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エピローグ1:彼女、或いは彼の長い一日

遅くなりました。半分エタってました。

第1章は終わり、いくつか幕間等挟んでから第2章です。

PM3:20


 ZRRRRRRR!!!


 目覚ましの音が鳴り響き、それと同時に起床する。大きな欠伸をしながらやけに鮮明な夢だったなと考える。それにとても長い夢だった、あれが夢で良かった……。いや、あんなのはゲームのやりすぎか。なんて考えつついつも通りスマホをチェックし、少ない友人からのRINEに適当な返信をしたら仕事の準備。

 シャワーを浴びるついでに歯を磨き、髪を乾かし、服を着る。燃えるゴミをまとめてそのまま一声行ってきます。返事はないが習慣になっている。行く途中にウェダーでも買おうかな。



PM4:03


 家を出る。ゴミを捨て、駅まで徒歩2分。代わり映えのしない道だ。栗の花のにおいがする。精液の臭いに似ているらしいな。正直、俺には似てるとは思えないけど……と、駅に着いた。ここから電車で15分。スマホゲーには丁度いい時間だ。



PM4:27


 職場最寄り、とは言えここからは自転車でも結構距離がある。自転車に乗り換え、こぐこと20分。



PM4:50


 職場最寄りの駐輪場に自転車を止め、そのまま徒歩4分。俺のバイト先。小さなゲームデバッグ会社だ。


 職場に着き、IDカードを使用し中に入る。乾燥した部屋だ。最大20人くらいが同時にデバッグ出来るような、そんな小さな部屋。毎日ここで、朝7時まで延々PCとにらめっこ。苦行が今日もまた始まる。


「阿野さん、おはよ。相変わらず眠そーね」


 声を掛けてきたのは同期の西田。俺と違って週2でしか来ない。いや、それが普通か。俺のは明らかに……。


「どっかのチャンチャラしてる大学生とは違って忙しいんだよ」

「またまた~。どうせただの社畜でしょ?あ、ただのバイトだったか」

「うっせ」


 軽口を言い合えるだなんて、あまり多くはない。俺には友達が少ないし、女となれば更に減る。


「しかし不思議だよなー。西田って実質紅一点だろ?」

「またそれ?女でゲーム好きじゃ悪いか?お?」

「そこまでは言っとらん。っと、そろそろ連絡会が始まるな」


 連絡会。社としては相談会と読んでいるが……、情報漏洩対策とかでその日のやる仕事を説明されるわけだが、会とは名目だけでバイト君からしたらただただ連絡事項を聞くだけの時間。

 更に言えばデバッグなんて作業は1日で終わるようなものでもなく、数週間同じゲームのデバッグを続けるし、詳細な連絡事項は各々がPCにログインすると表示されるようになっている。多分ちゃんと来てるかどうかの確認程度のものだろう。朝会とかそういう系の。


「――――以上です。今日もよろしくお願いします。では担当の席に着いてください」


 連絡会で特に代わり映えのしない話を聞く、俺は持ち場へ行く。残念ながら小うるさい西田が隣の席だが、作業中はほとんど常にヘッドフォンを付けているので関係はない。むしろ新人が隣に居る方が色々聞かれて面倒だ。ま、1番は両脇が空いてることなんだがな。

 1時間に1回程度、煙草休憩を取りつつ、Cバグと呼ばれる軽微なバグをそこそこ上げていく。自慢じゃないが俺の成績はかなり高い。Aバグと呼ばれる進行不能に陥るような酷い物も、半分くらいは俺が見つけていたりする。成績によって賃金が上がるわけでもないが、やるからにはやってやろう精神だ。いや嘘をついたな。月間成績三位までは"粗品"が送られる事があるからそれ目当てだ。毎日500mlの水が貰えるのはありがたい。本音を言えばエナドレのがいいが。



PM11:02


「阿野さんおっつー。私帰るわー」

「ん、もうそんな時間か。お疲れさん」


 ざわざわと、今日の仕事が終わった奴らが帰っていく。社員も30分もすればほとんどが帰る。代わりに夜勤のバイトが入りだす。この職場は24時間動いている。さて、後8時間だ。頑張ろう。



AM3:25


 ……ふぅ。MAN'S TAILを飲みつつ喫煙所にて一服。この時間は特に眠い、スマホをチェックすると、西田からのRINEが入ってる。こんなフリーターと連絡を取りたがる女子大生だなんて、変な奴だ。曖昧な返信と適当なスタンプを送り……と同時に喫煙所に来客。来客ってもここは別に俺の部屋じゃないけどさ。


「お、1位さんだ」

「そういうお前は、何位さんって呼べば良いんだ?」

「じょーだんじょーだん。お疲れさん」


 同年代で喫煙者でゲーム好きとまで共通点がある、数少ない友人、(さかき)だ。顔を合わせれば簡単な雑談もするし、たまに通話しつつゲームをしたりする。大抵は俺の高校時代の友人を交えて3人で。


「なあ榊、今日長い夢を見たんだが」

「夢?人の夢の話なんざ退屈……ま、暇だし聞いてやろう」

「そう言うなよ。まあ雑に言えばファンタジーな世界に女として転生するって夢だ」

「ほーん、おっぱい揉んだ?」

「んな発想なかったわ。んでな――」


 俺は夢の続きを話す。優秀な兄が居た事、兄を真似て冒険家になったこと、そして数多のダンジョンを踏破したこと。そして目覚める直前の話まで。


「ダンジョンの奥深くでバジリスクみたいな奴に会ってな、そいつのレーザーを受けて石になってくところで目覚ましに起こされた」

「なんだそれ。バッドエンドが嫌でAltF4したのか?」

「夢だしそんな機能ねーよ。…っとそろそろ戻らないとか。んじゃまたな」


 そうだ、確かにそんな夢だ。次似たような夢を見た時は、バジリスクには手を出さないようにしよう。鏡の盾でもありゃいいんだがな。少なくなったMAN'S TAILのプルタブをいじりつつ、仕事に戻るため席に着く――



◆◇◆◇◆◇◆



 ――何か騒がしい。いや、外が騒がしい?まだ夢現を楽しんでいたいが、環境が邪魔をする。ああ、何かすごく、懐かしい夢を見ていた気がする。


 日は既に上がっており、街は活気で溢れている。その喧騒に起こされた。眠い目をこすりつつ、今の時間をなんとなく探す。大体朝8時くらいかな?


 まずはいつも通り、部屋桶に魔術で水を溜める。エル・クニード(水よ、溢れよ)と唱え、ある程度溜まったところで水を発生から維持へと魔力の動きを意識的に変える。これで、風呂桶一杯分の水が用意出来た。

 しかしこのままでは冷たい。冷たい水も夏ならいいけどダールは基本的に寒いし、特に今は冬だ。だから軽く温める。手を水に付けリチ・プート(火よ、熱を)と唱え、適温になったところで魔力の放出を止める。

 魔術によって生まれたものは、基本的に魔力の放出を止めた時点で失われる。それは物質然り、状態然り。でも今回みたいに「魔術に対して使った魔術」は効果を失わない。つまり1度温めてしまえば、後は物理法則に従って空気や桶に熱放出され、徐々に冷めていくだけだ。

 更に言えば、ゲシュ(追加)を唱えて付与した魔言は、魔術に対する魔術ではあるものの別の魔術ではなく1つの魔術として扱われる。故に魔力の放出を止めた場合、ゲシュに続く魔言は効果を失う。今回なら元の温度に戻ってしまう。確か性質記憶とかそんな名前だったはず。それを応用した魔術もあるらしいけども……朝から頭が痛くなりそうだし、ここらへんで。

 魔術と言うのは思っていた以上に複雑で、奥が深い。なんて考えつつ顔を洗ってさっぱり。いちいち洗面所まで行かなくても良いのは良いことだと思う。面倒臭がりだしね。


 魔力の放出を止める。それだけでタオルすら不要だなんてやっぱり便利だ。そのままいつも通り、体の部位部位に魔力を集めだす。ロニーも毎朝やってると聞いて試しては居るが、やっぱり私には闘気の才能はないっぽい。いいもん。ゾエロ(纏化)で我慢するもん。でも最近、ほとんど魔力増えてない気がするんだよなぁ。

 1人で勝手に拗ねたりしつつ毎朝の習慣を終え、階段を降りリビングへ向かう。そこではサンが椅子に腰掛け、録石を()んでいた。


「おはよー」

「おはよ。今日はお遅いお目覚めね?」

「なんかね、長い夢見てたんだ。……パパは?」

「もうとっくにお仕事に行ったよ。今ご飯出すからね」

「うん、ありがと。私も手伝う」


 サンはテキパキと朝食の準備をしてくれる。とは言え、冷蔵庫の様な魔道具からサンドウィッチを出し、サラダを出し、スープに手を添え軽く温める。私はそれを、食卓へ運ぶだけの簡単なお仕事です。

 今日の朝食はいわゆるBLTに野菜サラダ、野菜スープと健康第一なメニュー。うさぎのベーコンなんて前世じゃ食べたこともなかったけど、これはこれで美味しい。ただベーコンと言うよりかは燻製のような味。


「食べ終わったら髪梳かしなよー」

「ふぁーい」


 うん、美味しい。味の濃いサンドウィッチと薄味のスープが実にマッチしてる。そして塩気に飽きたらサラダだ。

 食事に夢中になっていると、サンから声がかかる。そういえば梳かし忘れてたな……ちょっと反省。でも美味しいご飯があれば幸せ。そういや前世に比べてだいぶ菜食中心な生活してるな。たまに無性にカップ麺が食べたくなる。

 なんて考えつつ完食。ごちそうさまを言って食器を片付ける。そのまま自室に戻り髪を梳かし着替えてしまえば外出準備は完了。うん、今日も完璧だ。


「ママ、外行ってくるねー」

「気をつけてね」

「はーい」


 10歳を超えても学校に通っていない子供は、もう立派な"小さな大人"として扱われる。既に家を出た時のユタの年齢を越してしまった。ユタと違い、私は学校には行っていない。代わりに、労働者だ。何故労働者になったのか、と言えば、少しばかりのお小遣いが目当て……でもあるが、この街での身分証明証となる、労証が欲しかったから。

 何故労証が欲しかったのか、と聞かれれば冒険者になりたかったからである。思っていたよりも冒険者登録と言うのは難儀なもののようで、少なくともこの街で一人で登録するのであれば、上証、学証、労証のどれかが必要になる。上から順に査定が甘くなるだなんて余計な情報付きで。

 まず貴族でもなければ上証は用意出来ない。そして学校なんて行きたくないから学証も手に入らない。となれば最下位ではあるが、労証しかなかった。

 冒険者ギルドへの登録方法は2つある。1つが今あげた身分証提示。もう1つが保証人推薦だったのだが、両親共に「ユタだって自分で身分証を作ったんだから、アンも同じようにしなさい」と言うのだ。めんどくせ。2人共冒険者なんだから推薦してくれたっていいじゃん……。

 拓証と呼ばれる探検者、あるいは冒険者ギルドから発行される身分証明証を持つ者2名からの推薦を受けられれば試験を受けられると言うものが保証人推薦だ。まあ要するに、この街じゃ身分証明証の力がなければとても不自由なことになる。

 武器1つ買うのだってそうだ。○証と言うのは要は自分の職業を示すものであり、例えば兵証がなければどんな高ランクの拓証を持っていようが斧槍は買えないし、逆にどんな兵証でも戦斧は買えない……らしい。ハルバードとかはどっち扱いなんだろ。柄の長さとかで決まってんのかな。それとも先端か?


 とかなんだとグチグチ考えつつ、労働者ギルドへと向かう。もう少しで労証ランクが上がるから頑張ってる。因みに依頼石は期間により3種類に分けられるが、この時間まで残ってるのは長期や中期依頼と呼ばれる、毎日やるような……要するにバイトだ。短期依頼ってのは日雇いとかそんな感じ。

 とりあえず、依頼石を確認しに行くが……やっぱり短期依頼は……あ、ある。やった!えーなになに。


・短期依頼・

分類:物探し

報酬:大銅3枚

詳細:迷子のめうを探してください


 ……こういうの、見つからないんだよね。下手すれば死んでるし。まぁ報酬は相場より安いとは言え、声からして依頼者は子供だ。今日はいつもの仕事は休みだし、他に短期依頼も無い。

 私はカウンターまで行き、録石の登録番号と自身の労働番号を告げる。カウンターの生真面目そうな青年は、丁寧に依頼主の住所を教えてくれる。


「西8通りのペイド八百屋の向かいの小道、右手側で数えて6件目がセルヴィスさんのお宅ですね。詳細は直接お聞きになってください。こちらが今回の"片"です」

「分かりました。ありがとうございます」



 丁寧とはいえ、前世のような細かい住所が有るわけでもないので、通りの名前と大まかな目印、それからどのくらいかというのを教えてもらい、"片"を受け取る。彼はかなり分かりやすく説明してくれる方だ。ひどいと「ここから10分くらいまっすぐ歩いて、そこらへんの人に聞いてください」なんていう職員も。

 片とは、大雑把に言えば2つに割った石の欠片だ。日本人的には立体の割り印って言った方がしっくり来るかな。とにかくこれは、ギルドから依頼を受けてきた証であると同時に、依頼達成時の証にもなるものだ。終わったらくっつけて受付に持っていけば、無事依頼完了という手順。しかもどうやらGPS的な機能もあるらしい、と小耳に挟んだ。衛星無しでGPSとか凄い。



◆◇◆◇◆◇◆



 途中で購入したプルムジュースを飲みつつ、依頼者の家に到着。ノッカーが無いため直接ドアを叩く。……返事がない、再度叩きつつ、声を掛けてみる。


「こんにちはー。迷子探しの依頼を受けてきたんですけどー」


 ドタドタドタッ!慌ただしい物音が聞こえたと思えば、ドアが勢い良く開かれる。でこ打った痛い。


「あっ!ごめんなさい!」

「あたた……ん、大丈夫」


 やっぱり子供だった。見たところ8歳くらいか?の男の子だ。親は不在なのだろうか。


「えっと、依頼人のセルヴィスさんですか?請負人のアンジェリアです」

「はい、僕が依頼者のグィンド・セルヴィスです」

「じゃあ早速だけど、詳しく聞かせてもらえますか?あ、"片"です」


 私は鞄から片を取り出し、彼に渡す。その片が正しいものであると確認すると少し待っていてくれと言い、家内に戻っていった。

 しかし驚いた。最初のハプニングこそあったものの、年齢の割にはだいぶしっかりしている子だな。少なくとも前世の私よりかはしっかりしていると思う。


 なんて考えていると、彼は録石を持って戻ってきた。中身は"めう"の写真が3枚で、これを手掛かりに探してほしいとのこと。

 "めう"はケノーと呼ばれる、猫と鼠と兎を足して3で割ったような動物らしい。なら、絶対に聞かなきゃいけないことが1つある


「セルヴィスさん、この子は不可視化が使えますか?」

「……はい。だから、断られちゃう事が多いんです」

「なるほど。もしかしたら見つけられないかもしれないですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫です!お願いします!」

「では行ってきます」


 ケノーというのは不可視化する魔術使うペットだ。家畜って言うのかな、飼育されてる奴は使えない子も居るらしいが、今回はどうやら使えるタイプらしい。

 考えても見て欲しい、透明な猫を捕まえられるかと。そもそも見つけられるかと。……そりゃ依頼も残るわけだ。もしかしたら食べられちゃってるかな。

 一応私には魔力視が出来る。出来るというか出来てたというか、まぁつまり魔力が見えるのだ。日常生活じゃ不要だからあまり見ないようにはしてるけど、集中させればくっきりとよく見える。

 どうやら結構難しい技術らしく、魔人でも使える者は1割前後だとか。生まれつき出来る私からしたらよー分からんが、使えるものは使っていこう。


 私は目に意識を集中させる。別に目で見てるわけじゃないんだが、なんとなくここらへんに魔力を集中させるとよく見えるのだ。目を閉じてても見えるのに不思議なもんである。

 右手に球体をイメージして魔力を集める。普段から薄っすらとは見えてはいるが、よりはっきりと見えるようになったかの確認だ。……よし、十分だ。右手の魔力球を消す。

 ふと地面を見ればぼんやりと魔力が見える。遠くを見ればまるで霧が掛かったように不鮮明、あまり見えすぎるのも難点だ。ここらへん、上手い事調整出来ないかな。魔力視と似たような事が出来る魔術があるせいか、あまり詳しい事は知らない。

 普段よりも深いレベルでの魔力視は、多少なりとも魔力を使う。とはいえ底上げした私には数時間は堅い。ロニーとの修業時とか常時使ってたし、扱いには慣れてる。多分。

 



◆◇◆◇◆◇◆



 日はもうとっくに傾き、今や城壁に遮られている。辺りは夕飯の匂いに包まれ、汚れているが嬉しそうな冒険者が何人もギルドへ向かっている。酔っ払った労働者もそこらをうろついている。

 なのに私と来たら未だに全く見つけられていない。これ、本当に生きてるんだろうか。もはや魔力もギリギリだ。1時間も持てば御の字だろう。


 ダメだ、諦めよう。依頼主の少年には悪いが、ちょっと難しすぎる。そう決めて依頼主の元へ向かい始めたのが50分前。もうすぐそこが彼の家だ。依頼失敗を伝えるのは心苦しくもあるが仕方あるまい。


 彼の家も見える。……彼の家だけではなく、扉のすぐ近くに猫のような半透明の動物が居る。あれは?"めう"じゃないだろうか。いや、"めう"に違いない!

 "めう"に感づかれないように、何気ない足取りで通りを歩く。目を向けずとも見えるのだ。必死にこちらの動きに違和感を覚えられないように…後10歩…3歩、2歩、1歩……今だ!

 最も近づいた瞬間、私はウィーニ・ゾエロ(風よ纏われ)を唱え勢いよく振り向き、そして飛びかかる。ああ、他の人から見たら転んだように見えるんじゃないか、なんて微かに考えつつ。


 そして――捕らえた。必死に暴れるが、こうなったら私の勝ちだ。ただ魔力がほとんど無い。幸い依頼人の家はここだ。お行儀悪いが足でノックしちゃおう。

 幸い朝とは違いすぐに出てきた。


「"めう"っぽいの捕まえてきたんですけど、どうでしょ?」

「今そこに居るんですか?めう?」


 めーう。手の中で動物が鳴き、姿を表す。


「良かった、めうだ!ありがとうございます!」

「見つかって良かったです。"片"お願いします」


 少年はもぞもぞとポケットから片の片割れを取り出し、私に渡す。私のとくっ付けて……よし、ぴったりだ。


「あの、どこに居たか聞いてもいいですか?」

「玄関のすぐ横で丸くなってました。実はずっと近くに居たのかもしれないですね」


 なんて雑談を簡単に交わし、少年の家を後にする。というか名前は鳴き声からだったのか。めーうって鳴くからめうか。単純か。

 何にしても今日は疲れた。1日中魔力消費しっぱなしの歩きっぱなしの凝視しっぱなしだ。3Dの携帯ゲーム機を1日中ルームランナーに乗りつつプレイしたら多分、こんな疲労感だ。

 まぁ見つかって良かった。労働量に合った報酬かと言えば明らかに足りてない気もするが……少年の笑顔プライスレス、なんつって。



◆◇◆◇◆◇◆



 魔力もほとんど底をつき、くたくたになりつつも帰路に着く。大銅3枚って事は5000円くらいかぁ……。


「ただいま」

「おかえり。遅かったね」


 ロニーより遅い帰宅である。12歳にして父より遅く帰ってくる娘とは一体。うごご。


「今日はどうだったんだい?凄く疲れてるように見えるけど」

「ダメ、疲れた。もう魔力切れそ。ママご飯」

「もう少し辛抱してね」

「あ゛ーーー」


 ダメだ、くったくただお風呂は明日入ろう。


◆◇◆◇◆◇◆



 「――野さーん、阿野さーん?」


 ……耳元がこそばゆい。誰だ、俺を現実に引き戻すのは。……あれ?この声は。


「あ、はい」

「もー。居眠りなんてらしくないですよ。起きてください」

「はい。すみませんでした。」

「見かけたのが僕で良かったですね。これあげるんで、もうちょっとだけ、頑張ってくださいね」

「あ、…ありがとうございます。篠原さん」

「いーえ」


 彼はC班の班長。いわゆるバイトリーダーであるが、意識高い系とかそういうタイプじゃなくて気が利くタイプらしい。というか居眠りしてたのか、俺。

 ありがたく貰ったガムを噛み、仕事の続きだ。時間を見れば5時32分。疲れてたんかな。後2時間、気合入れていこう。



AM7:50


 PC画面に表示される「終業準備を行ってください」の文字。やっと仕事が終わる。個人的には「行ってください」じゃなくて「行なってください」にして欲しいななんて。まぁどっちでもいいし、正しい日本語だとなは入れないんだっけな?逆か?

 しかし今日は非常に眠い。居眠りかますくらいだし、弁当買ってサクッと帰ろう。



AM8:02

 夜勤明けはやっぱり来る物がある。このバイトは初めて3年だが、疲労を1番に感じるのはやはり朝日だ。

 ここから駅まで自転車で20分くらい掛かるとか、仕事終わりには非常に辛いものがある。居眠り運転でもしたら大変だ。つーか今日はしそう。

 電車の中で仮眠取って……後は、帰りも歩きながらちょっと寝るか……。



AM8:43

 自宅の最寄り駅に着く。

(ここまでくれば、後は寝てても体が勝手に家に運んでくれるからな……)

 なんとなくそんなことを考え、うとうとと、意識が薄れていく――

プルムはプルーンをグレープフルーツ大にしたような果物。味は木で熟したプルーンそのものです。収穫期は通常初冬ですが、越冬させて更に甘みを深めたものもあります。

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