亀の録石ってどこらにあった?」
「いや、大毒亀のだけは持ってきた。これになる気がしてな」
受け取った録石を持って受付へ向かうカク。レニーはエスパーかな?
大毒亀って言うくらいだから、解毒薬の類は必要になりそうだな。持ってねーや。買いに行かなきゃ。なんて思ってたらティナと目が合った。どうやらあっちも解毒薬は持ち合わせてないらしい。
「解毒薬買いに行かなきゃなー」
「ですね」
「まだ店は開いてないだろう。貸してやる」
ごそごそと腰に着けた巾着から小さな包を取り出す。なるほど、ホントにエスパーなのかこいつ。ただ単に普段から持ち歩いてるだけか?ま、どっちにしろありがたいけど。
「へぇ、いつも持ち歩いてんのか?」
「自分で調合した奴だ。簡単な薬なら、作れる」
「そりゃすごい。不器用なアタシにゃ出来ない芸当だわ」
薬師みたいなこと出来るのか。凄いな。後で教えてもらおうかな。なんて2人のやり取りを見ていたらカクが戻ってきた。
「うっし、受けてきたぜ!レニー、薬ある?」
「ああ、今渡してたとこだ」
「さっすが!んじゃ行こうぜ!」
◆◇◆◇◆◇◆
「大毒亀を知らねーのか!?」
「え、うん。初めて聞いた」
「アンって、街育ち?」
街の外に出て、大河に沿って北に向かう。上流の方に湿地帯があり、大毒亀が多く生息しているんだとか。
そんな途中、大毒亀とは何かと聞いたらティナに驚かれてしまった。結構有名なのか?その亀。
「なら知らないこともある、のか?アタシは村育ちだから結構食ってたんだが」
「え、食べれるの?」
「ああ。結構うめーぜ。俺も小さい頃に食べたことあるしな」
「へー。じゃあ今回の卵回収ってのも食べちゃうの?」
「卵は人によるな。アタシは好きじゃない」
「そうかー?あれもあれでうめーじゃん」
爬虫類の卵て食べられるの?想像も出来ない。どんな味がするんだろ、泥臭いのかな?亀だし。というか名前的に明らかに毒持ちなんだけども。フグみたいに当たったりしないんだろうか?聞いてみよう。
「ね、大毒亀って言うくらいなんだし、毒あるんだよね。大丈夫なの?」
「牙に毒があるな。口から出す水弾も体内に入り込むと危ない」
「うへぇ……ん、水弾?魔術使うの?」
「ああ、多少な」
「カク、もしかして土蟲も何か使ってきたり?」
「勿論。むしろ使えない生き物の方が少ねーな」
漠然と、人間並の知能がある奴だけが使えるのかと思ってた。ほとんどの生き物が魔言を使うとか予想外すぎる。土蟲は使われる前に倒せたから良いけど、大毒亀はどうなるかなぁ。
「ま、弱い魔物だし土弾や発水くらいしか使わんよ。俺らで言うとこの2術までって感じだな」
「今回の大毒亀もそんな感じ?」
「7級の魔物は多少個体差があるな。威力や種類は増えるが基本2術までってのは変わらねぇ」
2術までって言っても、かなり多いからなぁ。ゲシュで魔術の相殺を狙うか、予め対抗術を掛けておくか……うーん。ゲシュはあんまり得意じゃないんだよね。
大毒亀や魔術、これから行く地域の話なんかをしながら、私達は湿地帯を目指して歩いた。思った以上に距離があり、聞いてみれば今日は宿泊して、翌日の夜明け前に卵の回収を行なうんだとか。つまり1泊2日だな。……テントとか持ってきてないぞ?
◆◇◆◇◆◇◆
歩くこと数時間、中途魔物から襲われる事も無くおやつの時間は過ぎた頃。歩きすぎて私の足がパンパンなわけだが?なんて考えていたら目の前に大きな橋が見えてきた。手前には宿場のような、小さな街――砦?――があった。
「アン、あれがアズヴェスト大橋だ。ダールとシュテスビンを繋ぐ橋よりもデカい」
対岸はギリ見えるけど、確かに非常に大きい。でもこれ、シュテスビンまでの橋の方が大きくないか?と聞くと。
「この橋は2つで1つなんだ。これを渡るとまたもう1つ橋があって、両方合わせると1番デカいってワケ。
今日はあそこに泊まっていくぞ!部屋は1つで良いか?」
「2つの方が良くないか?」
「アタシはどっちでも良いけど、アンは?」
「1つがいい」
「んじゃ決まりだな!」
個人的には誰かと2人きりになるのは嫌なので1つの方が良い。レニーはなんかちょっと怖いし、ティナもなんとなく、女と2人ってのは……いや、私も身体的には女なんだけども。精神的には中途半端。カクもカクで別の意味で嫌だ。部屋は1つがよかった。
街には中々入れなかった。通行人が非常に多く、順番待ちをさせられたからだ。拓証だからとかの足止めが特に無かったのは幸いか。代わりに出るのは楽だと言うから良いけど。また1時間近く待たされるのは嫌だ。
街に入り宿へ直行、急いで部屋を取る。時間帯的に空いてる宿を見つけられたのはかなりラッキーらしい。
ただ取れた部屋の鍵は簡素なものだったし、ベッドは2つだけ。木の板に布を敷いただけとかそういう奴じゃないだけマシだけど……数が少なくないか?2人で1つ使えって事なのかこれは。
値段は一人頭大銅貨2枚だったがこれが高いのか安いのかは分からない。……いや待て、この前の土蟲の魔石収集の金ほぼ全部飛んでるじゃん。これに消耗品まで買い込んだとして……え、大赤字じゃない?夕飯代が入ってるとしても。ちなみに朝食は付いてない。
部屋の観察を終え、早めに夕飯を出してもらった。昼食は取らずに歩いたから、みんな空腹だ。いや、レニーだけは干し肉とか齧りながら歩いてたっけ。
夕飯は、まぁ、美味しいものでもなかった。オートミールって時点でテンション下がるし。シチューくらい出してほしかった。
「ねぇ、明日もここに泊まるの?ちょっとお金が心配なんだけど」
「いや、明日は日が昇る前にここを出るって言ったろ?サクッと回収して一直線に戻る予定だぜ。つーか俺も金やべーしな」
そうだ。大毒亀は朝方とかの寒い時間、活動が抑えられ鈍くなるって移動中に話してたな。アクシデントが起こらなければなんとかなりそうだ。……こういう時に限って起こるんだよなぁ。




