四話 ご飯
2018/3/6 誤字(ダル・イーレル→ダレ・イーレル)の修正。アーフォートとダニヴェスに関する記述の追加。
カクがおすすめだと言う定楽亭。仕事仲間と食事に行くのは別に良いよね?ってことで着いていく事になった。この肉も処理しなきゃだし。
「おう!今日は土蟲の肉持ってきたぜ!」
「ん、今日はいつものツレは居ないのか?」
「今日はこの子となー」
熊を思わせるような大きなおっさん。別の世界じゃ錬金術師と結婚してそうだな……。
「どうも」
「嬢ちゃん魔物の肉は食えるのか?」
「うーん。食べたことないのでなんとも」
「そうか。忌諱してねーなら良い」
何が食えるのかは知っておくべきだよね。最悪魔物狩ってりゃ食料には困らなさそうだし。
◆◇◆◇◆◇◆
土蟲はハツのような、少し硬めの肉だ。干し肉に比べたら柔らかいし、結構好きかも。ただシチューにしてようやく臭いが消えるらしい、焼いただけならキツいかもしれない。因みに今日持ってきた土蟲ではなく、別の日にカクが持ってきた奴を色々やって臭み消ししたやつでこれだ。
カクはこの店に肉を仕入れ、代わりに多少の金銭と飯を提供されているらしい。なるほど確かにそれなら魔石集め程度でも生活は出来そうだ。
その食後。
「なんで冒険者を?」
「俺の村、エリアズって魔物に潰されたんだよ」
きつい汚い危険な3Kワーカー。それが冒険者の実情だ。おまけに不安定で稼ぎも低めときた。まぁ上級のクエストなら報酬は良いらしい。なのに何故冒険者を?と思って聞いてみたらこれだ。地雷踏んだ。
「あー……ごめん」
「いや、良いんだ。小さい頃であんまり覚えてないし」
「じゃあ、エリアズに復讐?」
エリアズ。冒険者ギルドが発足された元凶とも言われている、人に被害を齎す魔嵐と共に現れる亜竜だ。私が小さな頃、ダールに大襲撃が来たこともある。あの時はエリアズだけではなかったけども。
「そういうのはあんまり聞くもんじゃねーぜ。ま、ただ単に色々美味いもん食いたいだけ!労働者は基本、街からは出れねーしな」
労証では街から出られない。農奴や木樵、狩人なんかは例外だが、農奴はそもそもが領主の所有物だし、木樵や狩人は武器を扱う事から就職自体が難しい。商人なんてのはお金がなきゃ始まらないし。
その一方冒険者は楽で、出るのは簡単だ。……街に入るとなると難しくなるらしいが。
「ま、金が無くて全然出れてないけどなー。稼いだ金は宿代に消えてくしよ」
「……世知辛いね」
「レニー……あー、クワルドルワの事な。あいつが俺と固定パーティ組んでくれるってな。だから後1人か2人集めたいんだ」
レニーってあだ名か、それかクワルドルワってのが名字とか?というかこれって勧誘か?
「あいつは呪人だし、俺は魔力が少ないしでなー。だから魔術が得意な奴が欲しい」
「それってお誘い?私まだ全然新米だよ?」
「誰だって最初は新米だろ?それに俺は匂いで魔力の量が分かるんだ。アンは魔力、かなり多いだろ」
……驚いた。他者の魔力ってのは実は感知が難しく、普通は魔術や魔道具を使うんだけどな。私の魔力視ってのはかなり珍しい技能のはずなのに。案外冒険者ってのはこういう奴が多いんだろうか?
「フリーの魔術師って少ないしな。誰だって手の内は明かしたがらないが、魔術師は特にその傾向が強い」
「へー。どうして?」
「ダンジョンの中じゃ何が起こるか分からないからな。他の冒険者に襲われないようにの対策さ」
「えっ!?そんな事あるの!?」
「さぁな。真実は闇の中。だって誰も見てねーもん。ダンジョンマスターとやらが居るなら見てるかもしれねーけどな」
「お互いを警戒し合う。だから魔術師は、基本的に固定パーティを組んで出てこねえ。特に扱える術式の少ない低級冒険者は尚更だな。ま、上級冒険者ってのはあんまり居ないから結局よく分からねーんだ」
他の魔術師とパーティを組んで構成やらを聞いてみたかったが、この分だと実は難しいのかもしれない。……最初の印象は悪かったけど、今はそうでもないし、組んじゃうのもありかなぁ。
「レニーの事気にしてんのか?あいつもあいつで別の魔術師勧誘してっからな。今日の朝、かなり魔力の多いやつがもう1人居たんだ」
「へー。アイコンタクト?」
「ま、そういうこった。静言だと嫌な顔するやつも居るしな」
「静言とは」
「知らないのか?アロウィーニ・シトレズド」
カクが魔術を唱えると、「こういう術」というワードが頭の中に流れてきた。不思議だ。昔会話した化物ともまた違う、テレパシーのような……。
「初めて見たし聞いた。クワルドルワさんも使えるの?」
「あいつは滅多に使わないな。操作が難しいし、呪人にはキツいんじゃないか?」
「でも私に魔術教えてくれた人、呪人だよ?」
「は、マジ?――」
◆◇◆◇◆◇◆
食後、ずっと駄弁ってたら追い出された。彼は私用があるらしく「固定パーティの件、考えといてくれよ!」と言って別のところへ行ってしまった。
固定パーティか。暫くフリーでポーターしつつって考えてたけど、いつかはどこかに属するんだろうし、早めに組めるのはむしろメリットのほうが大きいか?いや、色んな人の戦闘も見てみたい。
しかもカクの話通りなら家を出るって事だよね。根無し草か。まぁ冒険者になるって決めた時から覚悟はしてたけど。ユタにも会いたいしなぁ。今はアストリアのネフリンに居るらしい。
アストリアってのはダニヴェスの西の国で、私の今居るこの街ダリルレ・リニアルはダニヴェスだと西端に位置してる。西の大河リニアルの向かいにはアストリアのシュテスビンって街があるんだけど、ダールの首都ダーロ・アマツは勿論や山岳都市ダレ・イーリルや近隣の小さな村々よりも近い。つーか日によっては見える。
ネフリンがどこらへんにあるかは知らない。ユタによるとダールからは北西らしいけども。アストリアはダニヴェスとは友好関係にあるし、後で私も行ってみようかな。
逆にケストは戦争中。東の大山脈イーリルの向こう側だからお互い攻めづらいとは聞いたけど、南の海岸沿いでは絶賛衝突中なんだとか。カクはケストに行くとか言い出さないよね?もしそうなら、やっぱり断ろうか。もうちょっと生きてたいぞ。
最後にダニヴェスについて。ケストと戦争中でありアストリアとケストに挟まれている地域ではあるが南側は海に面していて、海沿いに首都ダーロ・アマツがある。アマツは群島国家エレヒュノイズの島々と交易を行ないまくってるとかなんとか。
ダレ・イーリルからイーリルに沿って北上して行くとリニアルの本川と考えられている川があり、そこを超えるとアーフォートという別の小さな国に入る。よく分からないがこっちも友好関係らしい。
とぼとぼと家路につく間、街の外に出た時用に地理の復習なんかしてた。というか今日歩いてばっかりだな。普段ここまで歩かないから、ゾエロで補助しててもさすがに疲れたわ。
色々考えつつ、ただいま我が家。まぁレンタル品なんだけども。ここに後どれだけ住んでるんだろう?
「ただいまー……あれ、ケシス来てたの」
「アンちゃんおかえり」
「おかえりってここ、君の家じゃないでしょ」
「えへへ」
ケシス。彼は私が小さな頃に会った記憶喪失の少年だ。年は同じくらいだと思うけど私より成長が遅い。多分呪人だからかな?弟みたいに可愛がってる、というか可愛い。さらっさらのマッシュルームヘアが似合う男の子っていいよね。
「どしたの?」
「今日学校無いし、暇なんだ」
「私は仕事帰りで疲れていますー」
「じゃあ帰ったほうが?」
「いや、話し相手になれ!」
サンが帰ってくるまでこいつで暇潰しをしよう。という訳で今日の狩りとカクとの会話をさらっと聞かせる。
「それって、とっても危険じゃない?」
「まぁねー。でも冒険者って憧れるじゃん」
「うーん……僕は、もしかしたら前の僕は冒険者だったかもって言うけど、少なくとも今の僕はそんな事したくないな」
ケシスはダンジョンに潜っていた冒険者、或いは探索者……というのがテルーの見解だ。難しくてよく分からないが、彼自身が特異体質だったようで色々あって即死トラップは回避出来たものの子供になった上に記憶喪失に陥っただとか。
なんらかの装備や魔術によるもの、またはトラップ自体がその手のものだって可能性もあるらしいけど、現実的に考えると特異体質説が強いらしい。なるほど分からない。
「アンちゃんとお別れは少し寂しいな。たまには帰ってきてくれるんだよね?」
「近くに来たら寄ると思うよ。ってそうじゃなくて、カクとパーティ組むってどうかなーって」
「あはは、僕はそういうのは全然分からないや。でも、良いんじゃない?早いうちから一緒に動ければ、仲良くもなれそうだし」
「うーん、そういう問題かなぁ……」
もやもや。ケシスはかなり物腰柔な男の子で、相談相手というよりかは雑談相手なんだよね。やっぱりここは、サンを待ったほうが良いのかな。
「あ、そろそろテルーさんのご飯作らなくちゃ。アンちゃん、またね」
「えーもう帰っちゃうの?」
「あの人家事出来ないからね……」
「うん、またね」
日も暮れ始め、ケシスが帰ってしまう。こんな時間を逢魔ヶ時だなんて言うこともあるが、魔物は別に夕方を狙って出て来るわけじゃない。
夜行性のものも居るが、昼行性の方が圧倒的に多い。魔物……なんて読んではいるが、実際のところは動植物だ。心臓に魔石があるから魔物と呼ぶなら人間――魔人や呪人等――も魔物だろう。まぁそんな理論はこの世界の人には通用しないんだろうけど。魔物も人間も同じ生命です!大切に!なーんて。
サン、今日は帰ってくるのが遅いな。いつもなら夕食の準備をしてる時間なのに。今日くらい、私が作ってやろうか?
うん、決まりだ。暇だし作ろう。結構前に仕事で作ったミネストローネみたいな奴作ろう。冷蔵庫に材料あるかなー?




