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幕間 大人

 ―――ああ、今日も疲れた。

 帰路につきつつ、ため息をこぼす。日はどっぷり落ちていて、肌寒い。


 今の私は中期依頼明けだ。

 内容としては家政婦の真似事。依頼主の奥さんが帰省している間、家の事をやっておいてほしい、と言うものだ。

 最初のうちは「なんだ、ただの家事か。ちょろいちょろい」なんて思ってはいたものの、実際にやってみるとこれがキツい。

 料理をするにもまず火が起こせなかった。火の魔術に関しては家で練習出来るものじゃないし、と一回庭に出て使ってみたのだが……危うく火事だ。家事しに来て火事起こすとか笑えない。

 そんな訳で初日は発火石という使い捨ての魔道具を自費で購入して調理した。とは言え現代のコンロではないから火の調子を見るのも大切だし、弱火強火の調整が難しすぎた。

 なんとか夕食の準備ができ、さあ掃除だ!と意気込んだところで依頼主の帰宅。掃除も洗濯も何も出来ず、怒られてしまったのが初日だ。


 その日は帰ってから火の魔術を猛練習。ある程度使い物になったおかげで翌日の調理には使えたものの……今度は洗濯だ。洗濯機がないのである。

 ぶっちゃけ洗濯機無しでの洗濯とかやったことなかった。とりあえず水を生成し、洗濯物を入れてかき混ぜ、水を消す。これを繰り返してみたのだ。

 結果としては汚れは落ちないしなんか傷んでるしで散々だ。私は急いで外に向かい、井戸端会議のおばちゃんから洗濯物の方法を聞いた。


「すみません。洗濯ってどうしたらいいんですか?」

「あらお手伝い?そこの井戸から水を汲んで、1回沸騰するまで温めてから冷ます。それを何個か用意したら1枚ずつ丁寧に、でも力強く擦るのよ」

「ありがとうございます!」

「間違っても魔術に頼らないようにね。凄く傷んじゃうから」

「は、はい……」


 まず熱湯にするというのを知らなかったし、魔術で痛むってのも知らなかった。やってみると知らないこと尽くしだ。

 サンが洗濯をしているところをちゃんと見ておくべきだったと反省。とにかく教わった通りに丁寧にやった。料理はサンの手伝いを何度かしてるため、なんとかなったが洗濯は難しかった。

 それを干し、やっと掃除だ。掃除に関しては問題はなかったものの非常に疲れた。背が足りないのだ。

 掃除を終え、夕飯を用意したところで今日もちょうどよく依頼主の帰宅。

 その日は特に怒られなかった。ただ、ちょっと味が薄いと言われてしまったので次からは濃い目で作ることにしたけど。




 家政婦を続けて4日目。慣れてきたは良いものの非常に疲れた。後3日で終わるとはいえ、家事ってこんなにキツいんだ。

 今日までの仕事を振り返りつつ、家に向かう最中に"ヤツ"が来た。


 ぬるり。


 下腹部の辺りが温かい。疲れすぎておしっこ漏らしちゃった!?家までは後3分程度。変な歩き方になろうとも、急いで帰らないとヤバい。

 この歳になってまさかおもらしするとは思わなんだ。3分のこの距離が遠く感じる……。


「おかえりー」

「ただいま!トイレ!」

「うわ。必死」


 慌ててトイレに駆け込み、確認してみる。どうやら漏らしてないようだ、良かった。むしろ出血してる。


「……え?」


 股間を打ったわけでもないのに出血している。


「え、は、え!?」


 気が動転した。原因不明の出血とか、鼻血かよ!?とにかく出血箇所を確認して……そこでようやく気がついた。

 そう、生理である。前世が男だった私には全く抜け落ちていたけど、よく考えてみればそんな年齢だったな……。

 この世界の文化的にはどうなんだろう。お赤飯が出るわけでもないし……とにかく、トイレからサンを呼ぶ。


「ママ!大変!来て!」

「はーい、ちょっと待ってねー!」

「急いでー!」


 ……紙ナプキンとか……無い、よな。どうするんだ、これ?私明日も仕事があるんだけど。そもそもナプキン渡されても使い方知らないけど。

 頭の中がぐるぐるしているうちにサンが到着した。


「トイレ中に呼んだの?はしたない」

「えっと、生理来たんだけど……」

「あら、アンももうそんな年なのね。ちょっと待っててね。鍵は開けといて」

「はい……」


 恥ずかしいが仕方ない。同性であるし母親になら……というか、ロニーとか絶対頼りにならないし。明日の仕事どうしよう……。

 と同じような事を考えていたら扉が開けられた。


「大人の証だから、そんな泣きそうな顔しなくてもいいのよ?」


 パニクって涙目だったらしい。仕方ないさ中身男だし。これでセメニアが生理にでもなってりゃ身構える事もできたのに。ぐぬぬ。


「自分で洗える?」

「うん」


 エル・クニード(水よ、溢れろ)。使い慣れた魔術だがコントロールが上手くいかず、ちょろちょろとしか水が出ない。まだ落ち着けていないのかな。とにかく必死で血を洗い流した。量はそこまで多い訳でもなかったし。


「よろしい。後はこれを股に巻いて――」


 そういえばアンが左手に何やら布を持っていた、というのに今気付いた。それはどうやら褌のようなものであり、正に褌のように巻き付けられた。股間の辺りがちょっと分厚いけども。


「よし。トイレの時はちょっと大変だけど、まぁ3日くらいだし耐えましょう」

「え、3日?」

「そうよー。私は大体3日くらい。人それぞれだけどね」

「うー……仕事と丸被りしてる……」

「今後もずっと付き合っていくのよ?女に生まれたんだから仕方ない!」

「うへー……」


 ……生理って面倒なんだな。エル・クニード(水よ、溢れろ)で顔と手を洗い、憂鬱な気分ながらも食卓へ。


「ロニー、アンが生理だって」

「えぇっ!?」

「アンももう大人だね。おめでとう」

「あーうーん……ありがとう?」


 隠すとかなく普通に言うのね。なんか、複雑な気分だ。

 そういえば私は人間じゃなくて魔人なる生物らしいし、一応確認取っておくか。


「ママ。生理とは。」

「あ、そっか。学校行ってないもんね。ふた月に1回くらい、お股から血が出るのよ」

「ふた月?」

「そうそう。おばあちゃんになるまで続くから、まぁ慣れていくしかないね」

「うげ……痛くない?」

「んー?ちょっと痛い時もあるけど……耐えよう!女として!」

「……おー!……」


 人間と違って毎月じゃないのはありがたい、ありがたいが……ああ、60日周期くらいでこれが来るのか。確かに性別女って分かった時には考えたりもしたさ。

 だけどそんなの10年前だ。完全に忘れてた。辛たん。


「……あー、男の僕はとても居づらいんだけど。それとなんか焦げ臭い」

「!火掛けたままじゃん!」


 ……今日のご飯は苦そうだ。

大人になりました。

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