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閑話 とある父親の記憶

2021/06/12 全変更(ロニー視点の災害後日談「8.8話 ロニーの場合」→「閑話 とある父親の記憶」)

 今日もまたクエストを受け、慣れてきた魔物狩りを終えた。

 ここ最近はこれの繰り返し。だというのにお金は減っていく一方で、冒険者とはつくづく稼げないものだなと再認識することになった。

 さあ、酒場で人の会話に耳を傾けよう。今日は……あそこにしてみよう。


 たまたま目についたのは見窄らしい酒場。

 看板には文字ではなく絵が描かれているし、建物自体がかなり老朽化しているように見える。

 以前の僕なら目にすら入れなかっただろうけど……今は冒険者だ。こういうところの方が似合っているかもしれない。


 扉を手をかけ、むせ返るようなニオイと喧騒に少しだけ別の店にしようかとの考えが浮かぶ。

 しかし僕は冒険者だ。こういう日々の小さな冒険も大切にしていこうじゃないか。


 壁際の2人用の席を選び、さて何か頼ま――綺麗だ。

 手入れが届いていなさそうにも関わらず、確かな存在を示している髪。

 多少の傷こそあるものの、それこそが自分だと主張しているような肌。

 凛々しくもどこか優しさと物悲しさを感じさせるその目。

 ややささくれが目立つ、よく使われているであろうその指。


 ……初めて人に目を奪われた。

 こんな人、パーティーなんかじゃ絶対に出会えない。


「失礼、お名前は?」

「……はぁ? 普通そういうもんは自分からでしょ。で、アンタ誰よ?」


 気付けば声を掛けてしまっていた。僕が女性へアプローチを掛けたと知られたら、兄様や父様は一体どんな顔をしただろうか。

 しかし残念ながら素っ気のない返事。

 彼女のいうことは正しい。こんな酒場に居るってことは低い身分の人間だろうし、聞けば素直に帰ってくると思ったが……仕方ないか。

 さて、どうやって名乗ろうか。……この見た目、きっと彼女も冒険者だ。ならこっちかな。


「ただのロニリウス。F級の冒険者さ」


 拓証を見せ、さり気なく自身の階級もアピール。

 まだまだひよっこな階級ではあるが、しかしH級やG級よりも――


「帰っていいわよ」

「……え?」

「ナンパなら他当たりなって言ってんの。募集もしてないよ」

「F級だってよ? ポーターとしてなら雇っ――」


 男の声がして、そこでようやく気付いた。彼女の周りに3人の人間が居ることを。

 しかもそのうち1人には見覚えがある。


「ラグニエルさん?」

「なんだラグナ、知り合いか?」

「いや? ……君と面識はないはずだが」

「以前の弓技会でお見かけしまして」


 まだ僕がクルセトに居た頃、東部国家連合の国際弓技会の開催国に選ばれたことがある。

 その時に圧倒的な成績を収めたのがこのラグニエル。

 技術は当然として、あの美しさは今でも目に焼き付いて離れない。あの日から僕は弓を手放していない。

 そのラグニエルさんがここに居るということは、彼らはもしかすると。


「三刃の?」

「情報が古いな、今は四刃だ。で、結局何の用なんだ」

「……えっと」


 さて、どうしようか。

 正直にこの女性に一目惚れをしたと言ったとしても、きっと酒の肴にされるだけだろう。

 ではパーティ加入のお願いを? まさか。僕はまだ下から3番目のF級で、彼らは上から3番目のC級だ。差がありすぎる。それに先手も打たれてしまっている。

 ……本当なら僕だってもう少し高いはずなんだけどな。まだ時間が足りてない。


 なんて答えようか、と考えてるうちに大柄の男性が口を開けた。


「ひよっちいな、それで冒険者なのか?」

「ええ、先日なったばかりですが」

「いつだ?」


 どうしてこの人はこんな事を聞くんだろう、と考えみても何1つ浮かんできやしない。

 たかが冒険者同士の雑談だ。素直に答えても問題はないだろう。


「2週間前に」

「2週間だぁ? ホラ吹きは嫌われんぞ、正直に言えよ」


 木製のカップがテーブルへと打ち付けられ、中に入っていた液体が周囲へと僅かに飛んだ。

 そんなこと言われたってな、本当のことなんだけど。

 適当な嘘をあげるのが正解だったかな。どうにもこの世界にはまだ慣れない。


「嘘だと思った理由は?」

「昇級試験は2週間以上の間隔を開ける必要がある。常識だろ。

 お前はFなんだろ? どう考えても嘘じゃねえか」


 汚いものを見るかのように睨まれる。

 これではまるで僕が嘘つきのようじゃないか。


「少年よ、1つだけ教えてやる。この業界、嘘つきは嫌われんだ。

 見逃してやるからもう帰れよ。んでここ以外の町で過ごせ」

「いいこと言うじゃん、シナトンのくせに」

「もっとキャラ作り頑張れよ、"沈黙のセエレちゃん"」

「ちゃん付けはやめろ! "沈黙"させるぞ!」

「怖がる――」


 ……まるで僕なんて最初から居なかったかのように、彼らは内輪で盛り上がってしまった。

 本当に嘘じゃないんだけどな。でもこの場で何を言っても変わらないだろうし……また日を改めよう。

 四刃、ね。忘れないようにメモでも取ろうかな。


 あ……名前、聞きそびれちゃったな。次回に期待しよう。



◆◇◆◇◆◇◆



 今日も冒険者ギルドへ来ている。

 もちろんクエストを受けにくるためだけど、それ以外にもう1つ用事があった。


「お聞きしたいことがあるのですが」

「どうされましたか?」


 先日、シナトンという冒険者に言われたことがずっと気になっていた。

 知り合いなんかに聞きまわってみたけど、確かに2週間縛りは実際に存在しているらしい。

 だのに僕はその制限を受けていない。

 ……理由は多分、出自だろうな。王でなくなったとはいえ、父様から完全に発言力が失われたってわけでもないんだし。


「昇級試験について――」


 やはり、そうだった。

 結局僕がこの血から逃れることはできない。

 身分を隠し、ボロをまとい、泥に汚れ、名前を隠し……しかしどうやっても逃げることができない。

 周りの人は僕を羨むが、僕からしてみれば周りの人こそ羨ましい。

 僕はただ、普通の幸せを手に入れたいだけなのに。

 もう十分耐えたじゃないか。


 この憤りを職員へとぶつけることに意味はないだろう。彼はただの職員であって、訴えるべきはもっと上の人間だ。

 しかし僕に何の力がある?


「このクエストの受け付けをお願いします」


 いいさ、こんなの慣れっこだ。



◆◇◆◇◆◇◆



「ロニリウス」


 クエストの報酬を受け取ろうとした瞬間、突然後ろから肩を叩かれた。


「ああ、シナトンさん」

「今度はE級になったんだってな」


 久々に会った彼は、どうにも僕を小馬鹿にしたように見下している。

 今日は虫の居所が悪いんだ。勘弁してくれ。でないと――深呼吸だ。こんなことにいちいち構っていられるか。


「祝儀でも渡しにきたんですか?」

「金に困ってんのか? クルセト(・・・・)さん」


 もう身バレしたのか。……まあ、誰に迷惑がかかるというわけでもない。

 もしかすると、この男が消されるかもしれない程度だ。


「もちろん。僕はもうクルセト(・・・・)じゃあないですから」

「ロニリウス・クルセト・ブーチャ・イェノンだろ?

 なんとも見事なお名前ですなぁ。まるで貴族様のようだ」


 そうか。

 分かったぞ。

 君はそういうのが好みなんだな。


「大力のシナトン。確かに素晴らしい二つ名だ、君の肉体から来てるものだろう」

「なんだぁ? 突然気持ち悪い」

「頭脳明晰、なんて似合わないもの――」


 言葉が終わるのを待たずして、丸太のような腕が降ってきた。

 そうそう、こういうのだよ。適当な理由で喧嘩を始めるなんて、僕もだいぶ冒険者らしくなってきたじゃないか。


「体の動かし方も分からないのかい?」

「……いい度胸だ、目も反応も文句無し。どうだ、パーティ組まないか?」


 先ほどまで真っ赤になっていた顔が、あれは夢だったのかと思うほどに元通り。

 あれ? 僕としては喧嘩をしたい気分だったんだけど……。冒険者ってのはよく分からない。


「どうした、そんな難しい顔をして」

「ああ……いや……冒険者ってのは気が短いと聞いていたんだが」

「正直なだけさ。お前は今、俺に正直な気持ちをぶつけたろ? ならもう仲間だ」


 なんで?



◆◇◆◇◆◇◆



 クエストを終え、報酬も受け取った。

 本来ならこの後は宿へと向かうはずだけど、今日は珍しく用事ができた。

 シナトンは僕に付いて来いとだけいうと、目も合わさずに歩いて行ってしまっている。

 もし付いていかなかったらどうなるのだろう。芽生えた好奇心を抑えつけ、とりあえずは付いて行ってみる。


 少しして、彼らと初めて出会った酒場へと着いた。

 どうやら今日もあそこで飲んでいるらしい。


「よぉ、椅子1個貰うぜ」


 店に入ると同時、シナトンはそう言って空いてる椅子を1つ運んだ。

 彼らは前回と同じ席に集まっている。あの席は4人用だったはずだし……ならこれは僕の分か?


「お貴族様回収成功」

「お前、あれだよな。結構演技派っつーか、知恵があるっつーか」

「だからお前は沈黙してろ」

「魔術師差別反対! もっとお喋りの自由を!」


 セエレといったか。やけに魔力が多いと思ったが、やっぱり魔術師だったのか。

 でも僕よりは遥かに少ない。所詮庶民の子、僕達とは血が――……血が、違うんだ。僕が仲間になることはないんだろう。


「ラグニエルさん」

「ラグナでいい。それで、話はしたのか?」


 話っていうのは、パーティ勧誘のこと以外に?


「やべ、忘れてた」

「やっぱり脳筋じゃん」

「いけ沈黙犬、あいつを沈黙させろ」

「誰が沈黙犬や! キャン! キャンキャン!」

「うるせえお前も沈黙しろ」


 ……仲が良いんだか悪いんだか分からないな。

 僕にはこういうことを言ってくる相手は居なかったし、言える相手も居なかった。

 羨ましい。


「パーティに勧誘された以外にですか?」

「その延長さ。どうだい、力試しでも」


 ラグナが指をさしたのは、酒場の中央であるにも関わらずなぜか空席のままの机。

 文字通り本当の空席だ。なんてったって椅子が置かれてない。


「腕相撲でも?」

「そうさ。沈黙犬、行って来い」

「誰が沈黙犬だ!」


 これが冒険者流ってやつなんだろうか?

 ええと、まずはセエレと腕相撲をしろと? ……大丈夫かなぁ。折っちゃったりしたらコトだぞ。


「セエレさん、よろしくお願いします?」

「セエレでいいよ。負けねーからな!」


 ……あれ、この人詠唱無しで魔術使えるんだ。

 へえ、どこで習ったんだろう? こういうのはあんまり庶民は知らないはずなんだけど。

 一応、僕もゾエロを使っておこう。どうやらなんでもありみたいだし。


「最弱の沈黙犬セエレ、対するは謎の少年ロニリウス――

 さあ張った張った! 今日こそはセエレが勝てるかもしれないぞ!」

「誰が沈黙犬だ!!」


 ああ、なるほど。僕は金儲けに利用されているのか。

 ……ま、別にいいけども。このイライラをぶつけてやるとしようかな。


「ロニリウスに6リン」

「俺は12リン」

「お前らしょっぱいな。32リンだ」

「んじゃ負け犬に1リン」

「誰が負け犬だ!!!」


 それにしても、オッズがひどい。

 これ、わざと負けてみるのも面白そうじゃないか? ……それはさすがに無しか。僕にだってプライドくらいは残ってる。


「ほら、さっさと握れよ!」


 セエレの伸びた手を掴み、周りの人間よりも明らかに細いことに気がついた。

 背も低い、骨も細い、声も高い。……年齢はそう離れてるように見えない。なら女性なのか?

 服装のせいで全然分からないな。後で色仕掛けでもしてみるか。


「レディ、ゴー!」

「おらぁ!」


 ……ん、これ、力入ってる?

 いや、さすがにこれが本気ってことは……うわ、すごい形相。

 ということはこれで全力? ……ゾエロありでこれなのか。使わないでおいてあげればよかった。

 怪我をしないよう、そーっと……よし、机に手がついた。


「ロニリウスの勝利!」

「ま、だと思ったよ」

「負け犬に賭けた方が面白いよな」

「どうせ大して増えねえしなぁ」


 せっかく賭けた方が勝ったというのに、観客たちはどこか残念そう。

 それなら最初からセエレに賭ければよかったのでは?


「おい、魔術使っただろ!」

「使われましたし」

「なんで使えるんだよ! "沈黙の"ロニリウスなのかお前!」


 ……ああ、なるほど。セエレの二つ名は"無詠唱"ってことなのか。

 確かに庶民では初めて見た。天性の才がある者は学習無しに使えると聞いたことがあるけど……さて、どっちだろう。


「司会進行しなきゃいけないし、アタシはパス。負け犬ちゃんおいでー」

「誰が負け犬だ!!!! 行けシナトン、俺の仇を取ってこい!」

「へえへえ」


 あれ、シナトンが1番強くて最後に出てくるとかじゃあないのか。……この見た目に、この闘気で?

 確かにラグナの方が魔力は多いように思うけど……シナトンを倒せば分かることか。


「頭の栄養をも筋肉に送り込んだ脳筋シナトン、対するは謎の少年ロニリウス――

 さあ張った張った! 今日のメインイベントだぞ!」

「誰が脳筋だおい!」

「シナトンに36リンだ!」

「脳筋128リン」

「なら俺は、ロニリウスに16リン!――


 さっきと違って掛け額が一気に上がったな。

 ここがメインイベントだってことは……ラグナは圧倒的に強いか、あるいはシナトンが強すぎて出番がないかのどちらかだろうな。


 テーブルに膝を着け、あの丸太のような腕がそそり立っている。

 さぞや強いことだろう。

 僕のこの細腕に負けるとは考えていな……いこともなさそうだ。なるほど、そっちがやるならこっちもやろう。


「闘気、ありですか」

「"本気"でやろうぜ」

「いいえ、同条件でやりましょう」


 ゾエロの使えない相手にゾエロを使うのは卑怯というものであり、闘気の使えない相手に闘気を使うのもまた同様。

 しかし使える相手であれば……僕はどっちかといえばゾエロの方が得意だけど、闘気だって苦手ってわけじゃない。単に練習時間の問題だ。


「レディ、ゴー!」


 魅せ……筋……じゃないっ……!

 これはヤバい、机どころか骨が軋む音が聞こえてきてる。

 ヤバいヤバい折れたらマジでシャレにならない! ちょっとズルいけど、ゼロ・ゾエロ!


「うらぁ!」

「くっ……! まだだ!」


 こいつ、まだ本気じゃなかったのかよ!

 待て、話が違う、この僕が負けるなんてのは……!


「勝つ!」

「まだまだぁ!」



◆◇◆◇◆◇◆



「いい勝負でした」

「ああ、俺もそう思う。もう仲間なんだ、その口なんとかしろ」

「……分かった。シナトン、君はとても強かったよ」

「なーんかまだ堅いなぁ……まあいいけど、っと!」


 ウィーニ・ウニド・ガドゥート。

 シナトンの手元から皿が滑り落ち、地面へと落ちる寸前。なんとか発現は間に合ったようだ。


「わりいな」

「しかしマスターも人が悪い。こんな僕らに皿洗いとは」

「しかも割るたびに2リン追加だと。逃げちまおうか?」

「……少しだけ考えてみたけど、悪いのは僕らだ。……しっかり、働こうじゃないか」


 結局あの試合は無効になった。というのもテーブルの方が耐え切れなかったのだ。

 お互いが全力を出してしまった結果、4つに分裂したテーブルは酒場中を暴れ回り、遂にはいくつもの酒樽を破壊してしまい――と今に至る。


 しかし後悔はしていない。

 あれだけ燻ってたイライラはどこかへ消し飛んでしまい、代わりに新しいものが芽生えた。

 きっと、これこそが友情というやつだ。なら皿洗いも頑張ろうじゃないか。


「心底嫌そうな顔してるぜ」

「正直少し眠くて。そういえば、シナトンよりもラグナの方が強いのか?」

「両手使って指3本に負けた。弓術士の腕ってのはよ、多分金属か何かでできてるんだ。俺は確信したぜ――


 結局、ラグナと戦うことはなかった。けど話を聞く限りでは、どうやら僕に勝ち目はないらしい。

 なにせ僕はシナトン相手ですら勝ちきれなかったというのに、そのシナトンを赤子のように扱ってしまうそうだ。

 ……上には上が居るということをここで再確認するとはね。僕も真面目に勉強してきてたんだけどなぁ。

※サニリアは出てきていない。

※チート主人公ではない。

※パパである。

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