二十二話 ロニリウスの思案1
2021/06/06 一部描写の変更と追加情報。
僕は今、名も分からない少年と一緒に居る。ころころと表情を変える愛娘と共に……どうしてこうなった。
「なるほど。つまり彼は記憶喪失だと」
「そゆこと」
「そういうのは早く言ってくれ」
思考を巡らす。確か昔、冒険者時代に似たような奴に会ったはずだ。彼はなんと言っていたか……。
◆◇◆◇◆◇◆
どの町だったか。僕はダンジョンアタック中に会った冒険者、いや探検者だったかな? と酒を飲んでいた。
「俺ァな、記憶喪失なんだ。昔ダンジョントラップに掛かってよ、ブゥドゥ草原にぽつんと。装備は失なっちゃなかったが、記憶だけを置いてきた」
「そりゃまたやっかいなトラップだな。しかしブゥドゥ草原と言えば、確か大猪が多い地域だったよな? よく生き残れた」
「ああ、たまたま今のパーティーの奴等が近くに居てな、そのまま拾われて、今に至る」
「へぇ、興味深いな」
話に相槌を打ちつつ、酒を一口。ただ一緒のダンジョンに潜った。それだけの関係なのに一緒に酒場で語らうだなんて、と思うかもしれないが、これもまた冒険者の醍醐味だったりする。
「……語りついでに聞いてもいいかい。その時のパーティーメンバーとは?」
「いや、行方知れずだ。俺自身そいつらの顔も名前も覚えちゃねーが、たまたま記憶喪失になる前の知り合いとやらに会ってよ。どうやら俺含め4人で潜ったらしい。まぁ普通に考えりゃ、俺と同じくどっかに飛ばされて野垂れ死んだか、はたまたは奴隷商にでも捕まったかだろうな。俺はかなり、運が良い」
そしてもう1つ。冒険者は身の丈話をしたがらないし、聞くのも基本的にはご法度だ。どんな経緯で冒険者になったかなんて千差万別だが、大抵は悪い話になる。僕だってそうだ。
小さい頃から冒険者に憧れて――なんてのは、英雄思考(ヒーロー好き)の子供か、あるいは身内が冒険者なせいだったりする。それ以外での理由だなんて、碌なもんじゃあない。
昔のパーティーメンバーの境遇を考えたのか、彼の手は少し震えていた。それは酒のせいか、或いは――。
「なぁ、記憶喪失ってのはどんな感覚なんだ? その知り合いとやらに会ったときは、何か思い出せたのか?」
「いや、さっぱりな。俺も一時は思い出そうとも思ったが、無駄だったさ。それにそんなものが有ろうが無かろうが、俺は俺だ」
彼はまた杯を手に持ち、それが空だと気付くとこちらに向き直した。
「酒も切れたし明日も早い。今日はここまでだな。ロン」
「ああ、面白い話が聞けた。健勝を願っているよ。クィネ」
「互いにな。ならまた、会うときがあれば」
彼はそのまま席を立ち、店の外へ出ていった。後ろ姿を眺めた後、僕もまた酒を一気飲みして店を出た。
1人で飲むのは好きじゃないし、それに昔のことを考えてしまう。今日はもう寝よう、とか考えて。
「お支払いを」
「既に払ってあるはずだが」
僕は常に先払いをすると決めていた。酔ってからのトラブルに巻き込まれないようにするためだし、この日だってそうしていた。
「……もしかして、あいつ払ってないの!?」
◆◇◆◇◆◇◆
そうだ、彼だ。あれ以降会っては居ないが……しかし、この子も彼と同じようにダンジョンのトラップに掛かったのか?この年齢で?いや、逆行の罠も同時に……?
考えれば考えるほど妙だ。第一、この子は身に合う服を着ている。確か逆行系のトラップなら装備は失われるはずだ。だがクィネのようにトラップにも例外がある。むしろ低級のトラップを除けば、全く同じ物は滅多に無い。
……全く検討も付かないな。一度テルーに診せてみようか? これは僕1人には少し大きすぎる。だからと言って、医師向けの案件でもなさそうだし。
「僕に宛がある。セメニアちゃんとアンを送り届けたら、少しこの子と散歩してくるよ」
「何するの?」
「少し、知り合いにね」
アンが僕を半目で睨んでいる。おかしいな、特に変なことは言っていないはずなんだが……。
回想に出てきたクィネ君ですが、ロニーとは見た目上、親と子ほどの歳の差があったりします。今後出番があるかは謎ですが、冒険者なんてのは歳の差もあんまり気にしないんだなーとか思ってもらえれば。




