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三つの世界 彼女が魔女に堕ちるまで。  作者: 春日部 光(元H.A.L.)
本章 中節 広がりと狭まり
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百十七話 深みへと 1

2021/08/14 改題(1)

2021/08/07 表現修正

 部屋全体を水没させるだけの水量を圧縮し、目の前の魔物に放つ。

 私の目にはブラックホールでも放ったかのような光景に映る。

 若いダンジョンの魔物が耐えられるわけもない。


 弾速は想像よりもずっと遅い。

 しかし、直撃。


 単純明快、圧倒的な量での押しつぶし。

 防ぐ手段は……まあ、確かにありはしたけど。


 直撃。

 あの魔物は"何もしない"。

 混乱して何もできなかったのか、あるいは防御術を使う必要がないと判断したのか。

 それは分からない。


 放ったのはただの水弾。

 圧縮率はとんでもないものになってるし、込めた魔力も相応のもの。

 しかし、ただの水弾。

 爆発の魔言を込めたわけでもなければ、その後に続く術式も考えていなかった。


 象が水に濡れただけ。


 ま、それでもいいや。

 一瞬でも怯んでくれたなら、私には剣が残ってる。


 剣を見ることは叶わなかった。

 ただ少しして、けたたましいほどの悲鳴、地響き――。


「撃て!」

リズ・ダン(氷よ、穿て)!」


 何も考えず、ティナの声に従ってみる。

 本来の私ならば、ここで撃てば防がれるんじゃないかだったりとか、いつもとは違う術式にしてみようかだったりとか、そんなことを考えていたはず。

 しかし今回だけは言われるがままに動いてみた。


 狙う箇所だって分かってる。

 ティナが突き立てたのは左目。深々と刺さった剣が抜けなくなってしまっている。

 破った穴としては狭すぎるし、暴れまわってるせいで狙いづらくもあるけど……氷弾を私が外すわけもなく。


 放った氷弾はやや予定外の箇所へ着弾。

 左目を狙ったはずなのに、ティナの剣そのものへと当たってしまったようだ。

 砕ける感覚は予想外で、追撃を考えてみたけども――。


 震動。

 巨体が崩れた。


 しばらくは藻掻くように四肢を動かしてはいたが、それもしばらくで終わった。

 勝ちだ。


「レニー、もう大――いや、もうちょっと」


 気怠さを睨みつつ、下半身の操作を取り戻す。

 一度にこれほどの魔力を使ったのは初めてだ。予定通り……頭痛が始まってる。

 ならもう少しだけ甘えちゃおう。


「レニー! 手伝えよ!」


 と思っていたのだけど、残念ながら彼には彼の仕事がある。

 ティナの解体技術はそこまで高いものでもないし、それにあれは初見の魔物。

 こんな時、手広く様々な技術を持つレニーは役に立つ。孤児院で教わったものに加え、カクからも色々仕込まれていたらしい。

 浅いのも多いけどね。


「大丈夫、行っちゃって」

「……そうか」


 レニーだってあれは初見のはずだし、まともに解体できるとは思わないけど……ダンジョンって場所柄、あれから取れるのは魔石だけだ。

 といってもあの巨体から魔石を取り出すのが骨の折れる作業であるということに変わりはない。

 いつの間にかティナよりも力持ちにもなってたし、レニーは頼れる便利屋さんである。


 湿り気の残る地面に腰を下ろし、象を解体する2人を眺めつつ、ああでもないこうでもないと考えてみる。

 正直な話、今回の守護者はあまり強くなかった。

 私達がそれぞれ単体で挑んだのであれば、勝てる可能性は低かっただろうけど……こっちはパーティであるわけで。

 2人ずつだとした場合、1番勝率が低いのは私とレニーのペアだったりして――あれ?


 2人、というワードで思い出した。

 あの象は小さな象を2頭連れていたはずなのに。

 2頭とも姿が見えなくなってしまっている。


「ねぇ!」


 2人を呼ぶために声を出し、頭痛に襲われ無事撃沈。

 あ、あとで考えよう……。



◆◇◆◇◆◇◆



 象から取れた魔石は想像よりも小さかった。

 今まで私達が取った魔石の中では最大級の大きさだし、品質としても悪くはないんだろうけど……労力に見合ってないと言いますか。

 私なんて持ってる魔力の半分以上使ったんだよ? マジでコスパ悪いってこれ。


「レニー、おんぶ」

「ダメだ」


 頭痛はもちろん、怠さもとんでもないものになってるんですけど?

 歩きたくないんですけど?


「じゃあティナ」

「別にいいけど――」

「ダメだ」


 なんで全力否定してくるんだよ!


「足場が悪い。転んだらどうする」


 しかしだな? 私は私で結構転びやすいんだぞ?


「アン1人なら助けられる。2人は無理だし、自分にも自信がない」


 あーもうよく分からんね。とりあえず歩けばいいんでしょ。はいはい歩きますよーだ。


 結局、小象らしきあの2頭の行方は2人も知らないという。

 最後に確認したのが誰になるのかは分からないけど、親象っぽい方を殺した時には既に姿が見えなくなっていたとか。

 生き物であるのは確からしいけど……ダンジョンってのはよく分からん。ただの洞窟探検ならここまで考えなくてもいいんだけど。


 現在はレアとハクナタとの合流を目指している。

 あれが階層守護者であったのはほぼ間違いないだろうし、であればその先に進めば第2階層へと到着する。

 どうにもレアは進みたがっているし、私としても興味がないといえば嘘になる。

 合流後にもう少しだけ進んでみるつもりだ。


 もしまた階層守護者――つまりは第3階層へと繋がる箇所を見つけた場合、それ以上は進まないということになった。

 私としては別に進んでみてもいいとは思うんだけど……レニーの反対がかなり強く、ティナもやや及び腰。あれを丸め込むのは難しいしで諦めた。

 帰りに1階層の階層守護者が"補充"されてる可能性も考えて、ね。別に死にたがりってわけでもないし。


「お」


 2人を待機させた地点までの距離はそう遠くない。

 幸いにも逃げ出されるようなこともなく、無事に合流することができそうだ。

 ま、逃げたところで生き残れるかって話だけども。


 レアは暇そうにしゃがみ込み、ハクナタは周囲を警戒するかのように剣を構えていた。

 この前ティナが選んだ新品の、ティナが使うものよりも短めの……似合わないなぁ。


「こんな近かったっけ?」

「イメージの問題」

「イメージて。魔術かよ」


 行きは怖いが帰りは良い良い。効果音を付けるなら、ずもももも?

 私は特に影響されなかったけど、ティナはこの通路を長いものと感じてしまっていたようだ。


 ともあれ合流することができた。

 特に問題も起こらなかったようだし、このままレアに踊らされてみようじゃないか。



◆◇◆◇◆◇◆



 2階層は想像通りというべきか、1階層とはガラリと風貌を変えていた。

 周囲の建材が変わっただけで、洞窟だということに変わりはない……と言いたいけど、残念ながら多分違う。

 あの象と呼ばれた魔物もここでなら不自由なく動けるだろう。

 何より1番違うのは――


「あれも惑景なんですか?」

「の一種だと思う」


 レアの視線の先には煌めく星々。

 ここには空が広がっている……ように見えるが、実際には違う。

 魔力視で見た感じ、確かに高さこそあれど天井のようなものが確認できる。

 だから多分、惑景か何かによる"装飾"だ。


「目的は……何なのでしょうね」

「テンプレートの1つにこんなのがあるんじゃない?」

「テン……?」


 ダンジョンというのは世界中に散らばっているにも関わらず、どれも似たような性質を持っている。

 大まかには洞窟(ケーヴ)型と一帯(フィールド)型に分けられるとはいえ、生物でいう"亜種"程度の差でしかない。

 ではこの世界のダンジョンは2種類しか居ないのかと考えてみれば、やや疑問が残る。


 ダンジョンというのは何者かによって創造されたものであり、大規模な魔法の一種だ。

 という1つの仮説を立ててみた。

 すると色々な疑問点がすんなり解消されてしまうことに気付く。

 大本のダンジョン管理者が居て、管理者は複数のダンジョンを世界中に配置して、いくつかのダンジョンにはダンジョンマスターと呼ばれる専属の管理者を設定して……ってさすがに飛びすぎ?


 もちろん解消されない疑問点や、別の問題点もある。

 だけどまぁ、しばらくはこれをベースに考えてみよう。


「ダンジョンマスターと会話できれば解決するんだけどね」

「それは楽しそうです」


 はたしてそんな生物が本当に居るんだろうか。

 話には聞くし、接触したという記録もいくつか見かけたことがある。

 しかしその詳細は明らかに伏せられていて、まるで検閲でもされたかのよう。


 なら自分で確かめてみればいいじゃない?


「これ以上は潜らないんだろ?」

「まあね」


 といっても実力が追いついてないというのも現実。

 だから今回はこの階層まで。見て聞いて触れたものだけを覚えるのが精一杯。

 気になり屋さんではあるものの、死にたがり屋さんではないのだ。


 1階層から2階層へは大きな扉で繋がっていた。

 "六花の洞窟"同様、扉の向こう側は真っ暗闇。通って初めて視界が広がる謎の仕掛け。

 ハルアであれば、扉を通った先を知ることもできたのかもしれないけど……ここには居ないのだから仕方ない。


 木でできた洞窟のようだった1階層最後の部屋と違い、2階層は一見すると一帯(フィールド)型だ。

 床は土でできているし、壁もぱっとは見当たらない。なんなら空だって見えている。

 しかし魔力視の方では壁も天井も見えている。確かに広い空間ではあるけど、際限ない無限の広さを持つというわけではない。


 全ての一帯型ダンジョンがこんな作りになっているのか、なんてことは私には分からない。

 今分かることは、一見すると一帯型に見えるここにも広さの上限が存在しているということ。

 それから、ジャングルのように所狭しと木々が乱雑に生えまくってること。

 最後に、このジャングルには明らかな道らしきものが存在しているということ。


「なー、そろそろ休憩しないか?」


 2階層に潜り、はや1時間。

 道らしきを歩き続けてはみたものの、周囲に変わりは見られない。

 正直お腹も空いたし喉も乾いた。確かに休憩を挟んだほうがいいとは思うけど――


「安全地帯とやらじゃないけど、大丈夫?」

「大丈夫だろ。さっきから何も出てこねーじゃん」


 これだけ緑豊かだというにも関わらず、生物の発する音は何1つ聞こえてこない。もちろん姿なんて見えない。

 風の音すら聞こえてこず、私達の発する音だけが虚しく吸われ続けている。

 不気味だ。


「つーかさ、うちら進んでんの?」

「一応ね。直線で歩くと端っこから端っこまでは6時間くらい掛かりそう」

「マジか」


 今のところ魔物の姿は見られないし、周囲の魔力も恐ろしいほどに静まり返っている。

 ……見張りを立てるという前提でなら、休憩しちゃってもいいのかも。


「よし、ここをキャンプ地とする!」

「寝はしねーよ」

「様式美ってやつだよ」

「まーた変なこと言ってら」


 取れるうちに取っておこう。

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