一話 冒険者
本章始まります。
2021/04/11 本章1後半及び本章2に合わせる形での手直し、3000文字程度の加筆。
2018/05/25 サブタイトルの変更。冒険者ギルド→冒険者
2018/02/17 再発行手数料の訂正。大銀貨8→大銅貨8
「――こちらが大銅労証です」
「ありがとうございます」
大銅労証。名前の通り、見た目は大銅貨にそっくり。ぶら下げるためなのか穴が空いているし、裏側には魔法陣が刻まれているけど……むしろ銅メダルと言ったほうが近いか? こっちの世界じゃ伝わらんか。
ちょっと変なテンションになっている。なんでかって? だって、大銅労証を手に入れたんだぞ。冒険者ギルドでの登録を労証で行おうとすると、大銅以上が必要になる。だからこそ、今日まで私は労働者として生きてきたのだ。
長い戦いだった。本当に、本当に……。
~fin~
なんつって。むしろ始まるんだなこれが。
第一話 冒険者
大銅労証を手に入れた私の足取りは軽い。これで、これでようやく冒険者ギルドへ登録できるのだ。年齢も14歳と冒険者としては申し分無いだろう。一応まだ未成年ではあるが、大体の人は12歳くらいから働き始めるもんだし。
中銅になってからは少しずつ貯金をしてきた。もちろん、それは今日という日のためにある……うん、あれだけあれば一式は揃えられる気がする。
何を揃えるか? ふふん、決まっているじゃないか。防具さ! ある程度の重量は、と考え筋トレもそこそこにしてきたのだ。残念ながら筋肉の付きは非常に悪いが、まあ魔力で体を動かせばなんとかなるだろう。ゾエロの練習もいっぱいしたし。
と頭の中で色々考えてみたものの、杖は買うべきなんだろうか? あまり杖を持ってる魔術師というのを見かけた記憶がない。サンだって多分持ってない。
……帰ったら相談してみるか。こういう時は先輩に聞くのが1番だ。
◆◇◆◇◆◇◆
「ママ、杖ってどうなの」
「どうって?」
「いや、あった方が良いのかなーって。ほら、私も冒険者になるわけじゃん?
魔術師の武器としてさ」
夕飯を済ませた私達は、ただなんとなく話をしている。
あんまり娯楽らしい娯楽もないのだ。だからこそ、こういう団欒は増える。会話もまた娯楽なのだ。多分。
今日はあれをした、あれがそろそろ壊れそうだ、今度あれを作るつもり……話題というのは案外事欠かないものだが、特定の1つを話し続けるというのはあまりない。
しかし今日だけはその限りではない。だって今日は大銅労証を手に入れたのだ。明日は冒険者ギルドに行くのだ。だから私はサンに質問責めにし続けている。
ほんとはロニーも居ればもっと聞けたんだろうけど、残念ながら今日は居ない。最近たまに帰りが遅くなることがあるのだ。浮気か? ……無いな。ロニーだし。
「うーん……確かに高位の物だと魔石のおかげで楽になるものもあるよ。
ただ、それが必須かと言われると……微妙なとこね。魔石杖は欠点も多いし。
例えば、火の魔石を埋めた杖があったとして、その杖じゃ水はほぼ出せない」
「えっそうなの?」
「うん。属性って呼ばれる……あ、無以外だけどね。
無以外の魔石はその属性以外の魔術を壊しちゃうのよ」
初耳だ。色魔石……の杖はさすがに買えるとは思ってなかったけど、そんな欠点があったのか。そのうちお世話になるかもしれないから、しっかり覚えておこう。
属性、か。じゃあ属性を混ぜた場合はどうなるんだ? 火の杖で火と水なら水が消えて火だけが出てくる? なら、水以外だと?
「ふーん……じゃあ例えば、火の魔石の入った杖で、
火と雷の混合魔術だとどうなるの? 火と水の場合は?」
「使えないことはないって感じかな。火に偏った魔術なら相性は良いけど、
変な癖が付いちゃうからあんまりおすすめできない。
火と水でも問題無く使えるよ。火が含まれない魔術は使えないってことね。
ていうか、魔石の入った杖なんて買えるの?」
「うっ……! 最低でも大銀貨2枚からだなんて高すぎるよ」
そう、魔石杖は非常に高価なのである。具体的には魔石としては最低クラスのもの――それこそケノールですら――大銀貨2枚からである。魔石の入っていない普通の木杖だとしても、銅貨だけでは買えない程度の額が付く。
ちなみにケノールの魔石はサイズや品質にもよるが、概ね1つに付き中銅貨1枚程度である。中銅貨5枚で昼食が買えることを考えれば、そこまで高いものではない。多分ガチャ1回分くらいだ。
そんなケノールの魔石ですら、発火石として使えば6時間程度は絶対に保つ。あんまり魔力を使わないものなら、当然もっと伸びることになる。
っと、話が逸れた。杖に関してだった。
金属杖は文字通り金属でできた杖。普通の金属ってのはほとんど魔力を含まないんだけど、魔石とか骨とか色々使ってなんか頑張ると金属にも魔力が宿る、らしい。
作るのに手間が掛かる分、やっぱり値段はかなり張る。重量もそこそこと取り回しも悪いんだけど、代わりに手入れはかなり楽。定期的に魔力を通すだけで問題ないらしく、錆びたりも滅多にしないらしい。つまり実用してればほとんど手入れ不要ということだ。
木杖は植物を原料としてる杖。別に木に限らないんだけど、こっちの言葉を直訳すると木杖になる。
植物製ということもあり、こっちは定期的に魔力を補給してあげたりだとか、なんか専用の粉? を塗り込んだりだとか、結構面倒臭いらしいが、値段自体は金属杖とは比べ物にならないほど安い。
生物由来なせいか、使用者を選ぶような杖もあるらしい。突然のファンタジー要素だね。この世界が剣と魔法の世界なことをすっかり忘れていたぜ。だって毎日ただ働いてるだけなんだもん。前世とあんまり変わらんわ。
手間こそ掛かるものの、相性さえ良ければしっかり機能するのが木杖。手間も相性問題も無いが、とにかく高いのが金属杖。ホントは骨杖ってのもあるけど、まあそっちはいいか。だって骨だし。キモいじゃん。
「そんなもんよ。そもそも普通の石の入ってない杖は、あくまで魔石杖の練習用。
魔石杖を買ったのに使えない! なーんてことにならないようにするためのね」
「ふーん……ロニーの言ってた、剣を自分の体の一部として――みたいなこと?」
「そゆこと」
昔、ロニーに稽古を付けてもらっていた時に教わったことだ。剣を自身の体の一部と覚え込ませる。そうすることでゾエロ系統の魔術ですら剣に掛ける事ができる。防具にも同じことが言えるため、練習を繰り返しゾエロを掛けられるようになった。ま、私の場合は鎧じゃなくて服なんだけど。着たことないし。
しかし武器に掛けるのは何故か下手だ。服や鎧に掛けるほうが難しいらしいけど、私はその逆だったらしい。というか武器に掛けたきゃ刃を掛ければいいような。魔力消費は多いけど、代わりに誰でもどんな武器にでも使えるらしいし。いや、私はまともに使えないんだけどさ。
……ただの言い訳だね、うん。いやでもしょうがないじゃん。武器よりも箒持ってた期間の方が長いんだし。おいおい使えるようになればいいでしょ。別に誰も悪くない。つまり私は悪くない。
「にしても子供二人が揃って冒険者とはねー。血は争えないのかしら」
「両親共に冒険者とかもうエリートでしょ。冒険者として」
「冒険者にエリートも何も無いでしょ。
……明日登録するって言ってたけど、明後日にしない? 買い物いこ」
「ホント! じゃあ1日ずらすね」
ラッキー!
サンは結構な出不精であり、あんまり外に出たがらないのだ。魔道具の中でも比較的高価な冷蔵庫を買った理由も、買い物回数を減らすためだと思う。ゾエロのおかげで荷物は一気に運べるからね。
そんなサンだが、噂によると冒険者の中でもかなりの実力者だったらしい。頼れるところは頼るべきだろう。何を買えばいいのかなんて、所詮私のは知識に過ぎないのだ。経験って大事。
「よっし! 覚悟しろよ!
先輩冒険者のお母さんがアドバイスしまくってやるからなー!」
「おー!」
◆◇◆◇◆◇◆
労働者として鍛えた私の女子力もとい家事力は結構高い。朝一でサンを叩き起こし、家事を分担し、今日分のはほとんど終わらせた。もちろん全部ってわけじゃないけど、一通りの掃除だったり洗濯だったりは済ませてきた。
それから労働者ギルドへ直行。たんまり蓄えた貯金を下ろし、いざ戦場へ。
日はまだ昇りきっておらず、10時頃といったところ。まだまだ肌寒い時間帯だけど、懐だけは温かい。なにせ小銀貨14枚と銅貨が4枚ずつだ。えーっと……35万円くらい?
食事代からの計算だから、実のところあんまり意味がないような気もするぞ日本円換算。前世とは物価に大きな違いもあるわけだし。録石とかあっちの世界で買おうとしたら数万はするんじゃないか?
「先輩! どこから行きやすかい!」
「そうだな……まずは服だ!」
「了解しやした! 行くぞー!」
服か。今着てるような服じゃダメなのかな。それとも鎧を含めて服と呼ぶ……とか?
「どんなの着たいの?」
「どんなのって……安くて軽くて防御力高いヤツ! そして動きやすくて――」
「そんなものありません」
「えー」
無いのか。そりゃ無いか。なんかこう、アダマンティウムだったりオリハルコンだったりを期待してみたけど……聞いたこと無いもんな。ていうかあっても高そうだ。
「うーん……じゃあおすすめは?」
「やっぱり最初は革製かな。馴染んだ頃には何が必要で何が不要かも分かるはず」
「なるほど」
「アンはまだ子供だし、サイズが合わなくなったら買い替えてもいいかもね――」
冒険者親子の会話ってこんなもんなのかな、なんて。女2人でキャッキャと話しているうちに、服屋さんだ。
普段使ってるお店ではないけど、以前にも来たことがある。セメニアと街を探索したときだったかな……。
「……これ、普通の服屋さんじゃない?」
「そ。ふつーの服屋さん」
「えー、鎧買うんじゃないの?」
「それよりも重要なものがあるのですよ、初心者君」
「へー」
店の前で喋ってても埒が明かないし、とりあえず入っておこう。
……うん、まあ、知ってた。普通の服屋さんですよね。ここで何を買うんです?
「ここで買うのはマント。マントは大切」
「マント? かっこいいとは思うけど……なんで?」
「まずは寒さや雨対策としての一点。次に自分の大きさを隠せるという一点。
そして最後に……あなたがもし荷物を失い、たった1人で野宿しなければならない時、布団代わりにもなる。この三点ね。
これが前衛職……特に長物を使うなら、戦闘中には邪魔になるでしょうけど、
あなたは使わないでしょ? なら問題にはならない」
「なるほど……為になります」
「でしょー? さ、選ぶよー」
マントについて熱く語られてしまった。耐水性で且つある程度温かいものなら何でも良いらしいが、基本的には暗い、目立たない色が良いんだとか。
私は無難そうな深緑のマントを選んだ。森とか入るなら迷彩効果ありそうだし。単色だけど。
「この子に合わせてマントを詰めてください」
「はいよ。後で伸ばせる方が良いかい?」
「ええ。お願いします」
しかしマント、地味な方が良いのか。なんとなくマントって言うと綺羅びやか印象があるが、確かにそれでは見つけてくださいと言っているようなものか。
なんて、母の冒険者豆知識をいくつか聞いている間に終わったらしい。
「小銀1枚だな。直し代は可愛らしい嬢ちゃんが使うことだしまけといてやろ」
「やた! ありがとうございましたー!」
マント を てにいれた !
……結構重いなこれ。ただの布切れだと思ってたけど、思ったより厚みがある。そりゃそういう素材のを選んだってのもあるんだろうけど……筋トレしててよかった。
「さ、次は本題の鎧だね。行きましょうか」
「はーい」
◆◇◆◇◆◇◆
さすがにそろそろ話題も無く……と言うわけでもなく、現在の話題はユタについて。最近私は労働者ギルドに入り浸りで、一緒に話す時間は夕飯後くらいしかなかったからかもしれない。私の知らないところでも、世界は毎日進んでた。
「ユタ、今8術まで簡単なものなら扱えるって。
そこまで行くともう、何個使えるかじゃなくてどう使えるかって感じだけどね」
「お兄ちゃん凄いわー。私まだ5術よ? 10歳で6術とか何なのあの天才」
「あはは、確かに天才かもね。でもアンも凄いのよ?
ちっちゃい頃に魔力検査の玉もたせたんだけど、凄かったんだから!」
「えーそんな事が……覚えてないや」
嘘だ、覚えている。1歳の誕生日を忘れるわけがない。忘れられるもんか。未だにたまに夢に見るんだ。
「つまり、アンは頑張ればユタ超えもありえるかもしれないのよ?」
「うへー無理無理。壁高すぎー」
「ま、私の子だから魔術の才能は絶対にあるよ」
「……ん、頑張る」
目の前に見えてきたのは小さな服飾品店。ここは普通の服ではなく、冒険者向けに革防具をメインに扱っているお店らしい。
小さいながらも品揃えがよく、店主も知り合いとのことでサン一押しのお店らしい。
「まだおっぱいちっちゃいし、作るってなると手間も掛かるし、だから既製品でいいんじゃないかな」
「誰がちっちゃいだ誰が」
……まあ、否定はできないよな。うん。全く成長していない。まるで絶壁だ。サンはCくらいはありそうなのに、私と来たら「お、ちょっとあるか……?」程度である。揉めば大きくなるとか言うけど、なんとなく、自分の男の部分が抵抗する。
それに俺の知ってるおっぱいより硬いし、触れるとちょっと痛い。なんだろうな、これ。乳がんとかじゃないと良いけど……。
「とりあえず、あるか聞いてみましょうか」
サンがカウンターへ足を運ぶ。居眠りしたそこそこ良い年のおっさんがこの店の店主らしい。
「おーきーてー」
「……ぁん、なんだ、ロニーのとこのか」
「なんだじゃなくて、お客様でしょ」
「はいはい。んでなんだ、そっちのちっこいのに合うようなヤツか?」
「さすが話が分かってる」
「あー……ちょっと胸のところがスカスカでもいいなら、丁度いいサイズのがあったはずだが」
なんだ。今日はぺちゃぱいをディスられる日か。そうかそうか。詰め物入れてやるわ。……悲しくなってくるのはなんでだろう? 心まで女になったんだろうか? ぐすん。
「一式買うのか?」
「はい」
「予算はどんくらいで?」
マントを買うのに小銀貨を1枚使っただけだから、余裕はまだまだ全然ある。あるにはあるが……他にも買うものがあるだろうし、小銀貨5枚くらいは残しておきたいかな。
「小銀貨8枚と、銅貨がちょっとあります」
「それっぽっちじゃ一式は買えねえなあ」
「ぅえ!? さっき言ってた鎧って、いくらくらいするんですか?」
「上半身用だけで小銀貨8枚ってとこだな。ロニーの顔を立ててもこれ以上はまけれん」
そ、そんな……!
鎧は思っていた以上に高いらしい。出鼻をくじかれた、杖よりこっちの下見をしておくべきだった。ぐぬぬ……。
「一式セットで小銀16でどう?」
「16か……まぁ良いだろ」
「え、そんな払えないよ?」
「ここはお母さんのプレゼントってことにしたげよう。
最初は赤字になりがちだしね」
「……ありがとう」
もしかして、この事態を見越していたんだろうか。大銀貨1枚で革防具一式。高いのか安いのか分からないが、命を守るものと考えたら安い……のかな?
何にせよ母に感謝である。ついでに魔石杖くれないかな。それはさすがに集りすぎか。
もやもやとしているうちに店主が裏から防具を一式持ってきてくれた。金属防具に比べればちゃちいが、今の私からしたら立派な物としか映らない。
「ほれ、着方分かるか?」
「裏借りても? 着せてあげてみたいんだけども」
「ええよ。中着も好きなの1着持ってけ」
装備して初めて感じる重量感。革とは言え、やはり重い。一式とはいえ全身を覆うわけではなく、部分的に……例えば肘、膝、外腿等を守るような装備だ。鎧というよりかはプロテクターと呼んだほうが正しいか?
全身じゃないということもあり、これは多分軽量な部類だと思うんだが……いや、重い。これで悲鳴を上げているようじゃ、冒険者なんて務まらないってことなんだろうか……。後、思ったより硬い。つーかカチコチ。革靴の底みたいな感じだ。
なんだっけ、革って茹でると硬くなるんだっけ?
「……思ったより重いね、これ」
「鎧の中じゃかなり軽い方よー?
これで足りないと思ったら、チェインメイルなんかを買うのもいいかもね」
「チェインメイル? あの金属の輪っかのヤツ?」
「そ。革鎧と違ってめちゃくちゃ重いしうるさいけど、でもバランスの取れた良い鎧だよ。
ま、私等魔術師には必須ってわけじゃないけどね。
買っても問題にはならないよって程度のお知らせ」
「はーい」
思ったより着脱しやすいのは利点か。フルプレートアーマーとかって1人じゃ装備できないとか聞いたことあるし、そんなんじゃないのは助かる。
ん……でもやっぱり重い。それにこう、微妙に体が動かしづらい。当然っちゃ当然だけどさ。筋トレ頑張ろう。
「ありがとうございましたー!」
「ん、また来な」
「はーい」
私達は店を後にすることにした。……私は鎧をつけっぱなしだ。着てるうちに体も鎧も慣れるから、とにかくまずは着ておけと店主に言われてしまったのである。
鎧も慣れるから、とはどういうことだろうな。少しずつ着てる人に合わせて形になる、とかそんな感じなのか? 別に大げさに変形するってわけじゃなくて、癖が付く的な感じで。
動きづらい鎧に四苦八苦しつつ、必死に歩くこと数分。太陽は頭上を通り越し、ようやく午後が訪れたという時間帯。
この時間帯、街は結構活気がある。夕飯を作るための買い出しに出てる人だったり、朝帰りの人達が起きてきたり、久々の休日に二度寝を繰り返しまくった人が出てきたり……ま、正しいかどうかは置いといて、結構な人が居る。
人が居るということは、当然それらに向けての出店なんかが出ていたりする。出歩いている以上、私も当然ターゲットの1人だということになる。ターゲットを捉えるには五感に訴えかけるのが効果的であり……つまり、なんか良い匂いがしてる。ちょっと小腹空いてきたぞ。
「アン、お腹空かない?」
「あ、私もちょうど今考えてた」
サンよ、タイミングバッチシじゃ。……親子だからって、お腹が減るタイミングまで似るなんてことはないよね? 好みは結構似てるけど。
「よし、今度は私が奢ってやろうじゃないか!」
「おーありがとうございますアンジェリア様」
「うむ、苦しゅうない。……何食べよ」
「ボネツクとか?」
ボネツクとは、魚か何かのすり身を串に刺し、ちょっとした味付けをした上で焼いただけの簡単な料理。
つくね棒だったりとか、そんな感じだろうか? ボネツクには大体軟骨が入ってるし、ボーンツクネでボネツクだ。いや全然発音違うけどさ。特にクが。
さっきから漂うこの香ばしい匂いは間違いなくボネツクのもの。私もサンもこれが結構好きなのだ。
「良いね、そうしよ」
「3本くらい食べちゃおっかなー」
「……ダイエットしてるんじゃなかったの?」
「今日はたくさん歩いてる。それに食欲には勝てない」
……私は1本だけにしておこう。
◆◇◆◇◆◇◆
最後に行ったのは雑貨屋。
ただの雑貨屋じゃなくて、冒険者のニーズにも対応してる意識の高いところだった。多種多様な商品が様々に並べられていて……と言えば聞こえはいいが、雑多に積まれているお店だった。
実際に何かを買ったわけではなく、どのような時にどのような物を買うべきか、何を常備しておけば良いのか、なんて冒険者の心得的なものを学んだ。つまり、ただの冷やかしだ。
その後はもう冒険者っぽくはない。八百屋に行って野菜を買って、肉屋さんで肉を買って、麺屋さんで乾燥麺を買って……要するに、食材の買い出しだ。サンは最初から私を荷物持ちとして使う予定だったらしい。
主婦、侮れぬ。
「あー……疲れた。鎧って重いんだね」
「命を預ける物だからね。そのくらいの重量は我慢しなさい」
「はーい……。まだ時間ありそうだし、このまま登録してきちゃおうかな?」
買い出しに結構な時間を使ったせいか、空は真っ赤に染まっている。
でもまだ日は落ちきっていない。後1時間もすれば暗くなってしまうだろうが、とはいえここはダールだ。街灯も十分にあるし、何より十分知ってる地。こんな時間に向かっても問題はないだろう。混んでるかもしれないがちょっとアレだが。
「ん、夕飯までには帰ってくるのよ。
あ、そうそう……はい、これ。私のお下がり」
「これは?」
やや乱れた髪を整えていると、サンが私に何かを渡してきた。
革のケース……? あ、これって。
「見ての通りのダガー。私が冒険者だった頃にお世話になった奴。
ユタもロニーのお下がり貰ってたじゃない? だからアンには私のをあげる」
「出してみても良い?」
「もちろん」
革のケースに収められたダガーを抜いてみる。
30cmくらいはありそうな大きめのダガー。その刀身は薄っすらと青く光っているように感じた。少し傾けてみると、光は表情を変える。青だったはずが紫になり、透き通るほどの光の中に、まるで私は吸い込まれてしまいそうに――。
どれくらい、このダガーを見ていたことだろう。ふと指に熱が走り、やっと我に返ることができた。いつの間にか、その鋒に指を滑らせてしまっていたようだ。
「……これは?」
「魔石杖程じゃないけど、魔力増幅効果もあるダガーなんだ。
……もう私は使わないから。これは私からのお守り」
話す最中に一瞬表情を曇らせ、しかし悟らせないようにかすぐに真剣な顔に戻るサン。きっとこれは、彼女にとって何かの思い出の品なのだろう。
……さっきの感覚は何だったんだろう。吸い寄せられるような、不思議な感覚を覚えた。多分このダガーは魔道具なんだろうけど……ちょっと危ない奴かもしれない。取り扱いは真剣に。ダガーだけに。……な、なんか背筋に寒気が。
しかし、なるほどダガーか。
確かに重要なアイテムだ。そのくせ私はすっかり忘れていた。……前世ではたまにサバイバル番組を見てたな。あの人は今も元気にしてるんだろうか? きちょたんきちょすい。
◆◇◆◇◆◇◆
冒険者ギルド。前回来た時は「労証での登録の場合、大銅以上の提示が必要です」って言われて逃げ帰ってきたんだよね。今回はちゃんと大銅だし、登録手数料の小銀貨も2枚持ってきた。うん、完璧だ。護身用にダガーもあるし、変な人に襲われても大丈夫だろう。多分。
意を決してその扉に手をかけ――う、痛い。まともに頭ぶつけた……。なんで扉が勝手に開くんだよ! んなわけあるか! 誰だ、向こうに居る奴!
「いったた……ちょっと!」
「ん、あ、悪い悪い。大丈夫か?」
手を差し伸べてきている、扉を動かした張本人を観察する。
全身黒い革防具を付けている、やや長めの茶髪の男だ。腰にナイフを幾本も蓄えているし、冒険者ギルドから出てきたしで、まず間違いなく冒険者だろう。
青年……いや、ギリギリ少年でも通じるか? 背もそんなに高くないし、まだ顔にあどけなさが残っている。もちろん魔人基準での話だから、年齢的には20歳前後とかだろうけど。
ん、魔人? なんか微妙に魔力が薄いな。……呪人の魔力とはちょっと違うか。単に魔力の少ない魔人ってだけか。
「……ん? 冒険者か?」
「今から登録するとこ」
「新米か。俺はカクカってんだ。なんかで一緒になったらよろしくな」
「……アン。よろしく」
なんだろう。見た目や表情、言葉なんかからチャラさを感じる。多分、苦手なタイプだ。悪いヤツじゃあなさそうだけども。……いや、悪いヤツなのでは? だっておでこがズキズキしてる。
「じゃ、私行くんで」
あんまり関わり合いにはなりたくないタイプだな。……それにお尻もちょっと痛い。むう、さっさと済ませて帰っちゃおう。
「ここで会ったのもなんかの縁だ。案内してやるよ。
ナンパされるかもしれないしな!」
「それはアンタでしょ。結構です」
「まぁま。ここは先輩に頼っとけって」
……あー面倒臭い。断るにも骨が折れそうだし、登録の間だけ同席させてやるか。
「ま、先輩ってもまだ7級だけどな」
「俺はナイフが好きだな。軽いし、狭いとこでも使えるし、解体にも便利だし」
「魔術はあんまり得意じゃないんだよなー。魔力が少ない体質なんだ」
「やっぱ冒険者は飯が第一だ! 一緒に飯行こうぜ」
「アンは弓って使える? 俺はてんでダメだ」
「その防具タレスさんとこのか? あの人の腕は確かだからな」
――――
うるっせえ!!! なんで扉開けてから受付に行くまでの間にそこまで喋れるんだ!?
あーもう馴れ馴れしい。こういうタイプ、嫌いなんだよな。つーか案内どこいった。自己主張してるだけじゃねーか。あのおっさんタレスって言うんかよ。
「あの。これから登録するんで、もういいですよ」
「んじゃここで待ってるからよ。ちゃちゃっと終わらせちまえ」
「帰っていいですよ」
「いや、待ってるよ」
……。疲れるわ。なんでこんなのに絡まれてんだ私。気にしないことにしよう。
唯一空いていた男性職員の居る受付へ。他の受付は全て埋まっている……女の方がやっぱ人気あるんだろうか? この男の人、暇すぎてあくびしてたぞ。ほら、今も目に涙浮かべてる。
「こんばんは。本日は如何用でしょうか」
「こんばんは。冒険者ギルドへ登録しに来ました。これ、大銅労証と小銀貨です」
「確認しますね。その間、こちらの録石を閲覧下さい」
労証と小銀貨2枚を渡し、録石を受け取る。まあこれは前回も読んだ奴だから、別に集中して観るようなものでもない。階級制度やクエストの注意点、実地での被害や使用した物資についてギルドは責任を持たない、街のマナーは守れだとかのルールが記されている奴だ。
クエスト放棄を繰り返したり、ギルド員の殺害なんかを行なうと追放されるらしいが、まぁ当たり前だな。
「確認し終わりました。それではこちらの録石を受け取り下さい」
ぼーっと録石を読んでいたら、まだ眠そうな職員が小さな録石を持ってきた。色的に空録石だろうか。
「必要事項を伝えます。答えられるものだけで結構ですのでそちらにご記入ください。記入方法はご存知ですか?」
「はい、大丈夫です」
「では――
名前、年齢、出身地、両親、主武器、魔術使用の可否――……色々と事細かに訊かれた。答えられるものは録石へ入力していったが、出来ないものもあった。全体としては8割くらいは入力できたんじゃなかろうか。
「以上で質問は終わりです。録石をこちらへ」
入力済みの録石を渡すと、彼は内容を確認。読み終えるとカウンターの引き出しから双子の魔法陣が描かれた板を取り出す。確かあれは、録石専用のコピー機みたいな魔道具だったかな。
片方の魔法陣の中心に録石を置き、もう片方の魔法陣には金属板が置かれている。職員は両の魔法陣に手を翳し――
小さく光ると、プレートに一本線が引かれた。8級である、という意味だ。
「登録作業が終了しました。こちらがアンジェリアさんの8級拓証です。
再発行には手数料が掛かりますので、紛失にはご注意下さい」
「はい、ありがとうございます」
「終わったか。飯行こうぜ飯」
……こいつ、ほんとにまだ待ってたのか。カス…じゃなくてカクカだったな。20分くらいは掛かってたろうに、暇な奴だ。
「カクカ。お知り合いですか」
「俺の未来のパーティーメンバー」
「そうですか。アンジェリアさん、ご注意下さい。彼はたらしですから」
「おい! そういうこと言うなよ!」
「どうせそのうち嫌でも知られることですよ」
この2人は面識があるのか。いや、そりゃそうか。ギルド員なら職員とはある程度仲良くなったりするもんだ。私も労働者ギルドの職員には話すような人も居る。こんなチャラ男なら尚更か。
「カクカさん、まだ居たんですか」
「待ってるって言ったろ。さ、行こうぜ。そこの定楽亭の飯、結構うめえんだ」
「お誘いありがとうございます。今日は予定がありますのでまた機会があれば」
「そっか、んじゃまたそん時だな」
おや、思ったよりもすぐ引いた。まあ1回くらいなら……こいつの奢りなら行っても良いか。今日は家族で食べるから無理だけど。
ラノベでよくある悪い奴に絡まれる事は無かったけど、代わりにチャラ男に絡まれたでござる。
カクカ君が初登場しました。




