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二十三話 ロニリウスの思案2

2021/06/06 一部描写の変更。

2018/04/08 改行や誤変換の修正。

 日もほとんど落ち、もう夜と言った方が正しい頃。隠れる太陽に代わり、仄かな街灯と窓明かりが街を支配し始める。今日は月は見えないようだ。

 こんな時間でもこの町(ダール)は人が多い。更に夜が更ければ、人も減ってしまうけど。

 少し肌寒い時間帯、僕は正体不明の少年と共に町を歩いている。目指すはテルーの家。いや、あれは家と言っていいのだろうか。おおよそ一般的な家とは程遠いし……。


『君、全く何も覚えてないのかい?』

『うん……おじさん、どこに僕を連れてくの?』


 おじさん、か……もうそんな歳だろうか? まだお兄さんと呼ばれてもいい見た目のはずだけど……まあこのくらいの年の子は、大人は皆おじさんおばさんに見えているものか。

 僕は少年と話しつつ、テルーの家へ向かっている。少しだけ彼にユタを重ねているのかもしれない、なんて考えつつ。


『君はもしかしたら、ダンジョンのせいで記憶が失われているのかもしれない。だから、詳しい人に見てもらおうと思うんだ』

『……僕って迷惑?』

『誰もそんなことは言っていないよ。このままだと君が困るし、それに僕も乗り掛かった船から降りる気は無いよ』

『……? よく分かんないけど、ありがと』


 この少年はずっと困り顔だ。今だってありがとうと言いつつ笑おうとしたんだろうけど、困りながら笑うとか言う変な顔になっている。もちろん直接は言わないが、ちょっと面白い顔してる。

 でももしこれが僕だったら――それは実に不安で、とても寂しい状況だと思う。だから助けてあげたい。きっとアンも同じことを考えているはずだし。



◆◇◆◇◆◇◆



 そんなこんなで簡単な話をしつつ、テルーの家に着いた。普通の民家2つ分ほどのかなり大きな建物、これがテルーの家だ。


『ロニリウスさん、テルーって人はホントに大丈夫なの?』

『大丈夫、怖い人じゃないってば。ただちょっと……変なだけなんだ』

『僕ちょっと怖い』


 道中、人柄を簡単に説明してからこの子は及び腰だ。テルーは悪い人では決してない。ただちょっと変わり者なだけであって……。だけどまあ、あんまり頼りたくない人物のうちの1人ではある。

 ここで考えても仕方ない。僕はノッカーに手を掛け、3回打ち鳴らす。小気味いい音を鳴らし暫く待つ。


 が、やはり出ない。彼女が出てくるわけもない。


『さて、入ろうか』


 扉を開け、ほんの少しだけ息を止める。そして覚悟を決め、……やはり臭いな。


『ぅええ!? 何この臭い(におい)!』

『あー……言い忘れた、ごめん。この家、ちょっと臭いんだ。でもすぐに慣れるよ』


 少しだけ自分の説明不足を呪う。そういえば昔から言葉足らずな所あるよな、なんて。少年よ、ごめん。

 そんな事より今はテルーだ。嫌がる少年を半ば無理やり家に入れ、扉を閉める。そして少年を玄関に待機させ、恐らく何かに集中しているか、或いは倒れているであろうテルーを探しに行く。


 とは言え、一部通路は通れないほどに物が積んで有るし、足場も所々床が見える程度。だがこの家は慣れたもの。手早く家中を探し……居た。僕が勝手に物置5と呼んでいる部屋でゴソゴソやっている彼女がテルーだ。

 僕は彼女の肩を叩き、声を掛ける。


「こんばんは、テルー。また何かに熱中していたのかい」

「……お? おおお! ロニリウス君じゃないか! はて、いつ入ってきたのですかな?年頃の女子(おなご)の部屋に勝手に入ってくるだなんて――」

「鍵も閉めずに掃除もしない女性に興味はないなあ。それに僕には、サンが居るしね」

「惚気話ですかな? そんなのは粘性生物(スライム)も食べぬと言いますよ!?」

「振ったのは君だよ、テルー……今日はちょっと、相談があってね」

「ふむ、空間を作るから少しお時間と――」

「人手を、でしょ? 手伝うよ」

「ありがたい! では早速!」


 ……はあ。毎度思うが何故こうもズボラなのか。素材は悪くないと思うんだけどなあ。ちょっと癖毛で猫背なところを除けば……いや、胸も少し足りないか。僕の好みはもう少し大きい。

 まぁそれは置いておいて。僕は慣れた手つきで窓を開け、埃を落とし、その間にテルーが机上の品々をどこかへ運ぶ。多分運ぶ先は適当なんだろうな。だから片付かないんだろうなぁ……っと、少年の事を忘れていた。ある程度片付いたら呼びに行かないと。掃除しつつ、簡単な説明は今のうちにしておこう。



◆◇◆◇◆◇◆



 埃っぽいが、少しは人間らしくなった部屋にて――


『ふむ、なるほど。これが件の少年ですかな』

『おばさんも話せる人なんだ』

『おおおおば!? 私はまだ25ですからね!! ロニリウス君なんて私より100歳も上ですよ!』


 そりゃテルーは呪人で、僕は魔力の多い魔人なわけで……まぁそれにしたって、普通の人よりかは頑張ってるけどさ。


『あー本題に入ってもいいかい? テルーもそろそろ婚期逃しそうなのは事実だし』

『ちょっ! 今さり気なく酷い事を言われたような気がするんですが!!』

『で、テルー。僕の予想だとこの子はダンジョントラップによる記憶喪失及び逆行状態にあると思うんだが』

『無視ですか! 無視ですか!! ……ふぅ。ではちょっと体内魔力を見てみますか』


 騒ぐテルーを無理やり本題へ連れて行く。実際、呪人(セクセル)で25で彼氏無しだとちょっと難しい気もする……なんて考えていると、テルーが筒状の道具を持ってきた。

 携行遠眼鏡のような物で、確か相手の魔力の流れを見るためのものだったかな。見れない人間は大変そうだ。

 いや、確かこの道具は僕の目よりもいいんだったかな。より精密に見れるとかなんとか……結構前だから忘れてた。

 つまり、テルーの作品にしては数少ない実用的な道具の1つだ。基本的に彼女はポンコツしか作らないし。


「ふむ、確かにちと妙な流れが見えますな。これは魔法陣が刻まれているようですね」

「魔法陣……やっぱりダンジョンか? 生物の体に埋め込む魔法陣なんて、奴隷紋以外じゃ聞いたこと無い……いや、刻印の可能性もあるのか?」

『……?』

『ああごめん、今は君の体内魔力を見ているんだ。もしかしたら、それで原因が分かるかもしれない』

「本質的には魔法陣も刻印も同じものですからな。ただこの複雑さは魔法陣かと」


 少年に簡単に説明しつつ、僕も僕なりに考えてみる。専門家であるテルーには及ばないが、だからと言って思考停止はよくない。……と言いたいところだが、正直さっぱりだ。

 僕にしてみればトラップは攻略するもので、研究対象では無い。もちろん、どのトラップに対してどの対処法が正しいのか、なんてのは調べるが、テルーのような専門家とは毛色が違う。

 暫くは少年と問答でもしていたいところだが、少年はテルーに色々調べられているようで、手持ち無沙汰だ。部屋の掃除でもしておいてやろうか。


 ……どうしてここまで物を捨てないんだか。



◆◇◆◇◆◇◆



 陽も完全に落ち、住宅街である辺り一帯が静まった頃、テルーが興奮した様子で話しかけてきた。


「ロニリウス君! 結果が出たよ! これは十中八九ダンジョントラップ、或いはそれに匹敵する魔術・魔法のせいだ!!」

「やっぱりか。どうしたら治る?」

「いや、前例こそあるものの治った話はほとんど聞かないね!

それこそ迷信の世界にだけど、同じトラップをもう1回踏むとか、そんな――」

「それじゃ手がかり無しか……」

「ふむ。でしたらこの子さえ良ければうちに暫く留めてもいいですかな。研究対象としては一級品な上、私個人としても興味がありますし!?」


 なるほど、妙案だ。とはならない。何故ならば彼女は生活力皆無なのだ。この子が死んでしまいそうだし、それに研究対象として一級品というのも気になる。別に彼女が解剖するとかそういう事を言っているわけではないが、昔散々調べられたからなぁ……。

 しかし他に良案も思いつかない。少年自体が良いと言うなら、ここに置くのも有りかもしれない。その場合、この子はテルーの世話係になってしまいそうだが。


『君、今日から暫くここに住んでみないか? もしかしたら記憶を取り戻せるかもしれない』

『……え、えー……』

『ちゃんとテルーに部屋の掃除もさせるし、体も洗ってもらうからさ。ダメかな?』

『うーん……臭くなければ……』


 少年は乗り気ではなさそうだ。だがまあ、このまま外に放り出すわけにもいかないし、現状これが一番答えに近い気もする。なんだかんだ言ってもテルーは優秀だ。ただ、少し変な方に傾いているだけだ。それに酷い様なら最悪、ここから連れ出し孤児院に入れる事も出来る。


『分かった……たまにアンちゃんと一緒に来てくれる?』

『うん、様子を見に来るよ。アンもきっと、君の事を気になっているしね』

『では決まりですな! とは言えいつまでも「君」では呼びづらいですし、何か名前が欲しい所……』

『ケシス。ケシスがいい! あれ美味しかった!』

『では決まりですな、今日から君はケシス君と呼びます!』


 えぇ……そんな適当でいいの……可愛らしい名前だなぁ。

 と、ちゃんと釘を差しておかないと。


『テルー、これからは清潔にするように』

 ケシスはツブツブの大きさをブドウくらいにしたザクロのような果物です。1つのケシスの実から平均18個程度のツブが取れます。味は酸味の強い苺のようなものだと考えていただければ。

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