本章を読む方へ。序章のあらすじ
2018/4/26 文字の削減、及びサブタイトル変更。
冴えないデバッグアルバイター、阿野優人は非常に疲れていた。今日も朝まで延々PCとにらめっこをしていたからだ。
普段から朝帰りの彼は、今日も半分寝ながら家に帰っていた。短い睡眠時間を補うための習慣が、その日は牙を向いた。
眠っていた彼の体は、通りすがったスーツの男性の叫び声によって目覚る。しかしもはや手遅れ、死角から突っ込んできたトラックとガードレールに挟まれ、鮮やかなサンドイッチになった。
なぜ、ここに居るのだろう?感覚の無い世界だけで思考だけが巡り巡る。唐突に降りかかる音。それは声だった。
「おめでとう!あなたは転生します!お前は死んだ。そして、転生する」
前後のテンションの差、発言内容に気を取られつつも、彼の意識は薄らいでいった。最後の記憶は、神のような存在への疑問だった。
胎内での記憶を残す赤子は多いという。胎内とは、幸せそのものだ。彼もその1人であり、永遠に安らいでいたかったのだが生まれてしまった。
転生。二度目の生を受け、最初に考えた言葉だ。その記憶が前世の最後、あるいは前世と今世の狭間のものだ。
ふわふわと浮かんでは消えていく疑問達。生まれてすぐの彼の脳は長時間の思考には耐えられなかった。
ある日、自身の違和感に気づく。暇に飽いていた彼は手足を必死に動かしたり、周囲を観察していた。その中で、自身の息子がいない事に気付いた。彼は、彼女だった。
言葉を覚える前の彼女は暇だった。暇すぎて羽虫に声を掛けるくらいに。
言葉を覚えた。彼女の名はアンジェリアだった。しかしだからと言って暇に変わりはなかった。暇すぎて遂にハイハイを習得した彼女は、母の昼寝の空きに家中を走り回った。そして、激突。
生まれて初めての激痛。意識が薄らいでいく彼女の耳に、母親の声が微かに聞こえた。魔法の詠唱だった。
彼女は兄のユタが好きだった。兄からは1歳の誕生日プレゼントにぬいぐるみを貰った。アノールという、亜人種のぬいぐるみだ。
そして両親からは魔玉を貰った。共に生まれた彼女の半身であり、1歳になると渡されるその玉を握ると――眩い光が辺りを覆い尽くした。その光が収縮し消滅すると、人に魔力が宿る。それが通常だ。
しかし彼女の魔力はあまりに大きかった。その魔力は、時期外れの魔物を呼び寄せるほどに。
エリアズ。魔嵐と呼ばれるこの世界特有の暴風雨と共に現れる、魔力を喰らうと言われる亜竜。膨大な魔力はエリアズを呼んでしまっていたのだ。
彼女の住むダリルレ・リニアル、通称ダールは時期外れのエリアズに急襲された。
彼女の両親は元一流冒険者だった。彼らの援護により急襲をなんとか撃退したダールは、安堵のため息をつく……間も無く、絶望が現れた。
六本腕の化物は語りかける。「魂子をよこせ」。彼女の両親と兄は抵抗し、呆気なく殺された。家族だけではなく、その場に居た者全員が。
魂子とは転生者だ――と語る化物。前世の情報を彼女から聞き出していく化物は、「お前は魂子であると同時に呪子だ」と言う。神との敵対を匂わす化物は何者なのだろうか。
最後に化物は、彼女の家族を蘇生させた。恐らく魔法なのだろう。
その後は大変だった。家は壊れるし、父は重体。だが両親の昔の仲間に助けられた。たまたま近場に居た彼に魔術を教わり、彼女は魔人を理解していく。
ある日、兄が家を出ると言った。彼女の好きな兄は、もうここには居なくなる。兄は冒険者になるのだ。ならば私も、と彼女も兄同様冒険者を目指すことにした。そのためには身分証と金が必要になる。それから力だ。
その最中、不思議な少年と出会う。彼は記憶を失い、しかし彼女だけが彼の言葉を理解できた。お人好しの彼女は助けてやろうと動き回るが、子供の彼女には何もできなかった。彼は父の知人に引き取られた。
幾年かが経った。彼女の体は女だ、月のものも来ていた。それはつまり、自身の体が大人になったという現れでもあった。労働者として働き、冒険者として登録できるだけの身分を手に入れた。頃合いだろう。




